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EC化率とは?経済の3要素で本質が見える理由

 「EC化率」を知ると今の小売が見えてくる。よくネットショップ界隈ではこの言葉が一人歩きして議論を呼んでいる。けれど、正しく向き合わないと、実態は見えない。今日は正しい「EC化率」の読み解き方を学ぼう。それさえわかれば、新規事業のアイデアも生まれやすくなる。この謎解きに付き合ってくれたのは、「EC化率」という言葉と8年間、向き合ってきた元 大和総研の本谷 知彦さんである。

EC化率のカラクリ

1.まず家計調査

 EC化率は「小売でECが占める割合」である。算出にあたっては、総務省統計局の「家計調査」と内閣府の「国民経済計算(要はGDP統計)」を用いる。この家計調査というのは「一家計あたり年間幾ら使っているのか」を指し示している。

 その内訳はマグロ、サバ、といったレベルの細かい単位まで数字を出している。それをまず「これは食品」「これは化粧品」といった具合にマッピングをしているのである。

 その上で、一家計あたり、「年間幾ら使ったか」を計算し直す。すると、一家計あたり「全体の中で○○%」という具合に“カテゴリー”で割合が出てくるのだ。

2.そして国民経済計算

 さらに、内閣府の「国民経済計算(GDP統計)」を使う。この中で「国内家計最終消費支出」という項目があって、これは「国民全体がいくらお金を使ったか」をざっくりと額で記したものである。

 そこでこの大きな数字に対して、先程、一家計あたりで出した割合を当てはめる。すると、“カテゴリー”ごとで「いくら使ったか」が出てくるわけだ。この数字に対して、EC経由のものの割合を出すので、それを「EC化率」と呼んでいるわけである。

 だから、データは信頼度合いが高い。しかし、物販に限っているから、ガソリンなど入らないものもある。純然たる消費全てをカバーするものではない。

3.世の中全般のデジタル浸透度ではない

 そう考えると、世の中全般のデジタル浸透度ではないということになる。だから、この数字とは上手に付き合わないと、真実が見えてこないというわけだ。

 加えていうなら、海外でよく「EC化率」が10%、15%と言われている。実はその「EC化率」とは、根本的に計り方は異なる。(ちなみに、海外の測り方が公になっていない)ゆえに、一概に比較対象とは言えない。それも本音のようである。

 さて、これで「EC化率」の中身についてわかった。そこで、これをどう読み解いて、現状を把握するべきなのかという話になる。

 よく言われるところでいうと、トータルの数字が一人歩きする。2020年であれば「今年は8.08%だった」という具合にだ。けれど、むしろこれは参考程度に留めるべきなのである。というのも、EC化率というのは、カテゴリーごとで、大きな差が生まれているからだ。

カテゴリーごとでEC化率を見てみよう

1.消費が伸びてもECが率が上がらない?

 つまり、本谷さん曰く、カテゴリーごとで見て、業界ごとで分析してみる。すると、現代の特徴と未来の可能性を見出すことができる。こちらが、各カテゴリーごとで分けたEC化率である(2020年版)。

 実は、それに関連して、先日の記事で個人消費(リアルもECも含む)では「食品の消費が例年より伸びた」と書かせてもらっている。

 それを聞くと、上の数字を見て、違和感を感じる人がいるのではないか。上の表「物販系分野のBtoC EC市場規模」を見ると、その割には、食品、飲料,酒類の規模が大きくないのである。全体におけるECの割合はわずか3.31%である。

2.食品はリアルに実態を映し出す

 これこそが日本特有の小売の傾向で、まさに実態を顕著に映し出す要素である。

 みなさんは、食品を買い求めようと考えた時、どうするだろうか。日本では大抵、スーパーマーケットやコンビニが、近隣に存在している。日本では割と鮮度の高い商材を当たり前に好む。買う頻度が高い食品である上、リアルで十分便利なところに買い求められる場所がある。だから「わざわざECを使わない」のであって、EC化率の数字はそれを顕著に示している。

 いくら家計消費の割合で食品が増えても、ECをそれほど使わないという「実態」を示している。

 一方で「書籍、映像・音楽ソフト」を見てもらうと2020年においては42.97%まで伸びている。つまり、多くの人たちがネットで購入することの方が当たり前になっている。しかも、先程書いた通り、物販だけなのでここには電子書籍は含まれていない。電子書籍を含めれば限りなく50%はネット経由といっても過言ではない。

 そう考えるとAmazonがネット通販を書籍から始めたという部分に先見の明があったのだと感じさせる。

経済の3要素とは

1.購入のきっかけの変えてみる

 では、次に、購入のきっかけを考えてみよう。

 そもそも個人消費に関してはそう簡単に上振れしない。(給料が増えないから使う額も変わらない。)だから、極論、ECはリアルの購入機会を取らないといけない。

 では「ネットならではの売り方とは何か?」。その考え方の一つとして、再度、カテゴリー別のEC化率を見直してみるのである。

 つまり、なんでも一律、ネットに置き換えれば、売れるわけではない。カテゴリーごと、EC化率の数字に、あれだけの開きがあるというのは、商品ごと、ネット通販との相性に良し悪しがあるからなのだ。

2.探索財、経験財、信用財の3つの要素

 その各カテゴリー分析をする上で、参考になるのが「経済の3要素」である。一言で言えば、商品を買うときの「決め手」となる3要素である。大きく分けて・・・

1)探索財 2)経験財 3)信用財

 「探索財」というのは事前に調べることで品質や価格を把握できるもの。例えば、家電など。

 家電は予めスペックがわかっている。だから、それを判断材料に商品を購入するわけである。その点、「リアルと比べて」ネットは有利である。なぜなら、テキストで事前に全てが把握できる。ゆえに、ECのほうがリアルと比べ親和性が高く、見ての通り、家電のEC化率は37.45%という高水準である。

 次に「経験財」というのは、購入してから実際に経験してみないと判断できないもの。代表的なものは「食品」。その証拠に口に合うかどうかは食べないとわからない。過去の経験則に基づいて、購入するしかないのである。

 これらは大抵、単価が安くなっているのが特徴。価格との比較で「まあこのくらいなら出してもいいか」という過程を経て決断することが多い。例えば、お茶の新商品などがそう。120円なら「まあいいか」と購入してしまう。だから、依然として食品はEC化率が低くなりやすい側面があるのだ。

 最後に「信用財」というのは、調べたところで、それが購入者にとっての成果をもたらすかどうかわからないもの。最たるものは「薬」「サプリ」である。経験すら参考にならない。それが本当に、その人に効くのかどうかはわからないから。

 それゆえ、サプリの売り方などは、接客を重視している。つまり、商品だけでは測ることができないから、そこにはない付加価値をもたらそうとする。

経済の3要素とEC化率の関係性

1.リアルとネットの融合も利点を踏まえて掛け合わせる

 ここからわかることは何か。EC化率が高いところは、その経済の3要素の相性が良いか、あるいはそのデメリットをネットが解決しているかのどちらかでしかない。

 書籍は「信用財」で「買ってみなければわからないもの」である。本を買ったからといって、その人に価値をもたらすかどうかはわからない。だからリアルはその部分が苦手。だけど、ネットはSNSとかで内容を説明できる分だけ、得意となって、だからEC化率が高くなる。だから、多くの人はECを経由して、書籍を買うという行動が生まれた。

 信用財のデメリットをネットが解決したことで、リアルよりもそれが定着しているということなのである。

 だから、繰り返すが、既にEC化率が出ているところは、その経済の3要素の相性が良いか、あるいはそのデメリットをネットが解決しているかのどちらかでしかない。ここにビジネスチャンスがあるということなのだ。

2.常識的な買い方ではないアプローチを模索する

 他に、面白いのはオイシックス・ラ・大地の発想だ。食品が「経験財」であることを前提にしながらも、その経験財に、別の要素を組み合わせた。

 それが「キット・オイシックス」というシリーズ。

 一つの料理に関連するものを1商品にまとめたのである。それで料理をすれば、自宅で一流コックのレシピを体感できる。それと同時に、忙しい主婦の調理の時間短縮をできるようにした。改めて、ネットはそのストーリーを伝えるのに長けていることがよくわかる。

 もはや食品という要素ではなく、その体験をしてみたくて、購入に至らせている。だから、付加価値もあって、値段もそれなりである。

 つまり、食品の常識的な「経験財」の買い方に対して、時間短縮、名コックになれる、と敢えて違った体験という「決め球」を投げた。それ自体が新たな購入機会を生み出し、会社を支えるほどの業績となっているのだから、侮れない。

3.それぞれの強みを理解し、違った視点を模索する

 何度も繰り返すが、既にEC化率が出ているところは、その経済の3要素の相性が良いか、あるいはそのデメリットをネットが解決しているかのどちらかでしかない。ここにビジネスチャンスがあるということだ。

 もともとの経済の3要素を考え、その相性をカテゴリーごとで考えてみる。その上で、既に相性の良いものはEC化率は高い。でも、低いものが「もうECで向いていないか」というとそうではない。そこにデジタルの進化を当てはめてみれば、それがそのまま、伸び代になるだろう。

4.デジタルの進化で各要素のデメリットを補完する

 例えば、アパレルなどはその最たる例な気がする。最近になって、リアル店員もライブコマース、インスタライブなどで、お客様との交流を深めている。

 アパレルは本来、「経験財」。しかし、そのテクノロジーの進化は、その経験を補う動きとして十分である。昨今、見られるデジタル接客の質の向上は、もしかしたらアパレルのEC化率を上げる要因になるのではないかと思った。

 改めて、上昇、下降の単純な受け止め方やEC化率を全体での8.8%という数値で把握するのではない。もっと本質で見つめてみる。その意味をお分かりいただけただろうか。それでいうならEC化率は各カテゴリーごとでみてこそその実態が見えてきやすく、そこに本質がある。

 当たり前とされていた買い方の定義は、実はネットであるが故に違った形での提案を可能にして、ネットだけの付加価値となっているから、それが数値となって表れている。それだけである。ものの常識とは何かを知ることで、型破りは生まれるのである。

 今日はこの辺で。

 

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