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「ノーリミット・ユアライフ」—ALSと共に未来を切り拓く武藤将胤その挑戦の軌跡をアイル副社長・岩本亮磨が見つめる

 そのイベントに行かなければ、武藤将胤さんの存在も、ALS(筋委縮性側索硬化症)という病も知らなかっただろう。徐々に身体の自由を奪い、やがて会話すらままならなくなる。その病を抱えながらも、挑戦者として生きる武藤さんがそこにいた。その光景は、さらに彼を深く知りたいという思いへと駆り立てた。

 そして、なんの偶然か。その時、武藤さんの説明に合わせて流れた映像に、見覚えのあるロゴが映り込む。ハッとした僕は、すぐにその会社に連絡を取り、話を聞きたいと申し出た。その先にいたのは、僕が馴染みのあるアイルの副社長 岩本亮磨さんだった。なんと、彼は武藤さんの学友だった。岩本さんを通じて見つめた「生きる意味」。インタビューを通じて、武藤さんの熱い想いを紡いでいこうと思う。

1. 仮想と現実を超えて——際立つ武藤将胤という異才

 TOKYO DIGICONXというイベントで出会ったのが、WITH ALSの代表であり、ALSを抱えながらも創造的な活動を続ける武藤将胤さんだった。正直言えば、僕は彼を存じ上げなかった。それこそ、このイベントだって、αUやVRアーティストとして活躍するせきぐちあいみさんに関心を持って、足を並んだくらいだから。(武藤さん、ごめん)。

 ところが、はじまるなり、全く動かない体なのに、あらゆる技術を駆使して、武藤さんが発する言葉に触れて、僕の目に本当に涙が溢れてきた。

 そのイベントで、せきぐちさんは「メタバースは人類の未来、、、いや、武藤さんこそが、人類の未来だ」と評した。本当にその通りだと思った。

 ALSによって身体をほぼ動かせなくなった武藤さん。しかし彼は、「不可能」だと決めつけられたことを次々と覆し、テクノロジーを駆使して自らの世界を拡張してきた。視線入力による会話、クロスリンガル音声合成技術を用いた多言語コミュニケーション、筋電センサーを活用したアバター操作、そして脳波で動かすロボットアーム……。

 それらは「障害を乗り越える手段」ではなく、「可能性を広げる武器」となっていた。

 そのイベントの趣旨は、メタバースの可能性を語るもの。武藤さんとせきぐちさんが表現する仮想空間には、未来があった。そこには動けない人が動けるようになり、声を失った人が話せるようになり、夢を叶える場が広がっている。

2. 「彼の熱さは、今に始まったわけじゃない」——武藤将胤との出会い

 武藤さんはその「可能性」を体現する存在だった。

 そして、冒頭書いた通りだ。居ても立っても居られない僕は、アイルのロゴを見つけるなり、彼とのエピソードを聞かせてくれないかと頼み込んだというわけだ。

 実は、アイル 岩本亮磨さんが武藤将胤(まさたね)さんと出会ったのは、大学時代のことだった。病になる前からの付き合いがあったというのだから、また驚く。武藤将胤さんとは「まさ」と呼ぶ仲。そんなに身近だったのか。当時から「熱い」男で、その行動は予定調和ではない。

 「彼は、何をするにも本気だった。スポーツのチームにいたけれど、ある日突然『博報堂に入りたい』と言い出して、そのチームをやめたんです。同じ大学でそこに就職する人はおらず、普通なら、そんな進路は考えないような環境でした。でも、彼は本当に博報堂に入って、広告の世界に飛び込んだんです。」

3.なんら中身は変わらない常識は自ら作り出すもの

 物事には変わることと変わらないことがある。話を聞く限り、今の武藤さんと“変わらない”。その言葉に、人間の核心とは変わらないものだなと痛感する。

 その後、二人は社会人になると共に、やりとりが減ったとか。しかし、ある日、その時のチームの仲間から教えられ、岩本さんが目にしたのが、武藤さんのYouTube動画だった。

 「ALSを公表します」というカミングアウトの動画だったのである。

 「衝撃でした。最初は、ALSという病気自体を知らなかった。でも、彼の決意を聞いたときに、ただの絶望じゃないと感じたんです。」

 まさに、岩本さんがいう通りだ。武藤さんにとっては少しもそれは、絶望なんかじゃない。それこそが、今へと至るストーリーの始まりであった。

 とはいえ、さすがにALSの診断を受けた武藤さんは、一度はショックを受けたという。しかし、岩本さん曰く、その帰り道にはすでに「この病気になったからこそ、できることがある」と考え始めていた。

 「普通、そんな風に考えられないですよね。病気が進行すれば、声を失い、身体を動かせなくなる。それでも、彼は前を向いていた。あいつ、バケモンやな、と思いました。」

4. 「病気になったからこそできることがある」——武藤将胤の決断

 ALSは徐々に身体の自由を奪う病だ。

 2年ほどで歩けなくなり、さらに数年後には自力で呼吸もできなくなる。しかし、彼はその間に、目で操作するDJパフォーマンス「EYE VDJ」を開発し、新たな表現の道を切り拓いた。

 それも、医者からその宣告を受ける前、武藤さんはDJのような活動をしていたからだった。その話を聞いて僕も、武藤さんに上記イベント当日に出会った時のことを思い出した。

 「絶望に打ちひしがれて、何が自分を奮い立たせてきたのか」。そう問う僕に、武藤さんは目線でキーボードを打つようにして、言葉を紡いで、それが彼の音声に置き換えられて、しっかりこう答えた。

 「今、できることをやろう。それが僕にとっては“創作”だったのです」。

  深く言葉が心に刺さった。僕の言葉にうなづきながら、岩本さんは続けた。

 「それだけじゃない。ALSと診断を受けた人がかっこよく乗れる車椅子をクラウドファンディングで開発したり、視線入力技術を活用してパフォーマンスを行ったり。『やれることをやろう』という彼の信念が、次々と形になっていった。」

5. MOVE FES.への支援——アイルが動いた理由

 武藤さんはそのALSが進行する中でも、結婚を決意した。岩本さんも勿論、駆けつけて、お祝いしたけど、その時、腕は肩より上で、腕が上がらない状況だった。時を重ねていくことが、どれだけ怖かっただろうかと思う。それでいて、伴侶を得る決断ができる強さにも感動した。

 そして、岩本さんも彼の想いに応えようと、動き出す。

 「アイルとして何かできないかと思いました。個人的な寄付はしていたけれど、それでは限界がある。会社として関わることで、もっと大きな力になれるんじゃないかと。」

 それで、2018年、武藤さんはアイル主催の「BACKYARD FES」というイベントで、視線入力を活用したDJパフォーマンスを披露したのだ。

 もうその頃には、体が動かず、車椅子の状態。それでも、先ほど、書いた通り、カッコよく乗れる車椅子で現れて、それを演じていたのだ。さすがのエピソードである。

 「僕らが携わる(ECの)業務は、裏方の役割が多い。「まさ」の活動も同じだと思うんです。ALSのような難病の存在は、まだまだ社会の表舞台では見えにくい。でも、僕らの会社のコンセプトは『バックヤードに光を当てる』こと。「BACKYARD FES」の理念にふさわしいと思って、社に提案したんです」

6.稼ぐだけでは語れない企業価値、意義

 それも武藤さんには大事なステップになったのかもしれない。巻き込む力が尋常ではない。そう岩本さんがいう通り、武藤さんは「MOVE FES.」というイベントを自ら中心となり、立ち上げたのだった。

 そう。僕が武藤さんと出会ったイベントで披露していたのは、このMOVE FES.の一部分を演じて見せたものだった。

 武藤さんが事前に曲を作り、視線でDJを行い、せきぐちさんがXR技術を駆使してリアルタイムでライブペイントを行う。そのパフォーマンスには、リアルとバーチャルの垣根を超えた表現が詰まっていた。

 会場内の画面に、せきぐちさんが装着したApple Vision Proから見える光景が浮かび、曲に合わせ、花を描いていく。

 そのアートは「視線による表現」の極みだった。身体の自由を失っても、表現する力は失われない。これは「障害を乗り越えた」話ではなく、「新しい可能性を創造した」話なのだ。

 アイルはMOVE FES.のスポンサーとなった。

 以来、毎回支援を続けている。それができたのは、アイルという会社の風土もあるだろう。恐る恐る、シルバースポンサーをしようとした岩本さん。それに対して、会社が出した答えは、何言っているんだ!ゴールドスポンサーだろと。

 心から僕は思う。事業は稼がないといけない。けれど、稼いだお金が何に使われるか。それも大事だ。それを織り込んで、その企業と付き合おうと思えることが、持続可能な世の中じゃないか。

7.「声を失っても、伝え続ける」——テクノロジーとALSの可能性

 話を戻そう。武藤さんの凄さを示す一面として、人工呼吸器のエピソードがある。

 ALS患者が生きるためには、人工呼吸器が必要になる。しかし、そのためには気管切開をしなければならず、声を失うことになる。実は、その現実を前に、多くのALS患者が呼吸器の装着を拒否し、命を絶つ道を選んでしまうという。

「彼はそれを選ばなかった。声を失ってでも、生きることを決めたんです。でも、ただ生きるだけじゃない。事前に自分の声を録音し、テクノロジーの力で、それを使い続ける道を選んだ。」

 そして、それだけではない。彼はALSが治らないことを受け入れつつ、「生きる」決断をしたこと。なぜ生きるのかといえば、それは100年後の未来、この病気に罹っても治る世の中を祈ってのことだ。

  つまり、武藤さんの活動は、単なる自己表現ではない。それは、ALSという病気の認知を広め、未来の患者たちが「治る」病気にするための戦いでもある。その研究にはどうしてもお金がかかる。だから、認知が広まる必要性があり、お金が集まる流れが必要なのだ。

 岩本さんの言葉に、僕は心からうなづいた。

 「普通、自分の命が助からないとわかっていても、そこまでできますか? 彼は使命を持っているんです。」

8. 未来へ——アイルと武藤将胤が描く社会

 繰り返すが、自分たちの支払ったお金が回り回ってどこに使われるのか。行きつく先の一つにALS支援があるとすれば、その支払いだけの意義がある。武藤さんの行動力を感じながら僕も自分で何ができるのかを思った。

 だから、アイルがEC業界だからといって、書いているわけでもない。書くべきこと、広がるべきことだと思ったから、書いているまでだ。ただ敢えて言うなら、僕もEC業界にも関わる一人として、そういう行動をしている彼らの一面を知って、仲間として誇りに思った。

 そして未来へ。

 アイルはMOVE FES.の支援を続けるだけでなく、技術面でも何か貢献できることがないか模索している。視線入力技術や遠隔操作ロボットの発展は、EC事業とも親和性が出てくるのではないかという。

 最後に、岩本さんに「武藤さんに伝えたい言葉は?」と尋ねると、彼は笑ってこう言った。

「もっと頑張れ。」

 一見、シンプルな言葉。でも、その背景には、長年の友情と、彼の挑戦を誰よりも近くで見てきた岩本さんの想いが詰まっている。

「彼は昔から変わらない。学生時代も今も、全力でぶつかり、全力で挑戦してる。だから、俺ももっと頑張らないとなって思うんです。」

 言うなれば、その言葉は武藤さんに向けたものであり、自分に向けたものでもあるのだ。

 ノーリミット・ユアライフ——武藤将胤が掲げる言葉。彼の限界を超え続ける生き様は、これからも多くの人の心を動かし続ける。

今日はこの辺で。

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