元 千趣会 中山茂 氏に学ぶ カタログ通販とECの違い と DX 推進のヒント
DX 推進や 通販サイト への注力は簡単なようで難しい。それは、他事業での成功体験にとらわれるからだ。元千趣会執行役員で中山茂マーケティングデザインの中山茂さんから話を聞き、痛感した。この取材には、シナブル 代表取締役 小林裕紀さん、曽川雅史さんも同席していて、これが彼の話とも直結していて、興味深い。カタログ通販とECの違い をを語りつつ、今にふさわしいアプローチを三人で指南したのだ。
大手こそ 通販サイト 構築が難しい理由
1.過去の成功体験が邪魔をする
中山さんは千趣会時代、カタログ通販の老舗にいながら、ネット通販の環境を構築した張本人。他の事業がありながらネット通販に挑戦する事の難しさに向き合い、売上を伸ばした人である。千趣会の例で言えば、単純に販売手法を「カタログ」から「ネット」に変えただけ、と考えてしまうことで間違いが生じると中山さん。
恐らくカタログ時代の考え方に頼り過ぎなんだろう。
思えば、千趣会では、カタログは年4回、発行される。そして、7万品番はあるだろうその商品の8割近くは自社で生産している。当然、その商品の生産はカタログ発行のタイミングに合わせて行われる。さらには、カタログの数が何千万部でもある。まとまった注文が来る以上、そこで在庫は抱えないといけない。
2.年4回の商品生産体制がネット通販に必ずしもプラスではない
そうすると、年4回のみ、主な新商品は出さない。そういうサイクルが浸透してしまう。
だから、そこにネット通販が合わせようとすると、無理が生じる。
そうやっているうちに、ネット通販系企業との差は開くばかりだ。一方でECサイトはその強みを生かして、生産性の高いビジネスモデルを追求。千趣会のバリューを持ってしても、そのうち、新興勢力に到底敵わない状況が生まれた。
要は真逆である。ネット企業であれば、毎週、新しいタイプの商品を少量作成して、顧客の動向を見据えながら、対処できる。売れなかったらすぐに方向転換して、ブラッシュアップだってできる。
そういう「ネット通販ならではのやり方」は、難しいのだ。会社として他で大きな在庫を抱えている以上、やりづらくなるからだ。繰り返すが、カタログ通販をネット通販に置き換えて解決できるほど、甘いモノではないと。それは、ある意味、リアルでの販売もネット通販に「置き換えた」ところでも同じだ。だから、彼が声を大にして語るわけである。考える以上の成果は出せないというわけなのである。
自らも顧客の気持ちを掴み、相応しいアプローチを
1.売上を見るのではなく解決される要因に目を向ける
昨今で言えば、何が大きな問題となっているのか。彼曰く「売上数字」が評価になりすぎている。
実は、今こそ、裏に隠れている「その商品で解決される要因」を探るべきだ。「その商品のおかげで楽しい」というお客様の気持ちに対しては、案外、無頓着なので、そこからの脱却を果たすべきだと説く。
極論、中山さんに言わせれば、面倒くさがらずに迷ったら、モニター調査せよと。人に聞いて、原点に帰った方がいいと説く。その位、胸の内を理解することが大事だ。とはいえ、人を理解するとはどういうことをするのだろう。
2.大事なのは動画という手段ではなく、なぜ動画なのかの方にある
その点、中山さんは大都の通販サイト「DIYファクトリー」の例をあげた。彼らはコロナ禍もあって、その使い方についての動画も提供している。大事なのは、巣ごもりでそういうことをやることの楽しさを伝えたのだ。ものを売って商売をしている。だけど、買うという以外に接触の機会を作ったことに価値があるとした。
それは、お客様がどの様な行動をするのかをみているからこそのアイデアだ。動画が良いからではなく、動画ならお客様のためになるだろう。それが発想の原点になっていて、大事なのはそこだ。だから、彼らなりにそうやって商品の利用に関して適切なタイミングがわかる。だから、逆算してコンテンツを作ったわけだ。それは彼らにしかできない付加価値である。そこで、すぐに商品を購入できる環境も用意した。そうすると、もはや、どこでも売っているものとは違って、ここで買ってみようかな、ということになる。
3.やりたいことをイメージさせて購入しやすい場所を作る
つまり、お客さんのやりたい事を自分たちのお店は提供できているかを確認することが大事だろう。次に、それらの解決に至る商品を買いやすい形で紹介できているか。そこさえしっかりすれば、それが購入にもつながる。まして、そうやって商品と出会っているなら、お客様の気持ちが伴っているから、次にも繋がる。
なぜなら、もしもその動画を見て、購入した人なら、また何かを作ろうとする時に、そのコンテンツにいくだろうから。そうすると、それはいつしか、企業への信頼感となっていく。今のネット通販であるべき、お客様と企業との関係性につながっていくのは、こういう計らいというわけなのだ。
ともすると、いざコンテンツをしっかり作るときに、「動画を作ってなんになるの?」「お金がかかるのでは?」という声に繋がりがち。でも、今、売ろうとしているそのメディアに合わせて、お客様と触れ合い、答えを出していくことが大事。ここを見逃さないことだ。
お客様を知り、アクションするとは?
1.お客様のアンケートの仕方にもコツがある
そして中山さんは先ほどの「アンケート」に関して、持論を交えて、こう付け加えた。「決して難しい質問をしてはならない」と。それだけでお客様は離脱するからだ。では、その家族の状況を知る上で、彼はなんとアンケートで質問したのか。敢えて「一番下のお子さんの年齢は?」だけだったという。
それだけである程度の状況が見えてくる。
つまり、ピンポイントでどの情報を的確に吸収することが、大事かを考えよと。その全体を理解することにつながる質問が何かを考えることが大事。いかにして自然に、そのお客様の行動を掴むか。その手法は日々進化しているから、ここで、シナブルの話が出てくる。なるほど。
つまり、彼らがMAでその行動履歴から必要な情報を吸収して、アクションに変える。人を知ることが大事な時代に、いかに人を知り、行動に変えられるかの本質を分かった上で、彼らが連携しているのだと明らかにしてくれた。
2.理論と本質をシステムといかに融合させるか
それこそが、中山さんが“アンケート”の大事さに直結する。お客様が求めているのは何かを考え、そしてそこでコンテンツ作りを行い、それが成果として実ったわけである。大都の話をしたからと言って、なにも動画をやれと言っているわけではないことはお分かりいただけるだろう。
そこで、シナブルの小林さんが入ってきた。
彼らで言えば、「EC Intelligence」というMAツールを持っている。つまり、彼らはそこで行動履歴をもとに必要なデータをふさわしい形でアプローチする。まさにこの行動履歴こそが、中山さんのいうところの“アンケート”なのだ。それと同時に、アクションが大事。
だから、「EC Intelligence」のシナリオ設計だったり、お客様の行動を可視化することが活きるのだと。シナリオは、まさにその行動分析である。そういうシナリオ設計に沿っていけば、お客様が探している商品をタイムリーに見つける一助になる。だから、現にそこで成果を出している店舗は多いと。そう話していて納得した。
つまり、過去と今では「人」へのアプローチが大事になっていて、そういうサイト作りが大事なのだ。
3.会社そのものの仕組みを見直すことの大事さ
自らの施策に伴い、臨機応変にお客様を意識する。すると、スタッフ側の士気は上がる。このタイプのお客さんなら、自分なりにこうしたらどうだろう。そう想像力を働かせて色々な仮説と検証を繰り返すから伸びていくのは自然な流れだ。
こうなると、もはやリアルとネットという枠組みではなく、ECサイトでも10年前の作りとはアプローチが違うことに気づくだろう。
仮に、その企業がそれまで別の事業で成功を収めたとしても、ネット通販で見えてくるお客様の姿は違うし、伝え方もその伝える手段も異なる。だから、会社として、そのデジタルの最適化も含めて、既存事業をどう見直ししていくかまで考えていくことが、重要なのではないかという結論に至った。
その本質に立って、一事業ではなく全体で見て、その中の最適化を考え、必要なアプローチをすれば、例えネット通販初心者であれど、結果はついてくるし、過去を未来に活かせるのではないかと思う。
今日はこの辺で。