ワークマン PB上位300商品 お値段据え置き “ やせ我慢 ”の裏に見える 巧みな選択と集中
やせ我慢です。そう強調する割に、強気である。昨今の急激な円安を受けて、多くの企業が値上げを断行していく中で、ワークマンは一貫して、値段据え置きを宣言してみせたのだ。この日の新商品発表会においてのことである。
ワークマン お値段据え置き の舞台裏
1.上位300商品は据え置きを宣言
そもそも、彼らの商品の多くは、プライベートブランドから成り立っていて、それらが商品数における全体の8割を占めている。このプライベートブランドの上位300商品に関しては、交渉を重ねて、値段据え置きにするというのだ。
それも、2022年の秋冬だけではなく、2023年春夏までの商品に関して、と宣言した。「ここまでの取り組みをしているのは、国内アパレルでは珍しい」とそう胸を張るのである。
とはいえ、下請け会社への無理な値下げ交渉ではない。言うなれば、選択と集中という話で、仕組みによって解決しようとしているのが特徴。
2.仕組みで安さを実現
商品の強みは機能性にあって、その多くは独自の素材によって成り立っている。つまり、ヒットと独自素材とが結びついている。例えば、「ダウンジャケットには、FUSION DOWNという素材が使われています」と。
このようにして現場主義に立ち、必要な素材を独自で開発して、そこで商品の機能性を謳い、差別化している。これは作業着時代から、ファッションの色合いが強くなってからも変わらない。このFUSION DOWNという素材こそが、この商品の要なのである。そういった感じで下記の通り。
FUSION DOWNはダウンジャケットの保温性と、吸湿発熱綿で体を温めるエコ素材。その機能性はお客様の潜在的なニーズを考慮した開発者ならではの視点。それが素材に反映されて、その真価が発揮されているのだ。
その他、FUWATECHという素材は、12アイテムまで横展開。
多くの展開をすることで素材のコストが2割ダウン。同じ素材だから新たな開発コストがかからないで済んで一層、新商品開発がしやすい。売り上げが伸びるほど、一つあたりのコストが下がっているから、生産性が高いと言える。
3.衣料品以外にも進出し安さを実現
また、衣料品に限らず、他ジャンルに進出するわけである。昨今、彼らがキャンプギアにも進出したのは記憶に新しい。まさにそれである。彼ら曰く、BASICドームテントは4万点販売した。キャンプギア全体では、40億円の売上が達成できたというのだ。これも同じ。売れるほど、原料費が抑えられる。
何より大きいのは、独自素材を、衣料品よりも多くの生地を必要とする商品に充てられる事。
テントのようなものであれば、衣料品より使う生地の量が相対的に増える。なので、一個あたりのコストが軽減するという算段である。衣料品の差別化要因がそのまま活かしつつの事である。
これが彼らの拡大戦略にも直結している。彼らはキャンプギアに限らず、シューズにも進出。特徴的なのは、パンプス。作業着の一環として足袋のような商材を扱っていた彼ら。だから、見た目にこだわらず、走れるくらいの柔軟性を持たせた。それが差別化要因としてヒット。それだけではなく、売れるほど、素材のコストがやっぱり下がるのである。
4.店舗の拡大にも直結
それに呼応し、#ワークマン女子の店舗自体も拡大。実は、その中にワークマンシューズを併設する。多くのブランドがその売上比率として、アパレル以外のものも多く扱っていることに着目。彼らもまた、それらをこの靴に加え、ゴルフ用品などに広げて、同じく機能性を謳って、差別化を図るのである。
これらをさらに推進していくために、土台となるお店の拡大を続ける。売り方の方程式が見えてきた「ワークマン女子」もフランチャイズ店を70店ほど新設していく。
ここにも彼らなりのオムニチャネル戦略がある。原則、商品は配送せず、店舗受け取りを推奨。そのお店で、ついで買いを誘発する。ただそれ以上に「作業着からキャンプ」という具合に、お客様自身に、新しいジャンルへの発掘を委ねてしまうのである。お客様の動向を間近に感じながら、新規開拓を模索していくわけである。
5.値頃感のあるアイテムで工夫するコーディネート
それともう一つ、感じたのは世の中のファッションに対する捉え方が、変わってきていることだ。ファッションというととかく、高価なもので尖ったデザインのものを着用していた時代もあった。でも、今はそうではなくなりつつある。
それをこの日、開催されていた「コーデ総選挙」で実感したのだ。
インスタなどで気に入ったものを「いいね」してもらい、優秀なものを表彰するわけである。もう少し、具体的に、皆のファッションを見てみることにしよう。舞台上では可憐にスタッフの方がそのコーデを見せてくれた。
これわかるだろうか。おしゃれだし、かわいい。全員ワークマンの服を着たワークマンのスタッフである。
6.より生活に近いところでトレンドが
高価なもので尖ったデザインのものではなく、割と、誰でも着られる衣装を着回しして、カジュアルに着こなす時代へと変わっている。そうなっている理由は、語弊を恐れずにいうなら、日本人が以前に比べて、財布の紐が固くなっていることが挙げられるだろう。
そしてもう一つはSNSの台頭です。ファッションモデルが着こなす姿に憧れるだけではなく、一般の人が身近なアイテムを上手に着こなす姿が浸透してきていることが挙げられると思うのだ。つまり、より生活に近いところで、トレンドが生まれている。
メーカーの注力するポイントも変わる。商品開発の人に聞いても、ユニークだったのが、最近の彼らの売りについての部分。ずばり、「ポケットの数」だと言う。写真を見てもらうと、確かに、異常にその数が多い。
デザインにコストをかけるよりは、実用面にコストをかける。これでバッグの負担が軽減する。結果、お客様の利便性と、コスト軽減を実感させるわけである。ファッションがより身近で誰でも手の届くものになってきているのかもしれない。便利でおしゃれな毎日を安く実現する世の中である。
小売に関わる人たちはこの要素をどうやって取り入れながら、お客さまに響くようにしていけるかが重要なのかもしれない。
ワークマンの戦略と、その商品ラインナップを見ると、それを反映している。今の日本人の財布事情をよく理解し、それを事業に上手に活かす小回りの効いた動き。そこに、ワークマン独自の強さががっちりハマって、今の勢いがあるのだと思った次第である。
今日はこの辺で。