楽天市場以外を語ると楽天市場が分かる理由 楽天EXPO 2021 三木谷氏
楽天の役目が変貌している。不思議な話だが、楽天市場以外を語るほど、楽天市場を理解できると思った。「 楽天EXPO 2021 」が開催され、代表取締役会長兼社長 三木谷浩史さんが講演を行った。終始「楽天市場」の存在の大きさを伝えつつも、その話の内容の多くはコマース以外に話題を割いて話していたのが印象的である。
楽天EXPO 2021 モバイルと物流の価値を
1.モバイルが国内EC流通総額上昇に寄与
コマース以外の話が悪いと言っているのではない。楽天市場へ出店する店舗にとっての利点がもはやコマース単体では語れないフェーズに来ていて、それを理解することなしに、楽天市場の伸びをイメージするのが難しくなってきていることを意味しているのだと言いたいのだ。
まず、三木谷さんは国内EC総額についての2021年度の目標を5兆円と掲げた。上半期で見ると2.3兆円、前年同期比で17.0%の伸びであって、その達成は現実的と見ている。
昨今、国内ECの傾向で見ると主戦場はモバイル。いつでもどこでも、家にネット回線がなくともECができることで、その貢献度は大きく、だからこそ起点となるモバイル事業への注力を強調するわけである。
というわけで、やはり全体の中で、多くの時間を割いたのはモバイルに対しての話題。その利点は3つでスマホの利用に伴う収益「MNO事業」、それによって満たされる「経済圏の連携」、そしてモバイル上のソフトウエアを海外に提供する「グローバル展開」である。
「MVO」について言えば、モバイルの利用者は増加傾向にあり(MNOとMVNOを合わせて)500万回線を突破し、将来的には2000万〜3000万規模となると分析、その事業自体が成長産業であることを強調して、その可能性を示した。
「楽天経済圏」に与える影響も大きく、楽天グループの新規ユーザーの20%が楽天モバイル経由。かつ「楽天市場」での売り上げにも貢献していて、例えば下記の図の通りである。
楽天及び楽天市場の「新規ユーザー」は勿論、0円からMNO契約後で月々3,000円程度、利用するように変化し、「休眠顧客」はMNO契約後、月々4800円程度の利用に伸びていて、MNO契約前から頻繁に利用していた顧客は、契約前からすると61%増の月々21000円程度、利用するに至っていることを明らかにした。
これが流通総額でみてみると三木谷さん自ら「かなりインパクトのある数字」と話しており、(2020年3〜7月にMNO契約者に対して、一年前と比較すると)年間流通総額で77%増していることがわかったのだ。
また、モバイル利用者がダイヤモンド会員(最上位)になる率も高いので、モバイルがロイヤルカスタマーを醸成して、売上向上に寄与している。モバイル参入が楽天市場に与える影響の大きさを彼自身、強調するわけである。
2.送料込みラインの意味を強調
だから、彼らについては「楽天市場」の利用者、アクセス数など、単体で説明するのでは不十分。他の事業の動きを理解していく事で「楽天市場」の成長を理解することができる。「楽天市場」以外の動きの話題が増えてくるのは自然だ。
それともう一つ、「楽天市場」とセットで語られる話題が「物流」である。三木谷さんはやはり「送料込みライン」の意義を述べており、出店店舗の9割が導入し、そこへの施策も行なっていることもあるが、まずお客様の満足度につながっている事を強調した。
その上で、下記の通り、流通も伸びていると。
3.楽天市場と物流はセットで理解
ただ、そういう三木谷さんの話を聞いて思ったことだが「送料込みライン」だけの効果で切り離して説明するから、それが賛否を呼ぶのかもしれないと感じた。つまり、今、足元では楽天スーパーロジスティクスなどを通じて、物流面で店が生産性高く、運用する話が徐々に聞かれるようになっているからだ。
例えば、今までは店舗も「売る事」を優先して、出荷に関しては後手に周り、機会損失を生んだお店も、楽天スーパーロジスティクスを利用することで倉庫で売れる商品を絞り込み、多めに在庫をに預けておけば、この「早く届けられる環境」というのがプラスに働き、広告施策に対しての効率が良くなっている。
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そこに加えて、配送の部分で言えば三木谷さん自身も語っている通り、楽天エクスプレスと日本郵便とを合体させた「JP楽天ロジスティクス」の存在がある事で、店舗にとっては全国津々浦々で統一した料金という利点があると共に、お客様においては効率よく楽天と日本郵便のネットワークを通じて、届けるその先まで満足度の高いものが実現できるようになった。
そうやって「売ること」「届ける」事をワンセットで考えた時に、出荷体制の見直しと届く時期に関しての意識まで物流環境としては整っているからこそ、そこに加えて彼らは「送料のわかりやすさ」もセットになっていれば、より「楽天市場」というショッピングを改めて使おうという事になって、そこで初めて完結する。
4.何を重視するかで見方は分かれる
確かに店舗の言い分として、お店によって粗利が異なるからそこで一律、3980円で送料無料とする事はやや強引に受け止められても仕方がないが、「楽天での買い物を促進する」という視点では彼らの主張も一理あるなとは思った次第である。
これに伴って定価を上げた店舗もいるだろう。他のモールよりも高くなってしまったところもありそうだ。一方、楽天は「楽天市場」等にアクセスするだけではなく「頻繁に」きてもらう事がビジネス上生命線で、それでこそポイントが循環して経済圏としての価値が上がる。
思えば、Amazonがプライム会員という定額があるのに対して、楽天は定額をメインにせず、「頻繁に」様々なグループ企業の相互させることで、定額に近い利用機会の創出を意図しているわけで、それ故の冒頭の「モバイル重視」だったりするわけである。
実際、楽天市場でもポイントは発行されているけれど、実際にはその1.6倍のポイントが「楽天市場」で使われているそうだ。この経済圏の仕組みによって、恩恵を受けるのは、店舗である事を強調したのである。
それゆえ、三木谷さんは店舗の存在の大きさに終始しつつも、その実態は他の事業の説明に時間を割くことになり、でも、それが最終的に、楽天市場で着地するからこそ、店舗に対しては、今より更に上を目指せるし、目指して欲しい、と店舗に対して説くのである。
最後に、今回、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、彼ら自身が職域接種を率先して行なっている事も説明していたが、世の中に何をするかを重んじる、三木谷さんの人間味のある姿が印象に残った。それはECCに見られる商店街の“おっちゃん、おばちゃん”のような社員の人懐っこさと重なって見えて、この会社の全ての人にそういう人間臭さがあるのが納得できた。
だからこそ、楽天は送料込みラインをはじめとしてもっと店舗と向き合うべきだと思うし、例え、目指すのは世界であっても、その核たる気持ちは、いつも身近で気の許せる商店街精神に溢れていて欲しいのだ。
今日はこの辺で。