1. HOME
  2. News
  3. 受注・接客
  4. 小売DX学
  5. 通販とeコマース
  6. 会話に始まり会話に終わる 蝶結び が示した 新しいネット通販のあり方

会話に始まり会話に終わる 蝶結び が示した 新しいネット通販のあり方

 なるほど。これでもECサイトなのか。「蝶結び」というお店と出会って、僕は、新たなネット通販のあり方を見た。彼らからすれば、もはやECサイトはカタログ、参考例のよう。実際、購買を左右しているのは、お客様とスタッフの「チャット」でのやり取りのほうである。ECサイトはチャットに繋げるきっかけ。それ自体を会話のヒントとして使うことで、躍進につなげるのである。

蝶結び “チャット”を使いこなして

1.従来のネット通販とは異なる手法

 これは、従来、ECサイトでの当たり前とされてきたルールを良い意味で覆しているから面白いと思った。サイト上での見せ方、説明にこだわり、いかにUIを高めて、購入してもらうか。それも大事だが、それだけじゃない。お客様にとってECサイトの画面は、きっかけに過ぎない。寧ろ、そこで生まれるチャットでのトークが購入の決め手となるのである。

 その本題に入る前に「蝶結び」という通販サイトについて触れておこう。店長の杉下峻吾さんは、2年半ほど前までは、いわゆるデパ地下で働いていた。何を売っていたかというと進物用のくだもの。彼は、そのお店の運営元の企業で役員を務めていたのだ。

 ところが、その運営元がさまざまな事情から、止むを得ず廃業することになった。いよいよ2020年5月末、閉店となり、これが彼の運命を変える。

2.未知なるECサイトでの船出至るまで

 閉店の折、彼のもとには幾つかオファーが寄せられ、一方で、前の会社の事業継承という選択肢もあった。ただ彼が選んだのは、自ら会社を立ち上げる事だった。前の会社では役員を務めていたこともあり、彼自身の中にその覚悟はできていた。「いつかは自らが先頭に立って果物を売る」と。だから、事業継承という可能性が消えた時には、起業への流れは自然だった。それが「蝶結び」を運営するレトロスペクトの始まりである。

 とはいえ、杉下さんは10年間、フルーツひと筋でやってきた。だから、それを活かすべく、仕入れ先は前の会社から引き継がせてもらうことにした。ただ、扱っていた商材は百貨店の「進物用」売り場で売られるものだから、1万円のメロンやマンゴーなど単価が高い。街の小売店でやるのは無理があり、コロナ禍でそもそも、街中にも人がいない。そこで彼が着想したのがECサイトだったのだ。

3.掲載したそばからフルーツがなくなる・・・

 ECの知見がなかったことが逆に、奏功しているようにも見える。「蝶結び」流の売り方は、ECだけやってきた人にはできない。百貨店での経験を見事に活かす、他には見られないやり方であったのだ。

 語弊を恐れず言えば、彼らの商品は実は、従来のECサイトの売り方では不向きだった。彼らの商材は、旬な商材を扱うゆえ、サイトの写真と実際に用意できるものに食い違いが生まれる。例えば「ぶどう」と「桃」のセット写真を撮影しても、販売するうち、桃が欠品、葡萄も、、、という具合に、そのフルーツがなくなっていくのである。

4.用途に合わせてフルーツを選んでいく

 そして、百貨店と共通しているお客様の傾向にも気づいた。

 それは、自分達の元に来るお客様の多くがフルーツそのものに関心があるのではないという事。「○×産のメロンはありますか?」などというお客様などはいない。「5000円でお見舞いを探している」といった風に、用途などにあわせて、フルーツを選んでいくのである。

 思えば、自分が百貨店で販売していた時も、そうだった。するとその提案の仕方そのものが変わってくるのである。例えば、1万円の予算があるとしよう。すると、杉下さんは、まず贈る相手に「家族がいるのか」「いないのか」を確認したというのだ。

 受け取る相手が一人なら高いメロンを1つ贈ればいい。けれど、家族が多ければ、違う。メロン一個ではすぐに食べ尽くしてしまうからだ。そうやって、対話によって、お客様のニーズに合わせた提案をするから喜ばれていたのである。

チャットが彼らの付加価値を高めた理由

1.百貨店での経験を再現するチャットという手段

 だから「チャット」というツールに惹かれるのは自然であった。彼らはShopifyを使ってECサイトを構築していたから、その界隈で話題になっていた「チャネルトーク」の性質に関心を持つのである。彼らのチャットであれば、より人間性を重んじている。だから、確かに、きめ細やかな対応が可能なのである。

 つまり「チャネルトーク」との出会いによって、「蝶結び」は、百貨店でやっていた知見をフルに活かして、ECサイトを伸ばすきっかけを手に入れることになるわけである。

2.チャットで、この店はどうやってその真価を発揮したのか

 では、百貨店でやっていたようなお客様との関係構築は、いかにして生まれるのか。

 チャネルトークでは、サイト内にタグを入れる(Shopifyにおいてはアプリができたのでその導入をすればよいらしい)だけで、お客様がどのページを見ながら、チャットで相談しているのかがわかる仕様になっている。だから、杉下さんは「今、お客様が見ているページ」から今の旬な状態に合わせたフルーツのセット提案をして、相手を喜ばせることができた。「今だったら、梨と葡萄のセットがベストですね」という具合に。

 逆にそれは他の店舗にない付加価値である。でも、それはリアルの現場で実物を見ながら、スタッフに質問してくるのとほぼ変わりがない。ネットでありながらリアルの楽しみ方を盛り込んで、お客様を惹きつけたのである。

3.行動を追えるからそこでも今までの知見が生きる

 しかも、どういう遷移で、そのページに至っているかも一覧で見れる。

 だから、メロンを見て、葡萄を見て、その後に梨を見て、問い合わせが来ていたとしたら、そのお客様はメロンよりも葡萄よりも梨を贈りたいのだと。その前情報を元に、チャットでの接客に活かすのである。

 ここで大事なのは、その前情報を活かすトークで、長年百貨店で接客してきたことが最大化されるわけである。チャットがなくてもそれはないし、過去の知見がなくてもそれは成立し得ない。つまり、この手段を取り入れたことで、他のお店にはない決定的な差別化要因を作ることができたわけである。

4.どうやってチャットを使ってもらう?という逆の発想

 チャットはもはや彼らの武器。だから面白いのは普通の逆を行く。従来なら、いかにチャットの利用機会を減らすかに論点が集約されるが彼らは違う。「チャネルトーク」のメンバーと徹底的に議論しあったのは「いかにして、チャットを使う頻度を高くするか」という視点である。もはや従来のECサイトにはない視点だというのはこのような部分を指して言えると思うのだ。

 チャネルトークのチャットの特徴として、いきなりチャットが出ない。それは先ほど、人間性を重んじるからだと書いたことに直結している。お店でだって、入ってきたお客様に、いきなり声をかけないでしょう。それと同じである。一定の間を置いて、さりげなく声をかけるようにチャットが出てくる。

 そのチャット上では、杉下さんの名前を前面に出し、写真も公開している。いうまでもなく、お客さまも安心して、チャットを使いやすいからだ。そして、語りかけるその言葉の工夫で、お客様の行動が変わることにも気づいた。

5.内容が漠然としすぎると人は声をかけない

 例えば、「なんでもご質問ください」では、漠然としすぎている。だから、大抵はチャットを使わない。それよりは「夏のフルーツギフト選びに悩んでいませんか?」と具体的な言葉で問いかけるのである。

 考えられうる質問も、その最初のチャットで書いてしまう。「今の旬のおすすめフルーツは?」「予算に合わせて提案してほしい」など。更には、それを商品ごと、ポップアップで表示される質問のようなメッセージを変えた。そうすることで、よりピンポイントでお客様に近いところで会話が成り立つ土台を作ったのだ。

 質問内容を絞りこまれるほど、そこに沿った形で、人は質問をチャットに寄せてくれる。いったん、そこで利用率が上がれば、先ほどの流れに従うまでだ。そのやりとりに専門家としての知見と気遣いとが反映されて、信頼を得るのである。だから、自ずと購買率があがる。

 また、会話に近いリアリティもプラスに作用するのだろう。チャット内には写真も使えて、しかもサイト内にあるきれいな写真ではなく、スマホで撮った写真を使い説明する。でも、その方が、そのお客様に向けての意思が現れ、よりその言葉に耳を傾けてみようという意識が高まるから、尚更だ。

 勿論、深夜など、チャットの性質上、睡眠をとっていて、問合せに出られないこともある。けれど、その熱量を失わない工夫もしている。そこで、メールアドレスや電話番号を入れるフォームを出して、入力さえしてもらえば、あとから、メールやSMSでURLが送られる。このURLをタップすると、チャットが開いて、質問したところから再開されるので、サイトを見て、高まったその気持ちを逃さないのである。

6.これも通販サイトのあり方

 ここまでくると「これでもECサイトなのか」。そう言わしめる「蝶結び」の手法の見事さに、気づいていただけるだろう。この通販サイトで言えば、それはお客様にとっての最初の会話を作るカタログなのである。

 その意味で、ここには色々な型破りがある。新しい店舗とは言え、学びがある。

 従来のそのサイトを見るだけで商品を決めてもらうという発想は、敢えてトレードオフしているから、手に入れた功績である。従来のやり方はやり方で、意味があるけど、そこに甘んじては新しい活路は見えてこないというわけだ。色々な人が通販サイトの産業に参入してきたら、それこそ売り方も多様になっている。

 これでもECサイトなのだ。より人間的に、まるでそのリアルの現場ような臨場感で、購入していくシーンも徐々に増えてくる気がする。オムニチャネルを指して、リアルがネットに近づいて融合することが叫ばれているけど、これはネットの中がリアルに近づいている。リアルもネットもボーダレスに。会話に始まり、会話に終わる。新しいECサイトの姿だと思う。

 今日はこの辺で。

関連記事

145はマガジンは「ヒットの生まれ方と育て方を考えるメディア」。キャラクターなどのコンテンツ関連と新しい小売りの最新情報、商品開発の実態を追うメディアです。
詳しくはこちら
小売のDXについて理解を深めるコーナー
キャラクターのライセンスについて理解を深めるコーナー
製造に関する理解を深めるコーナー

最近の記事