楽天市場とAmazon比較 異なる商品販売の手法に学ぶ ボトルシップ佐山さんとインサイトアイズ榊さん対談
今日は、改めて、Amazonと楽天市場の売り方における根本的違いを探りたいと思ってこの二人に聞いた。一人はボトルシップ代表取締役 佐山陽介さん。もう一人はインサイトアイズ 代表取締役 榊 洋三郎さんだ。人は、場所に合わせて衣装を変えることで、その魅力が引き立つように、商品も売り先に合わせて、異なるアプローチをしていけば、まるで売上も変わる。数多くの商品に埋没してしまう前に、その違いを知ることが大事。二人の話を聞けば明らかである。
同じ感覚で商品登録していませんか?
佐山さんは、人情派(笑)。もともと楽天出身であり、食品領域のECコンサルタントの経験者だ。ボトルシップを立ち上げ、見事な着眼点で、その事業内容は「逆・越境EC」。海外メーカーは、日本のECマーケットを知らない。そこで、英語などを話せる彼は、日本のEC事業者に対してさながら、海外メーカーに日本のECを運用代行や、コンサルタントで指南するわけだ。当然、楽天市場での戦略分析は、お手のもの。過去と今の両方を熟知する。
参考記事:海外企業が日本のECで売る“逆・越境EC” ボトルシップの逆転発想
この人情派という言葉が何を意図するかは、この後読んでいけばよくわかる(笑)。
一方で、インサイトアイズの榊さんは理論派。ゆえにAmazonの独自のメカニズムは彼の性に合っていて、遊んでいるより仕事が楽しいというくらいだ。笑。具体的な数字は差し控えるが、様々な店舗から劇的に売上が上がったとの報告を受けており、それは一過性の広告施策ではない。商品独自のポテンシャルを引き出すのがうまい。それは、彼自身、Amazon内で、本質的に解き明かす商品分析がなせる技ゆえである。
参考記事:Amazon 広告活用する前に おさえておきたい大鉄則
店を軸にしているからこそ活きる戦略
Amazon、楽天市場、ともにネット通販という意味合いでは同じだし、また、事業者も一律同じような感覚で商品登録をしている人が少なくない。ただ、二人の話を聞けば聞くほど、それではダメだと思った。それらは全く性質の異なるマーケットであることを痛感させられたからだ。
感心したのは、「楽天市場」という事業形態の特徴である。初歩的な話だけど、改めて「店舗」に重きを置くことで成り立つビジネスモデルであると気付かされた。出店すると、ECコンサルタントが店舗ごとにつき、文字通り、二人三脚でやっていく。
ECコンサルタントこそが、実はこの店を重視する戦略上、欠かせない存在となっている。だから、楽天は全国に支社を構えていて、後で触れるが、実はこれが理にかなっている。それは、今やモバイルにも着手する楽天であっても、企業価値に相当する強みだと思った。大袈裟になるかもしれないが、経済圏の核だと思う。
ただ正直、あまり、それによる利点を僕は考えたことはなかった(失礼!)。今回、佐山さんの話を聞いて、初めて納得した次第で、戦略としてはいたってシンプルである。まずは、楽天市場において、スーパーSALEやお買い物マラソンなど、定期的に行われるセールをヤマ場として仕掛けを行う。
実はこれこそが店舗の魅力を最大化する仕組みであり、読み間違えると、出店店舗そのものの命取りにもなる。
セールでの仕込みが大事
「スーパーSALEなどでは“仕込み”を“一緒に”考えることが重要」と佐山さん
“仕込み”は商品、価格、切り口全てを指す。商品の選定でも何でもいいわけではないから難しい。例えば、農園を運営している店舗であれば、果物はたくさんある。
そこで「みかん」ひとつにしても、「切り口でトピックとなる要素は何か」を店舗と洗い出す。佐山さんが例に挙げたのは「葉獲らず」。葉を取らないみかんが話題を集めたことがあったという。だとすれば、そこに照準を当てる。楽天市場というマーケットを的確に把握した上で、カテゴリーや切り口の(「楽天市場」内での)穴を“店舗と一緒に”探して勝負していくわけである。
僕もふと、その話を聞いて「下町バームクーヘン」という店舗の飛躍の話を思い出した。バームクーヘンを売るために、まず「切り落とし」の商品でヒットを掴んで、波に乗ったのだった。
関連記事:東京 錦糸町の人気店 下町 バームクーヘン 商品力で挑む
その上で、差別化ポイントとして価格の意味は大きい。ただこの価格も、セールでの施策が要因となって退店もいるくらいで繊細である。後述するが、ここがECコンサルタントのサポートがあると有利に働く所以で、命取りになると書いた理由でもある。
これらの伴奏が上手くいけば、楽天市場のランキングに反映される。それを見て「よし!」という具合に、店舗とその実績を分かち合う。まさに二人三脚で勝ち取るのだ。
商品選定がそれだけ繊細な理由
だからこそ「彼女より電話をした(笑)」と、佐山さんが語るほど。電話が肝となる。店舗もメルマガを書いている最中に、その手を休め、その電話を受け取り話をする。
楽天市場の店舗で上位に来るのが黎明期からやっている店舗なのは、そこがわかっているから。先行者利益だというのではなく、ECコンサルタントをフルに使い倒して、一緒に勝ち取ることを知っている。
だから、全国に支社があるのだ。身近なところにそのECコンサルタントがいる方が機能しやすい。対話も多くなるし、時に盃を交わすことすらあるだろう。これを創業以来、ずっと続けてきたことの利点は大きく、他社が後追いでこれをやろうとしても簡単ではない。ゆえに、経済圏の核なのかもと書いた次第だ。
また、人情派と書いた所以はそこにある。だから、そこで関係ができず、セールの活用の仕方を見誤ると、全てが崩れる。そこが楽天に対する印象を真っ二つに分ける“盲点”である。
繰り返しになるが、セールにおいて価格は重要である。結局、同じカテゴリー内で、価値の近い商品がひしめき合っている。だから、そこでトップを取るには「利益を度外視してでも」ランキングを取りにいくことになるわけだ。
売れる商品と利益を取る商品を明確に分けておく
でも、それじゃ、採算が取れないじゃないですか?と榊さん。そう!まさに、僕が思ったのもそこだ。
「実は、ここで大事なのは『売れる商品』と『利益を取る商品』を明確に分けておくことなんです」と佐山さん。
「『店舗』であるがゆえに」長いスパンでお客様との関係を見ることができるのだ。セールは大量に新規獲得をする為の手段と割り切る。しかし、会社にとって利益貢献するのは、これらの商品ではない。そこで獲得したお客様に対して、その後も丁寧にアプローチを重ねて、利益の取れる商材を購入してもらう。こちらのほうが、店にとっては重要なのである。
そうか、確かに楽天を離れる店舗ほど、ここで商品を分けて提案していない。
気付いたのは、ここで成否をわけるのは、商品力だということ。語弊を恐れず言えば、競合で売れている商品があったとして、裏面を見れば、原材料などもわかる。もしも、そこで自らが工場を持ち、生産能力を持っていたとすれば、どうだろう。それを必要な数量、セールに向けて作るのである。それで、もしそこを軸に新規獲得ができて、先ほど触れた、本来、利益の取れる商品へ導けば、店の伸び代となる。
これは確かにこれは強い。
網をかけてまずは大きくとりにいく
聞いていて思ったが、語弊を恐れず言えば、セールは大きな網にかけるようなものなのだ。
当然、ここで店によって、戦略が違ってくる。そのセールやメルマガなどの日常で、その理論がわかっていれば、あとは、その商品開発などにどれだけ投資できるかという話になる。
「取れるジャンルを全て取りにいく」というパターンがあるのに対して、商品ジャンルだけで取りにいく戦法もある。変な言い方であるけど、海鮮品全体を取りにいく店もあれば、ある特定の商品ジャンル、例えばカニなどがしっかり取れればいいという店もある。
それは、経営者の姿勢による。時に博打になることもあるが、当たれば大きい。
逆に言えば、それがネット通販の醍醐味でもある。
それで格段の飛躍を遂げた店舗もあれば、身の丈に合わせて地道に続ける店舗もある。どちらも正解だ。ただ、おさえるべきは棲み分けなのだ。いずれにせよ、『売れる商品』と『利益を取る商品』を明確に分ける事は楽天市場の肝である。これは、継続的な関係が生まれる「店」だからこそできる強み。楽天市場の強さの理由ということもできるだろう。
「なるほど!!それで合点がいきました」と榊さんは言って、次のように続けたのである。
「確かに、Amazonであれば『店』単位でのアプローチは難しい。だから、プロダクト単位で確実に取りに行かざるえないですよね」。
プロダクト単位で見ていくから戦略はまるで異なる
だから、彼自身、セールでの勝負は全く自らのクライアントには勧めていない。
確かに、Amazonでそのような戦い方に積極的な店もいる。しかし、割と中国系企業が多く、彼らは現地で安く商品を作れる環境にあるから、好き好んで叩き売りをするようにも見える。考えてみれば、その考え方を推し進めれば、昨今、話題の「temu」になるわけである。それはそれでやり方としてはあるだろう。
ただ、それは中小企業でやる戦い方ではないと榊さんは断言する。面白いのは「安く売る」という意味合いが楽天とは違う文脈で語られている点だ。では、どう戦うのか。
榊さんの話を聞いていると、改めて、Amazonのビジネスにおいて、キーワードが重要であることを思い知らされる。その証拠に、Amazon自ら、売れているキーワードに関しての情報はオープンである。それがなぜかといえば、それこそが、Amazonのビジネスで欠かせぬ根幹部分だからである。
つまり、商品を決めて探す過程で、Amazonにアクセスするユーザーが圧倒的。Amazon内でもそうだし、ブラウザーからの検索流入も含めて、どのキーワードであれば、ふさわしい商品に辿り着けるか。この精度を高めるほど、Amazonの利用価値が上がる。だから、Amazonも積極的にオープンにしているわけで、店は比較的、手に入れやすい。その環境の中にあって、活用しない手はない。そう語るのが榊さんである。
辿り着いてもらうためにトレードオフが大事
佐山さんの話を踏まえて、しみじみ「楽天と違って店舗で見ることはできない」と語る。
だとしたら、プロダクトで見たら、他とどう違うのですか?という話なのである。「他と違うのであれば、それをちゃんと引き出してあげる。それはその商品の付加価値を示すことになるから、そこの部分で戦えば「いい商品ですよね」って話になるでしょう」。
そこの部分をより明確に示してお客様と繋ぐ要素が、キーワードなのだ。
では、その他との違いをどう洗い出すか。一つにレビューがあるという。競合商品で見るべきは評価1でも5でもなく「3」の内容。それらの感想は冷静で、感情的ではなく、率直に「ここが良ければもっといいのに」などその商品のウィークポイントが書かれることが多く、それが自分の店の強みとなりうる。
「競合に対してトレードオフを迫るポジションに自分が立てると、競争に陥ることがない」。
至って健全な考えである。商品には様々な特性があり全部をアピールしようとするから失敗する。それをAmazonというマーケットに狭めて考え、必要な特性だけに焦点を当てればいい。
世の中に完璧はない。だからビジネスが成立する。シーソーのようだ。
「競合商品がこのポジションを取るのであれば、相対的に別のそのポジションは取れなくなります。相手が取れないポジションを、徹底的に磨きをかけていけば、結果、その商品が“Amazon内では”唯一無二の立場に立てるのです」。
商品力の活かし方が異なる
もしも唯一無二と言える材料がなかったとする。でも、その答えはAmazonであれば、やっぱりキーワードにある。ロングテールキーワードを見て「この部分であれば、御社の商品は優位に立てます」というものを探していくことで、結果、立ち位置を見出す。
ただ、Amazonにも弱点がある。榊さんは付け加える。集まるのは、新規ユーザーに偏ってしまうことだ。商品を求めて買いに来たら、そこで完結してしまうからだ。
だから、一長一短。長い目で見れば、楽天市場で継続的に購入して、LTV(顧客生涯価値)が高いお客様が多く見られることに、価値を感じる店舗もいると佐山さん。ここが非常に興味深い。ただ、だからと言って継続顧客という意味で楽天が盤石かと言えば、そうではないというのも面白い。
佐山さんから言われた自社ECの存在の大きさだ。彼は日本のECのマーケットを俯瞰する中で、自社ECとSNSの相性の良さを痛感することが多い。Instagram、TikTokからワンタッチで自社のECサイトに飛べる。それで、そこでの施策がそのまま、反映される。SNSはその店の価値観を顕著に示すから、プラスに働くのはいうまでもない。
その点、楽天市場は店のカラーを重んじているが、自社ECほど、SNS連携がシームレスだとは言えない。
どこで売るかではなく、どこの誰に売るか
ただ、楽天にいわせれば、自らで作った経済圏がそれに匹敵するだけの価値を持つというわけである。どちらが良いというのではなく、どちらにもマーケットがある。それを店側が把握して、使い分けていくことが大事だと声を揃えるわけである。
私見になるけど、上記を踏まえて、誤解を無くすよう、楽天も努力するべきではないか。一見すれば、売れる商材を安価で短い納期で仕入れる流通があるところが、勝ち組のように思える。けど、それは一側面でしかない。見るべきは、そこで商売が成り立っているわけではないということ。寧ろ、利益が取れている商品とのバランスについて、目を向けるべき。それを踏まえて、自分の店舗との相性を見て、利益が取れるかどうかで判断するべきだと思う。
Amazonも然りである。売れることを優先して、安易な広告施策にとらわれることは、かえってその個性を埋没させ、企業を危機的な状況に追い込む。今はある意味、SNSなどがあって、誰でも発信されてしまう。だから、エビデンスや検証がないまま、売れるとはどういうことかまでミスリードして、何よりそれを目にした企業が窮地に追い込まれることもある。
改めて、人がどこでその服を着るかで見違えるように、商品もまた、どこで売るかでその魅力の発揮の仕方は異なり、売り上げを左右する。冷静に、それぞれのマーケットとどう向き合うべきか。店が、それを考えることは急務なのである。
今日はこの辺で。