必要なのは“最小公倍数”の経営 CRM研究家 西野博道さん 「チームメイト」オフ会(前)
必要なのは“最小公倍数”の経営。やずやの大番頭として、通販業界を引っ張ってきた西野博道さん。彼はまた、そんなユニークな表現で、企業の本質を説明した。そして、その年商が今、幾らであれ、年商100億円企業と、その伸び“続ける”企業との間には、そこでのマインドに大きな違いがない。そのことを強調して、このメディアのコミュニティ、チームメイトのオフ会に集まる人に、発破をかけたのである。
関わる人、全てがハッピーと感じることを。
そもそも、彼がやずやに入ったときは社員は自分と女性のパートタイム労働者しかいなかった。年商も3億円。しかし、13年後には年商470億円まで伸びることになった。
果たして、やずやの何が変わったのだろう。
いや、年商3億円の頃も、15億円の頃も、470億円を達成した時も、全く変わらなかった。結局、年商100億円を達成するマインドとしてあったのはシンプル。社員、家族、取引先、関係する全ての人がハッピーと感じることをコツコツ、続けていく。ただそれだけだったのだ。今、年商が幾らであっても、その100億円を達成するマインドが、必ずや、その企業にとっての明るい未来を指し示す。
だから、今日、この日、集まる皆に当てはまることだと熱っぽく説くわけである。
では、100億円を達成できる企業と、そうではない企業。その二つは一体何が違うのだろう。それは、「売上が積み上がっている」ことである。
例えば、4年前、3年前、2年前と、「長く付き合っているお客様の方が売上が高くなっている」。一方でそこに満たない年商50億円〜60億円くらいの企業の多くは「最近のお客様の売上が多い」のである。
年商100億円になる鍵は何か?
では、そうだとして、年商100億円になるための鍵は一体何なのか。
一つ目が「年商」に比例する指数を使うかどうかということだ。大抵の企業は、「今日」の売上、「今月」の売上を追いがち。だが「年商」に比例する指数を用いて、会社の業績を判断しなければいけない。
二番目が、現場と経営者が同じPDCAでまわっているかどうか。経営者がやっていることと、現場スタッフがやっていることが、食い違っている事が少なくない。上記で明確となった指標に沿って、うまく歯車が噛み合うように、施策が循環していなければ、これがまたうまくいかない。
三つ目は、お客様のことが見えているのか。最終的には「お客様が満足しているのか」。それが見えていることで、初めて上記の検証ができるというわけである。
今、上記の通り、大きく3つに分けたけど、少し掘り下げて考えていこう。
一つ目の「指数」に関して言えば、ことの本質を見つめることが大事だ。
LTVと売上の相関関係
例えば、「LTV(ライフ・タイム・バリュー)」は実は売上とは相関しない。多くの通販企業は、LTVをあげようとして、稼働顧客にキャンペーンを打ったり、DMを送信したりしてしまう。ところが、それは気がつくとその売上の土台を形成している顧客そのものを失うことになる。
だから、受注件数などを追うのも同様だ。改めて、年商とは「今月」「来月」の売上を足しただけの単純な話ではないのである。
改めて「年商」を方程式で言い表すなら・・・
年商=年間LTV×稼働顧客
今話した通り、年商を上げるなら無理に年間LTVをあげないほうがいいのは、顧客が減少し、売上が下がっていくからだ。西野さん曰く、それを踏まえて考えると、LTVは10年でせいぜい20%くらいしか上がらないと見た方がいい。
つまり、「5000万円の会社が1億の会社になることを目指した」としよう。
もうわかるだろう。そこで年間LTVを上げようとしても、無理なのだ。繰り返すが、年間LTVは10年で20%程度。計算すればわかるが、5000万円で20%アップしても、だから1億円はには到達しない。ではどうするのか?
もう一方の「稼働顧客」を増やすしかないのである。
この「年商」の方程式における「稼働顧客」というのは、何か。稼働しているお客様で『一年以上で過去一回、買ってくれた人』ということになる。
稼働顧客とは?
例えば顧客リストに3万人のお客様がいたとして、一年以内で購入した人が5000人だとすれば、年商に影響を与えるのはこの5000人だけなのだ。
残りの2万5000人は年商に関係がないのである。
だから、それを稼働顧客にしていくか。この議論になってくる。とはいえ、それほど難しいことはなくて、稼働顧客は三つしかない。
具体的には・・・
- 1)今年の購入はあり、さらにその前の年から購入を「維持」してくれているお客様。
- 2)今年の購入はあるけど去年はなくて、その前の年に買ってくれていた「復活」のお客様。
- 3)「新規」で今年獲得したお客様。
この三つ以外は存在しないのだから、マーケティングもシンプルに三つしかない。
ただ、「新規」は新たにお金を要する。だから、大事なのは減らさないということになる。
ここで上記のうち維持しているお客様を探すために、2年単位で見るわけだ。
たとえば、遡って1年前から今日までの一年間で一度でも商品を買ってくれた人。さらに遡り一年前(つまり2年前)のお客様。その数字を直近2年間の稼働顧客で比較すれば、2年前の年から今は「減る」わけだ。(継続するかやめるかしかないから)。
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そのまた一年前 一年前 今日
その減少する度合いを、西野さんは「顧客維持率」といっているのだ。
顧客維持率が高ければ利益も増える
これがいかに大事か。幾ら顧客が1万人いたとして、顧客維持率が10%であれば、1000人しか残らない。だから、新規を取るしかない。多くの会社はここを新規で補おうとして躓くのである。
優良な通販企業で説明するなら、40回以上、購入しているお客様が、何十万人といる。積み上がっているのである。だから、実はその新規獲得の数は、年商30億円くらいの会社と、十数億の会社で変わらなかったりする。そこまで新規が必要でないのである。
これが、通販に限らず、全業種で当てはまる理論だとするのは、どれだけ利益が残るかという話に直結するからだ。会社にとってキャッシュがなくなったら、全てが終わりだから。
純粋に、この考え方が年商100億円企業には見られるから強い。ゆえに、100億円を目指すか目指さないかに関係なく、こういうマインドを共って事業を進めていくことが大事だと説く。
話を戻せば、「顧客維持率」が大事になる。西野さん曰く、それを向上させるというのが「CRM(Customer Relationship Management)」という活動だというわけだ。そことの関係で、顧客維持率を見ていく。
CRMで大事なのは関係性を築くこと
ただ、繰り返しになるが、そのマインドがないと、CRMの「R」の部分を間違えてしまう。本来は、「Relationship」であり、新規顧客を追うと、ここが「responsive」になってしまうのだ。売り込み、反応を見て、成果を上げるのではなく、関係を築いて実績を作る。
だとすれば、シンプルに言って「CRM」とは「ありがとう」を言い合える活動である。そう彼は強調するのだ。実は、人間的な側面が強い事がわかる。
お客様がお金を払ってくれているのに「ありがとう」と言ってくれる。そのためには、各々の業務の中で、何をすればいいのか。それを考えていくことこそが、一つの答えだと説くわけである。マインドと行動とが見えてきた。
ただ、ここで、西野さんは指摘する。CRMには問題点があって、それは三つあると。
- ・成果が見えにくい
- ・時間がかかる
- ・やることがたくさんある
だから、彼は数字をてこにして、成果をみえるようにしていき、マインドと行動にブレがないよう、常に目を配り続けてきた。それを乗り切った企業が本当に年商100億円企業になっていくのを多く見てきたから、彼は強調するのである。
(※チームメイトで寺子屋を継続すべきだと僕が考える理由もそこである)。
ちなみに、それを具体的な数字に落とし込んだダイジェストが下記の記事になる。
参考:顧客の離脱の予兆に気づく「通販理論2.0」通販以外にも通用する「100億PDCAマニュアル」
多くの企業は“最大公約数”の方に捉われがち
つまり、焦るから直ぐに答えを求めようとする。だけど、それこそが年商と真逆の理論。今を起点に過去を見るのではなく、過去から今を見て、それをヒントに未来を見ることが大事なのだ。
彼は、丁寧に何度もこの理論を手を替え品を替えて説明する。chatGPTを例に挙げ、公約数、公倍数というユニークな素材でもこの本質を説明してくれた。
chatGPTの長所は、過去の事実から絞り出して、そこから共通項を見出し、判断するという部分にある。例えば、「こうすればCPO(広告宣伝費)が取れるよ」という具合。これらは「今を起点に」して、「過去の共通項」を導き出しているわけである。
これらって、いわば“最大公約数”みたいなものなのですと西野さん。
例えば、24と32の“最大公約数”って何か?
約数は「1」「2」「4」「8」である。だから最大公約数は8ということになる。
こんな例はどうですか?と西野さんがニヤリ。
- Aさんは「カレー」が食べたい。
- Bさんは「カツ丼」が食べたい。
この“最大公約数”はなんだろう。
その答えは「ご飯」である(笑)。この比喩で何が言いたいのかは、24と32の“最小公倍数”と比較してみるとよくわかる。
最小公倍数の経営が必要な理由
では、、、24と32の“最小公倍数”とはなにか?
答えは96である。32の3倍が96、24の4倍が96だから。繰り返すけど、24と32の“最大公約数”はなんだっただろうか。約数は「1」「2」「4」「8」だから最大公約数は8となると説明した。
つまり、その比喩を経営に置き換えるなら、“最大公約数”は「今を起点に」遡って最適解を出しているのに対して、“最小公倍数”は「過去を起点に」未来を導き出しているといえる。ビジネスではどっちも大事だけど、冒頭から言っている、年商の議論では最小公倍数の経営が大事だというわけだ。
この考え方からすれば、先ほどの・・・
- Aさんは「カレー」が食べたい。
- Bさんは「カツ丼」が食べたい。
これで、“最小公倍数”はなんだと思いますか?
そう言って、西野さんはニヤッとする。
「答えはカツカレーです」
僕らが年商を意識して、導き出すのは「ご飯」ではなく「カツカレー」というまだ見ぬ、未来の設計なのだ。焦ってはいけない。年商100億円のマインドは、こういう“最小公倍数”の視点。
今、年商が幾らでであるかは関係ない。見るべき数字を誤らず、正しい指標でお客様から「ありがとう」を言ってもらえるようにチェック機能を持ち、それを梃子に、未来を組み立てていく発想が大事。この“カツカレー”を導き出そうとする視点にこそ、企業の真に強い成長がある。
今日はこの辺で。※そしてライブコマースの実演へ。