成熟“ネット通販”に見る 頭打ちへのカウントダウン 今何をするべきか 経産省調査を本谷さんと紐解く
もはや成熟への序章。ECは同じ牌を取り合う熾烈な戦いも生まれ、二極化も起こりそう。経済産業省から、「電子商取引に関する市場調査」が発表されて見えてきたことだ。しかし、悲観するつもりもない。逆に、今、何をすべきかが、未来を大きく変える、ということ。毎年恒例、デジタルコマース研究所代表取締役 本谷 知彦さんとの対話を今年も行い、その全貌が見えてきた。本谷さんは元 大和総研で過去、7年連続、同資料の作成に関ってきた張本人。それだけに、これを素材に、未来を考える対話の相手としてはベストなのだ。
物販系BtoC市場規模の推移で見える成熟
1.ECは生活に定着して拡大は続く
「電子商取引に関する市場調査」では、純粋に小売、特にネット通販に関しての今の姿を映し出す調査データで、ネットショップも多くその動向に着目している。特に注目を集めるのは、そのうち、物販系のBtoC EC市場の規模に関しての話題である。
それでいえば、2022年は13兆9997億円であり、その前年(2021年)が13兆2865億円だから、依然として成長が続いている。下記のグラフを見てほしい。
また、この発表と合わせて脚光をあびるのは「EC化率」。それこそ、冒頭、触れた本谷さんが編み出した尺度で、EC系企業では、決算発表などでも用いるほど、定着した。「EC化率」とは、全ての商取引金額(商取引市場規模)に対する、電子商取引市場規模の割合を指す。
では、2022年の「EC化率」はというと「9.13%」。
2.真実は増減率によって示される
その前年(2021年)のEC化率は8.78%なので、明らかにECの割合は増えていて、好調だと言っていいだろう。ただし、これから先の展望を語る上では「増減率」をみなければならず、それこそ、真実を示すものである。
それでいえば、下記の通り、2022年の増減率は「5.37%増」であり、
同じく前年の2021年でそれをみると「8.61%増」。つまり、成長は続いているけど、その度合いは鈍化していることがわかる。下記が「2021年」の伸長率(増減率)である。
だから、気を引き締めなければならない。今までと同じ感覚で伸びると考えると、行き詰まる。この調子でいけば、来年、発表される「2023年」の伸長率(増減率)は5%を切るのではないか。そう本谷さんは指摘する通り「今まで通りとはいかない」。
つまり、「市場規模が頭打ちになる」カウントダウンが始まっているのである。
3.物流量からもカウントダウンが見えてきた
この件に関しては昨年、この経産省の発表があった際、本谷さんと話した話題でもある。そこでは「では、いつ頭打ちになるのか」について議論した。あわせて読んでいただければわかるが、2027年から2032年がピークアウトの目安ではないかと推測している。
関連記事:ネット通販はこうして生活を変える 経産省 電子商取引に関する市場調査 令和三年度
ちなみに、経産省以外のデータからも、伸びが鈍化していることは立証できるので、それは真実に近い。本谷さんが、それを裏付けるデータとして挙げているのは、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配便個数である。ヤマトが「クロネコ〜」、佐川が「飛脚便」、日本郵便は「ゆう〜」のデータで、毎月、この3社はそれをリリースしている。
宅配には確かに、人から人へ贈られるものもある。だが、ECが出てきて以来、その割合は8割程度にも及んでいると、彼は見立てていて、この数字に注目している。それでいえば、前年同月比で、昨年を割っている月が出始めている。
「正直、増減率は5%を切ってもおかしくない」本谷さんはそういう読みをしていたくらいである。ただ、それだけ、踏みとどまらせる要因がある。だから、その核心については、自ら調べた数値をもとに、本谷さんなりの意見があるようだ。正直、僕にとってはそれは驚きをもって受け止められた数字だっただけに、この文章の最後で店の未来に絡めて、触れようと思う。
食品系に関連して行動変容が見られる
1.EC化率はカテゴリーごとで見るほど実態が見えやすい
それでは、経産省の「電子商取引に関する市場調査」から、人々の変化を深掘りしてみよう。
それでいうと「EC化率」を見るとわかりやすく、実は「全体で」見るよりも「カテゴリーごと」で見ていく方が良い。なぜなら、それはカテゴリーによって、ネットとの相性があり、向き不向きがあるからだ。
例えば「家電系」であれば、リアルよりもネット通販。それは、ネット上のほうが、情報量が多く、スペックを確認しやすいから、有利に働くことによる。それゆえ元々「EC化率」が高い。
その点に関して細かな議論は、一昨年の調査データが出たときに、本谷さんと話しているので、ここでは割愛する。下記を参考にしていただければ、幸いだ。
関連記事:ネット通販 の 市場規模 拡大に限界!?コロナ禍 経済産業省 EC 市場調査 を読み解く
2.カテゴリーで最も伸びたのは「食品系」
さて、こちらがそのカテゴリーごとのEC化率を示す2022年のデータである。
2022年で本谷さんが注目したのは、「食品、飲料、酒類」のカテゴリー。元々、先ほどの議論で言えば、「ECと親和性が低い」ジャンルである。
それもそのはず。日本は近くにスーパーマーケットが点在するからだ。かつての主婦で言えば、昼間と夕方にスーパーマーケットに行き、食材を買って、それぞれの料理を作る。それが、ルーチンワークになっている以上、ECに入り込む余地はない。だから「EC化率」はまだ「4.16%」である。
それと比較して、家電は先ほど触れた通り、元々ECとの相性がよく、既に「42.01%」。
3.前年対比での伸びにそのカテゴリーに関わる行動変容を見る
ただし、ここで真実を知る上で大事なのは、2021年対比の「増減率」。2022年に関して、家電系はわずか「3.84%」しか伸びていない。ある程度、飽和状態に入り始めているのと、それらが売れる周期に入っていなかったのではないかと指摘する。
つまり、増税前の駆け込み需要、コロナの給付金という具合に、昨今、追い風になる要素がなかった。だから、それがそのまま数字に反映されているというわけだ。
話を戻して、食品カテゴリーはEC化率自体は確かに「まだ小さい」。だが、それを2021年対比の「増減率」でみると、2022年は「9.15%増」。全カテゴリーで最も伸びたのである。つまり、ECにおける何らかの働きかけが、人々の「食に関する」行動変容を起こしている。
まず、スーパーマーケットがネットスーパー然り、デジタル化を推進している。ただ、何より大事なのは、消費者がある程度、「そこについてきている」ということである。つまり、その企業の取り組みによって、行動変容が起きていて、そこに時代の潮流が見える。
4.食の「調達」及び「作る」行為への簡素化
消費行動の変容が見られる要因の一つとしては、共働き比率が挙げられる。最近では70%に迫る勢い。加えて、例えば、オイシックス・ラ・大地などの業績を見ると、最近、持ち直していて、その背景に時短を謳った「ミールキット」の好調さがあるとしている。
つまり、食ジャンルで行動変容が起きている理由は、食品における「調達」及び「作る」という行為の簡素化が進んでいるから。簡素化という部分で、デジタルが果たす役割が大きく、わざわざリアルのスーパーに通い詰めなくなっている。
そして「ごく個人的な意見だが」と前置きした上で、本谷さんは、食事そのものの「軽視」もすすんでいる。そう述べた話題が面白かった。例えば、「レストランでもスマホを見ながら、食事をしていて、味わうそぶりも見せない」。
それに対して、とやかくいうつもりは彼にないだろう。
5.逆に言えば、軽視に対して付加価値が伸び代となる
何が言いたいのかというと、その逆を考えれば、伸び代がある。要するに「食」というものに、付加価値をもたらす要因が伴えば、よいのだ。それを提案すれば新しい価値として新鮮に受け入れられる。そうすれば、それが定着するEC化率を上げる可能性があるということだ。なるほど。
現に、先程挙げた、オイシックス・ラ・大地にみる「ミールキット」は、簡素化という側面もあるだろう。ただその一方で、本格的な料理を、簡単に作ることができる。つまり、食卓に充実感をもたらすというニーズに答えた部分もありそうだと指摘。
その意味で、先ほどの「家電」然り、情報量が多く、スペックやそこに物語性を盛り込みやすい、ネットは有利であり、伸び代がまだあると。
6.ふるさと納税での利用増も可能性を感じさせる
そして、余談にはなるけど、経済産業省の発表には、出てこない「ふるさと納税」もまた、正直、無視できない。これも、ネット経由でもたらされる流通。寄付金の受領額は2022年で9654億円。本谷さんが調べたところでは、調達分で動いている金額は2000億円を超える。
勿論、返礼品は、食品だけではないが、多いのは確かだ。それを踏まえて、このふるさと納税の調達分の数字を見ると、物販系のBtoCECの「食品」の1割にも相当する額となる。 物価高で、消費者がお得に手に入れようというニーズが後押ししている部分もあるだろう。ただ、これは、ECの伸びにつながる可能性を示すものと考えても良いだろう。
化粧品系のデジタル化で見えた意外なネットの強み
1.化粧関連も増減率が高く行動変容が起きている
その他のカテゴリーで、注目したのは化粧品だとか。これも2021年対比で見れば「7.48%増」であり、何らかの行動変容がもたらされている可能性が高い。
昨今、大手化粧品メーカーがECシフトに積極的に投資している。それが奏功しているのではないかと彼は指摘している。ただ、加えて僕は「接客の質の向上」という側面が挙げられるのではないかと思っている。
接客の質という意味では同じなのが「アパレル」。それでいえば、こちらも2021年対比で成長率が「5.02%増」で行動変容が起きている。
それで、この二つの共通項には「対面販売で真価を発揮する」という部分がある。
2.接客がデジタルとなり継続顧客に
それまでは、接客は、リアルの専売特許だった。しかし、最近はチャットやライブコマースなどを使うなどして、お客様との距離を近づける結果をもたらした。販売員との距離を縮められれば、お客様はファンとなる。そこで、しっかり顧客管理が徹底できれば、継続顧客にもなりうるわけだ。
この顧客のデータを有効活用するのは、まさにネットの得意技だ。
「いかにネットが得意とする土壌で、その魅力を発掘し、お客様を誘えるか」。これも以前、本谷さんと話していたことだ。それを企業が見つけ出せれば、「EC化率」を増加に転じるほどの行動変容をもたらす。それが上記なのではないかというのが、僕の見立てた考えである。ほら、こんな風に。
関連記事:接客 とは何か お客様の不安を取り除く知恵と工夫と思い遣り ビームス Heg.ちゃんに学ぶ
恩恵を受けたのは、マーケットプレイス?
1.「6モール」のGMVの合計は1.2兆円も伸びた
この通り、着実に多くの人に、ネット通販は身近なものとなった。それが、数字にもよく反映されているとういうのが、今回の経産省の調査データの示すところだ。
さて、僕はそこで、こう問いかけた。「一番、そんな世の中のECシフトの中で、恩恵を受けたのは、どこなのだろう」。その部分に関して、本谷さんが教えてくれた推計値であり、これに僕は驚いた。
改めて、2022年の物販系分野BtoC ECの市場規模は、13兆9997億円である。
これに対して、本谷さんは独自に、Amazon、楽天、Yahoo!、au PAYマーケット、Q10、ZOZOの6つのマーケットプレイス(モール)での流通総額を合算した数値を出した。それは、彼がいくつかのリソースをもとに算出したものである。
それによれば、6モール合計の流通総額(GMV)は2021年で「約9.3兆円」、2022年は「約10.5兆億円」と割り出した。つまり、全モールのGMVは2021年と2022年を比較すると、「約1.2兆円」も伸びているわけである。
2.そこからわかる自社ECの現実
繰り返しになるが、物販系BtoC EC市場規模をみれば、2022年は13兆9,997億円。2021年の市場規模は13兆2865億円なので、市場規模全体としては、この一年で「約6000億円」ほど、伸びていることになる。
ん???待てよ。あれ、本谷さん!これって、、、
「そうなんです。確かに、私の推計値もはいっています。でも、確かなデータです。それによれば、一年で、市場全体として5000億円伸びている。対して、モールは1.2兆円、伸びているわけです。コロナ禍で急激なECシフトの中で、最も恩恵を受けたのはモールです。寧ろ、自社ECはマイナスに転じているということになります」と本谷さん。
実際、彼が調べたところでは、ユニクロなどもECという文脈では、案外、苦戦している。そう指摘している。これは、下手すると「EC業界にとって不都合な現実かもしれません」と続けた。
3.自社ECで進む「二極化」
なるほど。ただ、僕の視点は異なる。まず「マーケットプレイス」の勢いは、決算発表などからもうなづけるし、納得だ。経済圏を活用しながら、リアルや配信などのエンタメに及び、そこで回遊させる。そうすることで、結果、時代に左右されず、優先的に、ECへの購入を促せているからだ。コロナ禍以降も思うほど、影響を受けているとは言えない。
ただ、自社ECに関して「市場自体がマイナスとなっている」のは少し違う。それよりは「淘汰された分が離脱に転じて、二極化が進んだ」と考えるべきではないかと思う。
というのも、昨今、自社ECは差別化するだけではなく、独自化が求められている。独自化とは何?そう思われるだろう。それは、勢いのある店舗は共通して、個性を尊重しつつ、自らの商品の特性を活かした売り方と「セットで」提案している。
中小規模のレベルで言えば「WAAK」や 「卒塔婆屋さん」、「虎ノ門市場」などがそれにあたる。一方で大規模店舗においては、オムニチャネルを取り入れた店舗が、それに当たるだろう。リアルとネット相互に行き来する中で、付加価値を出している。
参考記事:小売店 の デジタルシフト その前に “在庫”で生産性を高めよ
4.商品軸ではなくブランド力、独自力
つまり、単純に商品軸でネット販売するのではない。売り方、買い方にまで、オリジナリティが求められて、テクニカルな要素が必要とされる。だから、旧時代(と言っては失礼だが)商品軸のみで展開する店舗は、自ずと自社ECよりもマーケットプレイスで売ることをメインにしていかざるを得なくなる。
必ずしも、それがダメであるとは僕は思わない。自分に合ったところで売れば良いのだから。
すると、淘汰されていくのではないか。以前、フラクタの河野さんと話したことを思い出した。語弊を恐れず言うなら、僕は彼の言葉から「自社ECのプラットフォームは一部を除いて、いずれ、淘汰されるだろう」と受け止めた。
どこが残るのかなどを語るつもりは、僕には毛頭ない。ただ、それだけ自社ECは二極化が進んで、ヒットプレイヤーだけが生き残る。
関連記事:教えて! 自社EC 何がスゴイの?-BASE と Shopify 相応しいのは-
でも、そのヒットプレイヤーはさらに伸びる。固有の差別化要因を持って、時代に左右されない強さを持つからだ。つまり自社ECほど、伸びる店舗とそうでない店舗との格差が歴然する。
さらに言えば、そういう柔軟にサービスを提供できないプラットフォーマーがあるとすれば、淘汰されかねない。この真実は、先ほど、本谷さんが出してきた数字を鑑みれば、かなり信憑性があることがわかる。よりあの時、河野さんが話していたことがリアルに感じられた次第だ。
5.直販としての機能を自社ECではなくマーケットプレイスに求める企業
もう一つ言えるのは、大手企業はリアルを基盤に卸をメインにしつつも、直販の売り場は自社ECよりも、ECのマーケットプレイスを優先しているのではないか。ここは、やり方次第で、上記の差別化要因を探り出し、いかに投資できるかで、自社ECはその企業の伸び代になる。
だから、繰り返すが、今を境目に二極化が顕在化する。本谷さんの取材記事なのに、勢い余って、僕の考察を大幅に入れてしまって申し訳ない。
ただ、本谷さんの出したデータは示唆に富んだ、非常に興味深いデータである。それは間違いないと思う。なぜなら、朧げながら、より今の時代を明確に気付かされる結果となったからだ。
6.各々が真剣に自分の身の振り方を考えていくべき時代
つまり、各々の店がどういう身の振り分け方をしていくか。それを、そろそろ真剣に考えていくべき時なのだ。決めた以上は、そこにリソースを割いて、踏み出していくだけ。
今このタイミングの決断が、未来のその会社の成長につながる。
改めて、その事実を受け止めつつ、物販系BtoCEC市場のデータを読み返してもらいたい。
データはあくまでデータである。それを受け入れつつ、人間が先読みして、どう工夫できるか。そこで自分たちなりのビジネスを確立していければ、未来は一気に開ける。だから、あえて、このデータの大事さを思う次第。今こそ、変革の時。事業者たちの腕の見せ所なのである。
本当に、個人的な話であるけど、二極化が来るだろうと気付かされて思ったことがある。それは、モールで活かす店舗と自社ECで活かせる店舗が良い意味で、棲み分けされる世の中こそが、本当に、必要なのだということ。皆さんの舵取りが、正しいものとなることを切に祈る。
今日はこの辺で。