チョコやケーキの素材と製法、ビーガン等の切り口、多様な価値観を「食」に込め「麻布台ヒルズ」
これも時代だなと思った。「麻布台ヒルズ」に来て、その出店店舗にオンラインストアで認知度が広がったお店が名を連ねているからだ。推測するに、ECは顧客接点を持つ。お客様とどういう接し方をするか。それでその店の個性が生まれる。結果、リアルの施設側が逆に、リアルをやらないかと、交渉を持ちかけるのだろう。MinimalとMr.CHEESECAKEはまさにそれ。それともう一つ、オンライン発祥ではないが「時代に左右されない価値観」という意味で、最後に、ビーガンのお店の話も載せた。トレンドに見えて、実は本質的であることは、20年の歴史が証明している。食の奥深さを彼らから学ぶ。
●Minimal the specialty
1.チョコレートの深掘り
まず僕が訪れたのが、「ミニマル ザ スペシャルティ」である。ほら、こんな感じ。おしゃれである。
元々、ミニマルはオンラインで昨今、話題を集めた。彼らにとって欠かせないキーワードは、「Bean to Bar(ビーントゥバー)」。
皆さんはご存知だろうか。実は、この言葉は2000年代前半にアメリカで広がった考え方で、カカオ豆から板チョコレートになるまで一貫して製造を行うことを指すものである。チョコレートの製造ノウハウを徹底的に研究するためにアジア・アフリカ・中南米の3大陸のカカオ豆を選び抜いた。
そういう考え方から派生しているから、チョコレートを「引き算」して魅力を訴求。つまり、チョコレートには余分な添加物を使わず、「豆に砂糖を加えるだけ」という必要最小限の成分でつくっているのである。それは、今までのチョコレートが、味や香りを「足し算」で加えていくものと逆発想である。そこまでのこだわりがあるからこそ、浸透した。この事実を忘れてはならない。
リアルのお店も3店舗存在するものの、いずれも物販としての側面。
では、彼らがこの麻布台ヒルズでこだわったのは何か。社長の山下 貴嗣さんが気さくに教えてくれた(めっちゃいい人)。彼曰く「体験に寄せた新しい試み」。
事前にオンラインでいくつかのメニューを選択。そこで予約をして90分、リアルでチョコレートの世界に浸るというわけだ。「何を食べるか」というより「どんな時間と体験を共にするか」。それをチョコレートで演出するから新しい。
2.体験に寄せることで気づくチョコの価値
出てくるものも一味違っていて、こちらはお酒にチョコレートをつけたものである。それに驚かされるが、そう考えると“この街”は、挑戦をする場所なのだと気付かされる。
香ってみてください。そう言われて、びっくりしたのは確かにチョコの香りがするのである。でも、飲めば白ワインや梅酒。
つまり、お酒の中にチョコを入れて蒸留しているからそうなる。だからそれぞれのお酒はどのチョコと交わり合っているのか。それを思い浮かべつつ、チョコと並べて嗜むという視点が従来とは違う。
単純に食べるわけでも、飲むだけでもない。お互いに敬意を評しながら、各々のチョコへの関心も深まれば、自分たちがずっと追い続けてきたチョコにも愛着も増してくる。
「私たちはお茶との相性にもこだわっています」。そう述べて、案内されたのがこちら。
和紅茶、カモミールなどを実際に燻して、それと一緒にチョコを提供することで、気持ちを落ち着かせるわけだ。いろんな価値観を吸引し、色々なものとの掛け合わせることで、自分たちが追い求めてきたものの核心を示すわけである。
●Mr. CHEESECAKE
1.チーズケーキ自体に個性煌めく
未だ掘り起こされていない価値はたくさんある。それを痛感させられたのは、Mr. CHEESECAKEのこだわりとそれを伝える工夫である。彼らもオンラインで脚光を浴びている。麻布台ヒルズでは彼らはチーズケーキをカップに入れて提案して、新境地を自らの作り方で表現している。
でも、そういう挑戦ができるのは彼らのチーズケーキのポリシーが貫かれている素地があるから。それを忘れてはならない。ブレない礎が「これはどうだろう?」の新しい着想を生んで、進化を促すのだ。
じゃあ、礎ってなに?それは深い。想いを込め、工夫を重ねた軌跡によって築かれたものだ。それは社長でありシェフの田村浩二さん(めっちゃ爽やか)の話を聞けばよくわかる。
彼らのチーズケーキの一番のこだわりは、食感。
田村さんは元々、レストランでシェフをしていた。正直、彼の頭にあったのは、シェフか菓子屋か。どちらかになりたいと考えていた。というのも、彼はお菓子が好きだったから。レストランのシェフとしてお菓子を作る中で「もっとシンプルで誰が食べても美味しい物を」と考え、作ったのが始まり。
2.レストランでこそ食べられる儚いチーズケーキ
チーズケーキなのも、理由は簡単。自分の誕生日にプレゼントされたのが、チーズケーキだったから。自然な流れで来たもののそこにはこだわりもあった。というのも、お菓子屋で作るようなお菓子(ここではチーズケーキ)を自分が作っても仕方がない。彼は「レストランでしか食べられない」その場だけの儚い食感を求めた。これが先ほどの食感へのこだわりに繋がる。
また、レストランだから実現できたそのクオリティは、大切にした。つまり、これを切り分けて、チーズケーキだけをそのレストランで売ることはしなかった。他のお菓子を気軽に買いに来るのと、レストランで食事をするのでは、明らかにお客様の意識も気持ちも異なるからである。
だから、売り先を分けるために、ネット通販という手段を取り入れるのは、自然な流れだった。
そして、彼らはこだわりの末、「冷凍で」それを届けることを着想する。その理由も、礎に紐づく。彼らの手がけるチーズケーキは儚いもの。柔らかすぎて常温で届けられないからである。
彼らの世界観は売り方、届け方に反映されて、それはお客様の心に届いた。ゆえに、ネットでの売上は右肩上がりとなる。
3.リアルで違う顔つきを見せる
しかし、やはりリアルの拠点は気になる。敢えて、この麻布台ヒルズはそういう意味で、チーズケーキに今までにない新しい価値を添えて、売るには相応しい拠点だった。
ブランド初のカップタイプの商品で、ちょっとした手土産感覚にする。それは、感度の高い、ゆとりを持った人たちの多いこの場所だからこそ、品質とともに、受け入れられることだろうと。カップの上はベイクド、下はレアという彼らの礎はここにも。
もう一つは黒トリュフのチーズケーキのバージョンで、日本のウイスキーを重ねた逸品。樽のようなスモーキーさ、土のような風味を出すバニラなど、際限ないこだわりが、彼らの世界観の広がりを思わせる。
それまでの積み重ねあるからこそ、それを理解して、受け入れられるこの場所がある。そして、受け入れられたことで、彼らの未来もここにある。
●8ablish
1.「人を選ばぬ快適な食卓」を。
だから、この場所は総じて感度が高い。集まる人の新しい価値観の受け入れも柔軟だろう。それを強く印象付けられたのが、「ガーデンプラザ」の店の数々。足を踏み入れると、当然ながらビーガンのお店もあって、それが8ablish(エイタブリッシュ)である。
ただ、彼らにとっては逆に新しいわけではなく、今まで継続していたら、時代が追いついてきただけ。しかも、ビーガンこそ「人を選ばない」。この日、僕はエイタブリッシュ代表取締役川村明子さんのその言葉を聞いて、ビーガンが受け入れられる意味がわかった。
正直、ビーガンと聞いて、読者の皆さんはどうだろう。菜食主義の人のための食事であり、それはごく限られた人向けの食事だと思った。でも、それは誤っている。彼女曰く、逆なのだ。
それを語る上では川村さんのここまでの話を抜きにできない。ごく標準的に文系大学を出た彼女は、美術系を進路に選ぶ。留学した際「美術が5」ことを理由に美大系の学校を選んだのだ。
その後、インテリアデザイナーとして、日本で仕事をする。ビーガンは関係ないではないか。そう思われるだろうが、その仕事先で、知り合った人のパートナーがビーガンであった。
2.アレルギーなどを気にせず皆が快適
考えてみて欲しい。20年以上前の話であり、その言葉すら馴染みのない時代。だから、流行を意識していたわけではない。彼女には先見の明があった。自分は(今も)ビーガンではないけど、そこでクリエイティブが生かされると彼女は思ったという。
その理由はビーガンの良さが「人を選ばず皆が一つの食卓で楽しめる」であることだからだ。
つまり、世間の印象とは真逆。でも、彼女はいう。アレルギーなどを原因に「この子はこれを食べれない」などといったことが、食事時、よく起こる。しかし、ビーガンであれば、その心配すらなかった。あとは、その作り方をベースにいかに美味しい物を作れるか。
そう。そこで面白いのが、グラフィックデザイナーとしての知見が活きる。つまり、それらを美味しく、魅力的な見せ方で食べられる空間を作る。それができれば、今までよりも多くの人にその食事は受け入れられるだろうと。
3.時代が追いついてきた
何も、今時のビーガン主義に乗ったわけではない。むしろ、先をいく視点というより、ごく自然な人が喜ぶ理由を彼女なりに導き出しただけなのだ。それが、ここまで継続してこれた所以だ。
なので、デザインがまず大事。この様な食品の見せ方になるし、内装も商品のパッケージもこうなる。
自らのデザイナーとしての力量が開花した瞬間である。だから、ゆとりと共に新しい価値を求めるこの麻布台ヒルズの“住人”に浸透させ、そこから更にその価値を広げるのが夢である。
新しい価値観が醸成されている。それとともに、「古くからある」けれど、これまで誰も今まで気づかなかった視点を拾い上げている。だから、この場所の着眼点には意味があると思う。
今日はこの辺で。