OPTIMISMで語られたこと 2023夏 楽天市場 「戦略共有会」
今や楽天のサービスは70種以上に及んでおり、内容を掴めているようでそうでもない。だからこそ、各々の業種の相互理解として、あるいは、グループ全体での魅力を把握するべく、「Rakuten OPTIMISM」が存在する。3年ぶりのリアル開催で、一般参加や社員だけではなく、店舗の姿も見られた。その目的は「戦略共有会」で、楽天市場の出店者のみを対象としたメニュー。そこで施策や機能の進捗状況を確認して、自らの取り組みを振り返り、次に繋げる。行けなかった人のためにその内容を記事にしたので、確認の一助になれば、幸いだ。
経済圏を背景にEC流通総額拡大
1.1-3月期で12.3%増
全体の戦略に関して、彼らが目指すのは2030年の国内EC流通総額を10兆円。「その進捗は?」というと、現状、2023年1-3月でいえば、1.4兆円(昨年同期比12.2%増)。内訳を考えると「購入単価」で2020年の同期比で16.6%増、「購入者数」で29.1%増。
伸びている要因は「楽天経済圏」であり、要となる「楽天ポイント」の利用は累計3.4兆ポイントに及ぶ。スーパーポイントアッププログラム(SPU)によって、そのグループ内でクロスユースを創出。同プログラムは、年平均成長率が20%増。回遊する度合いが増しているから、それらの数値が伸びているというわけだ。
特に相性がいいのは「楽天カード」。「カード利用をした人」は、未利用者と比較すると「楽天市場」の「年間購入額」が+116%。つまり、相互利用が生まれている。最近では「モバイル利用者」もその傾向が強くて、非利用者と比較して、流通総額が+41%。
2.セールイベント4年平均成長率+23.8%
そういう楽天による“外的要因”と合わせて、「楽天市場」内の“内的要因”で売り場を触発。「スーパーSALE」「お買い物マラソン」などが奏功しているわけだ。これら大型セールイベントは4年平均成長率が「+23.8%」。
彼らとしてはそれ以外で、お客様との接点を作る機会を創出すべく、企画を充実。成果で言えば「母の日」などのシーズナルイベントは+14.0%。特に、昨今のニーズを捉えて、毎月19・20日で設定した「育児の日」は+200%。また若年層へのアプローチで、SNS的な用途を用いたROOMを提案。
参考記事:実益もたらすSNS 楽天 ROOM 店舗の利点は如何に
インフルエンサー経由で商品のイメージを訴求。お客様はそれで商品を理解し、伝える側はそれで収益を得る。この相乗効果をそのまま、お店の売上に繋げていくわけだ。ただ、その一方で、最近はコラボ商品を作成する動きが生まれて、この実績が伸びている。商品数は、2021年比で、3.3倍。何において大きいか。それは20代以下への浸透である。通常販売商品では20代以下の獲得が39%。それに対してコラボ商品は59%。トレンド要素をeコマースに繋げて、獲得するわけである。
機能のアップデート
1.広告面での機能拡張で売り場に活気を
いわばこれらは「編集力」の話。マーケティングを捉えた切り口での顧客とのアプローチを強化する。その一方で、デジタルを使った機能面をアップデートして売り場を盤石にしていく。
特に、広告面ではデータの充実が進んでいることから、よりきめ細やかなリーチができるよう設計されるように変化している。例えば、検索連動広告(RPP)は、従来、全てのお客様に対して同じ入札単価で適応していた。だが、2023年第4四半期には、お客様の熱量に合わせて、決められるようにしていく。
具体的には、購入確率が高い人には、入札単価+25%の間で、低い人対しては-80%の間で自動最適する。購入確率に即した金額にすることで、より店舗の利便性を高めるわけだ。
ターゲティングディスプレイ広告(TDA)も、まずは2023年5月に配信先を拡大。2023年11月からはRMSプロモーションメニューからSNS・検索などの外部メディアの広告を配信できるように設計していくという。
2.クーポンの無料キャンペーンは終了
また、楽天市場で使えるクーポン「ラ・クーポン」についての発表は、やや驚きを持って受け止められた。これまで10年間、「システム利用料」を無料にするキャンペーンを実施していたが、2024年の3月末で終了する。
10年間でその受注件数は約20倍。無料でやるには負荷がかかり過ぎてしまっているというのが本音のようだ。とはいえ、だからこれからお金をくださいという単純な話ではなく、より戦略的に、それらを活用できるように刷新していくという意味合いが強そうだ。
関連記事:楽天市場 ラ・クーポン 無料キャンペーン終了の真実
従来、楽天サイドが設定した「会員ランク指定」のみでユーザーセグメントをしていた。それらを、ユーザーの基本属性や購入履歴に基づくセグメントを可能にするわけだ。つまり、お店単位で適宜、お客様を細かく、相性の合う人に絞り込んで、アプローチできるようにしていく。
よりきめ細やかなマーケティングにクーポンになることで、その支払いが店舗にとって理に適った内容であれば、より実戦的だ。費用対効果に見合うクーポンを選んで、利用料を払う、新たな流れをつくり、そこで浸透させる狙いのようだ。それで手数料を支払ってもらったものを、その機能の質と成果を高める為の投資へと繋げて、それは結果につながる。より良いサイクルへの転換を図っていきたいと説明するのである。
3.売り方、買い方の多様化に応える機能拡充
また、昨今、楽天市場上でも買い方の多様化が進んでいる。それを受けて、それらの仕様に合わせた機能を充実させて、売り上げアップを狙う。例えば、ファッションやコスメといったジャンルでは「ライブコマース」での成功事例が積み上がっている。
そこで、2023年6月には、より臨場感あふれる購買体験を築く為、ライブコマースを視聴しながら、ショッピングを楽しめる仕様にしている。続けて、7月にはジャンル別の企画コンテンツを用意。そういう土台を最大化させ、ライブコマース自体に関心が集まるように仕向けていく。
売り方の部分に関しては、「定期購入」の仕組みを刷新。従来、「定期購入」というと、健康食品などのイメージが先行していた。しかし、例えば、歯磨き粉やフリスクなどを、定期的に買っている人がいるように、何もそこに限った話ではない。つまり、潜在的「定期購入」向き商品というのは存在するはず。
だから、彼らはそこにテコ入れをする。これまで、導入店舗においては一律、固定費で5000円の支払いを必要としていた。それを、売上に応じたシステム利用料へと転換していき、ハードルを下げたということになる。
店舗としての個性を最大限発揮する
1.編集機能を拡大
ここまではお客様との接点を工夫するべく、機能面の充実を図ろうという話。ただそれも店舗としての個性があってこそ。今度は、店のファンづくりをしていく為、店舗の編集機能を拡大するという話だ。店舗のトップページの柔軟性を高めて、より個性的な見せ方が可能となる。
具体的な編集機能の拡大のスケジュールは「PC用トップページ」が2023年6月から、「コンテンツページ」が2024年上期、「商品ページやカテゴリーページ」が2025年という具合。これらが機能しているかどうかをパーツ分析することもできる。
ある意味、お客様対応も個々のお店の信用に関わる大事な問題。そこで、よりお客様とダイレクトなやり取りができる「R-Messe」。過去のデータを見るに、問い合わせ経由で購入率を測ると、それ経由のほうが市場全体の購入転換率よりも+16.1ポイント高い。今後、機能拡充に重きを置きたいジャンルとしているので注目が必要だ。
店舗の編集と相まって商品ラインナップで個性を発揮する「SKU施策」。既に50%の店舗がその仕組みへと移行が完了。価格違いのページは1万ページ以上に及んで、お客様の選択肢の幅が広がっている。
2.店と倉庫の連携で配送日関連を改善
個々の対応という部分で、殊更、今後大事になるのが「物流」である。楽天は、自ら投資し、倉庫を用意し、そのインフラを整える一方で、楽天市場内の物流に関する項目の質を上げていく。
いわば、戦略としてそれぞれの商品の物流管理をどう徹底していくか。その部分を店舗側が設計して、システムに反映していく。そうすることで、店単体のでの顧客満足度に直結させていこうという話である。送れる環境が整えばいい。それが安ければもっといい。そんな時代ではないのだ。
例えば、従来、「最短お届け可能日」の表示は「1-3営業日以内に配送」とざっくりしたもの。それが、今後は「15時までの注文で最短-月-日までにお届け」という具合。よりその状況が的確に、お客様にわかりやすくなった。言い換えれば、それを商品登録の段階で徹底することで、彼らのインフラを更に有効活用できる。それは、お客様の店の評価につながる。
3.配送の有料店舗をラベルでわかりやすく
だから、ある意味、店舗との協力で成せる技。それゆえに、楽天は更に物流に関する「一定の基準」を設ける。クリアした店舗に関しては、そのラベルを表示する為だ。物流に対しての店舗の備えが、お客様の信頼を高める材料になるように工夫していく。
ちなみに「一定の基準」のその中身とはいかに。月100件以上の出荷があり、納期遵守率96%以上、6日以内に届けられた件数の比率が80%以上といった具合。
それらを構築した上で、楽天スーパーロジスティクス(RSL)によるサポートを徹底する。特大サイズの取り扱いも開始。メール便の翌日届けにも対応するわけだ。倉庫だけではなく、配送の質を高められるように、日本郵便との協業を徹底する。
これに関しては、配送の仕組みを変えてしまう。従来、引受局を介して、分配局へ行き、最後に、配達局を通して、お客様に届けられていた。それを楽天のフルフィルメントセンターからダイレクトで配達局へと届けるようにしていくというのだ。
築き上げてきた過去の財産と未来の備え
1.NATIONSを通して実態に即した学びの機会
ここまで、大枠と既存の仕組みを活用しての未来につながる戦略のヒントを書かせてもらった。あとは店舗次第である。これこそが築き上げてきた過去の財産を未来に繋げる備えの一つである。
語弊を恐れずいえば、楽天はあくまで、そのきっかけとインフラづくりの会社である。書き損じたけど、この戦略共有会では、「NATIONS」についても触れていた。実務的な悩みがあれば、それは店舗の方が熟知しており、店舗に聞くのもいいだろう。もはや直接、楽天が教えるまでもない。既に11000店舗が参加しているとかで、これには驚いた。それもまた、過去蓄積してきた同社の財産である。
さてそんな過去を踏まえて、最後に、少々近未来の話をする。これが三木谷さんの講演にも直結するわけだが、楽天市場の「AI」の活用である。昨今、話題の「生成AI」に絡めて、彼らは「LLM」という言葉を持ち出した。その意味は「大規模言語モデル」らしい。
参考記事:夢を楽天的に語っていいじゃない 三木谷社長 モバイルとAIによる未だ見ぬ未来へ
2.AIで検索はもうしなくなる?
三木谷さんの話でも書いたが、「生成AI」とは、壁打ちで議論することで、それにより、アイデアや戦略を組み立てるものである。〜であれば〜だろうという仮説を立てて、それをブラッシュアップする。その仮説を立てる際には、具体的な関数が必要になる。だから壁打ちをするにも、裏側でデータが存在しなければならない。
その点、楽天グループには様々なデータが既に蓄積されているというわけだ。「生成AI」を用いつつ、壁打ちするだけの豊富な楽天IDにまつわるデータを用いれば、未来が見える。その「大規模言語モデル」とやらは、「生成AI」との掛け合わせによって、新しい未来のショッピングを作り出すというのである。
つまり、それらを掛け合わせることで、お客様においても、商品名を検索せずとも、お客様のイメージにあるモノを問いかけてもらえば、良い。それらの壁打ちで、ほしい商品に辿り着ける。そういうことを可能にしていく。
思えば、楽天市場も1997年の頃とはまるで違う。だから25年後もまるで違っているに違いない。遠い話と捉えずに、そこから逆算して、今どうあるべきかを考えていくべきだろう。夢へと向かう道は、昔と変わらず、現在進行形である。
今日はこの辺で。