飛躍は“オムニチャネル”にあり ウォルマート に学ぶ リアルとネットの融合

「実は、我々オムニチャネル協会で、小売DX大全 を刊行する中で、調べたデータによれば、“オムニチャネル”の売上シェアが小売全体の4割を超えているんですよね(野村総合研究所(2019年))」。リンクス 代表取締役 小橋重信さんは2022年の展望で、そんな話から始めた。彼は物流の専門家であり、過去であればECと物流という文脈。ただ未来は オムニチャネル を当然に、考える必要性があり、とはいえ、その活用の仕方は理解されていない。ここでは最も上手に活用した ウォルマート を例に挙げて、彼と共にその本質的理解に迫ろうと思う。
オムニチャネル の本質を ウォルマート に見た理由
1.小売の4割を超えている
これまでにない新しい概念でEC化率のような指標はあれど、リアル単体でもEC単体でもない。
つまり、業績を伸ばしているところは「オムニチャネル」を上手に活用しているという事である。具体的な数値で言えば、オムニチャネルのマーケットは野村総合研究所によれば2020年で約61兆円と推計されていて、2020年の小売量販売額で約146兆4570億円なので、割合を出せば41.7%。ちなみに、オムニチャネル市場は2025年には80兆円になると同研究所は述べている。
リアル店、ネット通販問わず、単体で商売を考えるフェーズではなくなってきている事だろう。
ただ、小橋さんはそれを踏まえて「そう言うと、大抵が、オムニチャネルをやっているよ!と言う。DX(デジタルトランスフォーメーション)然りですが、それを活用しきれているのは実はごく僅か。本当に、本質的な事を理解できているのは一握り」と話す。
2.でも一部の使いこなしている所が伸びているだけ
「システムベンダーが持ってきたオムニチャネルオプションを少し取り入れて、それで『取り組んでいる』と言っているうちは、オムニチャネルの根本的理解をしているとは言えない。一つ一つの企業がそれを自分の会社に置き換えてカスタマイズできているか。ここです。本当に使い熟していると言える為には現場担当者の意識の変化が大事です」と警鐘を鳴らす。
では具体的に業績に繋げている企業には、どんなところがあって、どう活用しているのだろうか。それは2021年を振り返ることにもなるし2022年に企業が躍進する上での考えるヒントになるのではないかと思った。そこで企業名を挙げてもらうと、小橋さんから出たのは、やっぱりこの会社の名前であった。
それは、ウォルマート。
古さを克服して新しさに変えた ウォルマート
1.その古さは固定概念で捉えるから
今までで言えば、Amazonに後塵を拝する形で、ウォルマートは従来の小売流通の象徴として「古い」と言われ続けていた。だがコロナ禍に入って、息を吹き返した。
ネットを通しての買い物を重視すると共に、彼らが一番重視したのは、お客様とのタッチポイントである。その為、ラストワンマイル、すなわちお客様に物やサービスが到達する物流の最後の接点の見直しを図ったのである。不思議な話であるが、彼らがリアルでやってきた事がデジタル化の上での強力な差別化要因となり躍進していて、これは本質的理解なしにがあり得ないのである。
ウォルマートが行った「ラストワンマイル」の戦略には大きく2つあって、それが「デリバリー」と「ピックアップ」であり、それ自体は想像に難くないはずだ。
その二つのいずれもが、事前にネットで注文するという部分においては共通している。ただ、「デリバリー」は宅配のことで、「ピックアップ」は近隣のお店の駐車場までお客様に来てもらい、そこまでスタッフが持ってきてくれて買い物を完結させる事をいう。
2.彼ら独自の問題はメインが生鮮食品だから
ただ、彼らの場合、ここで問題が発生する。日本においてもそうだが、ウォルマートが主に扱う生鮮食品はその場所まで行って買う方が便利であり、結果、ネットには不向きで敬遠されていた節もある。
以前話した日本の「EC化率」に関連する記事でも書いたが、例えば、書籍が42%なのに対して、食品はわずか3%。普通の小売ならそこまでネットを強化せず、極論、Amazonのようなネット通販の流通網を持っている会社にそれらのものを任せてしまうしかないと諦めてしまうかもしれない。

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だけど、小橋さん曰く「ウォルマートは違った」。
3.別に宅配が当たり前ではない
ここが最大のミソです。通常のネット通販で考えれば、大きく不利なのだが、逆に言えば、それは大抵の人がネット通販+デリバリーだと思い込んでいるからなのだ。だって宅配でしょ?と思うのが自然ではないか。
だから、ネットが浸透するほどに、「デリバリー」の割合が増えていくので、ウォルマートも最初のうちは、デジタルシフトをする程、大半を占めていたのは「デリバリー」の方であった。
ところが、ウォルマートがコロナ禍でその業績を飛躍的に伸ばす要因となったのは、寧ろ「ピックアップ」の方であって、ここが先ほど、触れたオムニチャネルの本質的理解が大事だとする重要ポイントである。
生鮮食品で オムニチャネル の本質を見つけた ウォルマート
1.ネックとなっている要素をどうフォローするか?
そもそも生鮮食品というのは日頃、買い続けているものなので、その商品が何たるかは概ね、消費者側が理解している。だからこそ、わざわざものを確認しなくていいので、スマホ一つで解決するネットには向いている。
しかし、大きなネックとなっていたのは単価。比較的、安いものが多いので、「デリバリー(宅配)」を伸ばそうにもその配送代金が邪魔することになって、ネット通販そのものの成長を妨げてしまう要因となっていたのである。
実はここがミソである。
彼らはそこで「ピックアップ」を強化して、事前にネットで注文をして車で駐車場まで来てもらうことを意図して、そこでの生産性とスピードの向上に努めたのである。何故なら、お客さまが車でお店の駐車場まで来てくれれば、あとはスタッフが届けてくれるので一切、配送代をかけずに、そのネットで不利な要素をカバーできることに気付いたからだ。
2.安易にオムニチャネルと捉えていないか
ここが重要だ。オムニチャネルを表面的な理解にとどめていたら、デリバリーを強化していつまでも、Amazonの後塵を拝していたことだろう。本質的理解は、自分達にふさわしいオムニチャネル像を構築すること。
アメリカ全土に張り巡らされたリアル店の強みを活かして、値頃感のある価格で、効率よく時間をかけずに、ネットでの受注を取り付け、利便性が高いサービスとして、定着させて、ウォルマートだけの強みへと昇華していったわけである。これこそがオムニチャネルの本質的な部分である。
確かにこれであれば、Amazonがどれだけ配送網をもってして、その勢いを拡大させようともウォルマートには太刀打ちできないことになる。故に、彼らもまた、リアルの店舗を取り入れるようとするのも自然だが、追いつくレベルではない。ダテに長年、リアルでその圧倒的牙城を築いてきたウォルマートではないわけである。
しかもこれらは店内の改革に繋がり、ウォルマートでは従来型のお店の中に倉庫を並行して用意した。それは、通常の買い物客に混じって、店内で「ピックアップ」をするスタッフもまた効率化を図り、業務ができるようにする為であって、小売店は全く違う様相を呈することになった。もはや「お店」の固定概念が覆されている。
生鮮食品だからでも海外だからでもない
1.それぞれの店に答えがありそれは各々違う
そういう話をすると、「それってウォルマートだからできるんでしょ?」とか「海外の話でしょ?」と言われてしまいそうだが、そんなことはない。日本企業でも実は同じような視点で、オムニチャネルを推進しようとしているところが出てきた。どこであろうか?
「ワークマン」である。
僕も彼らがこれまで一貫してネットでの販売に対して距離を置いてきたのは知っているし、でもそれを変化させたのは、まさにその「オムニチャネル」視点からなのである。
2.来店を促すことの意義
生鮮食品ほどでは無いにせよ、彼らもまた、その強みは機能性に対しての値頃感にある。だからそこに配送代を入れてしまえば、その付加価値を提供できないだろう。ネットに距離を置いていたのも自然だと思われるが、今のウォルマートのようにそれを店舗での受け取りに繋げれば、そこの問題はクリアになる。ネットで受注を取る意味が出てくるというわけなのである。

だから、この決算資料を見てもらえばわかるが、店舗受け取り通販比率の目標を70%をとしていることに気付かされる。
いうまでもなく、彼らはフランチャイズの展開をしているので、その意味では「ワークマン」のリアルのお店は全国に張り巡らされていて、彼ら自身の強みを、ネットで活かす事ができる。これも「オムニチャネル」視点がもたらす企業の躍進の一手である事がわかる。
必ずしも物流というと、倉庫、配送とそれを切り出して担当者レベルで考えがち。だが、その一つ一つの数字を分解して、経営指標に含めて、自分達の価値を底上げする努力をする。当たり前に両方を利用することで、これまでとは違った戦略でお客様を呼び込むことになるから、そりゃ、冒頭の話の通り、全体の売り上げの中に占める割合が増える。
リアル、ネットの単体で物事を見るのではなく、それらを融合する「オムニチャネル」が何をもたらすのかなのだけど、その言葉だけが一人歩きして、それさえ取り入れれば、なんでも通用する魔法の杖のように見える。だが、敢えて立ち止まり、自分達の価値と照らし合わせて、各々にその答えがあるはずで、その本質的な視点を養わない限りは、上記のようなオムニチャネルで売上を伸ばしたと言える環境には辿り着けないのだろうと思う。さあ、飛躍の時を。
今日はこの辺で。