SHIBUYA AXSH、そして文化とビジネスとの遭遇、渋谷が拡散され続ける理由
街という単位もまた、経済圏なのだと思う。だからこそ、従来の発想にとらわれず、価値をどう活かすか。その価値を最大化させるための街の形成とは何か。それが年々大事になっていることを、渋谷を通して、実感する。今は渋谷にとって転換点の時期だ。それで、内覧会を行った「SHIBUYA AXSH(渋谷アクシュ)」にうかがうとともに、一般社団法人「渋谷未来デザイン」の話を聞いて、俯瞰的に渋谷を捉えてみたのだ。
再開発によって手にするものは?
渋谷といえば、再開発は代名詞。僕は最近、この建て替えによって、生まれ変わった後の渋谷をよく考える。建て替えに伴い、利便性が向上し、その土地と建物の付加価値が上がることで、語弊を恐れずいえば、以前よりも、さらに良質で、勢いのある企業が集まる。
だから、単なる老朽化に伴う建て替えではない。街全体を考えるその視点にこそ、学びがあると考えているのだ。この日、僕がやってきた「SHIBUYA AXSH(渋谷アクシュ)」の開業もその動きの一つである。
場所を見てみると、渋谷ヒカリエと隣接しており、渋谷クロスタワーとは道路を挟んで歩道橋を通して、つながる。そもそも、この渋谷から青山にかけての道のりは、高低差がある。例えば、青山方面から来る人は、その坂を登り下りしながら、クロスタワーの人もわざわざ、歩道橋を降りて、細い脇道を通って、渋谷駅に向かうわけである。
だから、この「SHIBUYA AXSH」の意義が出てきて、その間に立つことで、この場所を丘の様に見立てているわけである。
渋谷を一つに繋ぐ
つまり、クロスタワーの歩道橋から歩いてくる人は、そのまま、「SHIBUYA AXSH」の2階部分へと至り、そのまま、高低差なく、渋谷ヒカリエに辿り着くことができる。
青山方面から来る人も、整備された広場からこの建物内にスムーズに入ることで、先ほどの渋谷ヒカリエへの道が確保される。渋谷ヒカリエは駅直結なので、この建物がこの場所自体の回遊性を高めているわけである。
すると、自然にその2階部分は多くの人が通ることになるから、その両脇には飲食店を構えて、賑わいをここの部分にも創出するわけである。CERVEZAのクラフトビールは格別であった。昼間からすみません。
僕らが建物という概念で見れば、大抵が一階に入り口があり、そこからエレベーターで上へと上がるものだが、その既成概念を街の観点で打破している。
しかも、建設を牽引してきた東急によれば、渋谷はかねてより、オフィス不足が叫ばれていた。だから、これらの回遊性を高めつつ、「SHIBUYA AXSH」の上層階は全て、オフィスになっているので、それらの課題に応えるわけである。
結果的に、これらは企業の関心を強く惹くことになって、開業前の時点で、オフィスは満床だという。極めて、これがレアケースであることを東急は強調して、その場所のポテンシャルを示したわけである。
青山までの回遊性を高める要
これらはまだ、発展途上の段階にある。この日、会見で見せてくれた動画では渋谷は“一つ”になっていた。
「渋谷ヒカリエ」と駅と一体化された「渋谷スクランブルスクエア」の間に東京メトロ銀座線の渋谷駅が陣取っているが、2027年にかけて、その天井を歩ける様にしていく。つまり、駅が渋谷マークシティと京王井の頭線の改札口が繋がっているから、井の頭線を降りて、そこを渡って、そのまま「SHIBUYA AXSH」まで真っ直ぐに青山方面などに移動できるのである。
※2024年7月時点での想定(変更の可能性あり)
「SHIBUYA AXSH」はどちらかというと、オフィスの拡充としての意味合いが強いが、渋谷全体の回遊性を高める上では要の存在である。
彼らもそこで、良質な経済圏を作り上げる。そうすることで、渋谷がさらに、世界的に価値を持った場所を目指そうということになるのだろう。この日、記者会見で、その布石となりそうな動きも見られた。
というのも、ワーカー向けサービスとして、アプリ「Shibuya TOQ Pass」が紹介されていた。東急関連のオフィスビル入居の企業を対象に、このアプリで付加価値を提供して、共通軸を作っているわけである。
ここで働く人は近隣の飲食店などでも特典が得られるなどして、ここで経済圏を作っていく。
経済圏としても一つに束ねられそう
思うに、こういう動きを通して、渋谷はデジタル上で良質な企業を集めて、それらのデータを手にして、街の付加価値向上へと繋げていく。
これらの商圏として価値提供は、ビジネスライクな側面にとどまらず、文化的な色彩を伴って、成長させていく。面白かったのは、「SHIBUYA AXSH」のオフィスのエントランス。タリーズコーヒーを広めに用意して、渋谷のカフェ不足に応え、交流の場にもしていく。
ご覧の通り、今や遅しとその開店の時を限定セットを用意して待っていた。
ただ、その反対側には、2025年をめどにギャラリーを構えるのだ。オフィスのエントランスで無料でギャラリー?
中心となって手がけているのはNANZUKA 南塚真史さんだ。田名網敬一さんなどのアーティストを発掘していて、自身でギャラリーを持つ。それで、僕は彼に聞いたわけだ。「正直、アートは美術館然り、目的を持っていくものではないのか?」と。
すると彼の返答が実に新鮮で「そういうイメージからの脱却こそが、今まで私がやりつづけてきたことです」。彼曰く、海外ではもっと身近に無料で誰でもアートに触れられるのが常識。その世界観を、日本にも持ち込みたいと、こうやってビジネスとの連携などを果たして、この着想に至る。ちなみに2階では初めてカクテルバーにもチャレンジしている。
これで、建物がただ新しく建てられているだけではない。それがお分かりいただけたのではないか。
渋谷は何故脚光を浴び続けるのか
加えて、この転換期に合わせて、もう一つ、渋谷の価値を俯瞰して考える上で、一般社団法人渋谷未来デザインに話を聞いた。上記の「SHIBUYA AXSH」の動きとは関係はない。ただ、大局的に「渋谷」を理解する上で、上記の話題と一緒に書くことで、渋谷の深い理解につながりそうだと、取材を試みたのだ。
ここでのテーマは「何故、渋谷は脚光を浴びやすいのか」ということになる。
同社団法人は、渋谷区という自治体に加え、NTTドコモ、パルコなど民間企業の出資によって成立している組織。実は、彼らが渋谷に活気を与える上で、うまく機能していて、それが渋谷が話題になりやすい要因を形成している。
企業にはいろいろなポテンシャルがあって、その活かし方はさまざまだ。けれど、街で生かすという視点でいえば、簡単ではない。公共のものであるからこそ、その扱いに慎重にならざるを得ない。加えて、自治体の考えるルールと、民間企業の考えるルールには差があって、そこを埋めていくのも簡単ではない。
お互いの考えを一つにしていく必要性がある。折り合いをつけるべく、両者の間に入る。そして、企業が望む形が、結果、自治体にとってプラスになるように導く。それを形にするのが、一般社団法人、渋谷未来デザインなのである。
柔軟にかつ迅速に渋谷と企業のハーモニー
そこには、その事業を汲み取る人材がいる。だから、それが機能する。
今回、話をしてくれた久保田夏彦さん(写真左)は、まさに狭間でかつて苦労をした人である。元々、民間企業にいて、当時、老朽化の進む宮下公園に着目。民間企業の立場で、自らの価値を発揮させつつ、場所としてリニューアルを図った、その張本人である。
また、同席した菅野太郎さん(写真右)は、区からの出向で区の事情を把握する。故に企業からの持ち込まれた案件を理解して、それをどのように渋谷区側に説明すればいいのか。その段取りは彼が担う事で整う。
最近で言えば、「渋谷スマートドリンキングプロジェクト」がある。
アサヒビールと電通デジタルの合弁会社スマドリは、お酒を飲めない人にも飲み会に等しい価値を提供したいと考えた。だから、お酒を飲める飲めないに関係なく、好きなドリンクを一緒に手に楽しむ時間の演出を作ろうというわけだ。
多様な価値観を受け入れる渋谷の個性
そこで、渋谷で開催される「ソーシャルイノベーションウィーク」で、スマートドリンキングのトークセッションを実施。お酒を飲む人、飲まない人、各々価値観を語り合った。また、「SUMADORI-BAR SHIBUYA」を渋谷・センター街にオープン。飲める飲めないに関係なく、共存できる場所をリアルに表現した。好きなドリンクを選んで、好みのアルコール度数を掛け合わせ、各々、カスタマイズしたドリンクを飲めるようにしているのである。
加えて、先ほど触れた「ソーシャルイノベーションウィーク」は「渋谷未来デザイン」にとっても中核事業。毎年、多くの多様な価値観を受け入れる素地を形成して、魅力は90社を超えるパートナー企業や団体と作り上げるコンテンツである。トークセッションに限らず、ワークショップや体験など、多岐にわたる。
「渋谷未来デザイン」は、企業と区の気持ちを理解した“良き緩衝材”。それが入ることによって機能し、活性化を担うイベントがあるということだ。
渋谷という街が全体で再開発を行い、世間から脚光を浴びるだけの素地がある。だから、新たな商圏が“これから”生まれるに違いない。僕はこれによって生まれる新しい経済圏の価値に着目している。変容し、価値を模索して挑戦する。そして、何か起こりそうだと期待に胸を沸かせる。それが、渋谷なのである。
今日はこの辺で。