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ボーダレスに自然と幻想を感じて、部屋から部屋へ羽ばたく僕ら。チームラボボーダレス

 以前からその可能性に注目していた。デジタルというととかく、生産性を高めるために、使われるものだけど、それをアートに振り切ったのが、チームラボ。麻布台ヒルズに出現した「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」は、今まで見たことのない表現手法で、360度アートの世界へと引き込む。場所という概念を超えて、デジタルから表現されるものには、自然へのリスペクトが感じられる。刺激を受けると共に心が癒されるのだ。

アートはもっと際限なく

 以前、森ビルからこんな話を聞いたことがある。森記念財団都市戦略研究所が発表する「世界の都市総合力ランキング」を例に挙げると、東京は(2019年時点で)世界第3位。同社が説明するには、ロンドンやニューヨークに比べると、文化とアートが劣っているのではないかと。

 単純に施設として、その街の価値を高めるのではない。その街を高める文化的側面が、日本の価値を底上げしていく。志の高い動きの中で、着目したのが、マップもなく、道標もないという発想の「エプソン チームラボボーダレス」である。

 際限なく広がるアートの世界。アートというと代々著名な作家は、キャンバスの中でそれを示し続けてきたものであったけど、その垣根を取り払う。それを具現化するために、用いたのが、デジタルであり、壁や天井、床に至るまで、本来、存在するはずのその境目がアートによって塗りつぶされて、来場者に没入感をもたらす。

 ただ、それは、不思議な話、サイバーな世界ではなく、むしろ逆。水の流れ、花びらがハラハラと舞うような自然のありようを、際限なく表現したもので、自然よりも自然な空間。

 例えば、このシーンは岩に憑依する滝。岸壁を思わせるモチーフで、そこに映し出されるのは神秘的な青々とした滝である。流れ出る水の様子を描くとともに、その横では鮮やかな花。ちなみに写真は猪子寿之社長。

部屋から部屋へと移動していく際限なき世界

 この日、案内してくれた森ビル 新領域事業部 板橋 令子さんは「この花を触ると、ハラハラと“散っていく”」と表現した。「舞うんじゃないんですね」そう聞くと「そうやって散っていく儚さを表現している」と答えてこう続けた。「人間と自然との適切な距離感を示している」と。

 なるほど。近すぎず、遠すぎず。生き物のありのままを表現しようとしている。

 また、案内の際、終始、よくカラスの話題を挙げてくれた。実は、カラスはこの場所では、象徴的な存在。なぜなら、至る所で現れる。これも同所の見どころの一つである。

 基本的には、テーマごとに色々あるアートの表現が別々に存在していて、それ自体が、壁や天井など、物理的な垣根を超えたものだ。けれど、彼女が強調したのは、その部屋と部屋、テーマの垣根を超えて、このカラスの群れは移動していくことである。

 だから、滝と花のこの場所にも、しばらくみていると、颯爽とカラスが現れて通り過ぎると、その花がまた散っていくのである。カラスが飛んだその風に煽られているのである。

 ちなみに、これらは、決められた時間で流れて、消えていく類のものではない。常に不規則に映し出されるものである。それは、花も人もともに、コントロールはできないけど、生き続けている。そんなメッセージを込めてのこと。デジタルとはいえ、自然への敬意を感じるのが、斬新だ。

物質的なものを意識的な形で表現する

 予定調和ではない演出は、至る所でみられる。彼らが創業時代から重んじている書道による表現もそうだ。ここでは、筆によって描かれた「雷」の文字が、壁伝いに舞い降りてくる。その文字を、直に手で触ると、ピカッ!その文字は雷の勇ましい光へと変化していて、圧倒する。蛍ならどうだろう。想像に難くないだろう。その答えは、現地で試してほしい。

 チームラボの手にかかると、彫刻すらも物質的ではない表現となる。それこそ彼らは境目のない曖昧な空間彫刻と呼んでいる。それがLight Sculpture -Flowである。

 「そんなものが存在するのか?」

 でも、例えば「海の渦」がそうで、その存在を感じるのはなぜ?そう問いかける。確かに言われてみればそうで、物理的なものではないのに形を認識する。だから、同じようにして光の渦を用いて、その存在を認識させる。いくつもの迫り来るライトとそれに反射するミラーを用いて、物質的ではない“彫刻”が可能となる。

 形が変わる彫刻。だから一つの作品が1、2分で消えていくのだ。彫刻の既成概念を打破している。

硬いものに柔らかさを感じる

 また、一方で硬くて物理的なものを、柔らかく揺れ動くように見せる。デジタルと映像の掛け合わせて、このような表現をやってのけるのが、Bubble Universeである。

 それを彼らは「ぷるんぷるんの光」と呼んでいる。球体の中にその弾力があるもう一つの球体があるのだ。これらの球体は部屋の無数にあって、しかもそれが、四方に張り巡らされたミラーによって際限なく広がる。見渡す限り、球体が目に入り、しかもその球体が現実離れしている。

 さらには、「Microsmoses」というテーマでは、同じ球体が、右から左へと走り続けていく。そして、僕らは物理的ではなく、認識でその存在を感じ取る。

あらゆる幻想が掛け合わさる

 この球体は、次の「スケッチオーシャン」というテーマでも自然に、走り抜けていく。

 「スケッチオーシャン」はその名の通り。来場者が絵に描いた魚が、他の人の描いた魚と目の前の海で泳ぎ出すというもの。先ほどまで、クレヨンで書いていたその絵が、動き出すのだから、想像を絶する。

 これもまた、僕らのアクションにインタラクティブに反応を示していく。それは、生き物さながら。しかも、これらは、「チームラボ スケッチファクトリー by チームラボボーダレス」で、オリジナルのプロダクツにできる。カンバッヂ、Tシャツ、トートバッグなど。

 また、絵を描く横では、球体が移動している。先ほどのカラスと同様に、連続性とストーリーを感じて、それにも心が奪われる。

癒しに浸るそのお茶までもが幻想的

 すごい、その言葉に尽きる中、こちらで一息どうですか?そう言われた。

 驚く勿れ、物質にとらわれない価値は、一服のお茶でももたらされる。

 「EN TEA HOUSE」というコーナーではお茶を飲むことができる。だが、差し出されたお茶を見ると、その表面に、茶柱ではなく、花が咲くのである。茶がある限り、花は咲くのであり、お茶の場所を変えれば、その変わった場所でまた、花が咲く。ゆっくり咲くその花は心を癒してくれる。

 ただただ、その没入感に圧倒された。

 そして、また先ほどの滝のところに戻ってきたら、ちょうど、またカラスが颯爽と現れて、花を散らしていくところだった。先ほど、他の数々の拠点で見たあのカラスだ。そう。僕らはカラスとともに、この空間を幸せに浸りながら、彷徨っていたのだ。

  不思議とデジタルでありながら、経済的な意味合いや生産性の概念が少しもない。

 今まで見たことのないデジタルを使った表現手法は、360度アートの世界へと引き込み、僕らを圧倒する。場所という概念を超えて、デジタルで表現される世界に、自然へのリスペクトが感じられるのもまた、風情がある。語弊を恐れずいうなら、ルールに背いて、不規則な動きをみせる、それ動きこそ、自然そのもの。予定調和ではない驚きは、だから、感動とともに自然さながらに僕らに幸せを与えてくれるのだ。

 今日はこの辺で。

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