真似できない 商品開発 に魂がある〜 国際雑貨エキスポ 2020 春

私たちが普段手にする雑貨や日用品の裏側には、商品を生み出す職人やメーカーの熱意が詰まっている――そんな“ものづくりの原点”を感じられる場が、1月20日から22日まで幕張メッセで開催された「国際雑貨エキスポ 2020 春」。
日本のみならず海外からも多彩な出展企業が集い、独自のアイデアで生み出された雑貨の数々が一堂に会するこの展示会。来場者にはバイヤーやショップオーナーが多く、彼らが求めるのは「売りやすさ」だけでなく、「つくり手の想い」が滲む商品である。
職人の魂が宿るものづくりの価値
会場を回って最初に感じたのは、製造工程に対する強いこだわりと、ユーザーの使い勝手を追求する姿勢。目新しさやデザインの良さはもちろん重要だが、どのメーカーも「なぜ、こう作るのか?」という明確な意図をもって臨んでいるように見受けられた。
新しい素材を試してみたり、海外の工場と提携してコストを抑えたりと、試行錯誤の背景には“より多くの人にこの良さを届けたい”という情熱がある。
実際、ゼロイチで何かを生み出すのは容易なことではない。
とくに既存の概念を超える新発想の商品は、一見シンプルに思えても、試作品の段階で何度も改善や修正が重ねられています。職人技術に裏打ちされた製品でも、実際にユーザーの生活に溶け込むためには、使う場面や価格帯、メンテナンスのしやすさなど、総合的に配慮しなければならないから。
そうした苦労を乗り越え、なおかつ“この商品があると日常が少し楽しくなる”という魅力を持っているものこそ、本気のものづくりだと言えるでしょう。
今回出展されていた「マグエバー」のマグネット雑貨や、「グッドグラス」のかわいらしい吹きガラスなどは、まさにその一例。流行にただ乗っかるのではなく、自分たちの得意領域や技術を活かしながら、ユーザーのニーズに寄り添い、なおかつ新しい切り口を提示していた。
マグネットで暮らしを変える——「マグエバー」の粘り強い発想力
・暮らしを便利にする

会場を歩いていて真っ先に目を引いたのが、株式会社マグエバーのブース。同社は名前のとおり“マグネットの専門家”だが、ただ強力な磁石を売るだけではない。
自社のコア技術を活かしながら「暮らしを便利にする」ための製品を多数開発しているのである。その代表作が「マグサンド」。一見、単なる丸いマグネットが2つセットになっただけのように見えますが、実はこれが斬新な使い方を可能にしていた。
最大の特徴は「挟む」という発想。窓ガラスの表裏にそれぞれマグネットを貼り付けると、その磁力でガラスをはさんだ形となり、フックを好きな場所につけられるという仕組み。

お風呂場や洗面所、キッチンなど、タオル掛けが不足しがちな場所でも、窓やガラス面があれば手軽にフックを追加できます。よくある吸盤式フックと異なり、貼り付きにくい素材でもしっかりホールドできるのが強み。しかもマグネットが当たる部分にはシリコン製のカバーを施してあるので、ガラスを傷つけにくく錆びにくいのである。
・実用性と買いやすさの調和
このシリコン被膜に関しては、中国で作ったマグネットをマレーシアの工場へ持ち込み、特殊な工程でコーティングすることで実現させているとのこと。
日本国内生産ではどうしてもコストが上がってしまい、1280円(税抜)という現行価格を維持できなくなるという。高品質とリーズナブルな価格帯の両立は、ものづくりにおいて常に大きな課題。しかしマグエバーは、日本での生活に根ざした実用性と買いやすい価格を両立すべく、国境をまたいで生産体制を整えているのである。
このような試行錯誤の背景には、代表取締役の澤渡紀子さんをはじめとするスタッフの「マグネットの可能性をもっと多くの人に知ってほしい」という思いがあるからこそ。単に“便利そう”というだけでなく、生活のシーンに合わせてマグネットを使いこなす楽しさを提案しているところに、ものづくり企業としての真剣な姿勢を感じる。
「暮らしの形を作る」ことにこそ喜びがある——マグネットと聞くと地味な印象を持つ人もいるかもしれませんが、それを雑貨の世界に落とし込んで新しい価値を生み出す姿こそ、ゼロイチで発想を転換するお手本のように思える。
伝統技術×若い感性がもたらす意外性——「グッドグラス」とアイワ工業の挑戦
・二重構造が可愛らしさを生む
「吹きガラス」という伝統技術が、こんなにもかわいらしくユニークな商品になるとは――会場で思わず足を止めたのが、「グッドグラス」という二重構造のガラス製品。
透明なグラスの内側に動物のシルエットが仕込まれており、色付きの飲み物を注ぐと、たとえば猫や犬、ウサギといった動物たちの姿がくっきり浮かび上がります。そのキュートな意匠はSNS映えも抜群で、ギフトやインテリアとしても人気を集めているそうである。
本来、吹きガラスは熟練の職人が熱く溶かしたガラスを息で膨らませながら成形する、手間と技術を要する伝統的な製法。

台湾で生まれたグッドグラスのコンセプトは、職人技を活かしつつ、内側にシルエットを作り込むことで“遊び心”を加えた点にある。ここに若いデザイナーの発想が掛け合わされる、そうすることで、単なる工芸品にとどまらない現代的な雑貨へと進化したのである。
・商品に惚れ込み今に至る
そして、このグッドグラスを日本に紹介しているのが、配管工事や工法の提案をメインとする株式会社アイワ工業。
いわば「畑違い」とも思える企業だが、代表取締役の榊原和彦さんが現地を訪れた際にこの商品に惚れ込み、日本総代理店として輸入販売を開始。さらに日本独自の展開として、有名キャラクターとのコラボ商品やイベント展開を行い、国内ユーザーに合わせたアレンジを積極的に図っている。
そこには、職人技術そのものをリスペクトすると同時に、新しい市場や時代のニーズとどう結びつけるかを常に模索する姿勢が感じられるわけだ。
たとえば「ただ海外の良いものを仕入れる」だけでなく、日本の消費者が求める品質管理やデザイン調整に対応し、グッドグラスをより広く浸透させるための努力を惜しまないのである。
伝統を重んじながらも、若い感性を融合してユニークな商品を作るという姿勢。それは、今後さらなる広がりを見せるだろう。
グラスに浮かび上がる動物キャラクターは、まさに職人の技とデザイナーのひらめきが合わさった“ハーモニー”。その斬新さは見る人の心をくすぐり、手に取った瞬間に笑顔にしてくれる。こうした“ものづくりの楽しさ”が、新たな文化を形づくる原動力になるのかもしれない。
「売る」から一歩先へ——ショップが学ぶべき“ものづくりの魂”とは
・作る行為と売る行為の繋がり
エキスポ会場を巡りながら感じたのは、“ものを作る”過程と“ものを売る”行為の間には、もっと深い繋がりがあるということ。世の中にはヒット商品を作りたいと願うショップオーナーも多い。だが、実際には「流行りの素材を入れれば売れるのでは」「手軽にオリジナル商品を作りたい」という短絡的な発想に終始してしまう例もしばしば見受けられる。
しかし、本気でものづくりに取り組むメーカーの事例を目にすると、そこには“自分たちが本当に作りたい理由”や“ユーザーの生活をどう豊かにするか”といった明確な芯がある。
たとえば、マグエバーが海外工場を駆使して錆びにくいマグネットを作り出しているのは、単に「強力な磁石を売りたい」からではない。“家中どこにでも取り付けられる便利さ”を届けるために、最適な手段を探し回った結果だ。
こうしたストーリーは、商品を一段と魅力的に見せます。
・工程に目を向ける
同様に「グッドグラス」の場合も、伝統技術を守りながら新しい価値を生み出す試みが際立っている。
ショップがこの商品を取り扱うなら、単なる“かわいいグラス”として売るのではない。どのような工程で作られ、どんな職人技術が使われているのかを伝えると、より深い理解が得られるだろう。背景を知ったお客さまは、購入時の満足感も大きくなりますし、誰かにプレゼントする際にも“物語”ごと贈れる利点がある。
そう考えると、ショップが“ものを作る”プロセスに一歩踏み込んで理解を深めることが、売上アップの近道になる可能性は十分にあるのだ。
目先の流行や価格競争だけを追いかけるのではなく、「うちの店がこの商品を取り扱う意味は何か?」と問い続けることが、ブランドの価値や顧客満足度を高めるカギになるのではないだろうか。
ものを売るプロは数あれど、ものづくりへのリスペクトや、作り手と心を通わせる努力をしているショップはまだまだ多くありません。その差が、最終的には“本当にお客さまに選ばれる店”とそうでない店を分けるのだと思います。ぜひこの展示会の事例を参考に、ショップの皆さんにも“作り手の視点”を自らのビジネスに取り入れてみてはどうだろうか。
今日はこの辺で。