雑談ウェルカム!のEC躍進術 KIBACOWORKSは時代の波に乗る
別に物を買いに来なくなってイイ。ただ会って話すだけでも十分。実は、本来、お店にはそんな魅力があるはずだ。そのことに、僕は、とある“ネットショップ”と出会って、気付かされた。ネットショップというのが良い。そこで再現される“雑談ウェルカム”な世界。だから、ファンになってお客様が吸い寄せられ、気づけば商品を手にして、購入しているのだ。KIBACOWORKSというショップでの話である。
今からは想像もつかないそのお店の起源
1.はじまりは米軍基地の目の前の商店街の“修理屋”さん
そんなそんな、ネットショップに雑談なんかしにくるの?そんなことを思う人がいるだろう。けれど、だから、脚光を浴びるのである。
そもそもKIBACOWORKSの大元は別の事業をやっていた。別の事業というのは、米軍向けのサービスをやっていたのである。米軍?実は横須賀にある基地の目の前に商店街があって、そこで彼らはサービスを提供していたのだ。その中でショップを作って、iPhoneやiPadなどデジタルデバイスの修理をしていた。これが起源である。
けれど、最初の頃は、携帯電話などのインフラ周りの“修理屋さん”的な色彩も強かった。だが、携帯電話の周辺商品を仕入れて、小売店としての体裁を強めていくのである。そのなかに木のiPhoneケースがあったことから、お土産品として、和物の柄を刻印して、それが浸透していくのである。
2.バンブー素材のアクセを手がけるお店に進化
この頃が彼らの最初の転機。商品を自ら手がけて販売していくことの面白さに目覚め、のめり込んでいくのである。彼ら自身が機械を購入して商品の幅を広げて、その事業を単体で独立させようという事になった。これこそがKIBACOWORKSである。2015年のことだ。
結果的に大きいのは、完全に仕入れからメーカーへとシフトした事にある。上記の通り、出来上がったものに刻印していたのが、自らものを作って、独自性を出せるようになったわけである。どうせ作るなら、もっといいものをと改善を作っていく中で、自然な流れであった。
お店も鎌倉に拠点を移したが、その頃には彼らの中で、バンブー素材のiPhoneケースは確立されていた。そこで本格的な工房を構えて、より商品を豊富に手がけていくことになる。今のヒット商品、キータグが誕生したのもこの頃である。
写真の通り、刻印ができるので、より独自性を出せるようになり、ギフト需要も増えた。確かに3000円程度で、値頃感もあり最適である。
雑談ウエルカムのお店の正体
1.ECにはそこまで興味はなかった
これらの動きがECサイトにおける素地となっている。とはいえ、それほど注力していなかったというのが本音だ。BASEが出たての頃、ショップを始めたに過ぎない。なぜなら、彼らの収益源は卸とOEMの売り上げのメインであって、それほど、重要視もしていなかったからだ。
ただ、彼らの行動は常にクリエイティブで、現状に甘んじないのが面白い。卸とOEMもあるけど、「なんかそれだけじゃ、つまらない」。そう考えて、2019年からECに注力するようになった。
それこそ、最初はFacebook広告の無料枠を使って、マーケティングサーポートを受ける初歩的なもの。しかし、それでも売り上げがしっかりついてきた。それで、自信を深めると共に、2020年3月から広告予算もつけて施策を打ち始め、売上も右肩上がりを描いた。
まさにそんな折に、コロナ禍となった。上記に書いた卸やOEMも外出自粛で振るわない為、会社としてこれを軸に据えて打ち込む事で打開しようと考えたのである。その時、ECは既に数百万円を超える状態にあって、そこに取って代わるだけの存在になっていた。
2.些細な変化がドラスティックな変貌へ
彼らの本領発揮はまさに、ここからである。ECサイトが軌道に乗ったが故に、BASEの利用を見直しする事になる。BASEがダメだったというわけではなく、単純に、当時のBASEが成果報酬型であったから。実際のその売上を加味すると、定額制のShopifyのほうが粗利が取れるので、リプレイスをしたのだ。
さて、ここまで話を聞いて、最初に僕が触れた「雑談ウェルカム」のこのお店の話はどこへ行ったのか?そう思われた人もいるだろう。その答えが、このリプレイスにある。これこそが次の転機となったのである。
聞いている限り「Shopifyにしたからよかった」というわけではない(失礼!)。それも少なからずあるだろう。だが、思うに、お客様との向き合い方を彼らが変えたのが大きい。
その向き合い方の変化にしても、実は些細な事から生まれた。彼らに、これといった気持ちがあったわけではない。それとなくチャットを導入したのである。その理由は、メールの役目をそれに置き換えようとしたから。
というのも、問い合わせが来たとしても、実は、メールは書くまでの間にそれなりの時間を要するからなのだ。つまり、問い合わせ側も、返答側も、その一つのメールで完結させようと思う。すると、必要以上に、色々な事項を盛り込んで、考える時間を増やし、非効率になりがちだというのだ。
3.発想の転換
だとしたら、最初から、メールでの問い合わせをやめて、その作業の効率化をはかろう。まさに、それだけの理由で始めたチャットがまさかの転機となった。最初の頃は、その意図の通り、必要な質問に対して最小限のやり取りができた。だから、その効率化ははかれた。
しかし、ところが彼らの真価が発揮されたのが、そこではなかった。
彼らの考え方は、あくまで守りとしての活用。逆にこれを武器にしようと提案してきたのは、チャットを運営する「チャネルトーク」の面々であった。のぶさん曰く、それが一番、衝撃的だった。チャネルトークはそもそも「チャット」をより人間的なやり取りができるようにと、提案していたからだ。
関連記事:“チャット”に見えて“チャット”でない? チャネルトーク の交流が通販の成長に繋がるワケ
「え?チャットを使う機会を増やすよう、工夫しましょう。それってどういうこと?」とのぶさん。チャットを積極的に活用しようという発想がなかった。だから、人間関係を深めるチャットというのは、彼にとっては意外性を持った提案であった。
4.漫才のような掛け合い
のぶさんが、チャットで見出したのは、大袈裟に言えば、漫才のような気持ちのいい掛け合い。僕はそう受け止めた。こればかりは過去のネット通販では見られない現象。そのお客様とのやりとりを見れば、チャットが「のぶさん」のポテンシャルを開花させたのがよく理解できる。一見するとコワモテ(失礼!)だが、実はソフトな一面を持ち、話しやすいナイスガイなのだ。それがよく出ている。
ではそれを見てみる事にしよう。特別にのぶさんとお客様の許可を得て、そのやりとりを公開する。お客様からの問い合わせには「iPhone Case 13miniバージョンはないですか?」とある。これに対して、みなさんは、なんて答えるだろう。それに対しての「のぶさん」の答えは、、、、
「当日来られた方にも言われたんですよね」。
答えてない(笑)。というよりは、会話のようである。漫才は大袈裟だけど、妙に畏まったりせずに、ライトに打ち解けて掛け合いが生まれている。
5.そして商品を手がけてしまった
ゆえに、会話は弾んで止まらない。見てほしい。商品がないなら、お客様と一緒に考えて、ほしいものを作ればいい。その発想で逆にのぶさんからお客様に質問をしてしまうのである。
つまり、最初の話に戻ってくる。「お店に来る理由って何?」と。ほしいものを買うだけではなく、こうやって「楽しむ」ことがお店の良さであると。機転を効かせて、楽しんでいただけるように、自ら商品提案をしていけば、ほら、この通り。
「意見交換できるのも有り難いです」。この言葉がまさに、店が本来、なんたるかを象徴している。
必ずしも商品を買うことだけが目的なのだろうか。最初はiPhone Case の相談をしに来ていたお客様は、いつしか、その会話をチャットで楽しむ。みるみるうちに、お客様はその「のぶ」さんのペースに乗せられて、絵文字やらがどんどん入り出すのである。友達感覚である。
雑談から始まるお店のエンタメ
1.お客様ととことん打ち解ける
実は、この取材記事のきっかけでこのお客様と連絡を取り合う中で、最終的にはお互いのチャット画面を見せ合うまでの関係性を築けたとか。その後、そのお客様は、しっかりInstagramもフォローしてくれ、注文もしてくれた。
これもまた、お店の魅力であるはずなのだ。会話を没頭し、全く別の楽しみ方を生み出している。
最近では、会話だけしようとするお客様が現れるほどだとか。でも、全く苦にならないとのぶさん。「1日で25件くらいやっているんじゃないですかね?1ヶ月で700件ですよ」と笑う。ここまで来るとファン稼業のようにすら見えてくる。
2.“販売yer”の力で企業が活性化
彼はこうも語る。「インスタグラマーやYouTuberがいますよね。そういう人の力を借りるのも良い。でもこういうお客様とのやりとりを通してファンになってくれる方がいます。だとしたら、お店自体、スタッフ自らがそういう存在になったらいいんです。こういうチャットをきっかけにして」と。
確かに。文章を書くのが得意なブロガー。写真でイメージを伝えるのが得意なのがインスタグラマー。動画で伝えるのが得意なのがYouTuber。だとしたら、こういう販売を得意としてコミュニケーションをとる“販売yer”がいてもいいんじゃないか。勝手に僕はそんなことを思った。
不思議な話だけど、一番最初に“修理屋さん”だったとあったけど、その時の親身なお客様との向き合い方が彼の場合はきっとプラスに働いたのだと思った。人生とはわからない。
販売をテコに、楽しくて繋がるという感覚。ECは本当に、新しい局面を迎えていると思うのである。この感覚こそ、今までの小売の概念にはない。漫才の掛け合いのようだと書かせてもらったけど、このノリの良さが企業を救う。雑談し行ってもいいじゃない。購入する体験はもはやエンタメである。
今日はこの辺で。
人間味を感じないECがチャットによって温もりを感じるようになった「チャネルトーク」の様々なお話。