徹底鼎談:物流こそプラットフォームにふさわしい
コロナ禍もようやく落ち着きを見せ始めてきた。だからこそ、小売業とその裏側にある物流の関係性について、どうあるべきかを考えてみた。それは、店やブランドが、コロナ後を勝ち抜く秘訣そのものだからだ。それにあたって、リンクス小橋重信さん、AMS古田俊雄さん、流通サービス長谷川雅之さんを招いて、議論をしてみたのである。
店舗と物流の距離を近づけたデジタル
1.あなたは変われていますか?
まず、リンクス小橋さんは元々、アパレルメーカー出身だから物流を素材にしながらも、俯瞰的な視点でのコンサルで定評がある。最初に勤めたそのアパレルメーカーが倒産するという憂き目にあい、IT系企業に転職。デジタルとアパレルの両方の知見があることを買われて、OTSという物流会社に入社した。その後、現場主義を貫き、センター長を経験するなどした後、独立して今は物流全般のコンサルをしているわけだ。
彼の話を聞きながら、僕は思った。飛躍できるかどうかの“キーフレーズ”がこれだと。
「その企業はこのコロナ禍の3年間で、変われているだろうか」。
シンプルなものである。しかし、ここまでドラスティックに世の中が変わった。社会の構造が変わっているので、少なからず、変わっていない企業は苦境に陥るだろうと。読者のみなさんの企業は、この3年間で、どれだけ変わっただろうか。
2.ミドルウェアの重要性
大きくうなづくのは、AMSの古田さんである。彼は、その世の中と企業の変化の両方を、肌身で強く実感した。それは、彼らがミドルウェアといって、物流倉庫内の作業に入る前のシステムをどう解決するかに向き合っているからである。
もう少し、ミドルウェアについて説明するなら、その名の通り、間に入って“繋ぎ合わせる”システム。例えば、倉庫の現場でWMSという在庫の管理システムがある。一方で、商品を販売して商流を生み出すECのカートや実店舗などがある。ここを繋ぎ合わせる“ミドルレンジ”の部分も担っているのがAMSのシステムなのである。
古田さんは、その意味では物流業ではないから、「自分は物流を語るほどでは・・」と謙遜してみせた。だが、小橋さんはそんなことはないと言い切った。
3.仕組みであり人である
そこを知らずしてECの物流は語れないからだ。小橋さんは物流畑の人間でそこから見た時に、それを痛感した。フロントを理解してそこにある仕組みと物流現場をどう繋げればいいのかと。そこまで、考えてパッケージ化できてこそ、物流の真価を発揮するというわけである。
その言葉に嬉しそうな表情を浮かべつつ、「(その実現について)そうは簡単ではない」。そう言って、苦笑いを浮かべたのが古田さん。ここに理屈では説明できない難しさがある。
企業は組織であり、人であるから。実店舗は実店舗、ECはECという具合に会社の評価が分かれていれば、そうは易々とことが運ばない。たとえ、それが正論だとしても、人は動かないというのだ。だから、彼ら自身もあらゆる部署の現場ともやりとりするし、その説明を繰り返すのだ。
「標準化」と「平準化」
1.柔軟だからこそ一体感が大事
さて、今度は、物流の現場を熟知するのが、流通サービスの長谷川さんだ。流通サービスはオルビスや生協などを主要の取引先に持ちながら、荷主に合わせた物流環境を追及し、高く評価されている。その中で、彼は倉庫の実態を把握しつつ、車に乗って生協の商品を持ち、お客様に配達も行った経験すらある。
長谷川さんは、その二人の会話に強く、うなづく。彼らも現場ではWMSを使っている。ただ、WMSも変わってきていて、それは時代の必然だと説く。
それまで、WMSを荷主企業のフロント部分と繋ぎ込む時には、その都度、改修費用が伴っていた。しかし、昨今、クラウド型のWMSが広がっている。それは自分たちにとっての利点もありつつ、荷主にも利点がある。
つまり、WMSがクラウドで共通化されて、荷主が物流企業の乗り換えがしやすくなり、今度は物流会社も自分たちの強みを提案しやすくなった。そうすることで、より荷主と物流会社が、柔軟に一体感を持って動ける環境が整ってきたわけだ。
2.倉庫内の「標準化」の必要性
そんな現場と近い立場の長谷川さんがこれから大事な事として挙げたのが「標準化」。「標準化」とは、働く環境を仕組み化して、誰でもできるようにすること。これらと対局にある言葉が「属人化」である。でも、実は「この人でないとわからない」という箇所を持つ物流会社は少なくないという。
思いがけず、ここで意外な会社名が飛び出した。それが「タイミー」である。「タイミー」というのは、一部の時間を切り取ってそこの時間だけピンポイントで働く人を企業に送り込むサービス。
実は、そういう「属人化」から脱却を果たせていたからこそ「タイミー」の利用が奏功していた。その長谷川さんの話に頷き、小橋さんは実感を込めて、述べた。
確かに「タイミー」を使いこなせていない物流会社も少なくないと。つまり、流通サービスはその人材にきちんと充てるべき現場を選んで、経験の浅い人でも即時に対応できる仕組みを割り当てた。だからそれが機能していると指摘。それは「標準化」の功績であると根拠づけた。
3.「平準化」推進と荷主との関係性
そこで、改めて、荷主が相手でも「断るべきことは断る」という長谷川さんの言葉が意味を持つ。なんでも、荷主の要望を受けてしまえば、そこで自動化しづらく、生産性も悪くなるからだ。
加えて、彼が触れたのが「平準化」である。「平準化」というのは一定の出荷量で統一していくこと。日本の企業は概して、季節ごとに仕掛けをしていく。だから、その度に波動(従来にない出荷など)が生まれて、その皺寄せが物流会社にくる。
それゆえ、荷主がやろうとしている事を、事前に貰って用意できるかが大事だと。だから、流通サービスなどのように彼らの定評ある「荷主との関係性」が肝となるわけだ。それが波動に応えるだけの環境を整え、生産性を高くするわけである。
物流こそプラットフォーム
1.共通化させたものを荷主に
ただ、そこで長谷川さんは「荷主との関係性」ではもう一歩踏み込んで、こう指摘する。「いかにそれを他の荷主にも共通して使ってもらえるインフラとなれるか」と。なるほど。例えば、流通サービスでは、つい先日、オルビス仕様に合わせた物流環境を整えて、ここに大きな投資をした。
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このようにして、まずはある一定の得意ジャンルで、その物流拠点を形成する。次に、そこに準ずる荷主を集めて、倉庫側が提示する「標準化」のためのルールにあわせるように促すわけだ。
従来の物流の常識で言えば、個々の荷主企業にカスタマイズしていた。けれど、そうではなく、その荷主のこだわりは一定レベルにとどめ、出荷における効率化を図っていくわけである。正直、その時、物流サイドも「それはできません」と言わなければならない。これまでの考え方からすれば、言いづらい部分もあるので、そこは、未来に向かって、その考え方への理解が浸透することが必要だろう。
2.規模の経済が働く
それに関連して、僕が共感したのが小橋さんの言葉である。
「本来、物流こそ、プラットフォームにふさわしい」。
つまり、物流こそ「規模の経済が働く」のである。本来、物流のインフラ構築には億単位のお金がかかる。だからこそ、ある程度の荷量が必要となる。だから荷主を束ねて、その共通化を図っていくことの重要性を述べるのである。
僕が思うに、SHEINなどもそれに近い。インフルエンサーで小さな商圏を作りつつ、物流と生産のインフラは共通化させて、多様化するあらゆるニーズに応える。つまり、生産と物流のインフラが差別化要因となって、荷量を格段に増やし、世間に名を轟かせている。賛否あるが見習うべきところはある。
要するに、競うべきは商品であり、物流は束ねて共通化させるのである。
3.何が大事なのかを店舗が理解する
それには荷主側の意識を変えなければならない。
先ほどのミドルウェアの話にもあった通り、今一度、縦割りから脱却する必要もあるだろう。共通化されたインフラに自分たちも合わせるという理解も大事だ。要は、こだわりと合わせるということのメリハリが大事だということ。
その時、その店の姿勢が持続可能である為に、運営する企業にとっての「ブランド力」が大事になる。
4.一つで捉えることの意味
だから、AMSの古田さんの言葉が思い出され、「一つで捉える」ことの意味である。EC物流の場合、販売チャネルが複数あって、ミドルウェアが生まれた。それが、マルチチャネル、マルチロケーションとなって、リアルとネットの垣根を超えて、考えていかないといけないフェーズに入った。
すると、リアルのスタッフも、デジタルの活用を意図する。そして、改めてそのスタッフの魅力は何か。その人となりであり、相手を熟知した提案力である、もはやデジタル、リアル云々の話ではなくなるわけだ。ゆえにデジタルとリアルを行き来しながら、関係を深める方向へと持っていけばいい。それが信頼となり、継続となって生産性も高めて、顧客満足度を向上させる。
5.スタッフとブランド価値を守るために物流を味方につける
だから、最初の言葉に戻る。
「その企業はこのコロナ禍の3年間で、変われているだろうか」。
この3年間がもたらした急激な変化は必要性を伴ったものであり、時間の針を早めたに過ぎない。だから、コロナ前はもう戻らないのだ。
2023年以降は、物流と荷主である店舗、スタッフを含めて、一つとなって同じ方向を向かなければ、太刀打ちできない。デジタルが大事なのではなく、それを叶えるために、デジタルが必須なだけである。
全体が見えてくれば、倉庫側はその「標準化」が大事なことに気づくし、荷主との関係構築の中で、セールなどを行わず「平準化」を心掛けるようになる。そしてその「平準化」を支えるのは、ブランド力であり、それは、デジタルとリアルの垣根を越えた、スタッフ並びにブランドの価値である。
今日はこの辺で。