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渋谷が変わる 人と人とが繋がるビジネスと価値創造の街へ Shibuya Sakura Stage潜入ルポ

 街づくりに立脚した建物のあり方。競争よりも協調であり、この場所を通して、人と街を育てていく。この日、僕は「Shibuya Sakura Stage」のプレス内覧会にいて、それを痛感したのである。ここには幾つかの軸があり、いずれも興味深い。それが新しい施設のあり方とこれからの街形成のあるべき姿に、ヒントをもたらしてくれるのだ。

建物で動線を作り出し、企業を集め、人を繋げる

 発表に立ったのは、東急不動産 星野浩明社長。この桜丘地区はJRの線路と国道246に挟まれ、孤立していた箇所である。これまで分断されていたこの地域が、このShibuya Sakura Stageの建設に伴って、一つにつながると強調した。それにあたっては120名の権利者と交渉を重ねたことを明らかにした。

 桜の木に例え今後の展望を語り、桜の木の根の部分は「リアルとデジタルの融合」。その上の木に成り立つのが「人と人との“交流”」。そして、それを通して枝葉で芽吹くの「新しいライフスタイル」だとした。そこから逆算して、この施設が果たす役割は何かを考え、そのインフラづくりを心がけてきた。

 ちなみに、これは僕の写真で2018年当時のこの地域。この辺には老舗ジャズ喫茶「メリージェーン」などがあって、よく通っていた。左の楽器のお店が懐かしい。道の奥の橋のようなものが国道246。左の白く見える建物は、渋谷マークシティである。ちなもに写真の道の右側には山手線の線路がある。確かに分断されているし、老朽化もみられる。ここからどう変化したのか。

 それが下記のようになった。下の左の写真の左端で縦に道路があるだろう。これがまさに国道246号。つまり、その右側の建物部分が先ほどの過去の写真に相当する街だったわけである。まるで変わった。

いくつかの軸で紐解くとわかりやすい

 大局的に理解するべく3つの軸で考える。

 一つは、施設が街に新しい動線を作り出すということ。2週間前、SHIBUYA AXSHでも感じたことだが、坂であったり、道路や線路によって分断されていた箇所である。施設の登場に合わせて、新しい道を作り出していくことで、人が行き交う場所の範囲を広げていく。

 二つ目に、便利になったところで、オフィスを構える。そうすることで、優良企業を引き寄せる。これは渋谷の新しい側面である。オフィスというより繁華街のイメージが強かった。だが、オフィスを起点とした経済活性を担おうというのである。これらのオフィスで創出される人の数は、1万人であるから、影響は大きい。

 三つ目は、渋谷一帯に、勢いのある企業が集まる。だから、そのワーカーを繋ぐこと。ここが肝だろう。語弊を恐れず言えば、渋谷全体で、良質な“We Work”を生み出そうとしている。それらを繋ぐ潤滑油として、この日、発表されたのが「Shibuya MABLs」である。

 アプリであり、例えば、これで誰が出社しているのかを確認。出社している人同士で、お気に入りの店をマップで探し、集まる機会を作り出す。当然、店も連携させて、チケットでお店をお得に楽しむ。渋谷ワーカーを起点に交流と経済活性の両面から触発するわけである。

 昨今、経済圏という言葉をよく聞く。けれど、この視点も確かにあるなと。つまり、オフィスを軸に経済圏を作ろうというわけだ。

単にショッピングを追求するわけではない施設の役割

 特に、三つ目は、二つ目に書いた企業の誘致で、集まる企業の質が上がれば、そこに集まる人材の才能をさらに触発できる。企業は利便性の高い場所にオフィスを構える。だから、街全体を考慮し、回遊性を高めたShibuya Sakura Stageのような場所がそれらの拠点として選ばれやすい。

 だから、商業施設を次々に建設して、ショッピングの場所として活気づけていく街の発想。それとは大きく異なるわけだ。つまり、ブランド間で各社競い合って、売上をあげていく。そのような競争ではなく、人と人との共創を生み出す環境づくりである。

 だから、書店は本屋単体が存在するのでは物足りない。別の価値と相乗効果を狙える「TSUTAYA BOOK STORE」が入ることになる。面積は215坪で、約16万冊に及ぶ在庫を展開して、本屋不足を解消する。それとともに「SHARE LOUNGE」を用意して、ワークスペースとしての活用場所を用意する。

 この一連の広いスペースを使い「re-search」というアーティストの発表の場を作る。渋谷におけるアートの社会実装を心がけていく。この施設自体がショッピングとは少し変容した捉え方だから、いざ、ショッピング用に集まる店も個性的なものになる。

従来の店のあり方とは定義が異なる

 僕が関心を持ったのは、ゲーム実況のYouTuber「高田村」の初の公式店舗である。高田村交易所という。ユニークなのは、運営元がマイナビ。

 彼らは就職のイメージが強い。けれど若年層のマーケティングに熱心。ここ数年着目したのが“アイドル”である。高田村も立派なアイドルに相当するだけの存在。そう語るのがマイナビ宇都宮広宣さんである。

 というのも、「高田村」がポップアップストアをMAGNET by SHIBUYA109で開催した際、超有名タレントに匹敵するグッズの売り上げを記録した。女性が多く詰めかけ、こぞって買っていく姿。それは、某男性アイドルの売り場を彷彿とさせる程だったと振り返る。

キャラクター系のグッズは日本を代表するポップカルチャー

 彼らは日本のお家芸コンテンツ産業の可能性にも着目している。それで入り口付近には「chara colle」を用意。マリモクラフトというキャラクターグッズでは問屋としてもメーカーとしても馴染みのある老舗が、ここを拠点にポップアップを関わる企業にアテンドする。

 この日は、バンダイナムコが「たまごっち」ポップアップストアを展開。たまごっちの雑貨?そう思ったが、実は、「雑貨の売れ行きが好調」とスタッフ。というのも、一番有名なのは1990年代後半の大ブームからの大赤字。ただ、その後、2004年にたまごっちを再ブレイクしてから、旧バンダイにとっては有料コンテンツへと変貌した。一定間隔で、新作を投入して息の長いコンテンツへと進化した。

参考記事:Tamagotchi Uni お披露目 あのちゃんも納得の世界が繋がる「たまごっち」アップデート

話を戻せば、2004年当時に購入していた層が今、Z世代となり今雑貨を買うのだ。

 それ以外にカネボウ化粧品の「KATE」の公式店も。世界に一つの「iCON BOX」を用意し、その前に立つと、顔診断をする。その分析によりパーソナライズされた4色のアイカラーが自動販売機風に出てくる。同社曰く、アイカラーは自分流でやっている人が多い。だからこそ、これでいつもと違う自分を発見してもらえればと語る。それこそが、私たちの理念「no more rules」を再現することになるのだからと。

企業が関心を持つ街にすることから新しい渋谷は始まる

 先ほど書いた通りだが、建物自体が動線を作り出す役目を果たす。だから、それをフックにして街自体を作り変える働きかけをする。先ほどの写真を見ればわかる通り、桜丘町は、長らく、JRの線路と国道246によって分断されていた。

 だからこそ、この街の発展には限界があった。そこで、Shibuya Sakura Stageの誕生を機に、それらをつなぐ。つまり、線路を挟んで、Shibuya Streamを隣り合わせで建設して、その両方から橋をかけるわけだ。そして、両方の施設を繋ぐ橋の途中に、JRの駅舎を作って7月21日から、南改札口が開設されるのである。

 そうすれば、分断は解消されて、人の行き来が生まれる。利便性の向上とともに、上記のオフィスの需要の増加がある。だから、自然とそれらを使い、人流が生まれ、この改札の利用機会も増えるから、建物の利用価値が上がる。Shibuya Sakura Stageは渋谷の回遊を触発する拠点。だから、そこに飲食店を散りばめるわけである。

街の活気が食の人材を育てていく

 ただ、この建物としての趣旨は一貫している。飲食側にも新しい価値の創出の場としていく。活気がつくほど、食にまつわる人材が育つ。

 同施設の4階は「サクヨン」と呼ぶ。奥のSHIBUYA BEER HALLは、昼と夜の顔が異なっていて面白い。作りとしては、テーブルと椅子が中央にまとめられ、囲むようにして数多くのお店が存在している。

 それらの店は、その業界の第一線を走る名店から派生している。それでありながら、コンパクトな店の作りにして、クイックフードに徹する。昼はフードコートのような使い道で色々な名店の味を堪能する。しかも、事前注文が可能。だから、近隣で働く人は、これだけ受け取りに来て、持ち帰るなど、自分のスタイルに合わせられる。

 一つ一つは他の地で実績を作っている名店の数々である。例えば、「プレフリトーキョー」では、唐揚げ一つでもその味わいに驚いた。シェルシュ丸山智博さんの発想により、柔らかく香ばしく焼き上げられたそれは、独自のパセリガーリックバターをかけて、フレンチのテイストに。唐揚げの既成概念を打破している。

 夜になると、この場所は「渋谷ビール」を全面に打ち出す。つまり、フロア全体がBEER HALLとして位置づけられ、それらのコンパクトなお店は、お酒のお供として、また違った楽しみ方を演出するのである。

異なる6業種の飲食店もオーナーは同じ

 その上で、僕が面白いと思ったのは「渋谷 by street」の考え方だ。

 横一列に並んだ6つの別業態の飲食店は、実はオーナーが同じ。居酒屋「えん」の創業メンバーだった楊 文慶さんが全体を取り仕切る。「これまで各地に“横丁”ができたが、空いている店と混んでいる店とが顕著。オーナーが6店とも同じ。だから、個性は活かしつつ、全体に配慮して格差のない横丁を実現させる」。

 実際食べてみれば、舌鼓を打つメニューばかり、その場で一級の肉を焼きトロトロの柔らかさで至福の時を過ごした「YAKINIKU78」。肉汁たっぷりでもやしとの相性抜群の豪快な感じがグッドな「鉄板BANANA ATEAK」。

 これらは成功をすれば、ここから巣立って、他の場所に同名ブランドの店を作ることがあるだろう。チャレンジ精神に溢れている。その姿勢を顕著に示すものとして、酒場ジャロウの店主 角津みちるさん。なんと彼女は若干26才での店主就任である。

集まる人も、そこで働く人も、全て何かしらの創造に関わる

 また面白いのが、活気あふれる飲食店のフロアと併設しているのが、「404 NOT FOUND」。クリエイターの創作機会を作り出す場なのだ。最初は飲食でふらりと集まる人もいるだろう。だから、その場所の価値をそこで補填して、クリエイターに低コストで挑戦してもらうわけだ。

 アート、ゲームなどを素材に、ポップアップイベントを軸にして、その装いは常日頃、変化していく。先ほど触れた通り、アーティスト同士が同じ価値観で遭遇し、創作活動を共創していく。このような取り組みは、従来の縦割りのテナント運営ではできない。

 例えば、人が集まる場所を用意しようにも、ハコ代として、それなりの費用が必要だ。その為には、人を巻き込む必要があって、そこには説明が求められる。何かとそのイベントの設計には手間がかかるのだ。

 だから、最初から、このようなクリエイティブな催しを意図する。費用や手間を必要とすることなく、人が集めやすく、またそこの価値もアップデートされるイベントを通して定着して、クリエイターが挑戦しやすくなる。そこには発見もあるから、今度は飲食に訪れた人への価値となる。

 「こういうボードゲームがあるのですが、知る人ぞ知るもので、ファンの間では熱狂を呼んでいます」。

 並ぶ商品ひとつにも発見がある。結果、飲食フロアと同化することでWin-Winとなっている。

あらゆる価値を発掘し拾い上げ、この街の活性化へ

 最後に事務所に戻り、プレスに対して用意された「CHEEAT TOKYO」からの贈り物を開けて、そこにもクリエイティブな印象が包まれていた。

 風呂敷の中は「e・FORCE カラダグリーン」と「紫鮮」の梅干。

 「e・FORCE カラダグリーン」は、漢方などの専門である薬剤師が、生薬をメインにスパイスを調合して製品を開発している商品。過度なストレスがかかった時に、サクッと飲んでほしいという粋な計らい。なんともチルい演出で、商品においても新しい発想が生まれている。

 ただ、新しい価値を吸引しながらも、紫鮮の梅干で地域における課題解決を示す。生産者の視点だけでは気づかぬテーマを添える。そうすることで、新しい価値として生産物が受け入れられる土壌を作る。

 改めて施設の意味が変わっている。ただ建てられるのではない。街全体の回遊を高め、利便性に伴い、企業誘致を行い、そこに質の高い経済圏を作る。この経済圏の価値を触発するように、人と人との交わりを作り出し、そこから新しい価値を創造していく。当然、人の“溜まり場”ができるから、この集まりをフックに、飲食やショップなど、より挑戦的な試みを促し、そこからの文化を作っていくわけだ。

 ネット通販で誰でもなんでも買える時代。だから、リアル施設の価値の転換期であり、ここにはその新時代のヒントがある。従来の“ハコ”の考え方とは大きく違うところに学びがあるのである。

 今日はこの辺で。

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