転んでも起き上がる バンダイのおもちゃが果たす心のケア
「ぜひ、みていってほしいんです」そう言われて立ち止まった。なるほど、そこで感じたのは、「おもちゃ」が持つポテンシャルを活かして「楽しい」から「救う」の発想へ繋げるという事だ。昨今、災害に対しての意識が叫ばれるけど、そこから生まれる心理的なケアの重要性が高まっていて、そこにバンダイは深い関心を持っている。
バンダイがおもちゃを通して心のケア
1.とある開発者のエピソードを想う
回してみてください!そう言われて、ガシャポンを回して出てきたのが冒頭写真の商品である。そこへの想いを聞くうち、以前、おもちゃ会社の開発者から言われた事を思い出した。
かなり余談になるけど、商品について触れる前に、その東日本大震災に関連して、とある開発者の話を書かせてほしい。2011年3月11日、東日本震災は襲った被害は甚大であった。津波により多くの家は失われ、被害者が出ただけではなく、多くの人が避難所生活を余儀なくされた。
移動するにも交通網が寸断され、物資がない。実際、被災地に水や食料などを運ぼうとする姿などが報道される中で、そのおもちゃ会社の開発者である僕の友人はこう語った。「自分達が作っているおもちゃはこういう時に何もできない。真におもちゃはこういう時に誰かの役に立っているのか」と。
2.子供にとって不可欠なおもちゃ
でも、そんな気持ちは、ある玩具屋からの電話でドラスティックに変わったのだという。彼は意外にもお店から「ありがとう」と言われた。不思議に思って彼は、その理由を聞いた。
家も希望も失って、精神的に傷つく中で、お店に親子がやってきたのだ。そして、泥だらけのお札を手にして、こうお店の店員に語ったのだという。「このお金で、おもちゃを子供に」と。
「お代なんていらないです!」とお店の人も言ったそうだが、受け取ってほしいとその母は言ったのだという。それほどまで、おもちゃは子供を救うものなのだと店は気付かされたと言って、感謝の意を述べたと。
僕の友人もおもちゃに関われ誇りに思えたと。だから、以来、僕も、おもちゃは、楽しいものだけではなく、その子供の「ハート」をケアするものとしての役目も、思うようになったというわけだ。
3.おもちゃが被災地にもたらすこと
話を戻して、このバンダイはこの取り組みを「支援おもちゃ」と呼んでいる。一見すると、おもちゃと支援は結びつかないように思うけど、今のエピソードを聞いてから、その意味を考えるとどうだろうか。
まさに、そこに流れるのは、同じ思いだろう。
バンダイが考えたのは「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」という団体と連携して、精神的な部分をおもちゃが救うということである。
彼らは言う。「突然の災害によって子供たちの生活は一変する。そこで失われるのが健やかに成長するというごく当たり前な権利であって、それをどうやっておもちゃを通して、非常事態の中で取り戻すか」と。
どうやってそれをやるんですか?と尋ねると、選んだ素材は、ガシャポンである。
4.遊ぶ前も遊んでからも
愛があるね。なるほど。確かにカプセルトイであれば、「中身が何であるかはわからない。それ自体にゲーム要素があるから、気持ちも紛れますね」。そう僕が語ると、うなづいた。
だから、それらを沢山、積んだトラックを、被災地を訪問するのである。「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が被災地で行う支援活動に合わせて、一緒に。少しでも子供の好奇心を駆り立て、ポジティブに笑顔をもたらそうというわけである。
しかも、その中身もオリジナルらしい。ひねって出てきたのはこちら。
握っているだけで安らぐ「スクイーズ」をチョイスするあたりにも配慮がみられる。出てくるまでと出てきてからの両面に愛がある。どうやら、このキャラクターは「おとどけ!コロコロパワーズ」というらしく、「災害時、避難所生活を応援する」というコンセプトで作ったそれ専用のキャラであることを教わった。
「形が丸いですよね?ガシャポンから飛び出すからそうしているのですが、『転んでも起き上がる』という意味が込められているんです」と語る。
5.今改めて確認したい「おもちゃ」の役目とは
なるほどね。水や食料品といった、直接的に役に立つものとは違う。けれど、おもちゃがもたらす価値は何かに応える、取り組みではないかと思う。おもちゃはその子供の精神的な支えとなる必要不可欠の存在。
思えば、何気ない、スルーされがちな取り組みではあるけど、実際に、震災でのおもちゃが果たす思い役割を僕は実感していたから、その取り組みに逆にエールを送りたいと思ってこの記事を書いている。平和な日々の中でこそ、自ら手がけるその商品の果たす役割は何かを考えることを忘れずにいたいものである。
今日はこの辺で。