ネット通販 初心者のためのフルフィルメント解説─倉庫管理と在庫最適化で「いつ届けるか」を実現

ネット通販では物流が重要と言われる。だが、「ただ倉庫で保管し、出荷するだけでは?」と思う人もいるかもしれない(失礼!)。しかし、受注から出荷、お客様の手元に届くまでには多くの工程がある。実は、ここを味方につけることで企業の成長に大きく貢献できる。スクロール360の専務取締役・高山隆司さんに話を聞き、それを思い知った。物流には工夫とノウハウが詰まっている。売上拡大の裏には「上手なフルフィルメント」があると知れば、初心者でもその重要性を理解できるはずだ。
1.フルフィルメントとは?
物流の世界では「フルフィルメント(Fulfillment)」という言葉がよく使われる。
しかし、その本質に気付かされたのは、ヤマト運輸との対話の中だった。そもそもクロネコヤマトが行う「配送」の価値とは、ただ荷物を届けることではなく、「お客様が欲しい時に、確実に届ける」ことにある。そして、それを実現するには、受注から出荷までを適切に管理するフルフィルメントの役割が欠かせない。
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では、その言葉の定義から考えてみよう。フルフィルメントとは、受注から配送完了、さらには返品対応まで含めて、お客様の購入体験を最後までサポートする仕組みを指す。
要は、倉庫でしょ?そんな具合にその場所自体が脚光を浴びがち。
それは確かに重要なピースではあるものの、「お客様が希望するタイミングで、商品が正しく届く仕組み」のほうに着目すべきである。その大きな柱として「倉庫保管」「在庫管理」「ピッキング・梱包」「配送手配」「返品・交換対応」などが挙げられる。
スクロール360の高山さんによれば、フルフィルメント=物流+顧客対応+在庫管理の最適化を含めた総合サービスである。
その理解のためには、まず、今から示す4つの要素をおさえると良い。
2.物流の全体像:ECシステムの4つの要素
実は、EC事業者が商品を消費者に届けるまでには、以下の4つのシステムが関わっている。

①ECカートシステム
•自社ECサイトや楽天・Amazonなどのプラットフォームで、商品掲載や注文を管理。
②多店舗統合システム(OMS:Order Management System)
•複数の販売チャネルと在庫を統合し、注文の一元管理を行う。
③倉庫管理システム(WMS:Warehouse Management System)
•倉庫での在庫管理、出荷準備、配送指示を担う。
④基幹システム
•顧客データや売上、カスタマーサポートを統合管理。
当たり前だが、売場がなければ成立しない。ここで、Amazon、楽天市場、自社ECなどの売り場を構成するECカートシステムが存在する。ところが、その図を見れば分かる通り、多くの店舗はそれらを掛け持ちして販売することのほうが増えている。
3.倉庫・在庫管理の仕組み:リアルタイムでの在庫管理は可能か?
ここで一つ、問題が発生する。
ひと昔前は、EC事業者は「楽天に50点、Amazonに30点…」と在庫を手動で割り振っていたのである。ところが、そうすると、楽天では売り切れたけど、Amazonでは売れ残った…などの現象が起こり、機会損失が生まれる。そこで現在では、OMSを活用することが一般的になった。
つまり、多店舗統合システム(OMS)により、その在庫を一元管理して、全チャネルで同一の在庫数をほぼリアルタイム更新できるようになったのである。商品コンテンツについてもOMSに登録すれば、それぞれの売り先の仕様に合わせて一括で登録できるようになった。
だから、EC事業者は逆に売り先を増やすことで、在庫の機会損失をなくすことができるようになったわけだ。過去に挙げた記事では「クロスモール」がそれに相当する。彼らは彼らでまた、自社のOMSを進化させているのも見逃せない。
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さて、フルフィルメントを語る上で、いきなり倉庫の話をしなかった。それは、上記の理屈の上にこそ、その付加価値が最大化されているからである。まず、在庫が一括で管理されている。だから、倉庫側としてはOMSとWMSをデータ連携することで在庫の一元管理が可能になるわけだ。
4.時代の変化に伴う変容
ちなみに、少し話が逸れるが、④基幹システムとは何か。簡単に触れると、受注管理の高度なカスタマイズが求められる場合に使われる仕組みである。
OMSだけでは対応しきれない業務(例: 電話注文の管理や特定顧客への特別対応)をカバーする。そのため、大規模ECや多様な販売チャネルを持つ企業にとって不可欠な存在となっている。※最初の段階では、これを詳細まで理解する必要はない。
そして、もう一つ。最近ではスクロール360のような倉庫に預けつつ、楽天市場やAmazon(FBA)の倉庫にも預けるといった動きも見られるようになった。
つまり、Amazonや楽天市場は自ら倉庫を持ち、そこでの利便性を加味して商品の付加価値をつけている。同じカテゴリーの商品が並ぶからこそ、「何日までに注文すれば何日までにお届けする」ということが差別化要因となる。それがあることで利用者の使い勝手が良くなるのはいうまでもない。
だから、企業によってはどうしているかというと、すべての在庫を、スクロール360に預け、毎週、売れる数量だけを、楽天やAmazonの倉庫に移動する方法をとることで、保管コストの最適化を図っているのである。
5.在庫管理の仕組みとWMSの重要性
これで概要は見えてきたはずだ。とはいえ、(お客様から見える)フロント部分だけでは、実は完全に在庫管理の最適化を行うことはできない。
例えば、賞味期限は馴染みがあるだろうが、「出荷期限」はご存知だろうか。
食品や化粧品など、ロット管理や賞味期限管理が必要な商品も多い。高山さんによれば、賞味期限はもちろん、出荷期限(お客様の手元に届く時点まで有効であるか)の設定も重要。いくら賞味期限前に届けるとはいっても、届いてから3日で切れてしまうようでは意味がない。
つまり、倉庫内で把握すべきことを、しっかり把握できるようにする。それが倉庫管理システム(WMS)ということになるわけだ。
6.出荷タイミングの“先送り”で指定日を実現
たとえば、こんな事もある。
お客様が「3月10日に着荷してほしい」と指定した場合、配送エリアが北海道なのか関東なのかで発送日が変わってくる。これらはOMSやWMSで管理し、あえて出荷指示を“待つ”。そうすることで、指定日にピタリと届ける仕組みをつくるのである。
もしシステム側の指定日管理機能が弱いと、注文があった時点で即出荷してしまい、「まだ届いてほしくないのに、早く届いてしまった…」というミスマッチが起こるかもしれない。
つまり、ECの“納期コントロール”はシステムと倉庫の連携があってこそ実現できる。だから、「ECカートシステム」→「OMS」→「WMS」という流れを把握しておくこと。それは、EC初心者にとって重要なポイントである。
7.システム扱いに慣れない人のために・・・
そして、店舗側が抱える課題のひとつに、必ずしもシステムに詳しいわけではないという点がある。
だから、高山さんは「システム導入が難しい…」という企業には導入支援まで行うと話している。しかし、ここで重要なのは、単にシステムに精通しているかどうかだけの問題ではない。それらのシステムを最大限に活用するためには、店舗側の準備も欠かせないのだ。
こう聞くと難しく感じるかもしれないが、実はシンプルな話だ。
結局、商品の区分けが整理されていなければ、システムを導入してもその効果を発揮できない。つまり、正しく商品管理を行うことが、お客様に満足のいく配送につながる。
しかし、この意識がないために、手当たり次第に商品番号をつけたり、カテゴリー分けをせずに管理したりする企業も少なくない。
その場合、フルフィルメントの導入以前に、まず商品情報の整理から始める必要がある。しかし、いざECが拡大してからでは、整備に手間がかかり負担も大きくなる。だからこそ、商品登録の段階でしっかりと管理ルールを整えておくことが大切だ。
在庫のマスタ管理がずさんなままだと、EC事業が成長したときに必ずボトルネックとなる。逆に、早めに整備しておけば、売上拡大時の“追い風”に変えることができる。それこそが、成功のカギとなるのだ。
8.リードタイムと日時指定を叶える出荷コントロール
結果、フルフィルメントの役割は「いつ届けるか」を確約することになる。ヤマト運輸が語ったように、配送企業は「指定した日時に確実に届ける」ことを約束する。その裏側で重要なのが納期コントロール。
お客様の希望する日時に間に合うよう、配送キャリアのリードタイムを逆算し、最適なタイミングで出荷することで、事業はスムーズに回る。配送を含め、一体でとらえて顧客満足度に努めるのがフルフィルメント。
配送も含め、一体となって顧客満足度を高めるのがフルフィルメントの本質だ。
ただ、現場では予期せぬイレギュラーも発生する。そのフォローまで含めて、フルフィルメントの方で役目は果たされるのだ。
商品を販売している以上、返品などが発生して、また倉庫に戻す場合がある。ここでもWMS(倉庫管理システム)上の登録がキーになる。商品軸だけで管理すると、賞味期限がバラバラ。その場合、たとえ同商品でもお客様に期限の異なるものを送ってしまう。すると、遅いほうの期限に着目して「どうしてこちらの商品は賞味期限が遅いものが送られているのか」とクレームにつながりかねない。
だから、食品を同梱する場合は「同じ賞味期限のものを前提にする」などのルールのもと、WMSでの登録情報が活かされるわけである。実は見えないところで、そういった倉庫側が管理すべき情報を緊密に押さえながら動いている。そんな事実があることを店側も「知っておく」ことが大事だ。
9.コスト構造と費用の考え方
それを踏まえて、本来、コストというものを考えなければならない。これらを倉庫で運用していくには何が必要か。その内訳を理解するには、わかりやすく、固定費(倉庫利用料など)と変動費(作業料・送料など)で捉えるのが良いだろう。そこから派生して大きく下記の4つとなる。
- ①倉庫保管料(商品を置くスペース代)
- ②管理費(システム利用料・プロジェクト管理料)
- ③入出荷作業料(ピッキング・梱包、検品、流通加工など)
- ④配送費(宅配業者への送料)
固定費は定額でかかり、そこに変動費が加算され、その金額が請求書でいく。さまざまな事情が絡み合っている以上、単純に安さだけを求めても何も解決しないのだ。
敢えていうなら、スクロール360のような倉庫の利点が出るのは、特に配送費である。スケールメリットがある分だけコストダウン効果が大きい。
たとえば、九州に拠点を置くショップが関東・東北の注文へ直送すると送料が高くつく。だが、大手倉庫会社の流通網を使えば、大口割引で送料が半分以下になるケースもある。月間数千件レベルの出荷規模になれば、固定費を支払っても差し引きでメリットが上回ることが少なくない。
10.需要予測は店の力にも
このように複数のクライアントの商品を扱う倉庫には、さまざまな利点がある。そのひとつが、繁忙期への柔軟な対応だ。
楽天市場やYahoo!ショッピングの大型セール、母の日やクリスマスといった季節イベントでは、注文が急増する。この波を吸収するため、倉庫側では繁忙期に備えた人員配置やレーンの拡張を行っている。また、ショップごとの繁忙期が重ならないよう調整し、倉庫の稼働を最適化することで、注文がピークに達しても遅延なく出荷できる仕組みを整えている。
重要なのは、この需要予測の仕組みが、店舗の経営にも役立つという点だ。たとえば出荷データをもとに精度の高い需要予測を立てることで、過剰在庫や欠品を防いでいる。
だから、この需要予測は同時に、店舗にとって「今扱う商品がどれだけ用意されることで過不足なく売れていくか」を指し示すことができる。それを生産量や仕入れ数に直結させていくわけだ。それができれば、会社全体の利益率が上がり、経営指標となるわけである。
ここでフルフィルメントの価値がわかったところで、それらが見合う数量はどのくらいか。高山さん曰く、出荷数が3,000個を超えたあたりから、アウトソーシングを活用していくと収支が伴ってくる。
11.成功事例──商品の魅力発信に集中して売上8倍へ
最後に、スクロール360がグループ会社として支援した「アクセス」というショップの事例を挙げる。フルフィルメント導入による事業成長の好例としてよく挙げられる。
簡単にまとめると、
- •元々、社員が受注処理や梱包に追われ、クリエイティブな業務に割く時間がなかった
- •フルフィルメントを導入し、撮影・採寸・商品登録、梱包・出荷までを一括代行
- •ショップ側は商品の仕入れやブランディングに集中できた結果、売上が10億円 → 80億円に拡大
高山さんによれば、「お客様へ感動を届けるためには、箱を開ける瞬間の演出こそ重要」。
たとえば、ハートフルな手書きメッセージカードサービス。要するに“商品以外の付加価値”を追求する余裕が生まれるのも、これまでの業務を外部に任せて共通化できているからである。
こういった配送を最大化させるための受注から出荷までの的確なコントロール。保管に伴う繊細な配慮と、無駄な在庫を生み出さない仕組み。これらができていて初めて、着目できる、真心を生み出す付加価値。
おわかりいただけただろうか。ただの倉庫ではない。ミスを防ぎ、お客様との最適な関係を築くための守りの要。そして、生産性を高めながら経営の判断に必要な数字を導き出す攻めの拠点でもある。まさに、付加価値を生み出す重要な機能を担っているのだ。
生産から出荷、お届けまで全体を見通す中で、ネット通販の真価が発揮される。
今日はこの辺で。