マレーシアで掘り当てたネット通販の新たな可能性 シナブル 小林社長を直撃
マレーシアと聞いて、皆さんは何を浮かべるだろう。そんな異国の地で日本の力が生きている。と言っても日本企業が進出しているわけではなく、現地法人として、現地の人が日本の知見を活かして、現地の小売業を生まれ変わらせている。それを“掘り当てた”のが日本でシナブルを経営している小林裕紀さん。その海外での活動に着目することで、小売業に必要なのは何かを改めて考えてみようと思う。
当初からあった世界に通用すべき「eコマース」のシステム構想
これを語る上では、小林さんの経歴を踏まえた方がわかりやすい。彼は、もともと2000年代前半、コマース21の社長として、まだ黎明期のネット通販の現場にいた。コマース21は、自社Eコマースを展開するのに必要なリソースを提供するシステムベンダーの企業であった。
それこそ、Amazonすら日本に上陸しておらず、マーケットプレイス(モール)という発想もない中で、それを進めていたのだから、その頃の苦労は絶えなかった。でも、彼はその後、ネット通販のマーケットの拡大とともに、それを黒字化させたのである。
その後、紆余曲折あり、コマース21はヤフーの傘下になるなどして、彼はそこから外れ、今、シナブルの代表取締役を務めている。そこでの知見を活かして、Eコマースに特化させたMA(マーケティングオートメーション)に関するサービスを手掛けて、独自の地位を手に入れるに至る。
ただ、以前から小林さんと話をしていると、優れたEコマースのシステムは、言語や場所の垣根を超えて、世界に通用するはずだという信念を持っており、度々、海外の話が出てくるのである。
マレーシアの現地の人が日本の知見を生かして躍進
彼が紹介してくれた会社はbridziaで、日本企業ではない。この会社は今から約10年ほど前から携わっている。彼はあくまで出資者として、アドバイスなどを行なっている。その助言は、小林さんは今のシナブル然り、自社Eコマースにまつわる知見を取り入れたもので、理にかなっている。
以前は、アウトソーシングも行い、Eコマースのシステム、マーケティング、配送のマネジメントをやっていた。だが、密着したやり取りから、システムを構築し、徐々に自社Eコマース向けのプラットフォーマーとしての存在感を見せてきた。
今のbridziaは上記の図の通り。
基本的には、Eコマースのシステム自体は、世界のEコマースプラットフォーム「Magento」がベースである。そこで、彼らはモバイル・アプリケーションを実装できる仕組みを提供して、「Magento」と連携。そこからオフラインのキャンペーンなどを行い、店としての価値の最大化を狙う。
また、ソーシャルコマースが盛んなのも、マレーシアならではの特徴。ゆえにFacebookやインスタグラムのライブ配信を通して、メッセンジャーで買える仕組みを実装。
加えて、それらを束ねるべく、一元管理の仕組みを取り入れた。各種バラバラに存在するEコマースモールなどの受注管理などをこれで一手に統合。
つまり、それらを小売全体を一体で捉えて、運用できるように設計している。
地元と密着するショッピングモール
ちなみに、日本人が海外に進出するというよりは、現地の法人。運営も全て、マレーシアにいる現地の人により成り立っている。つまり、徹底したローカライズを貫いている。
まず、マレーシアは多くのショッピングモールが点在している。
週末になれば、住民はそこに通い、ショッピングを行う。どこの国もそうだが、リアルにあるお店が軸となっている。その中にあってbridziaが着目したのは、リアルの店舗がEコマースにおけるサポートを強化することでその価値を最大化することだ。
ちなみに、それらのショッピングモールは、地元で支持されているチェーン店舗も多く集う。「ケイトスペード」などの名だたるブランドもそこに出店していて、活況に沸いている。
だからEコマースのツールをマレーシアに持ち込むと言っても、Eコマースを盛り上げるというよりはリアルの最大化だ。来店してくれるお客様の満足度を高めるため。それを充実させるために、bridziaはそこに出店しているブランドやお店に、サービスを提案するわけだ。
すでに、ネット通販には着手している企業も少なくはない。ただ、リアルはリアル、EコマースはEコマースと切り離されて、その価値を生かしきれていない。だから、いかにそこで彼らの仕組みを適応させることで、その価値を底上げできるか。そこを小林さんはわかっているのだろう。
そこでそれをどう活かすかという部分でローカライズという要素が出てくる。
あえて完全に任せることで必要な価値が見えてくる
そうすると、見えてくるものがある。マレーシアにはAmazonはない。けれど、Ladazaなど、マーケットプレイス型の店舗には出店、出品しているお店、メーカーも少なくないわけだ。だから、彼らはそことの連携ができるものを提供すれば良い。
だから、こちらを見てほしいが、取引先はこのようになる。
guardianはドラックストアチェーン。SUNWAYはショッピングモール。その他、COACHなど。ただその先のお客様はマレーシアということになる。
リアルとネットの他の店舗の在庫の連動を行い、自社Eコマースの知見を持ち込む。アプリを使い発信し、ソーシャルコマースも行う。
そうすれば、バラバラになっていたそのブランドや小売店の真価が発揮される。要するに、着目したのはまず、オムニチャネルの徹底。そこの価値を高めつつ、徐々にその顧客管理という視点に広げていく。
小林さんは自社ECでの経験もあり、そこを土台にオムニチャネルの大事さもわかっている。だから、リソースとして何を提供すれば良いかが理解していて、これまで培ってきた知見は活かされる。一方で、シナブルでやっているMAツール「EC Intelligence」も有効活用できるわけだ。
ようやくbridziaの価値が現地に浸透する
それをわかった上で、口を出さない。あくまで、マレーシアでの小売店の最大化の為に、現地の人たちに委ねる。なるほど。改めて自らその会社に出資して、投資したのは、その点のバランスを考えてのことだ。
現地のお店にとっては、それは発見となる。リアルとネットを掛け合わせることで生まれる、まだ手をつけられていない切り口。そこから、売り上げを作ることができるのだから。
コロナ禍ではこれらのリアルのお店が殆ど、休店に追い込まれた。だからこそ、一気に彼らへの注目度が上がった。現地法人が現地で抱える問題を、日本で培ったものをローカライズさせる。そうすることで、その需要が一気に増したというわけだ。
リアルとネットの融合が、単純にどちらかの売り上げを上げるものではない。それは今では日本でもお馴染みだ。つまり、両方を一体で見ることでの価値は、一過性で得られるものとは違う。だから、このコロナ禍でそれらのサービスを取り入れて、気づく。もはやこれらは、コロナ対策ではない。未来の小売店にとって必要なツールなのだと。
bridziaもまた進化して実態に伴う
思えば、小売というのは様々なリソースが必要となる。だからこそ、投資が必要だ。正直言えば、「2020年に入ってようやく黒字になった」と小林さん。それでいうと、リアルのお店の価値をデジタルを使って、最大化させる「クイックアンドデリバリー」のサービスも提供されている。
「クイックアンドデリバリー」はデジタルで購入したものを店員がピックアップして、駐車場まで届けるサービスである。まさに、アメリカなどではこのサービスによって、ウォルマートが躍進した。アナログの小売店から、デジタルの加入者を増やすことで、幅を広げ、一躍、デジタル企業の仲間入りをしたのだ。
日本で取り組めていないジャンルも、求められる。それには先ほど、書いた通り、投資が必要で、だから、赤字が続いたというわけだ。しかし、それらは小林さんにとってやる意義があった。自らのこれまで培ってきたことの上にそれが成り立つからだ。つまり、これまでの価値も尊重された上で、投資が生かされている。そういうわけである。
このようにして、bridziaはローカライズさせることで、日本以外の国で、Eコマースの価値を用いて、現地の信頼を集めたわけである。
現地に即した信頼を得る企業へと成長
だから、bridziaは現地法人として存在している。対話をするのも現地の人。当然、クライアントも現地の企業として身近に感じて、現地のために尽くそうとする、その姿勢に信用が得られる。
そのニーズをきめ細やかに吸収し、その仕組みをマレーシアの仕組みに合わせていくことは、それまで投資してきたツールが必要な形でアップデートする。良い意味で、日本のイズムが良い意味で、世界に生かされる格好となっているわけだ。
ここからが勝負だと考えており、自社Eコマースの価値の最大化を狙う。思うに、リアルなお店がリアルである価値を最大化するのは、デジタルである。
ただ、それはEコマースのマーケットプレイスに出店、出品していても、それは限界があるのだ。そこに出すのがダメと言っているのではない。お店やブランドに対して、その選択肢を増やすことで、彼はマレーシアの小売の発展に寄与すると話しているのである。
改めて、売り先のローケーションを多種多様にしつつも、一体で捉えることの大事さである。そこには常に、アップデートが伴う。だから、提供する側もそれをわかっていなければできない。
日本の価値が海外で生かされ、良い意味で定着しつつある。改めて、日本で培ったことの功績はローカライズの徹底により、生かされているのが興味深い。
今日はこの辺で。