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違いを映すヒーローたち―クリエイターが紡ぐ新しい価値観 デザインフェスタ vol.60

 人は誰しも、日常が違うし、だから、見える世界も異なる。クリエイターは、皆、その違いを作品で映し出す、ヒーローである。「デザインフェスタ vol.60」は、アジア最大級のアートイベント。会場には約6,500のブースが設けられ、1万人以上のアーティストが参加している。作品たちは、そのそれぞれのフィルターを通して新しい価値観を優雅に表現し、私たちの心に響かせてくれる。

アーティストにとっての特別な場所

 60回ということは、(年2回やっているとすれば)30年前からやっているということか。当然、今のようなネット環境は存在しない。自分の作品を世の中に発信するのは、今以上に難しい時代だった。だからこそ、アーティストも作品を通じて、自分の想いや世界観を自然に語ることができる、デザインフェスタは、特別な場所だったのかもしれない。

 ただ、今はだからと言って、その価値が薄れたかと言えば、とんでもない。東京ビッグサイトの駅を降りるなり、物凄い人の数で、その熱狂ぶりは年を追うごとに増しているように思う。普段、デジタルで接しているアーティストと、ファンの間でも、直接会いたい心理は、こういうところに現れている。デジタルの時代を迎えて、デザインフェスタは、一層、その輝きを放つのかもしれない。そう思った。

 また、アーティスト同士の出会いが、その後の人生を変えていくこともある。

 Akoさんが絵を描く道を歩み始めたのは、偶然訪れたデザインフェスタでの出来事がきっかけ。そこで目にしたのは、アーティスト・きくちゆうきさんがライブペインティングで描く生き生きとした絵。その姿に魅了され、「私も描いてみたい」と心が動かされた。

きくちゆうきさんにならい、自らの意思で絵を志すように

 もともと教科書に落書きをする程度だったというAkoさん。しかしきくちさんの作品に触れたことで「絵を描く楽しさや可能性に本気で向き合いたい」と決意する。そして、独学ではなく、自分の意思で専門学校に通い始め、基礎からしっかりと学ぶ道を選んだ。

 現在、Akoさんはデザインに関する仕事をしながら、自らの作品を手がけている。

 日々の仕事に追われる中でも、絵を描く時間を確保し、作品作りに励む毎日。「忙しくても、描く時間を持つことで自分のバランスを保てる」と語るAkoさん。絵を描くことは、ただの趣味ではなく、生活の一部として深く根付いている。

 なるほど、、、と感銘を受けながら、彼女に言われた「きくちゆうき」さんのもとへ。そして、驚いた。あ、この絵は見たことがある、、、と。

 「100日後に死ぬワニ」で世間を賑わせた作家である。それだけの作家がしれっと、ライブペインティングをしているというのが、デザインフェスタの面白さでもある。

 本当に、皆、頑張っていて、血が通っている。

余り布をアートに

 ライブペインティングブースでありながら、あれ??ペインティングをしていない。クリエイターAkinoさんは、自身のブランド「parca silky」の制作過程で余った布を使い、新たなアートを生み出していた。

 「真っ白な状態から少しずつ布を貼り付ける。その過程自体が創造の楽しさを引き出してくれるんです」と語る彼女。限られたスペースやコストを工夫しながら、新たな可能性を見出した挑戦だった。

「parca silky」というブランド名には、「天使や妖精のような繊細さと優しさ」を表現する想いが込められている。「parca」は運命、「silky」は光沢感を意味し、唯一無二のオリジナリティを目指したネーミング。

 とはいえ、理系出身のAkinoさん。デザインの道に進んだ背景には、幼少期に祖母や母と楽しんだ裁縫の思い出がある。「最初は、上手とは言えない縫い目のポーチを作っていたんです。でも、それが楽しくて。自分の手で形を作ることに夢中になりました」と振り返る。

 自身が来ているのがその作品。また、ビーズのアクセサリーを見れば、コーティングされていない天然石を使用。

 それは不器用で生産性が高いとは言えないほどに想いを込めている。(僕的には、褒めている)。この天然石にしても「長く使っても色褪せない素材を選ぶことが、お客様への思いやり」だという。作品を通して愛情が作る人から使う人へと引き継がれていく純粋な世界だ。

それぞれにとって作品は特別

 中には、作品によって自ら救われたという声もあった。

 maryamさんは以前、働いていた時に心を病んでしまった。何かを作ってみようと考えて、その時、やり始めたのが編み物。作っているときは、そういうことを忘れられた。だからこそ、この編み物に想いを込める。自分が元気になったように、つけた人が笑顔になるようにと。

 不思議と、それが作品と作家とファンをつなぐコミュニケーションの手段となっている。これで、ご飯が食べられるほどになったというのだから、尚更驚きである。TikTokを見れば、優しさが伝わるその魅力がわかるだろう。

 そして、好きは力である。

 natty spiceの二人は、ニュージーランドへ留学へ行き、好きになりすぎた。だから、何が良いかもわかっているので、有名なものを含めて、「Zine」(冊子)に想いを込めて、販売している。

 丁寧なつくりで、魅力的なものをAからZに割り当てて、興味が途絶えないような工夫をしている。イラストはどうしよう、絵はどう添えよう。そんな作家側の楽しくも大変な作業模様が目に浮かぶ。

「描き続ける日々」URARAさん

 こちらは、ひと目見ただけで心を掴まれるURARAさんのキャラクターたち。その背後には、彼女自身の思いやこれまでの歩みが詰まっている。言葉にできない感情や懐かしさ、どこか不思議な温かみが宿っていた。

  動物でも人間でもない独特な造形は、見る人に想像の余地を与えつつ、不思議と親しみを感じさせる。

 「私、感情を言葉にするのが苦手なんです。でも、この子たちを描くことで、少しずつ自分の中の思いを形にできるようになりました」との言葉には、キャラクターたちがURARAさん自身の心を映し出す鏡のような存在であることが伝わってくる。

 「高校生の頃から落書きのように描いていましたが、発表する勇気が持てなくて。デザフェスに参加することができたのは、ずっと描き溜めていた作品を見直して『せっかくだから挑戦してみよう』と思えたからです」と、少し恥ずかしそうに語る姿が印象的。

  普段はダンサーとして活動し、ダンスを教えているURARAさん。全く違っているじゃん!そう僕は言いつつ、実は同じなのかもと思えてきた。体を使った表現が日常の中にあるからこそ、キャラクターを描く中で自然と生まれる動きや感情が表現に反映されているのかもしれない。

漢字もまた表現の対象

 「なんだ、これ?」そう思って立ち止まったのが、こちら。文字が球体になっている。想像を超えるアートの誕生だ。

 「文字を球体にする」という独創的なアイデアを具現化したのは、skyfishさん。

 最初の発想は、「立方体を丸い形状にいくつも切り取ったらどうなるだろう?」という単純な疑問。結果として球体のような形状が生まれる過程を観察するうち、「文字でこれをやったら面白いかも」というアイデアがひらめいた。

 そして「平仮名やカタカナではなく、漢字の球体が圧倒的に売れる」ことに気づくわけである。漢字が持つ一文字ごとの意味や深みが、球体という形状に込められるからではないかとskyfishさんは語る。実にユニークである。

「灯すだけじゃない」キャンドルの新しい世界

 また、「candle shop film」のブースで展示されていたキャンドルたち。それは、ただ火を灯すだけでは終わらない、アート作品としての存在感を放っていた。

 ほら。光を当てると、その形状や素材から生まれる光の乱反射が、周囲に幻想的な模様を描き出す。その様子はまるで光と影が織りなすアートパフォーマンスのようだ。

「キャンドルを通じて空間全体が一つの作品になるように」。そう語る制作者の言葉通り、灯された空間に新たな価値が生まれる。

 それぞれに込められた意味があって、例えば一見すると球体のキャンドル。彼らはそれを月に例える。つまり、火を灯すと、徐々にかけていく。そこから、それを月の満ち欠けになぞらえて、自然を表現しているわけだ。

 独特な形状なものも多く、食べられそうなくらい美味しそうな見た目だったり、ジェリーのような質感を持つもの。いずれも、ユーモアと感性に溢れたデザインが随所に見られる。手に取るとその重みや質感からも細やかなこだわりを感じ取れる。それは空間を演出するアートであり、日常に驚きと癒しをもたらすアイテム。使う人の感性に新たなインスピレーションを与えてくれるのだ。

谷中の雑貨カフェ、馳せ参じる

 んん?ジンジャエールをお茶目にストローで飲むシロクマ・・・・・。

 あ、これは「やなか健真堂」のグッズだ!!そう僕は呟いた。谷中で週末カフェを営む伊藤健さんが手掛けたものなのだ。伊藤さんは平日は別の仕事に取り組む一方で、週末になるとお店に立つ。理由は単純でありながら力強い。「店をやりたいから」という想いだ。

 上は店内の様子。店内では雑貨へのこだわりも垣間見え、伊藤さん自身がプロデュースした雑貨が並ぶ。だからこそ、自慢のグッズをデザインフェスタに持ち込んだのだ。シロクマをモチーフにした缶バッジなど、ありがちな安っぽさはなく、細部にまでこだわりが感じられる。シロクマが侍のように佇むデザインは、特にインバウンド客にも好評だという。

 今回の出展では、思いがけない喜びもあった。店を訪れたことがあるファンがデザインフェスタに訪れ、声をかけてくれたのだ。「自分たちが思う以上に知ってくれている人がいると気づけたのは、大きな励みになった」と伊藤さんは語る。

 店を持つという夢と、そこから生まれる作品。それが谷中の街並みを背景に、さらなる共感を生んでいる。

時として時流に乗りブレイクする作家

 色々な形で思いがけずブレイクするものだ。このキャラクターを見たことがある人もいるのではないか?

 HITOE USAGIといって、LINEスタンプでブレイクした。正直、それまで作家のNEGIさんはデザインで光が当たることはなかった。それは、些細なきっかけから始まった。「LINEクリエイターズスタンプ」の始まりの頃にスタンプを出したものの、伸びが今ひとつ。

 スタンプでのウケを狙って、ユーザー目線に寄せて、うさぎの顔を大きく、丸いフォルムにして、目を横長にして印象的に付けたところ、大ヒット。その後も、スタンプは売れ続け、その認知もあって、デザインフェスタでも商品を出し、そのファンとの接点を楽しんでいる。

NFTで花咲き、リアルで広げる

 Mocoさんが手掛ける「wear bear」はNFTで脚光を浴びた。アパレル好きなご自身の個性とデザインとを調和させて、自分の立ち位置を明確にしたことで、ファンの心を掴んだ。

 クマは8体いて、それぞれ性格が異なっているからこそ、それを着用する洋服が異なる。そういうコンセプトなのであり、各々ファンは自分に置き換え、愛着を抱くようになっていったのだ。自身がアパレルに詳しいからこそ、その性格に合わせたウェアーを着用させることができる。

 ただ、NFTで脚光を浴びながら、最近はその主戦場をリアルにシフトした。

 こういう近況を聞けるのもデザインフェスタの醍醐味。NFT市場は急激な成長を遂げる一方で、投機目的の取引が問題視されるようになり、熱狂が落ち着き始めているという。キャラクターへの愛着ではなく儲かるか儲からないか。それは、ユーザーとの交流を重んじているMocoさんとは方向性が異なる。だから、従来、ファンでいる人との交流を求めて、デザインフェスタへ出展。

 ここで、ソフビフィギュアにチャレンジをしてフィジカルな商品で魅力を伝える。最終的には、例えば、NFTを持つ人には優先的にこれらのフィギュアを購入できるようにするなど、ファンとの関係性を深める方向性にNFTを活用できれば、と夢を語るのだ。

デザインフェスタは価値観と出会いを届けてくれる特別な場

 かくして、デザインフェスタは、私たちにさまざまな価値観との出会いを届けてくれる特別な場である。

 人は誰しも、日常が違うし、だから、見える世界も異なる。クリエイターは、皆、その違いを作品で映し出す、ヒーローである。作品たちは、そのそれぞれのフィルターを通して新しい価値観を優雅に表現し、私たちの心に響かせてくれる。

 デザインフェスタは、いつの時代も、その時々を生きる人たちの気持ちを真っ直ぐに映し出してきた。それは単なるイベントではなく、人の感性や想いが交差し、新たな何かを生み出す場所で、心の共鳴が広がるような特別な空間なのである。

 ここで感じた何かが、あなたの中に小さな種を残すかもしれない。そしてその種が、いつかどこかで芽吹き、また新しい何かを生むきっかけになるかもしれない。

 今日はこの辺で。

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