幟は、明日になると順位順に並び替わる──『ONE PIECE DAY’26』を歩いて見えた、ファンの「好き」の行き先

会場に立ち並ぶ、100本の幟。描かれているのは、第2回「ONE PIECE キャラクター世界人気投票 WORLD TOP 100」で、上位100位に入ったキャラクターたちである。2026年8月22日、幕張メッセで開幕した「ONE PIECE DAY’26」。幟の間を抜けながら会場を歩いていくと、ここが単に『ONE PIECE』の最新情報や商品を集めた場所ではないことが見えてきた。
ただし、取材の時点では、まだ順位順に並んでいない。8月22日のプレミア前夜祭では、麦わらの一味を先頭に、それ以外のキャラクターは物語への登場順で並んでいる。
この後,順位が判明
このあと前夜祭で100位から31位までが発表され、翌23日の午前中には30位から1位までが明らかになる。最終結果が出たあと、幟はランキング順に並び替えられるという。
今日は登場順。明日は人気順。
つまり、この会場自体が、ファンの投票によって姿を変えるのである。
ファンがキャラクターを選び、自分の「好き」を表明する。その気持ちが、展示になり、体験になり、やがて商品にもなっていく。
会場全体が、その流れを見せるように作られていたのである。
1,567人から選ばれた100人。その順位が会場を動かす
「ONE PIECE DAY」は、『ONE PIECE』の連載開始日である1997年7月22日にちなんだ「ONE PIECEの日」を祝う、年に一度の大型イベントである。集英社、東映アニメーション、バンダイナムコグループが主催し、今回で5回目を迎えた。
今年の中心にあるのが、第2回「WORLD TOP 100」だ。
投票対象となったのは、総勢1,567人。2026年3月から6月まで、ハガキ、Webサイト、ONE PIECE BASEアプリ、各地に設けられた投票スポットから、世界中のファンが好きなキャラクターへ票を投じた。
その最終結果を、22日のプレミア前夜祭で100位から31位まで、23日の本祭で30位から1位まで発表する。

結果を二日間に分けることで、順位発表そのものがイベントを動かす物語になる。そして、その変化を最も分かりやすく伝えているのが、目の前に並ぶ「WORLD TOP 100 NOBORI」だった。
今見ている並びが、翌日には変わっている。
それは単に、順位を分かりやすく見せるためだけではない。1本の幟の後ろには、そのキャラクターを選んだ大勢のファンがいる。それぞれに、好きになった場面があり、忘れられないセリフがあり、物語とともに過ごした時間がある。
まだ最終順位が発表されていない幟を眺めているだけなのに、その一人ひとりへ寄せられた思いの強さが伝わってくるようで、胸の奥が少し熱くなった。
作品の世界へ入る方法は、ひとつではない

キャラクターと「相席する」レストラン
幟のエリアから進むと、家庭用ゲーム最新作『ONE PIECE 海のごちそうレストラン』のブースが現れる。
ここで表現されているのは、『ONE PIECE』の「食」の世界だ。
背面に描かれた大きなビジュアルでは、さまざまなキャラクターが同じテーブルを囲んでいる。眺めていると、まるで自分もその席へ加わり、キャラクターたちと相席しているような感覚になる。
会場では、発売前のゲームを世界最速で試遊できる。作品の中で何度も描かれてきた食事の時間を、今度はプレイヤー自身が操作し、体験するわけである。
『ONE PIECE』では、食事が単なる栄養補給として描かれることは少ない。仲間が集まり、笑い、騒ぎ、ときには新しい関係が始まる。食卓もまた、物語が動き出す場所なのである。
思えば、こうしたゲームが成立すること自体、『ONE PIECE』の世界が細部まで描かれてきた証拠なのかもしれない。戦いや冒険だけでなく、食事や会話、仲間と過ごす時間まで積み重ねられているから、一部分を切り出しても、ひとつのゲームとして広げられる。その奥行きに、改めて気づかされる。
知っている作品が、知らない遊びへの入り口になる
その先にあるのは「ONE PIECE カードゲーム」のコーナーだ。
すでにカードゲームを遊んでいる人に向けた展示だけでなく、初心者がルールを教わりながら遊べるティーチングも行われる。新商品を見せるだけでなく、まだ遊んだことのない人にも、最初の一歩が用意されている。
作品を知っていることと、カードゲームを遊べることは同じではない。興味があっても、ルールが分からなければ入りづらい。
だから、ファンが集まる「ONE PIECE DAY」に体験の入口を作る。マンガやアニメをきっかけに来場した人が、その場でカードゲームという別の『ONE PIECE』に出会える。
作品への入口は、ひとつではない。マンガから入る人もいれば、アニメ、ゲーム、カード、商品から入る人もいる。そして、どこから入ったとしても、キャラクターを通して同じ世界へつながっていく。
「推し」を描くことが、自分自身の表現になる
「好き」を周囲へ伝える、小さな名札
さらに歩くと、「推しカードラウンジ」がある。
来場者には、入場時に「推しカード」が配られる。そこに自分の好きなキャラクターを描き、なぜ好きなのか、どこが好きなのかを自由に表現する。
用意されたお題に沿ってカードを作り、SNSへ投稿すると、ポストカードがもらえる企画もある。また、10種類のミニ塗り絵から好きなキャラクターを選び、色を塗ってカードに貼ることもできる。
絵が得意でなくても、塗り絵を使えば自分なりの「推しカード」を作れる。完成したカードは、その人が誰を好きなのかを周囲へ伝える、小さな名札のような存在になる。
人気投票も、推しカードも、やっていることは共通している。
自分の「好き」を、目に見える形にすることだ。
しかも、そのカードをSNSへ投稿すれば、会場内だけで終わらない。ひとりのファンの気持ちが、会場の外にいる別のファンとの会話を生んでいく。
自分が塗ったキャラクターが、会場の一部になる

『ONE PIECE』の世界へ浸るだけではない。どのキャラクターを好きか、なぜ好きなのかを通して、その人自身の価値観や感性まで見えてくる。
キャラクターへの思いが、そのまま自己表現になっている。そこに、この作品が長く愛されてきた強さが表れているように思えた。
推しカードと連動するように、塗り絵のアクティビティも用意されている。
来場者が白黒のキャラクターへ自由に色を塗り、完成した用紙をスキャナーで読み込む。すると、自分が塗ったキャラクターがデジタル化され、大きなモニターの中に現れる。
最初は、用意された一枚の塗り絵にすぎない。しかし、自分で色を選び、手を動かすことで、その人だけのキャラクターになる。そして画面へ投影されれば、来場者自身が会場の景色を作る一人になる。
完成された展示を見るだけではない。自分の手で会場の一部を作る。
「ONE PIECE DAY’26」では、ファンが鑑賞者のままで終わらないのである。
見る、遊ぶ、持ち帰る。その境目がなくなっていく

商品を眺めるだけでは終わらない
次に入るのが「TOY & HOBBY WORLD」だ。
中央には複数の展示台が設けられ、アパレル、フィギュア、一番くじなど、すでに発売されている商品から今後登場するものまでが並ぶ。正面の大型モニターでは、それぞれのブランドが『ONE PIECE』をどのように商品へ落とし込んでいるのかが映像で紹介されている。
ただし、ここは商品をガラス越しに眺めるだけの場所ではない。
すぐ近くには、バンプレストのクレーンゲームが置かれている。「ONE PIECE DAY」でクレーンゲームを実際に体験できるのは、今回が初めてだという。
景品は、「Grandista」シリーズのギア5のルフィと、存在感のある大きさのカルーのぬいぐるみ。フィギュアを狙う人もいれば、ぬいぐるみが欲しい人もいる。好きなキャラクターが違うだけでなく、商品との付き合い方も人によって違う。
プレー料金は500円。会場では通常のゲームセンターより取りやすい設定にされ、景品を獲得すると限定ショッパー、アンケートに回答すると限定ノベルティも受け取れる。
クレーンを操作し、景品を手にし、それを持って会場を歩く。その姿自体が、別の来場者へ商品の存在を伝えていく。
自分の拳で、作品の中へ入る
少し進むと、今度は大きなパンチングゲームが動いている。2026年7月に稼働を開始した『ONE PIECE ドーンストライク』だ。
このゲームでは、プレイヤーがルフィなどのキャラクターを操作するのではない。自分自身の拳で、『ONE PIECE』に登場する巨大な敵へパンチを打ち込む。
相手はパシフィスタ、ドンキホーテ・ドフラミンゴ、カイドウ、サターン聖。拳を振ると画面に覇気の演出が現れ、目の前の敵へ攻撃が入る。
ルフィになるのではなく、自分自身が『ONE PIECE』の世界へ入って戦う。画面の中にいた敵が、自分の身体を動かす相手になるのである。
剝がして、見つけて、持ち帰る
さらに、『ONE PIECE バウンティラッシュ』のブースでは、30種類以上のキャラクターが描かれたステッカーを壁から自由に剝がし、持ち帰ることができる。
ステッカーを剝がすと、その裏からキャラクターのセリフが現れる。どのキャラクターが出るかは、剝がしてみなければ分からない。選び、剝がし、言葉を見つけ、持ち帰る。その動作自体が、小さな体験になっている。
来場者同士で協力する「連携チャレンジバトル」も行われる。一人で画面を見るだけのゲームではなく、その場にいる人と一緒に遊ぶことで、『ONE PIECE』が描いてきた「仲間」という感覚にも近づいていく。
いろんな接点が興味を際立たせる
商品を見る。ゲームで遊ぶ。身体を動かす。そして、キャラクターを持ち帰る。
正直、会場を歩けば歩くほど、『ONE PIECE』が実にさまざまな場所へ浸透していることに驚かされる。
しかし、それは一方的な広がりではないのだと思う。マンガやアニメからゲームや商品へ広がるだけでなく、クレーンゲームやカード、フィギュアをきっかけに、原作やアニメへ入っていく人もいる。
いくつもの入口があり、それぞれが再び作品へ戻ってくる。その広がりを成立させているのは、やはり作品そのものの力なのだと思えてならない。
6分に1回しゃべるロキが、物語と商品をつなぐ

会場を歩いていると、巨大なロキのバルーンが見えてくる。
昨年も登場した展示だが、今年は6分に1回、ロキの声が流れる。大きな姿を見るだけでなく、声によって突然こちらへ働きかけてくる。
何気ない仕掛けのように思えるが、声が響いた瞬間、目の前の巨大なモニュメントに命が宿る。視覚だけでなく、耳からも作品の世界へ引き込まれ、気持ちが少し高揚する。
そして、このロキが置かれているのは、展示エリアと物販エリアを結ぶ通路である。
現在進行しているエルバフ編を象徴するキャラクターが、展示と商品の間に立っている。その先の物販エリアでは、フィギュアシリーズ「LUFFY’s」のロキが先行販売されている。
物語の中でキャラクターを知り、会場でその存在感を体験し、最後には手元へ置ける商品になる。
巨大なロキから、小さなフィギュアへ。
キャラクターが物語から商品へ移っていく流れを、この通路がそのまま見せているようにも思えた。作品の力を生かしながら、声、モニュメント、会場の導線、商品までをひとつにつなぐ。その設営もまた圧巻だった。
最後に待っていたのは、順位ではなく物語だった
壁沿いに歩くと、人気ランキングが物語へ変わる
会場をさらに進んだ先に、「WORLD TOP 100 −みんなが選んだ100人−」の展示がある。
並んでいるのは、最終的に上位100人へ選ばれたキャラクターの複製原画や、コミックスの場面である。
順路に沿い、壁沿いを歩いていく。選ばれたキャラクターの登場場面をたどるうちに、『ONE PIECE』全体の物語が少しずつ蘇ってくる。
100人を順位だけで並べれば、人気ランキングになる。しかし、それぞれの登場場面や物語と一緒に見ることで、展示の意味は大きく変わる。
ある人にとっては、物語の中心にいるキャラクターかもしれない。別の誰かにとっては、登場する時間が短くても、忘れられないキャラクターかもしれない。
1,567人の中から選ばれた100人。その一人ひとりの後ろには、そのキャラクターへ票を投じたファンの記憶がある。
だから、ここに並んでいるのは、単なる100人の人気キャラクターではない。長い物語を、ファンそれぞれの「好き」から振り返るための100人なのである。
「そうだ、こんなことがあった」が蘇る
正直、これは泣けた。
僕自身、単行本を持っているからこそ、展示されている場面を見て、「そうだ、こんなことがあった」と、ページを読んだ当時の記憶まで蘇ってくる。
それぞれのキャラクターがルフィたちと出会い、時に敵対し、少しずつ距離を縮め、やがて互いを認めていく。その場面が次々と頭に浮かんでくる。
いま目の前にいるのは、順位を与えられたキャラクターではない。ひとつひとつの物語を背負い、自分の記憶の中にも生き続けていたキャラクターだった。
ファンが選んだ結果が、次の物語や商品を作る
会場を一周したあとで、改めて「WORLD TOP 100」の意味を考えてみる。
この人気投票は、順位を決めて終わる企画ではない。
最終結果でTOP30に入ったキャラクターは、原作連載30周年を迎える2027年以降、尾田栄一郎によって特別衣装で描き下ろされる。そのイラストは、さまざまな商品へ展開される予定だ。
さらに、TOP50は「ONE PIECE カードゲーム」で新たにカード化され、TOP15は2027年放送のTVアニメのアイキャッチに登場する。TOP30は、麦わらストアの商品シリーズにも加わる。
つまり、ファンが投じた票は、人気の確認に使われるだけではない。
誰が新たに描かれ、誰がカードになり、誰がアニメに登場し、誰が商品になるのか。ファンが示した「好き」が、次に作られるコンテンツへ具体的に反映される。
そう考えると、会場にカードゲーム、アニメ、フィギュア、ガシャポン、一番くじ、アーケードゲームが並んでいた意味も見えてくる。
それぞれは、独立した商品ではない。
ひとつのキャラクターを中心に、物語、映像、遊び、商品が行き来している。そして、その真ん中には、いつもファンの「好き」がある。
幟の並びが変わるとき、次の展開が始まる
このあと、プレミア前夜祭のステージでは「WORLD TOP 100」の100位から31位までが発表される。翌23日には30位から1位までが明らかになり、会場の幟も順位順へと並び替えられる。
だが、変わるのは幟の順番だけではない。
発表された順位を起点に、新しい描き下ろしが生まれ、カードが作られ、アニメや商品へ展開されていく。
ファンが好きなキャラクターへ一票を投じる。その小さな行動が、会場を変え、次に生まれるコンテンツを変えていく。
「ONE PIECE DAY’26」を歩いて見えてきたのは、巨大な作品が一方的に完成品を届けている姿ではなかった。
ファンが作品から何かを受け取り、その気持ちを投票や推しカードによって返す。そして、受け取った「好き」をもとに、また新しい物語、体験、商品が作られる。
作品とファンとの間で、その往復が続いている。
だからこそ、『ONE PIECE』という物語は、連載開始から長い時間が経った今も、止まることなく広がり続けているのだと思う。
今日はこの辺で。
- ©️尾田栄一郎/集英社
- ©️尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション







