リアルはリアルで“DX”は完結する TRIALが実店舗を活かしたデジタル化の凄み
「ああ、あのTRIALですね」。Retail AIがトライアルカンパニーの関連会社だと聞いて、僕はその内容に納得したのだ。ECではなくリアルだけで、DXを成立させ、かつそれが製造にも影響を及ぼして、リアル店舗から小売業の構造を変えていこうという同社の姿勢に惹かれたのだ。
TRIALが見せた リアル店舗の”DX”の本気
1.リアルはリアルで完結する
ちなみに、トライアルカンパニーとは九州を中心とする小売店の「TRIAL(トライアル)」を運営している会社で、リアル店舗で数々のデジタル化を推進している。彼らから感じる「リアルはリアルでDXを完結させる」強い意志は並大抵ではない事が下記を見ればよくわかる。
Retail AIという会社は聞き覚えがないだろうけど、九州を中心とする小売店の「TRIAL(トライアル)」で数々のデジタル化を推進しお客様のリアクションをダイレクトに受けながら、よりリアル店にとってDXを進める上で何が必要なのかを真剣に考え、それをTRIAL以外にも意気込むわけである。
小売のDXというと、ECと併用することで利便性が増すということはあって、それはデジタルで既にEC系が先を言っており、そのリソースでリアルのデジタル化を推進するからである。ただ、同時にそれは、ネットのショッピングモールにおいては、自らのECサイトとリアルのお店を繋いで、両方を行き来させることを念頭にしたもので、リアルだけの視点で生まれたものとは言い難い。
モールがダメだと言っているわけではなく、このRetail AIにおいてはECに頼ることなく、リアルの店舗内でデジタルを使って、顧客体験を向上させて、データを取り入れつつ、スタッフの業務改善なども行っており、その意味で、注目に値すると思った。
2.全てはカートから始まる
ごくごくオーソドックスな機能では、ショッピングカートを使った決済の利便性を高める動き。
簡単に説明すると、センサーにJANのバーコードを近づけると、ピッと読み取ってくれるので、買い物をしながら、読み取り、決済コーナーに持っていき、お会計ボタンをタッチするだけだ。
当然ながら、スマホ上決済なども対応しているので、財布を出さずに、一番最後の段階で店員が出てくるが、ほぼ行列なく、かつ省人化できるものである。ただ、僕が注目したのは、そこではなく買う過程でのことだ。
3.モニターからレコメンドされる
ただ、それだけではなくて、商品をカートのセンサーで読み取った後で、そのモニターからその選んだ商品などに基づいて、店内にある商品で、レコメンドがなされるのである。しかも、そのレコメンドが同時に、クーポン機能を備えているので、一緒に、クーポンを利用するかを案内を受けるわけである。
そこで「利用する」をタッチしてクーポンを利用することの意思表示をすると、ピッとかざすだけで該当商品がクーポン対応で、処理され、会計時しっかり、ポイントなどが還元されているるようになる。まさに、リアルにいながら、ネット通販さながらの買い物体験である。
実店舗を持つが故に仮説と検証ができる
1.商圏も映し出しアプローチに繋げる
それだけではない。こうやってデジタルを絡めることで、購買履歴は蓄積されるので、それはそれで利用価値がある。彼らはそこでの購買データに基づき、リアルなお店にフィードバックして、その価値を最大化させるデータ分析も行なっている。
得意げに、同社のスタッフから教わったのは、それらの購買データに基づき、リアルなお店の商圏を割り出すこともできるということだ。
そのお店から何キロ圏内の人たちが、どのくらいの客単価で商品を購入しているのかが一目瞭然である。一見すれば、近いほど、高いように思えるけど、その高い範囲はどこなのか。
また、遠いのに比較的客単価が高いのはなぜなのかなど、お客様を分析して、その後の広告施策、プロモーションに活かせるという部分が大きい。その精度が高くなるほど、そのリアル店はリアル店だけでちゃんと生産性の高い運営ができるということなのである。
2.商品と購買データを掛け合わせる
今の話はお客様の購買データを立地と掛け合わせたことで出てきた分析であるけど、当然、それらを商品と掛け合わせることも可能だ。現場でも活用する動きがあって、それがクロスセル分析であって、とある清涼飲料水を購入したユーザーが一緒に何を買う傾向が高いのかがずらりと表示される。
今はお客様の購買データを立地と掛け合わせたことで出てきた分析であるけど、それらを商品と掛け合わせることで、現場でも活用する「クロスセル分析」である。
とある清涼飲料水を購入したユーザーが一緒に何を買う傾向が高いのかがずらりと表示される。この写真の表にはポテトチップス、かっぱえびせんなどの商品が並んでいるのはそういうことなのだ。
しかも、その飲料水にしても無糖ならどのお菓子、微糖ならどのお菓子という具合に絞りをかけて、割り出せる。それを例えば、先ほどのレコメンドの機能と結びつければ、リアルにいながら、そのポテンシャルを最大化できるというわけである。
3.実績が出ているものを外へ放出
これらの分析は先ほど、話した通りだが、TRIALというお店が存在することで、それを実証して、リアルにお店の結果に繋がったものだけを彼らが商品化している。そして、そのインフラを世の中のあらゆるリアル店舗に提供して、いくわけである。
僕が何を言いたいかというと、レコメンドやクーポン機能だけを取り付けたところで、別にDXでもないということだ。
ここまでの話を僕なりに整理してみると、この図のようになっていくのではないかと思う。
4. 全部が繋がって一つ一つの価値を底上げする
この構造で考えてみると、スマートカートを起点にお客様の反応は、AIなどでブラッシュアップされるとともに情報が整理されて、スーパーだけではなくメーカーにもシェアされて、ここで真価を発揮するのである。
みるとわかるが、先ほどの購買データなどは小売店、メーカーの両方にシェアされることで、小売店は必要数しか発注しないし、メーカーもその売上データを見て無駄に生産をかけずに、在庫を抱えずにすむ。
5.これでメーカーもその姿勢が変わってくる
メーカーも小売店の状況がオープンにされれば、それに合わせて作るのでロット数は減るけど確実に売れる数を作っているので、粗利を考えて生産できる。それであれば店もメーカーも無駄に商品を作らないので、セールの必要性がなくなって、それが最終的に、その余裕でクーポンに充てることができる。
このクーポンが小売店のリピートを引き寄せるという事になって、スマートショッピングカートの意義に繋がってくるという事になる。そのクーポンはお店の継続顧客になり、安定するベースを作る材料となってくれ、はるかにセールをするより価値あるお金の使い道であることがわかって、クーポン機能を取り付けた意義が見えると。
リアルはリアル内で経済圏のポイントに頼ることなく、リアルなりの理屈で進めていくDXが大事なのは、こういう本当の意味で、リアル店の何を使うことが価値あるのかを明確にしてくれるからだ。
リアルの店舗は、テクノロジーを補完することで、ECに匹敵するような生産性の高いビジネスがリアル単体でも可能であることを示している。
今日はこの辺で。