18年連続増収の舞台裏 “よなよなエール” のアノ会社 の 熱狂
ビールメーカーと聞きけば大抵がキリン、アサヒなどを思い浮かべるだろう。その一方で大手には到底できない「熱狂」を生む企業がある。それがヤッホーブルーイングで18年連続の増収を達成している。クラフトビール「 よなよなエール 」を手がける企業と言えばわかるだろうか。その裏にはファンの熱狂がある。そこに迫るべくヤッホーブルーイング 望月卓郎さん(もっちー)に話を聞いた。
よなよなエール 熱狂 のその理由
1.星野リゾートの星野社長の肝煎り事業
スタートは今から25年前。星野リゾートの星野社長の肝煎りで始まった事業だ。
今でこそ、クラフトビールは様々な醸造所から出ているが、その先駆けである。その人気の秘訣は早くから品質改善を繰り返して、高い品質のビールを出し続けられる環境作りを心がけてきたからである。
ただそれだけでは冒頭話した「熱狂」には辿らない。彼らは大手にない独自で破天荒とも思える取り組みを実践し続けてきた。だからこそ今がある。
例えば2020年5月30日と6月6日に開いた「よなよなエールの”おうち”超宴」。元々リアルで5月にファンイベントを予定して2000人が参加する予定だった。それがオンラインとなり、結果的には述べ1万人の参加を集めた。そのレベルは尋常ではない。
ただ、その個性の片鱗は今から20年ほど前にあって、ネットショップの「メルマガ」で見えていた。
今でこそヤッホーブルーイングはネット通販のおかげで躍進したように見える。だがそれはあっているけど、順風満帆ではなかったのだ。「お店としては極めて難易度が高かった」ともっちーさんは話す。え?
2.あの手のこの手で気を引くメルマガ
メーカーゆえ「安売り」などの世間で言われるネット通販のテクニックが使えない。その上、クラフトビールの種類が多いわけでもない。毎度、それら同じ商品の紹介を同じようにメルマガで紹介し続けたところで、お客様の関心を引くことはできない。
だから、当時の担当者であり現在の代表取締役 井手直行さんは「ビールのうんちく」やビールにも関係ない自分のことを書いて、コンテンツ化させた。それは自然の成り行きなのだ。ただ、それがいい意味でエスカレートしていく。もはや破天荒のレベルである。
3.伝説の店長総選挙
もっちーさんが話す中でも傑作なのは「店長総選挙」。
シーンとしては井手さんのダメ店長っぷりが延々表現される。その後で、そこにスタッフがイラッとくるわけだ。
そして遂に「僕が店長に立候補します」と言ってスタッフは、マニフェスト(政権公約)を掲げるのである。それどころか、「店舗運営の風通しをよくします」といったことを長々とページで書き記す。ユーザーにはそれを読んでもらい、投票を求める。
「得票数の多い方が店長になる」という参加型企画を立ち上げるのである。
ところが、そこで終わらない。いざ投票しようとすると井手さんの方はボタンはすぐに押せる。しかし、そのスタッフのボタンのほうはGIFですぐに切り替わって井手さんのボタンが出てきてしまう。つまり、どっちを押しても井手さんになる(爆笑)。
売上ではないところに一生懸命な姿勢。それが逆にファンを惹きつけていくわけである。
4.破茶滅茶で惹きつけつつも見せるときは見せる
面白さも惹きつける要素としては、最適である。これは、社内でも言われているのだが、サザンを目指せと。勝手にシンドバッドのようなぶっ飛んだ曲でデビューして惹きつけておく。でも、いとしのエリーで良い歌も作れる事を見せるわけである。
彼らでいうところで言えば、“良い歌”はクラフトビールへのポリシーである。それは「日本に新しい個性的なクラフトビールを楽しむ文化を0から作るんだ」という真摯な姿勢である。
ここで彼らの取り組みの代表例と言われる「チームビルディング」が機能してくる。
要は「チーム力を持ってあらゆるものを解決していこう」という発想である。「チームビルディング」は、2009年に始めたもので、負から生まれたプラスの価値。
というのも、創業時は地ビールブームによって好調だった。だが、ブーム終息により売上が下がり、それに伴って社内の雰囲気も悪くなったのである。
4.会社が永続的に反映するためのチームビルディング
そこで社内の人と人との間に壁があることを痛感した井手さん。彼が「会社が永続的に反映する為に」とチームビルディングの必要性を説いた。それで、皆でやろうと「活動を始めた」ことが始まりなのである。
そこに基づき、社内では色々なプログラムが用意された。入社からある程度、社歴を重ねる段階に至るまで、それらはあって、自然と一体感を持つ風土が生まれる。
不思議なもので、その一体感はお客様にも波及。共通のポリシーのもとで共にそれを目指す「仲間」として接していくわけである。こうして、スタッフとお客様は一対一、対等に同じ目的を持って輪が広がっていく。
5.振り切った遊び心は支持を受ける
たとえ、小さくとも、スタッフとお客様の強固な関係性のもとで、どこにも劣らぬ熱狂を生む土台となるのである。
当初はメルマガ内でのやりとりに過ぎなかった「遊び心」。それは、規模感を増して一大イベントとなっていく。プロモーション費が使えるようになって、もはやビールメーカーであることを忘れるレベル。
話が逸れない程度に止めるが、痛快だったのが「定時退社協会」の話である。これも、企画として「小売業」としては度を超えている。
「定時で帰ってビールを楽しもう」というコンセプトで、その協会自体は架空(笑)。
なのに、真面目な協会設立のお披露目をマスコミの前で行い、赤坂見附の「よなよなビアワークス」にGoogleの社員を呼んだのだ。
思わず「何をしてもらったんです?」。そう聞くと「会社の仕事を早く終わらせる為に、どれだけ早くタイピングできるかトライする。それだけです」(爆笑)。
コアの熱量は失わず、けれど品質をフックに拡大
1.ファンイベントに半年かける
さて、ファンイベントの「宴」にしても、レベチである。最初こそ、赤坂見附の「よなよなビアワークス」内で開催していたが、そのうちお台場での開催を目指し準備には半年かけるほど。度を超えたエンタメ性である。
ちゃんとコアな部分の熱量は失わず、それが拡大している。
最初からマスを狙っていたらこうはならない。思い切って捨てるものは捨てて手に入れたこの規模感なので、他の追随を許さない。
そこは彼らもよく踏まえていて、捨てるものは惜しみなく捨てる。その分、伸ばす部分は徹底的に伸ばす。
商品作りに関してもそうで、その品質の高さを絞り込んだターゲットに打ってヒットを掴む。「水曜日のネコ」などはまさにそう。ターゲットを女性にして、拠点は広尾や中目黒で普段、日比谷線を使う都会のキャリアウーマン。飲む日は「水曜」というニッチさである。自分に向けられているという高揚感がファンを醸成するのだと思う。
もっちーさんが「井手が『お客様にWOWと言わせる』というザッポスの企業理念を言うようになったタイミングがあって、その辺りから、変わりましたね。考え方然りイベント然り、商品開発然り、単純に売上を追うのではなく、いかにお客様を楽しませるかを強く意識するようになりました。」と語る。お客様を明確にイメージして、半歩先ゆく視点でWow!させてきた結果が今に至るのだろう。
2.やっていることは真っ当
とはいえ、社員としてやることは普通に(と言っては失礼だが)しっかりやっていて、KPIもアクセス数や転換率を追うオーソドックスなもの。しかし、それらを高める要因として、上記のイベントなどが機能していて、まさに彼ら独自のビジネススタイルを形成している。
もっちーさん曰く『熱狂度(コンサル会社の定義した指標で10段階でどのくらい、その商品にハマっているというのを可視化する)』を測っている。それによれば「熱狂してくれるほどイベントにも来てくれ、ビールもたくさん買ってくれる傾向にあります」と。
改めて、ヤッホーブルーイングという会社は面白いと思う。
メルマガから始まった「遊び心」はスタッフだけでなく、取引先やお客様を巻き込み『進化』して、この会社の土台を作っている。
だが、忘れてならないのは「それらが何のためにあるのか」ということ。「クラフトビールをゼロから生み出し、それで皆が楽しむ文化」が皆の胸の内にはある。好みは違えど、それぞれにあった最高品質のクラフトビールが誕生する度、その熱狂の輪が広がっていく。
この会社なりのクラフトビールの発展は品質をど真ん中に据えて、常にお客様と取引先とスタッフとともに模索してきた。それが、18年連続の増収である。
中小企業だからこそできる大手にできない戦略に、僕らは学ぶべき「躍進のヒント」があるように思うのだ。
今日はこの辺で。