売上を追うな、顧客を追え──澤井珈琲とタマチャンショップが辿り着いた「選ばれる店」のつくり方

ECで売上を伸ばそうと思えば、広告を増やす、新商品を投入する、セールを仕掛けるなど、いくつもの方法がある。けれど、それを繰り返しているだけでは、競争から抜け出すことは難しい。鳥取県からコーヒーを販売する澤井珈琲と、宮崎県発のタマチャンショップ。今では数々の賞を獲得し、多くの顧客を抱える両社だが、そのスタートは華々しいものではなかった。
これは、先程まで、NATIONSの10周年記念イベントが行われ、そこで語られたものだ。楽天NATIONS(ネーションズ)は、楽天市場の店舗同士が、競合という枠を超えてノウハウを共有し、互いの成長を支え合う学びの場である。一見すると、楽天市場は商品を売るための「売り場」に見える。けれど、その本質はむしろ、ECというものを、それぞれの店舗にとっての武器へと変えていく仕組みにあるのではないか。
だから、シェアをして成長していくことにこそ、この場に価値がある。最初はみんな、EC初心者だった。澤井珈琲は初月売上0円。最初の注文まで45日を要した。タマチャンショップも、楽天市場の管理画面へログインしてみればアクセスはわずか8、売上は0だった。二人とも、最初から「売れる商品」を持っていたわけではない。
それでも長い年月を経て、顧客から選ばれる店になった。
1.「売れるもの」を追いかけても、自分の店にはならなかった
さて、この二社には意外なほど似た原点がある。
澤井珈琲の澤井理憲さんが楽天市場へ出店した時、用意された資金は30万円ほど。パソコンさえ与えてもらえず、実店舗の倉庫でアイスコーヒーのケースを机代わりにしてネット通販を始めたという。鳥取という土地から、知名度のないコーヒーをインターネットで販売する。最初の月の売上は0円。楽天市場に店を出せば自然と商品が売れていくような世界ではなかった。
それは、タマチャンショップも似ている。田中 耕太郎さんが宮崎に戻り、父から勧められてECを始めたものの、最初に目にした数字は「8アクセス、売上0」。そもそもパソコンに触れた経験すらほとんどなかった。そこで、生き残るために当時世の中で売れている商品を仕入れ、販売した。トレンドを追いかけ、とにかく自分の給料を稼ごうとしたのである。
だが、それを続けても店は強くならなかった。
売れる商品を見つけても、翌日には競合が現れる。価格を下げれば、さらに安い店が出てくる。タマチャンショップは最初の4、5年、赤字が続いたという。そして、ついには社内から「いつ楽天を辞めるのか」と言われるほどになった。
そこで方向を変えた。
「売れているものを売る」のではなく、「自分たちが作りたい店を作る」。後にタマチャンショップを大きく変えることになるブランディングは、この時に始まった。
2.広告で得たものは「売上」ではなく、顧客だった
澤井珈琲にも、大きな転換点がある。
楽天市場へ出店して数年が経っても、月商は200万円ほどから伸びなかった。そこで東京の勉強会に足を運ぶと、60万円の広告を勧められた。当時の給料は20万円。広告費は給料3カ月分である。それでも「給料はいらないから広告を出させてほしい」と頼み、電動ミルとコーヒー豆を組み合わせた商品を投入した。
すると一日で約600万円を売り、ランキング1位になった。
普通なら、ここで「広告を出せば売れる」と考える。しかし、結果、澤井氏が目の当たりにしたのはその先の意味だった。一度購入した顧客へメルマガを送ると、それまでとは明らかに反応が違ったのである。そこで気づいたという。
広告は売上を作るためだけのものではない。新しい顧客と出会うためのものなのだ。
ここはECを考える上で大きい。広告費を投下し、ROASだけを見ていれば、その注文で話は終わる。しかし、顧客と出会ったのだと考えれば、その後に何を伝えるかが重要になる。
澤井珈琲はメルマガを送り続けた。現在はLINEなども含めて100万人を超える人へ情報を届けられるという。それだけの接点を持つからこそ、自らを単なるコーヒー販売店ではなく、「メディア」にもしていきたいと語る。
一回の注文ではなく、その先の関係を見る。澤井珈琲の強さは、かなり早い段階でそこへ気づいていたことである。
3.競合を見るのをやめると、「選ばれる理由」が見えてくる
ただ、顧客を増やすだけでも十分ではない。なぜ、その顧客が次も自分たちを選ぶのか。その理由を作らなければならない。澤井氏は、自分には美しいページを作る才能も、格好いい写真を撮る才能もないと語る。その代わり、自分が得意な場所で戦うと決めた。
そこで磨いたのが、コーヒーそのものの品質と、お客様への伝え方である。
豆の鮮度にこだわり、お湯を注いだ時にモコモコと膨らむ様子まで楽しんでもらう。さらに大型の焙煎設備へ投資を続け、現在では一日最大10トンを焙煎できる体制を築いた。大手ブランドと同じことをしても勝てない。だからこそ「澤井珈琲から買う理由」を、自分たちの強みに寄せていったのである。
タマチャンショップも考え方は近い。彼らが語ったのは「土俵を変える」という発想だ。同じ商品で真正面から競えば、最後は価格や広告費の勝負になりやすい。だが、商品の意味付けを変えれば競争相手そのものが変わる。
例えばプロテインを「筋肉」の商品として捉えるのか、「美容」や別の生活課題から捉えるのか。それだけでも立ち位置は変わる。競合との差を探すのではない。
自分たちは、どこに立つ会社なのかを決める。
すると、価格や機能の比較から離れ、「この店だから買う」という理由を作る余地が生まれるのである。
4.商品ではなく、「その人の生活」を見る
タマチャンショップの話で特に面白かったのは、「モノ・コト・ヒト」の順番を逆転させるという考え方だった。かつては、良い商品を作り、その商品を体験してもらい、その結果として顧客がついてくる。つまり、モノから始まる商売だった。
しかし今は、商品が溢れている。SNSを開けば、似たような商品はいくらでも見つかる。そこで重要になるのは、まず「誰に、どんな体験を届けたいのか」を考え、そこからサービスや商品を設計することである。
タマチャンショップではこれを「MVP的発想からMVS的発想へ」と表現していた。
商品を最小単位で作って検証するだけではなく、顧客の体験そのものを小さく作り、改善していく。購入履歴や継続率、レビュー、再購入などのデータを見ながら、その人が次に何を必要とするのかを考えるのである。
だから、定期便も単なる継続購入の仕組みではない。
飲み方を伝える。フォローする。レビューを書いてもらう。季節や生活の変化に合わせて次の商品を提案する。一つの商品を売って終わるのではなく、その人の暮らしの中へどう入っていけるかを設計する。
そうして生まれたレビューは、「安かった」「早く届いた」だけではなくなる。
そこで初めて、商品だけでは真似できない体験が残る。顧客をつかむというのは、囲い込むことではない。その人を理解し続けることである。
5.信頼は、都合の悪いことまで伝えた時に見えてくる
顧客との関係が本当に強いかどうかは、順調な時より、苦しい時に現れるのかもしれない。澤井珈琲では、原材料費が急激に上昇し、月次で大幅な赤字が出るほど経営が苦しくなった時期があったという。
そこで販売価格を2倍以上に引き上げる決断をした。ECでは怖い判断である。価格を上げれば顧客が離れるかもしれない。ましてやコーヒーは、他にもいくらでも選択肢がある。
それでも澤井氏は、単に値札だけを変えなかった。原材料がどれほど上がっているのか。それでも品質を落としたくないこと。そして、このままでは事業を続けられないこと。それを顧客へ正直に伝えた。
結果として、顧客は離れなかったという。澤井氏はそこで「お客様は裏切らない」と感じたと話している。もちろん、値上げを説明すれば必ず理解してもらえる、という話ではない。
大事なのは、その説明を受け止めてもらえるだけの関係を、それ以前に作れていたことである。日頃から品質に投資する。なぜその商品を作るのかを伝える。メルマガでコミュニケーションを取り続ける。
そうした積み重ねがあったからこそ、会社にとって都合の悪い話まで、顧客へ正面から語ることができた。信頼とは、きれいなメッセージではない。
言っていることと、やっていることが一致している状態なのだと思う。
6.会社の「思想」が、顧客との関係を一本につなぐ
ここまでを見ると、澤井珈琲とタマチャンショップは、ずいぶん違う方法で成長してきたようにも見える。しかし、最後に二人が話したことは、不思議なほど近かった。タマチャンショップがいま改めて重視しているのは、企業としてのビジョン、ミッション、バリューである。
何を成し遂げたい会社なのか。
その思想を商品開発だけでなく、店舗、EC、コンテンツ、コミュニティへ落とし込み、顧客にもその物語へ参加してもらう。同社が約6000人の顧客が集まるコミュニティを運営しているのも、商品を売るだけでなく、一緒にブランドを育てていくためである。
澤井珈琲もまた、「ショッピング・イズ・エンターテインメント」と語る。
安さだけがエンターテインメントではない。インターネットは、店側の思いをいくらでも伝えられる場所である。だから、その思いを一生懸命ページに込め、買ってもらう。それこそが商売の面白さなのだという。
最後にタマチャンショップから出てきた言葉が象徴的だった。「売上を追うな、お客様を追え」。売上は目印にすぎない。店を成長させてくれるのは顧客である。顧客を見る。そして、その顧客に信じてもらえる会社であるために、自分たちは何者なのかを明確にする。
商品、広告、CRM、店舗、コミュニティ。
一見バラバラに見える施策も、そこに会社としての思想があれば一本につながる。結局、選ばれ続ける店を作るというのは、売り方を磨くことだけではないのだ。誰のために商売をするのか。そして、その人に何を約束する会社なのか。二社が長い時間をかけて作ってきたのは、そこなのだと思う。
こうすると、冒頭の問いに戻りつつ、締めとして収まりがいいと思う。
改めて振り返ると、二人が語った言葉はどれもシンプルである。だが、その奥には、長い時間をかけて試行錯誤してきた先人たちの学びが詰まっている。やっぱり、楽天市場は商品を売るための「売り場」に見えて、本質は違うのだ。むしろ、そこで商う人たちが顧客を知り、信頼を築き、自分たちなりの商売を形にしていくことで、ECそのものを店舗にとっての武器へと変えていく仕組みなのである。
だからこそ、「あなたもやれる」と力強く、NATIONSに集まる人たちの背中を押す。そして、また新たな人たちが、次の歴史を作っていくのである。
今日はこの辺で。







