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仲卸の老舗 船昌の挑戦 は“青果”愛ゆえの“食べ頃”革命『Seika』100年先を見据えて

 そこは臨場感たっぷり。活気に溢れていて、不思議と、幼き頃、憧れていた“働く”光景を思い出した。競り(せり)で声を張り上げ、指の表現で、意思疎通をするその姿は、プロフェッショナル。その本気のやりとりを見れば、商品価値の高さを証明するだけの十分な説得力があった。この日、僕がやってきたのは、大田市場であり、船昌という会社の方々に案内されてやってきた。

仲卸の現場力を発揮

1.青果に向き合い続けた「船昌」

 彼らは最近、ネット通販事業を始めたのだが、その名を青果にちなみ『Seika』という。自社でECサイトを持ち、楽天市場にも出店をした。それで、僕は、何気なく楽天からこの店舗に関して共有を受けて、ピンときた。単に青果を売るのではない。築き上げてきた歴史をリスペクトすればこその動き。

 そして、何を隠そう、彼らが築き上げてきた歴史は、この現場にある。大田市場というのは青果に関してはアジア一の取扱量。彼らはそこで様々な果物を見極めて、全国のお店に卸す“仲卸”であり、比較的大きな規模感を誇る。

 彼らを理解する上で、その流通構造を説明するなら、まず生産者がいる。そして卸売が入って、そこで彼らのような“仲卸”が買い取って、全国のスーパーや百貨店に売るわけである。

 この日、案内をしてくれたのは、この船昌のECサイト『Seika』の店舗の責任者 中村洋平さん。そして、新卒以来、この船昌で営業も経験して、現場目線でECサイトを切り盛りする川嶋瑞江さん。サイトのブランディング面をサポートする桜井京子さんも来てくれた。 

2.真剣勝負の舞台裏

 正直いって、川嶋さんの市場内での人たちとの打ち解けた様子が、なんとも印象的。どうやら、川嶋さんは農業系の大学卒だそうで、生産者を思う気持ちはあっただろうし、その時から運命は始まっていたのかもしれない。彼女の“負けず嫌い”(失礼!)そんな部分も味方して、受け身ではないから、グイグイ現場に入り込み、心を掴む。同社の風習では新卒は事務から始まるところを、営業から始めて、お店と共に生産者の元へ行った事もあった。早くから実践を知っているから、力強いのだ。

 ともかく、こういう現場があって、世の中のお店に果物が並んでいる。ただ、果物を金額で見比べるだけではなく、人の気持ちが通い合う舞台裏があることを思い描いて、見てもらえたらと現場を見て僕は強く思う。僕もまた、こちらの内容に感動しすぎて、ほぼECの話に至っていない。だが、もう少しその現場をお付き合いいただこう(苦笑)。なぜならこれを知ることで、船昌という会社がやろうとしていることに気づけるからである。

3.競り(せり)の現場に潜入

 「競り」の現場にも圧巻。テレビ番組のひな壇のように段差のあるところから、数字の書かれた帽子を被った仲卸の人たちがずらりと並んでいる。そこで、提示された金額に対して指を使って、意思表示を行う。段差があるから手の動きを見て、即座に判断できるわけだ。

 まさに“競り”であり、そこで価格を決めるわけだ。当然、値付けも真剣で、事前に仲卸はそれら果物を実際に目で見て、品定めをしておく。「うちはここまでなら(お金を)出せる」。そう判断して、勝負に挑む。実際に決まった金額は張り出されるから、通りすがり、皆、その数字を気にする。それが今の相場であり、常にこれらは色々な要素により変動するからだ。

 さて、そうやって金額が決まれば、大田市場のそれぞれの持ち場で保管し、全国のお店へと配送される。最近は競りに立つのは、必ずしも仲卸ではない。極論、レストランなどのバイヤーが来ていたりもするのは、数が見込めれば、仲卸を通すことなく、それができるから。しかし、言うは易し行うは難し。この見極めこそが、この競りにおける真骨頂だからだ。

目利き力は愛があればこそ

1.100年近く続く信頼は目利きにあり

 船昌はまさに、こういうことを地道にやり続けてきた。そして、来年には100周年を迎えるとかで、その力はダテではない。この専門性においては、他の追随を許さないといわんばかりに自信を見せる。

 また、勝負なのは彼ら仲卸だけではない。その証拠に、競りの横にはコーナーが用意されていて、産地側もアピールする。

「これから出ます!」という宣言や「今が旬です!」という発信をすることで、仲卸の人にその存在を印象付けるわけだ。どんな仕事もそうなのだけど、ここでも、真剣勝負が至る所に広がっていて、熱気に溢れているわけである。

2.異なる青果をタイミングよく

 一番、僕が彼らの話で勉強になったし、痛感したのは「果物の種類だけで判断してはならない」ということだ。

 例えば「桃」が並んでいるとしよう。でも、それを通り一辺倒に「桃」と判断してはならない。同じ「桃」を作るにしても、産地ごとにその気候や作り方が異なる。実は一見、スーパーなどで同じ「桃」を見ているようで、その時々で産地が異なっているのだ。

 つまり、入れ替わっている全く違う桃を、同一の「桃」としてみている。これは桃に限った話ではない。それで均一した味が保たれているのは、生産者とのやり取りをする「卸」と店とのやり取りをする彼ら「仲卸」があってのことなのだ。

 何も日本列島で遠く離れていなくても、そうなのだ。生産者の作り方にも関係してくる。だから、隣り合った地域であっても、旬の時期が異なる。ほら、これだけ色分けされている分だけ、種類が存在するのである。まず最初はAさん、次にCさん、その次がEさんという具合に収穫にも抑えるべき順序がある。

 そうなると、仲卸はどこをどの順序で、その果物ごとをどう入れたらいいかを考えて、仕入れるわけだ。

 なんと繊細な作業であろう。しかも彼らの場合、仲卸だから、それを手に入れてからどのくらいのタイミングで店に並ぶかを考慮する。当然、そこから逆算して、出荷をするから、実は、綿密な分析と計画のもとに、美味しい果物を提供できているということなのである。

現場力が織りなす顧客満足度

1.Seikaは自身の力をさらに広げる挑戦

 さて、ここまで書いてきて、おわかりいただけただろうか。かくして彼らはECサイト『Seika』の運営に着手した。彼らにとって、強みは現場力。青果と向き合い、どのタイミングで、そのベストパフォーマンスを発揮できるのか。それを誰よりも把握している。

 今まではスーパーや百貨店であったけど、それがECサイトを通してお届けするお客様だったら、それはどうだろう。果物への想いと愛情ゆえに、新しい可能性に賭けた老舗の挑戦がECサイトなのである。

 だから『Seika』は敢えて単品単位で果物を売ろうとしておらず、その時の旬の果物を彼らがセレクトして提案する。そうすることで、上記に書いた旬なタイミングを厳選して自らの価値を尊重する。つまり、それは、彼らの向き合ってきた目利きで勝負する意気込みの表れなのだ。

 ゆえにECサイトの責任者として、中村さんは「セレクト内容に付加価値が生まれるよう、『ギフト商材』として提案することに意味がある」と説く。こうして戦略は固まった。そして「楽天市場」のECCとも広告戦略などを踏まえて、日夜、検討するわけだが、どれが旬なのかは現場の声を踏まえたいと、本当に画像を決めるのは入稿直前。

 結果、「母の日」は想像以上の受注があった。だが、それに追われて作業が追いつかないなど、まだまだ課題は多いと苦笑いを見せる中村さんだが、売上は順調に右肩上がりを描く。

2.最適な時期に果物を口にする幸せ

 実は、この日、僕は出荷拠点となる冷蔵倉庫も見せてもらうことができた。船昌の場合、取り扱いの規模も大きいので、大田市場から一部、場所を借りているのだ。BtoB向けをBtoC向けにも活用して、ECに価値を振り分けているのだ。

 ここでも専門性を感じさせる一幕があって、やっぱりここでも川嶋さんなのである。彼女はすっと「さくらんぼ」のもとへと寄って手に取り、その管理者に話しかける。何をしていたのか。

 それは、この日、さくらんぼに新しい品種が入ってきたので、基準をすり合わせしたというのだ。つまり、そこで出荷するタイミングがどの程度の成熟具合であれば、お客様にとってベターなタイミングなのかを真剣に話し合っていたのである。それを入れる基準にするのだ。

 「どうぞ!」取り出して、そう手渡されたさくらんぼはものすごく甘かった。

 けれど、それが完璧かと言えば、そうではないというのだ。ちょっと熟れている部分があって、それを川嶋さんは指摘する。今の美味しさは、送り届けた時点で存在するかはわからない。しかも、BtoBのように専門の配送ではないから、その分、そのセレクトはそれ相応の慎重さが伴う。

食べ頃はSeikaだからこそできる付加価値

1.果物をさらに愛してもらえるために

 先ほども書いた通りだけど、彼女は新卒からずっと、現場で「ベスト・パフォーマンスがどこで発揮されるか」と向き合ってきた。だから、話し合われるこの基準こそ、ECにおいての全てを決する。そのお客様の満足度に直結して、差別化要因になるだけのポテンシャルを秘めているのはこの部分だ。

 だから一言で言えば、『Seika』が一番、こだわるのは“食べ頃”なのである。できれば「2日常温で置いて、食べる前に1、2時間、冷やして」などの助言を添えるくらいしたい。それを言えるだけの愛情と知識を持って、果物に向き合ってきたからだ。限りなくそこに近づけるために、果物ごと、下記のようなリーフレットを入れている。

 食べ頃への徹底したこだわりがなせる技。生産者からしてもありがたいことだろう。結果、ブランディングにもこだわることとなり、桜井さんがそのパッケージのデザインを担う。

 開閉式のドーム状の入れ物は自社で考え、手配したものであり、ラッピングに使われたデザインもオリジナルだ。実は、このデザインも障がい者アーティストに果物の絵を描き下ろしてもらったもの。桜井さんは思い入れをそう口にする。

2.100年の老舗が挑戦する意義

 この現場の空気を吸うことで僕は色々感じることができた。まずは、100年近くの老舗が、このECサイトにチャレンジすることの意義を。そして、仲卸としてやってきて、その誇りを胸にECをやることの意味を。

 この果物の、本当の美味しさを誰よりも熟知し、それを全国のお店に広めてきたのが彼らなのだ。繰り返しになるが、自らECを通して彼らが提案する意味は、ECでしか伝えられない果物の良さがあるはずだということなのだ。現場に心を通わせ、果物をセレクトし、届くタイミングにも配慮して、“食べごろ”にこだわることで、ECサイトは従来の卸先とは違った意味での差別化ができる。

 言われた通り、僕も食べてみたら本当にいつも食べる「桃」の味が違っていた。今までスルーしていたこの発見こそ、彼らの価値だ。どこの生産物かも知らせるチェックリスト入りなのは、生産者への敬意の表れでもある。

 果物の本当の美味しさを伝え続けるのは、彼らの使命なのである。なにより、それを通して多くのお客様に、果物を好きになってもらうことが第一。これは、愛なしにはできないことだ。彼らの代々培われてきた目利きが、果物を通しての至福の時を演出する。「仲卸」の老舗の“青果”愛ゆえのEC革命は今始まったばかり。次の100年を見据えて。

今日はこの辺で。

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