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通販物流とは 専門家と語り合うホンネ

「安い物流会社ないですかね?」通販企業では、案外聞かれるフレーズである。ただ、安さだけで物流を判断するなんて、自ら通販の価値を下げている気がする。寧ろ、通販の個性を物流に生かすべきだ。その意味で奏功しているのは、オルビス通販だろう。実際に、現場に潜入し、記事も作成した。今回は、その問題提起に物流の専門家に応えてもらう。テーマは「2025年の通販物流とは」あるべき 通販物流についてトークしてもらう。

真に必要な 通販物流とは

1.通販と物流が密な現場を見て

 今回、ご協力いただいたのは4人。マガシーク フルフィルメント本部 本部長 北川 誠さん。リンクス 代表取締役 小橋 重信さん。AMS 取締役 古田俊雄さん。そしてオルビスの物流を担う流通サービス 未来EC推進Team プロデューサー 長谷川雅之さん。最初に、長谷川さんに、御三方に案内してもらうことにした。僕としては三人にそこでの感想も含めて、先ほどの件について話してもらおうと考えた。

 オルビスは、長年に渡り、物流は流通サービスに任せている。また、この流通サービスはそのオルビスの特徴を熟知する。だから、現場目線で最適な方法を編み出し、自らの投資して環境を整えたわけだ。

 ただ、ここに考え方が分かれる部分がある。なぜならリスクが大きいから。一社の為に自分たちの物流のリソースを作り替えている。それでもやると言うことは、お互いの信頼が強いということ。真に、物流と通販企業が結びつくということは、どういうことなのかを考えるには、格好の素材と考えたのだ。

2.AGVで徹底的に「オルビスの」通販物流の効率化

 AGV(無人配送車)が通販と物流の密な連携によって付加価値を生む。既存のAGV(無人配送車)では棚移動させる用途が多い。その一方、ここではオーダーごとにAGVを稼働させた。一台ずつ一人分の商品を集めてくる仕様に作り替えたのである。

 オルビス通販の特徴を踏まえてのことだ。「1受注に対し平均8〜10点の商品のピックアップが必要」という基礎化粧品ブランド故の特徴である。また、商品が小さいという特性も反映されている。結果、これらの導入で、処理能力は変わった。導入前1800件/時に対し導入後は2400件/時と約30%の大幅増。

参考記事:流通サービス 入魂 オルビス 通販で生きる 唯一無二の AGV

3.ロボット革命の先の変化球

 早速、見学を終えて、リンクス小橋さんはこう切り出した。「ここ数年で、物流にはロボットのようなものが色々出てきている。それでも革新的で満足していた部分もあったと思う。ただ。このオルビス倉庫での『AGV』は、それに加えて“ひねり技”があって、独創的だ」と表現した。

 僕も知らなかったのだが、物流のロボットには大きく分けて二タイプあるという。一つは『GTP(Goods to person)』。貨物をピッキングする作業者のところや棚入れする場所まで、荷物を運んでくるタイプのロボットのことをいう。

 もう一つは『AMR』。走行中の人や障害物などを避けて、付属のタブレットなどの指示に従って、ロボットが自由自在に工場内を移動する。つまりは「人と協働する」タイプである。

 このどちらでもない。小橋さんはそう言って、だから“ひねり技”と表現したようだ。

 また、AMSの古田さんは「ここの(導入した)部分は、業務フローで言えば、既存でシステムが確立されているもの。それをもう一度、作り替えた。そこに凄みがあって、それをやってくれるパートナーさんが凄いんだろうな」と話した。つまり、流通サービスのさらに裏方の機材を提供する企業の協力体制に注目した。

4.通販物流とは 縁の下の力持ち の存在が大きい

 それに対し、流通サービスの長谷川さんはこう述べる。「(このAGVを提案してくれた)椿本チエインさんは、長年付き合いがあった。それで言いたいことが言い合える関係性が構築できていたのが大きい。そこにたまたま『中国にこういうAGVがある』と紹介された幸運もある。そのAGVを作っている会社もそういうチャレンジに乗っかりたいといってくれた。全てが同じ方向を向けたのが大きいですね」。

 「いやいや!それ自体が珍しいんですよ」と小橋さん。「ロボットだから(知識なく)これくらいはできるでしょと高を括っていることが多い。だから、既存にロボットを導入しても、全く動いていない。使い物にならないのは、ロボットのせいではなく企業のせい」と漏らした。

 古田さんが気になって「それは何故なのですかね?」と更に尋ねる。小橋さんはうーんと唸った後でこう話した。「それは『ロボット』=『業務が早くなる』ということだけで入れているんじゃないか。ちゃんと業務設計をしていない。そもそもどういう目的かというのを理解した上で使わないと、いくらロボットと言っても“魔法の杖”ではない。だから、うまくいかないのだと思う」と。なるほど。

通販物流とは チャレンジでもある

1.チャレンジできる環境をどう作るか

 もう一つ、これに絡んで大事なのは、企業側のチャレンジ。というのも、小橋さん曰く、『AMR』にしても「どれだけの実績が出るのか」世界でも実績がない状態。

 マガシーク北川さんはだから、重ねてこう説明する。

 「ロボットの業務が何にでも通用するなんてことは絶対にない。だから自分たちの業務を知り尽くすこと。そして、これだったらこういう風に、と色々なパターンが用意できること。あとは、現状に対応しつつ、それをこういう風にして変えたら良くなるだろうと未来を見据える。それが大事」と述べた。機械ではなく、自分達に目を向けよと。業務を知り尽くしていることで、然るべき機械のふさわしい活用方法が見えてくると説いた。

 マガシーク北川さんは、その言葉に説得力がある理由は、実体験に基づいている。同社が岐阜のジーエフという物流会社と連携をしている。それで、生産性は向上した。

 具体的には、「オープンブック」というやり方を導入した。オープンブック?と思われる方もいるだろう。物流の原価まで開示するということだ。駆け引きなしに、それぞれがどれだけ粗利を取っているのか開示するわけで、そうすると、実態に即した金額と実現性が伴うと言うわけだ。オルビスと形は違えど、彼らもまた、物流を味方につけて通販の価値を上げている。ただ、その物流の価値を最大化させたという意味では両社は近い。

 北川さんが言うのはこうだ。物流側がオルビスの業務を知り尽くしていると。そこで、オルビス自体も最近社長が変わって、チャレンジ精神に溢れている。だからその物流の変化を後押しした。背景には、関連会社の長い付き合いは相応しい環境を生み出す土壌となった。

2.通販の業務を知り尽くして 通販物流の本質がある

 また、AMS古田さんはその点を踏まえてこう話す。「本来、物流業務の生産性は物流倉庫の外にある業務も含めて考えないと前進しない。つまり、現状、物流会社はそこまで入れこむことができない」と。そこに課題があって、だから投資もできない。

 ゆえに、チャレンジできないということになって、本当の意味でフラットに情報が開示されることの重要性に辿り着く。結局、今回の議論ではここが一番のキモかもしれない。

 投資と実現性の意味では「マガシーク」も通販と物流の関係性がうまくいっているのだから。

 では、それを具体的にやれるように、僕らはどう変わればいいのか。そこを探るべく、その転換期はいつだったのかを聞いてみた。自らの場合を振り返り、北川さんはこう応えた。

「以前は岐阜に物流を任せていたけど、こっちに移ってきたのです。その時が転換期ですね。マガシークが自分で借りて全部、自分たちでやろうということになった。倉庫内での仕組みも、マテリアルハンドリングもです。関東に来たことで、自分たちの部署がそこに常設されるようになって全てが変わった」と。

 また「常駐するようになって自分たちで色々やってみたのがよかった。ピッキングや出荷など全部自分たちでやってみると自然と『これ変えましょうよ』という具合に変化していった」とその心境の変化を述べた。

 語弊があるかもしれないが「本当の意味」で両者は理解しあえていなかったのだ。だが、移転を契機に自分で体験することで、自ら投資する意味を実感した。その荷主側の変化が、物流の現場の変化を促していったというわけだ。つまり荷主の意識改革が大事と言うことになる。

3.物流に広く委ねつつも、深く関係性を持つ

 「マガシークの場合、ファッションなので撮影や採寸から始める。だが、実際、自分たちでやってみると、なにこれ?みたいなことはあった。自分たちで物流会社の方々にシステムを提供しておきながらですよ(笑)」と正直な話を吐露。

 それ以降はスクラッチでやるようになって、一気に生産性がよくなったという。

 AMS古田さんは「マガシークさんはその物流会社に委託している範囲が大きい。そこから自ら入り込んで率先して改善した。だからこそ、対通販においては、物流会社が自ら手を施すよりも、中身が改善されたということだろう」と指摘すると、北川さんもうなづいた。ある意味、流通サービスと似ている部分もある。通販の仕組みを熟知した上での物流のあり方を推進したのだ。そして「マガシーク側でお金を出しているから、それが自分たちの利益に直結する。それだからこそ、できるのだと思う」と付け加えた。オープンブックの利点に改めて、言及した格好だ。

4.目先の判断で生産性を失わないように

 通販企業はその生産性を追うことは多い。だから、コンペなどを行い、すぐに物流会社を変えてしまうことも少なくない。それは、売上の方に気を取られて、物流に対しての理解が及ばないからかもしれない。その目先の状況に左右うされず、長く関係性を築き、お互いを知り尽くすことの意味もあるように思う。これは、先ほどの流通サービスとマガシークの両方に共通することだ。

 今一度、これからを想うなら立ち止まって考えてみよう。古田さんの話にもあったように、物流における生産性を高める要素は、むしろ物流の倉庫の外にある。鍵を握っているのは通販企業の中身である。通販企業が今こそ、長い関係性を見据えて、物流会社にその中身をオープンにして歩み寄り、現実に即した環境を整えることの大事さを思う。

 それが、思い切ったチャレンジを生むし、投資ができる根拠となって、業績にプラスに働く。だから、通販の個性を物流に生かすべきなのである。

 今日はこの辺で。

参考(小橋さんへの過去の取材記事):ZARA を世界一へ導う 戦略 高い 利益率 の秘訣

参考(古田さんへの過去の取材記事):小売店 の デジタルシフト その前に “在庫”で生産性を高めよ

【特集】オルビスや生協の物流で培った“流通サービス”の価値

 ネット通販が当たり前になるほど 物流 との関係性が課題になる。 化粧品 と 食品 という難しい商材と向き合う現場を取り上げます。協力してくれたのは、オルビスや生協などでがっちりとタッグを組んで存在感を示す流通サービスです。

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