配送で差がつくEC運営 ─ ヤマト運輸・中西優さんが語る「配送は購買体験の一部」

宅配とは、人から人へ送られるもの。親が子に仕送りを送るように、通常は“送る人”と「受け取る人”が異なる。だが、ネット通販ではその構造が変わり、“送る(ことを依頼する)人”と“受け取る人”が同じである。ヤマト運輸の執行役員・中西優さんはこう話し、その言葉は配送の本質を的確に捉えている。だから、考え方次第で、それ自体が大きな差別化要因になり得る。そう僕は受け止めた。これからECを始める人に向け、すでに取り組んでいる人も含め、配送の本質的な価値を見極め、それを強みに変えて、事業を飛躍させるヒントを紐解いていく。
EC事業者が見落としがちな本質とは?
「通常の宅配は、“送る人“と“受け取る人“が異なる。しかし、ネット通販では、“送る(ことを依頼する)人”と“受け取る人“が同じ」。
この言葉が意味するのは何だろうか。
一般的な宅配では、贈り物や仕送りのように、送り手が受け手のために品物を手配する。しかし、ネット通販では多くの場合、購入者自身が商品を選び、自分のために届けてもらう。この違いこそが、ECにおける配送の本質を考える上で重要なポイントとなる。
だからこそ、「自分の思い通りに受け取れるのが当たり前」と感じる。そのため、予定通りに届かなかったり、受け取りがスムーズにいかなかったりすると、大きなストレスを感じてしまう。
それにもかかわらず、多くのEC事業者は、注文が入った後に『どう届けるか』を考えがちだ。つまり、配送を単なる手段として後付けしていることが少なくない。そこが顧客満足度に直結する部分なのに。
中西さんは、それを踏まえて「配送は、購入の最後の工程ではなく、購買体験そのものだ」と語る。
だから、「買ったのに、届かない」「遅れて届いた」「不在で受け取れなかった」。こうした体験が続けば、顧客は『このショップは使いづらい』と感じ、次回の購入を躊躇するだろう。逆に、スムーズに受け取れれば、それだけでショップへの信頼が高まる。
たったそれだけの配慮で待ち受けるのは雲泥の差である。では、EC事業者ができる「配送の工夫」とは何なのだろう。
「欲しいときに届く」が基本── 受け取りやすさの重要性
それを紐解くべく、ものすごくシンプルな原理に立ち返って考えよう。配送の最大のポイントは、なんだろう。実は、それは「いつ届くのかを明確にすること」。
「いつ届くのか」である。日付だけでは不十分。本来、自分で買ったものだからこそ、自分で決めて、そこに合わせて予定を組みたい。その本質を辿れば、お客様は「最短配送」を求めているとは限らない。要するに、「自分の都合の良いタイミングで受け取りたい」と考えているにすぎないのだ。
繰り返しになるが、、、
「ECでは、購入者=受け取る人。だからこそ、『いつ受け取りたいか』をお客様に選んでもらうことが重要なんです」
それは、これを守れるだけの配送品質が、自分達にはあるから。その言葉の裏返しでもあるだろう。
だから、曖昧に、ECサイトが「最短配送」をデフォルトにしてしまうことは勿体無い。早く届くか、のではなく、いつ届くのか、なのである。極論、何日の何時何分なのか。
「3日後の夜に必要だから、その日に届いてほしい」と考えている人が、間に合うかどうかわかるだけでは足らないのである。「最短」とだけ選択して決めたところで、ことの解決にはならない。
「EC事業者が意識すべき配送の工夫」── 適切なリードタイムと配送計画
それに対して、EC事業者はどうすればいいのだろう。
EC事業者にとって大事なのは「(受注から)出荷までのリードタイムを明確にすること」なのだと断言する。配送会社にしてみれば、一旦、自分達の手元に荷物が来れば、もう「いつ届けられるか」は明確に割り出せる。
つまり、ここで初めて、お客様が一番、自分が受け取りたいタイミングに、渡すことができるのである。
しかし、初心者(に限らず中堅店舗もそうかもしれない)こそ、そこを見落とす。
「購入時に、『いつ欲しいですか?』と聞けるECサイトは意外と少ないんです。それで、一番大事ないつ届くかが蔑ろにされてしまっているのです。」
それを云々言っても仕方ない。なぜなら、意識の問題だから。でも、その程度ならまだしも、それができていないと、痛い目に遭うわけである。
そう。「セール期間中の急激な注文増」にも対応できなくなるのだ。
「セールで普段の何倍もの注文が入ると、荷造りが間に合わずに出荷が遅れることがよくあります。特に、小規模なECでは、人手が足りず発送が遅れたり、最悪の場合、注文をキャンセルせざるを得ないこともあります」
受注することに気を取られて、届くイメージまで及んでいない。だから「セールは新規顧客の獲得」と言いつつ、ネガティブな印象を抱かれかねず、店のファンにはなってもらいづらい。本末転倒な話である。あまりに勿体無い。
出荷の時期のコミットメントが配送の真価を発揮
だから、この対策として、中西さんが勧めるのが「フルフィルメントの活用」だというわけである。
お恥ずかしい話だが、僕も「だから、倉庫が必要なのか」と納得した。物流という言葉で、配送も倉庫もまとめられて、その本質が見えないからだ。でも、ここまでの話を聞けば、彼がフルフィルメントを口にする理由がわかるだろう。
当然、倉庫との連携が肝になってくるわけだ。それは、出荷のタイミングをコントロールできるからである。そこで初めて配送会社の強みが生かされる。ゆえに、自分でそれができるのなら、倉庫もいらない。でも、受注数が増えてくると、そうはいかない。
ならば、まずは、売れるものの一部を、あらかじめ外部の倉庫に預けておくのも一つの手である。通常は自社で発送し、繁忙期や予想以上に注文が入ったときだけ倉庫から出荷するようにすれば、発送遅延を防げるというわけなのである。
こうした工夫を取り入れることで、「いつ届くのかわからない」という顧客の不安をなくし、満足度を高めることができる。
些細なことだが、極めて重要。これを味方につければ、結果、店の信頼を獲得できるのである。
「クロネコメンバーズの活用」── 受け取りストレスを減らす仕組み
では、ヤマト運輸としてもそのために、取り組みをしているのだろうか。要するに、EC事業者に頼ることなく、自分たちでもその価値を最大限に高めるため、どのような取り組みをしているのか?
それが「クロネコメンバーズ」なのだ。顧客に「いつ受け取りたいか」を選んでもらう仕組みを提供している。なるほど、顧客とダイレクトにつながるわけである。
「荷物が発送された瞬間に、受け取り日時を選べる通知が届きます。ECサイト側で日時指定ができなくても、受け取り手が調整できるようになるので、ストレスなく受け取れます」
繰り返しになるが、彼らの手元に荷物が届けば、確実に届ける時間を確定できる。だから、彼らはお客様側と繋がって、「クロネコメンバーズ」というインフラを作ったわけである。この仕組みを活用すれば、ECサイト側は「最短配送」だけに頼る必要がなくなる。
利便性の高さゆえか「クロネコメンバーズ」の数は5700万人にも及ぶ。実に、日本人の二人に一人が利用している計算になる。
また、例えば、大手企業では、クロネコヤマトメンバーズをAPI連携し、店舗側でヤマト運輸とシームレスに繋がる仕組みを構築しているケースがある。これにより、お客様が直接ヤマトとやり取りせずとも、店舗側で受け取り日時を確実に指定できる。こうした仕組みを導入している店舗はリピート率が高く、配送の品質がそのまま信頼につながっていることを示している。
配送サービスが違っても届く早さは変わらない?
改めて、「欲しい時に荷物を届ける」 という一点に集約される。これが配送における本質なのだ。
しかし、ふと思った。ヤマト運輸然り、なぜ複数の配送サービスが存在するのだろう?
どのサービスを使っても、基本的に同じ速度で届くのに…。つまり、それぞれのサービスの違いはサイズや仕様にある。ここが面白い。全部同じ品質なのだ。ただ、運ぶ側としてそれらを共通化することで効率を高め、その結果、コストを抑えた分をお客様の利用料に還元しているのだ。
・宅急便:「宅急便」は、60サイズ~200サイズ(縦・横・高さの合計が200cm以内、かつ重さが30kgまで)のお荷物を送るのに最適な配達サービス。責任限度額はお荷物1個につき30万円(税込)まで。
送料は荷物のサイズ・重量と距離に応じて変動する。それとは別に2つのサービスがあるわけだ。
・宅急便コンパクト:60サイズよりも小さな荷物を、専用BOXで手軽に送れるサービス。化粧品や雑貨など、小型商品の配送に適している。
・ネコポス:送料が全国一律の「ポスト投函型」の配送。書籍や薄型の商品に最適。
「サイズが小さいほど送料は安くなります。EC事業者は、自社の商品に最適な配送手段を選ぶことで、コストを抑えながら顧客満足度を高めることができます」
極めてシンプルで、配送品質はどれも同じだ。そして、先ほどの配送の本質ともブレがない。
配送はただの手段ではない、本質を見極めるべき
おわかりいただけたか、その本質を。
別にヤマト運輸のサービスを持ち上げるつもりはない(失礼!)。ただ、ここで僕が言いたいのは、「届ける」という行為を本質から見つめ直し、それを店の価値にどう結びつけるかということだ。
だから、逆説的に言えば「届く時間が決まれば全てOKか」というと、そういう話でもない。配送の力を、もっと付加価値に変える方法はないだろうか? そこが僕が中西さんともよく話すポイントだ。
上級編として、その付加価値をこんな風に活かしてみた。
先日、僕らのコミュニティのオフ会で、こんな試みをした。
夜にライブコマースでところてんとあんみつを試食しながら販売。視聴者が「美味しそう!」と感じたその熱が冷めないうちに、「翌朝お届けできます」と提案してみた。

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配送の専門家だからこそ、「届くまで」を商品の一部として設計し、演出ができる。それにより、まるで出演者と一緒に味わっているような体験を生み出せるわけだ。届ける時間を確実にコントロールできるからこそ、その力をエンタメに昇華し、新たな付加価値に変えたのだ。
だからこそ、配送を「後付けの手段」として考えるのではなく、本質的な要素として捉えることで、思いがけないお客様の心をつかむアイデアが生まれるはずだ。そこで覇権を握るのはあなただ。
今日はこの辺で。