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カメイドクロック 商業施設が地元と一体化する意味

 コロナ禍で外出自粛となり、都心部で来店が叶わない状況で、遂にはクローズしてしまう事も少なくない。だから今、郊外で小売店などを通して、価値を育てる意味が見直されている。そこで、注目したのが、商業施設である。カメイドクロックが亀戸に存在する意味はそこにある。

“カメイドクロック”で目覚める亀戸

1.サンストリート亀戸の跡地

 野村不動産主催の会見で、あっそうだったのかと思った。元々、ここはサンストリート亀戸と呼ばれていた場所。その場所は、当初、2012年までの予定だった。それが、延長されるほど、地元住民に慕われた。クローズドは予定されていた。それだけに、人気ゆえに後ろ倒しで実行され、それに代わるものをと築いたのが、このカメイドクロック。新しい商空間創造の襷を受け取ったのは、野村不動産である。

 何故、クロックなのか?。時計で有名なセイコーインスツル精工舎跡地であった。その地で新しい「時を刻む」わけである。その刻み方が、それこそ未来を見据えたものである。

 まちづくり連絡会も巻き込みながら、地元一体型の商業施設。サンストリート亀戸が持っていた、地元と一体となる商圏の形成はそのままに、街づくりの一環としてこの場所が形成された。いわゆる、地元民に向けられた地域行事もここで開催する。それ以外に、eスポーツなどの新たな要素も取り入れ、亀戸なりの趣向を凝らしたコミュニティが生まれるのだ。

2.場所を起点にコミュニティを作る

 ちなみにeスポーツを楽しむ空間は「カメスポ」と呼んでいる。この地を通して交流がうまれる場所を提供する。それとともに「カメイドタートルズ」という亀戸を基点としたスポーツチームを結成。競技人口1億人とも言われるその土壌へ亀戸の代表として戦いを挑むのだ。

 「カメラボ」という自由な開放的な空間を用意。セミナーや展示などができるようにした。それとともに、その横では「カメテレ」というYouTube番組などを作成するためのスタジオも併設。単にショッピングだけではない価値を地域と一丸となって作り上げる。つまりコンテンツを生み出す場所としての商業施設である。

3.秀逸なヤマト運輸の着眼点

 正直、僕個人としてはこの「information」コーナーに感銘を受けた。見るべきは、それをヤマト運輸が運営しているという事だ。

 言っておくが、ヤマト運輸のインフォメーションではない。

 この施設全体のインフォメーションカウンターを“ヤマト運輸が”運営している。勿論、ヤマト運輸だから、この場所で段ボールを購入して、館内で買ったものを詰めて出荷できる。そんなメリットもあるが、言いたいのはそこではない。

 「施設全体のinformation」なのだ。だから、ヤマト運輸に関係なく、近隣の人たちのありとあらゆる相談を持ちかけられ。

4.案内所をマーケティングの場所と捉える

 何が大事かというと、ヤマト運輸は通常の業務では近隣情報は手に入らない。地元住民が抱える悩みであり、細かなニーズを知るきっかけが得られる。そのメリットをとった格好だ。これであれば、通常業務の延長線上で汲み取ることができる。要は、非常に効率がいいのだ。

 野村不動産のアイデアなのか、ヤマトのアイデアなのか、どちらにしても素晴らしい。

 インフォーメーションを目的にしたら、悩みに答えて完結してしまう。インフォメーションにしてインフォメーション以外の価値を見出した。その着眼点に拍手を送りたい。

 声が集まるほどに、それ自体がまた新たな価値を生む。運送業自体は率先して自分から声がけして意見を聞ける業態ではない。だからこそ、思わぬ親和性があったものだと驚いた次第である。

リアルの価値を地元と一緒に

1.サンリオの店がもたらすエンタメ性

©️2022 SANRIO CO., LTD.

 リアルなエンタメとしての場が近隣にあるのは利点である。

 その役目を担う「Sanrio カメイドクロック店」である。少し話が逸れるが、サンリオの商品で大事なのは「必需品ではない」という事。正直、その商品自体が「あってもなくてもいい」ものではある。しかし、だからこそ、心に訴えかけるものを提供する気構えがある。

 色々な角度からファンを楽しませる。そうやって「その人にとって笑顔をもたらすかけがえのないもの」をお店自体が生み出し、それと一体で商品価値を生み出している。

2.店と商品一体で楽しませる拠点

 「今、これが脚光を集めているんですよ」。元気いっぱい弾む声でデータサイエンス部の進藤美穂さんが手に取ったのは、ウエハース。中にキャラクターカードが入っているのだ。

 商品そのものとしての価値はありつつ、こうやって友達と会話が生まれるような視点。

 商品作り一つにもそんな配慮がされている。結果、それがお店のエンタメ性を高めている。言いたいことがわかるだろうか。

 この商業施設に関係して考えると、それが住むところの身近にあるというのは、商店街における駄菓子屋のような存在に近く、賑わう様子が目に浮かぶ。

3.推し活グッズも豊富に楽しく

 例えば、これは「推し活」用のグッズ。記憶を辿れば彼らはいち早く、そのグッズ化に取り組んでいたのもサンリオだ。

 アイドルのライブなどではお馴染みなうちわ。大事なうちわだから、キャラクターをモチーフにしたそのカバーを作った。彼らのアレンジに遊び心がある。彼らの商品は、いつも多くの人にとっての楽しむ姿がいつも並走している。

 カバー自体それぞれにキャラクターだけではなく「カラー」を意識。それはアイドルに限らず、推しのイメージカラーにそれが寄り添えるように。そんな配慮がなされていて、ツボを押さえている。

4.地域の憩いのゲーム屋さんでもある

 「随分、アナログですね」。思わず僕が言うと「最近復活したんです」とデータサイエンス部の山口あすかさん。彼女に案内されたのが「げたばこゲーム」である。下駄箱が設置されていてくじ引きをして番号を取り出す。その番号の下駄箱を開けると、中からグッズが出てくるという仕掛けだ。

 やっぱり、その商品をいかに楽しませるかの「演出」を忘れない。店の設備も総出でサポートするのがサンリオだ。

 このお店もそうだし、サンリオピューロランドもそうだ。

 そこにまつわるそれぞれの体験が商品と紐づく。そうすることで、本来持つそのキャラクターのポテンシャルを引き上げる。よりグッズが愛着を持ってもらえるような工夫は、この店に来たいと思える理由となる。

 先ほど、駄菓子屋を例にとったけど、それに近い。やや立派な建物だけど、この亀戸の地に、駄菓子屋のような笑顔と楽しさをサンリオはしっかり今にもたらしてくれている。

リアルならではの価値提供

1.試着を通してお客様との距離を縮める

 「aimerfeel(エメフィール)」という下着やランジェリーを扱う専門店へやってきた。メディアとはいえ興味津々に女性下着のところを見ていると、怪しげな人を見る眼差しを感じた(ような気がした)。それで、スタッフの方に話しかけた。ち、違うんだと。(何がだ(苦笑))。

 興味を持った理由は、真っ先にこのショップのネット通販サイトを思い浮かべたからだ。そこで張り切る玉山順さんの顔を思い浮かべて、「あの店だ!」と。

 そこは知る人ぞ知るネット通販の名店。「楽天市場」のSHOP OF THE YEARインナー・下着・ナイトウェア ジャンル賞を8度受賞するなど、優良店舗の常連なのである。

2.リアル店の存在感

 その売上が好調だというのはよく耳にしていた。

 だが、その一方で、このお店でそのスタッフに話を聞いたら、「全国に130店舗以上、あるんですよ!」と。強調していたのは「こういう下着などはやっぱりサイズ感が重要だ」ということ。改めてリアルの存在の大きさを痛感させられた。

 頻繁に足を運んで、自分に見合ったものを購入してくれるお客様ほど、リピーターになる率は高い。だから、リアルの存在の大きさを実感しているとのことだった。リアルもネットもそうやってお客様を大事にするエメフィールの姿勢。それが、一番の付加価値であって、そこがお客様に支持されている。

3.アルペンって今こんな会社なの?

 その他でも色々気になる店舗はあって「スポーツデポ」というお店。広いフロア面積を活用して、様々なスポーツグッズを並べている。僕が驚いたのはこのお店を運営しているのはアルペンだということだ。

 アルペンというと、スキーウェアのイメージが強い。しかし、昨今、こういう形で小売店を運営している。ミズノやニューバランスなどといった様々なブランドの商品が並んでいる。それらを横断する形で、店は、野球、バスケット、テニスという具合に競技ごとに分けて販売しているのだ。

 スタッフはこう語る。

 「本当にそのブランドが好きであれば、そのブランドのお店に行くでしょう。けれど、どうしても品揃えが限定的になります」と。

 スポーツをやるのに必要なアイテム全般を探す際には、広く捉える必要がある。そうすることで、自分に合ったものをセレクトできるからだ。確かに、このようなスタイルも同時に求められていることに気づいて、納得である。

 彼らが考えるその裾野が広がっている。メーカーとしての強みもあるので、合わせてオリジナルブランドの『TIGORA』を展開する。このお店を通して、上記のニーズを吸収しつつ、マーケティングとしての価値を持たせる。それを自らの事業に反映すれば、新しい可能性に繋げられるわけだ。メーカーとしての可能性を、スキーウェアにとどめることなく、新たな形で成長をしていたのである。

4.斬新な修理を商いにする視点

 その他にも、新しい切り口だと思ったのは「時計宝石修理研究所」というお店。

 要は、修理を専門に扱うお店なのである。スタッフ曰く、スタートはジュエリーの小売をやっていた。しかし、その修理をするうちに、その修理という視点を派生させようと考えた。そうやって、時計など幅広いジャンルで、修理を請け負う逆転の発想を思いついたわけだ。

 話を聞いて痛感したのは「プライスレス」の大事さ。

5.いくら払っても守りたい価値がある

 例えば、自分の親が大事にしていた時計はその人にとっての代えがたいもの。一方で「使いたくても動かない」という現実。だからこそ、それを修理し、「再生」し続けることにニーズが生まれる。

 なぜなら、思い出と商品はずっと代々語り継ぐことができるからだ。同じ時計でも、高いお金を出して付加価値を持った時計を手にするのとは違った意味合い。そこをビジネスにしているのが秀逸だ。

 できない修理がないように、その為の部品を調達するほど、修理を完結させることに徹底している。この点も見事である。そこまで修理を徹底する理由は、その時計やアクセのメーカーですら部品がなくなっているから。つまり、製造元ですら、それらの修理を受け付けていないのだ。

 だから、彼らのこの取り組みが活きてくる。そうやって丁寧にそのニーズに応えていくことで結果、その信頼は深まる要素となる。純粋に、リピートに繋がるなと思っている。それは、その感動が想像以上に大きいからだ。つまり、お客様一人当たりで、複数の商品の修理を依頼することになるから、人で繋がり、それは長いスパンでつながり合うわけだ。確かに、よくできたシステムだと思う。

地域に根付く商業施設の必要性

1.路面店だけでなく商業施設

 最後に、僕はこの中で「コトモノマルシェ」というお店の話を取り上げたい。彼らは一品物のハンドメイド商品を扱っている。それはアクセサリーに始まり、花を装飾品など幅が広い。しかし、それらは一品物だから、その場で見て楽しむことでその価値を実感していると。

 だから、彼らはその旗艦店を都会の原宿に用意していたわけだ。その人通りなどから立ち寄ってもらい、そこでふらりとその価値に触れてもらうことに重きを置いていたからだ。

 ところが、コロナ禍の影響でクローズしてしまった。ただ、それはあまりに勿体無い。

2.リアルでこそその魅力を訴求できるのに

 本当に様々な作家と繋がっていて、バリエーション豊富に、色々な手作りのアクセサリーがずらりと勢揃いしている。リアルで一品一品、その違いを確認しながら、購入を決意していくその過程こそが彼らの真骨頂であろう。だから、リアルの意味合いを思う。でも、それが今のコロナ禍では彼らが誇る路面店に来てもらえるに至らない。なんとも歯痒さを感じるわけである。

 そこで、カメイドクロックの意味を思う。

 最近は商店街そのものも減った。地域の活性化として、商店街さながらに、集まる場所があれば、まず街の活性化が図れる。一方で、「コトモノマルシェ」のように、都会では果たせぬ店のニーズをその地域の商業施設で拾うことができれば、共に価値は失われない。

 これが実現できれば、路面店でこそ発揮される集客は、各地方で活かされ、街の賑わいにも寄与する。これは街、商業施設、お店の三者にとってウィンウィンである。

3商業施設が地域密着であること

 新しい時代へ流れていく中で、今こそ「商業施設として何ができるか」を考える契機となった。今回、野村不動産が中心となって「カメイドクロック」という商業施設を立ち上げた意味をそこに感じる。

 その答えとして、地域密着型である。

 商業施設を運営する側が、ただトレンドファッションのブランドを扱い、それらのブランドで集客を担うという従来のスタイルではない。要は、先ほどのお店のニーズを受け止め、eスポーツ然り、放送局しかり、積極的に地元住民の必要なインフラを一緒に担っていくということである。

 リアルでも大量に人を集めて売り捌くという時代はなりを潜めていくのかもしれない。そうすれば、商業施設も地域密着型となり、価値観を醸成して、コミュニティを生み出す土台として売り出す必要が出てくる。大都会でなくとも、個々に価値観を持ち、価値観の中で深掘りして、関係性を深める。SNSからトレンドが生まれている今の風潮と変わらぬ流れが、リアルにも起きているのである。

 今日はこの辺で。

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