【2020年版】小売 世界 ランキングと技術革新の最前線——リアル×ネット融合の潮流

今の小売業界がどのように変化しているのか。それを知るうえで、毎年公表されている「世界の小売業ランキング」は非常に参考になるものである。コンサルタント会社のデロイトトーマツが作成する「Global Powers of Retailing」は、世界中の大手小売企業の売上高や事業動向を分析したレポートで、2020年4月15日にその最新版(日本語版)が公表されたのだ。
今回の記事では、このレポートから主要な事実を紐解きながら、二つに光を当てる。テクノロジーの進化が小売の売り場にどのような影響を及ぼしているのか。そして小売業界全体の潮流がどのように変わりつつあるのか。
2020年のポイントは・・・・
- Amazon.comが順位を上げ、初のトップ3入り。
- Walmartは22年以上連続で1位に。
- 日本企業はトップ250に29社がランクインし、最上位は13位のイオン
1.小売 世界 ランキング の傾向
1-1. 売上高トップ250社が押し上げた成長率は4.1%増
まず、今回のランキングで分析対象となったトップ250社の総小売売上高は4.74兆米ドル。1社あたりの平均小売売上高は190億米ドル。対前年度比の平均成長率は4.1%、平均純利益率は3.0%、平均総資産利益率(ROA)は4.7%と報告されている。

さらに、この上位250社のうち、国外事業を展開している企業の割合は64.8%に上り、グローバルでの事業拡大が進んでいることもわかる。国外事業の売上割合は22.8%、1社あたりの平均展開国数は10.8か国に達する。
下記が、2020年版ランキングでの上位10社である。

(出所:Deloitte Touche Tohmatsu Limited. Global Powers of Retailing 2020. 2019年6月30日を期末とする事業年度について各社のアニュアルレポート、 Supermarket News、Forbes Americaの大手非上場企業および他の資料をもとに分析。)
1-2.トップ3が世界ランキングに君臨できる理由
今回の分析を見ると、トップ5の顔ぶれ自体は昨年と変わらない。しかし、Amazon.comは18.2%という高い小売売上高成長率を記録。初のトップ3入りを果たしている。
- ・Walmartは22年以上連続の1位
- ・Costco Wholesaleが6年連続の2位
- ・Amazon.comが3位にランクイン
1位:Walmart
米国既存店の売り上げ高の好調により、2018年の小売売上高は2.8%成長。とくにオムニチャネル戦略の一環であるeコマースへの投資(2018年度は54億米ドル)により、オンライン売上高は40%増加した。
店舗を受取拠点とする「ネット購入→店舗受け取り」施策に加え、Eloquii(プラスサイズ女性向けアパレル)やNecessities(下着小売企業)を買収するなど、リアルとネットを融合させる戦略が実を結んでいる。
2位:Costco Wholesale
2017年度比で1.0ポイント改善の9.7%の売上増を達成。倉庫型店舗(ウェアハウス)の新設や来店客数、客単価の増加が大きく貢献している。
特筆すべきは「Zest Fresh」と呼ばれる仕組み。農作物の鮮度をデータ分析し、必要量を最適なタイミングで仕入れて廃棄を抑制。食品廃棄半減によるコスト削減を会員への還元に回すことで、さらなる集客力と成長につなげている。
3位:Amazon.com
前年度比18.2%増。その圧倒的な成長率を背景に、初のトップ3入りを果たした。eコマースでのノウハウを活かし、Whole Foods Marketの買収効果や値下げ戦略、配送サービスの拡充などを積極的に進めている。
拠点となる物流用地の購入や貨物輸送機の増強など、ネットとリアルの垣根をさらに取り払う動きを加速させ、小売全体でのトップを狙う姿勢がうかがえる。
2.アジア太平洋の傾向はいかに
2-1.買い物が変化 eコマース、mコマース影響大
アジア太平洋地域では、若いミレニアム世代などミドルクラスの買い物行動の変化や、実店舗を持つ小売企業によるeコマース・mコマース(スマホでの購買)の導入拡大が、売上成長を大きく牽引している。
参考:ECと実店舗の融合が小売を変える:デジタル武装の理由と未来戦略
イオン、JD、セブン&アイ・ホールディングなどは小売売上高を押し上げている。その一方で、アリババは海外での小売事業拡大のため、前年度比154.4%の成長を記録。買収を繰り返しながらニューリテール戦略を展開。オムニチャネル分野での存在感を急速に高めている。
2-2. 日本企業のランクインは29社
一方で、日本企業はトップ250に29社がランクイン。最上位は13位のイオンである。前年より2社減となってはいるが、それでも主要企業として世界市場で一定の存在感を示している。

3. 世界の小売を俯瞰すると——ネット×リアルとAI活用
ここまで見てきたように、世界の名だたる小売企業はネットとリアルを融合した戦略を積極的に打ち出している。かつてはリアルを主戦場としたウォルマートが、eコマース事業に巨額投資を行い、店舗受け取りサービスを強化するなど、リアルとネットの垣根がなくなる動きが明確である。
さらに、コストコの「Zest Fresh」のように、生産現場と小売現場をデータでつなぎ、AIを含むテクノロジーを駆使してサプライチェーンを最適化。廃棄ロスを減らす取り組みも進展している。これにより、コスト削減分を利用者に還元しつつ、パートナー企業の生産性向上にも寄与するという好循環が生まれているのだ。
技術革新の波を受け、もはや「ものを売る場」だけではなく、データを活用してあらゆる立場の価値を最大化させるプラットフォームへ変貌する動きが小売業界の大きな潮流となっている。
まとめ—コロナ禍の今だからこそ学ぶべきチャレンジ
現在は新型コロナウイルスの影響で、多くの企業が事業の先行きに不安を抱えています。しかし、世界ランキング上位の企業を見ると、ネットとテクノロジーを積極的に活用し、早い段階で方向転換や挑戦を始めることで、着実な成長を遂げている実態が浮かび上がってきます。
「リアル店舗 vs ネット通販」という対立構造ではない。「リアル×ネット」で顧客や生産者、あらゆるステークホルダーの満足度を高めるためのテクノロジー投資こそが、これからの小売の要諦といえるだろう。
世界トップクラスの企業が取り組んでいる施策や技術革新を参考にしつつ、いまこそ日本の小売業も次のステップに向けて新しいチャレンジを進めていく必要がありそう。
本レポートに関する詳細は、デロイトトーマツが公表している「Global Powers of Retailing 2020」をご確認ください。今後の小売の動向を知るためにも、大いに参考になるデータと言えそう。
今日はこの辺で。