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コロナ禍、円安、急激な変化 はマーケットを変えた BEENOS 越境ECトレンド 2022

 「商売はどこにチャンスが潜んでいるかわからない」そんな気持ちにさせられた。BEENOSの「越境ECトレンド」に関する記者会見に関してである。コロナ禍に始まり、原料費の高騰や円安など、誰がそれを想定できたろう。世の中の変化に伴い、思いがけずマーケットが生まれ、拡大することだってある。企業が予め、従来の流通や固定概念にとらわれること無く、柔軟にアンテナを張り巡らせておく事の意味を思う。

越境EC 2022 年は円安で追い風

1.コロナ禍で広がったその勢いに拍車

 日本の商品がもっと多くの人に流通するように。極力、海外と日本をボーダレスに商取引できるようにBEENOSは動いてきた。 「buyee」というサービスは、主に「言語」と「決済」と「物流」という観点でサポートする。それにより、日本のネットショップで販売されている商材を海外の人が購入しやすくする土壌を作ってきたのである。

 そのやり方はHTMLタグを埋め込むだけ。海外の人がそのサイトに訪問して、必要な言語で説明を見ることができる。また、購入の際には必要な金額をその時々の為替レートで指し示し、決済をする。決済完了の後、彼らの物流を通して、お客様のもとへと送り届けられるというわけである。

 彼らの仕組みはお店然り、モールなど幅広く利用されるに至る。だから、そこでの流通を確認すれば、海外のお客様の誰が、どういう商品をどれだけ買ったのかがわかるというわけである。

 周知の通り、コロナ禍となり、海外に移動できない分だけ、ネット上での取引が増えた。そこに加えて、ここ最近の円安傾向がその流通に拍車をかけることになった。主にその変化は3月11日以降であり、その伸びは下記のグラフの通りである。

2.「3月11日」を境目に円安に転じ、急増

 それに伴って、どんな変化が現れたのか。それは一目瞭然。わずか半月ほどで「buyee」経由のその流通指標は格段の成長を見せている。この短い期間で、購入金額は18.8%増。購入単価で1102円も上昇しているのだ。

 なぜ、ここまで急激に伸びているのかというと、やはりネットの「発信力」である。黙っていても恐らくここまでは、動かない。けれど、例えば、中国の「小紅書(RED)」というプラットフォームでは、円安をフックにしたコンテンツをインフルエンサーなどが発信していたりするのだ。

 その他、YouTubeでも「日本の物価は安くなったのか」と番組が作られていた。自ら家電量販店に行って、確認する番組などをアップロードしているのである。つまり、これらの発信は世界のどこにいても見る事ができる。だから、見ている側が、世界に「同時に」触発される。それ故一斉に日本の商品を買おうという行動へと駆り立てるわけである。

3.伸びたのは普段買わない層

 この急上昇を支える存在として大きいのは「普段買わない人たち」が購入している事。加えて、それらがこれからの越境ECのマーケット拡大の鍵を握っている。

 なぜなら一度、利用すれば、一人当たりの利用頻度の高いサービスだからだ。彼らはそう語り、リピート率の高さをアピールした。ゆえに、寧ろ彼らはサービスを理解してもらう事に注力。これを機に初めて越境ECにトライしてもらえることの意味を語り、未来につなげたいとするのだ。

 では「普段買わない人たち」について深掘りしてみよう。それについては国別で見ると顕著である。

 これを機に伸長したエリアは1位がブラジル、2位メキシコ。つまり、日本から遠い地域からの購入で、その敷居の高さに躊躇していた層である。円安になるほど、配送料を含め、遠い地域にメリットが大きい。しかも例えば、ブラジルの通貨レアルなどでは、ドル以上に円安の傾向が強いので勢いづいているわけだ。

 また、面白いのは、これにより普段、脚光を浴びなかった商品まで光が当たることである。5月単体の伸長率で言えば「東洋彫刻」といった耳慣れない種類の商品が並んでいる。東洋彫刻とは木彫りの彫刻などで、それ自体が日本を連想させるからなのだろうか。つまりマーケットが広がることで、売れる商品の裾野も広がっていくことを示した結果である。

インフラを抑えて備えておく

1.環境の変化とともに思いがけず開花する

 時代は常に変化していて、何がプラスに働くかわからない。恐らく販売する側でも特段、円安に合わせて何かをしたということはないだろう。それよりは、世界を取り巻く環境の変化によって、特別な環境が生まれて、消費が拡大しているという事実を受け止める事が大事だろう。

 では実際に商品を販売する側の声を聞いてみよう。東宝ステラが運営するネットショップ「ゴジラ・ストア」の話である。

 元々、「ゴジラ・ストア」というのは新宿などにリアルのお店を構えていたけれど、そこでは主に、インバウンドのお客様を中心に売り上げが伸びていた。ところが、コロナ禍となりその売上がなくなって、来れなくなったお客様をはじめ、そこで失われた売上をウェブで実現させていこうという事で、海外展開を強化して、Buyeeを使うに至るわけである。

 彼らはその通販サイトでは主に、新規顧客の獲得に意識を向けている。それは映画なのでヒーローモノに対して浸透率が低いからだ。一方で、一度、ファンになってもらえれば、ギガンテックシリーズと言って30cm程度のものなど、特にコアなお客様が買い揃えたくなる展開を行い、ブレイクするに至った。インフラと店の考え方が一致していて、故に成長している。

 ちなみに「ゴジラ・ストア」では、下のようにTwitterなどで直接、彼らが海外の人たちに訴えかけ、YouTubeで番組を作成して、その内容を発信していった。

2.海外から来れない分だけ越境EC

 ここで大事なのは東宝ステラはあくまで「ゴジラ」ではなく、「ゴジラ・ストアTV」というお店のYouTubeとして発信していること。つまり、リアルのお店に来れない分、商品における背景をライブ配信して、お客様とダイレクトにコミュニケーションしようというのがその狙いの中にある。

 動画を見ていただくとわかるが、スタッフ同士の連携が見事。出演者自体は英語などの言語には長けていない。しかし、常に近くで別のスタッフがその一人一人の書き込みをチェックして、それを翻訳したものをすぐに出演者のスマートウォッチに送るのだ。だから、出演しながら、ちゃんとそれに即座に応答できるわけである。

 勿論、ゴジラのファンではあるだろう。ただ、海外の人もこの番組の参加者の一員として、この番組自体のファンになって、リピートしてみてもらえるようになった事が大きい。

 番組内ではそのフィギュアを作り上げた造形師の現場までカメラを持ち込んで、そのストーリーを伝えるなど、店とは違った付加価値の創造にも寄与している。お店側が地道に、コロナ禍以降、積み上げてきた取り組みが、一人一人の購買意欲につながっているのである。

何がプラスに働くか分からない

1.商品やコンテンツの価値を思えばこそ備えるべき

 ここまで読んでもらうとわかるだろうが、日本と海外との距離感は近づいている。ただ、大事なのは、それら越境ECのインフラが整っているから、ということを忘れてはならない。ここに時代の流れ、積み重ねてきた功績があると思う。

 実際、僕が気になったのは「梱包」についてである。例えば、先ほどのゴジラのフィギュアのようにして、精巧なものであるほど、海外へ送るのは大変である。この点、代表取締役 直井聖太さんは、大きくうなづいて、あらゆる商品に対応できるはずと胸を張る。

 その理由として、資材は無数にある。考えてみればわかるが、彼らが送る商品には奇想天外なエアロパーツのようなものもある。中には、オーディオ機器もあってレトロなものであるがゆえ頑丈ではない事が多い。どういう梱包がいいか、資材はどうするかについては日夜、頭を悩ませ、改善している。

 また、注目すべきは手厚く梱包すればいいというわけではない。過剰になれば大きく、重くなってその分、送料に跳ね返るからだ。なるほど、壊れないようにすることと、お客さまが納得するお金のバランスを考えてこそ、実現するのである。

 直井さんの話は止まらない。海外では配送環境が日本とは異なるんですと。異国の配送業者によっては荷物を投げるといったこともありうる。だから倉庫で実際に高いところから落とすなどのテストを重ねているのだそうだ。こりゃ大変だ。

2.試行錯誤が今の大きな差別化要因

 実は、それは決済においても同じだ。彼らの苦労はずっと絶えなかった。仮に海外で不正利用された際には、日本のように警察と連携することもできないので追うことすらできない。

 だからこそ、システム的な制御は勿論、それに相当するデータを海外から入手し、かつオペレーターが一人一人その対応をチェックするなどして徹底している。

 「放っておけば、その不正利用の率は3%はいく」と直井さん。それだけの規模感だと会社に与える影響が大きいので、彼らは敢えて1%以下に落とすことを念頭にして、リスクマネジメントを行なっているのだそうだ。今ではそれが会社としてリスクの度合いが小さくなったけど、犯罪者も進化しているから手を抜けない。まさに仕組みづくりで成し得た今の環境である。

 しかも彼らがそうすることで、今度はそのリスクを販売者に負わせるのではなく自ら背負うことで、価値を訴求すべきだと考えたのである。

 これまでその内容は割愛していたのだが、昨今、彼らが「Buyee」の利用に関して無償化を進めたという話題があった。無償にする事自体が極論、誰でもできるだろう。

 それよりは、ビジネス上、それをどこで吸収したのかの方が大事だからだ。ただこれらのバックヤードの努力を聞くと、こういう泥臭い部分でコストがかかりやすい要素における生産性が高まったことで、結果、利用者に還元されるようになったのだと気付かされる。企業努力の賜物であると言えよう。

目先の売れ行きではなく腰を据えて備えを

 ともすれば、目先の話題で、「今の円安によって何が儲かるのか」という議論になりがち。その延長で越境ECがどれだけ伸びているかが語られることもあるだろう。しかし、ここまで書いた通りだが、仮に越境ECがそうでも、それらは一朝一夕でできたものではないということを理解するべきだ。

 さまざまな試行錯誤の末に、海外というマーケットをテコに、企業が成長に寄与できるインフラができたということ。ここに時代として大事な意義がある。

 目先ではなく、これからの長い視野で見たい。日本のマーケットは縮小傾向にあるから、海外のマーケットをどう自分達の価値に変えるかという視点で動き、地道に続ける事である。

 そりゃ場所も遠けりゃ、日本人とも気質が違うわけだから、手間はかかるのは当然だ。それを支えるのが未来的な視点である。

 最初に話した通り、何が自分達の事業にプラスに働くかわからないものである。誰が今のような円安を想像できたろう。海外というマーケット云々ではなく、自分達の持っている商品がもっと色々なところで活かされるために、現状に甘んじず、アンテナを貼り続けることの意味を思うのである。

 今日はこの辺で。

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