小さなギフトが、人と人をつなぐ──momo-fukuが15年かけて見つけた「贈る」の価値とAIの役目

ギフトの価値とは、何だろう。高価であることでも、豪華であることでもないのかもしれない。ほんの数百円の小さなお菓子が、「ありがとう」を伝えることもある。「これ、何?」という一言から会話が始まることもある。そして、ときには、苦しい状況にいる誰かへ「一緒に頑張ろう」という気持ちを届けることさえある。そんな「プチギフト」を15年以上扱ってきたのが、momo-fukuである。
始まりは、木澤充さん(代表)と典子さん(専務)夫妻自身の結婚式だった。披露宴の最後にゲストへ渡す小さな贈り物を探したところ、思いのほか選択肢がない。「だったら、自分たちでそんな店を作ればいい」。そんな実体験から始まった店は、楽天市場などを通じて顧客と出会い、結婚式からバレンタイン、子ども会、町内会、季節の贈り物へと用途を広げていった。
その15年を聞いていると、彼らが売ってきたのは、単なる「小さな商品」ではなかったように思えてくる。
1.「自分たちが欲しかった」から始まった、小さなギフトの店
① 結婚式で気づいた「選べない」という不便
momo-fukuの原点は、マーケティング調査でも、壮大な事業計画でもない。木澤夫妻自身が結婚式の準備で感じた、ひとつの困りごとだった。披露宴の最後、新郎新婦がゲストを見送りながら「今日はありがとう」と手渡すプチギフト。価格は200円、300円、高くても500円程度。引き出物に比べれば小さな存在である。
ところが、いざ自分たちで選ぼうとすると、選択肢が少なかった。
式場では引き出物や引き菓子には豊富なラインナップが用意されている一方、プチギフトは「この中から選んでください」という程度だったという。ならば雑貨店などで探そうとしても、気に入った商品をゲスト50人、100人分そろえるのは簡単ではない。しかも結婚式は初めて経験することばかりで、仕事をしながら準備していれば、プチギフトを具体的に選び始める頃には式まで1カ月ほど、ということもある。
ここに二人は需要を見つけた。
② プチギフトだから開いていた、小さな隙間
そして、この着眼には当時のブライダル業界の事情も味方した。
充さんによれば、当時のブライダル業界は式場と既存事業者との関係が強く、新規事業者にとっては入り込みづらさのある世界だった。一方、典子さんが補足したのが「持ち込み料」である。外部で購入した引き出物などには持ち込み料が発生する場合がある一方、プチギフトについては対象外となるケースがあったという。
つまり、そこには小さな隙間があった。単価だけを見れば200円、300円の商品である。一つだけ売っていては、ネットショップのビジネスとして成立させるのは難しい。しかし結婚式では、それを50個、100個とまとめて必要とする。
僕が聞きながら思ったのは、数がまとまることで、一件の注文としての金額も大きくなる。そうなれば、送料を店舗側で負担したとしても、ビジネスとして成立させられる余地が出てくる。一つひとつは小さな商品でありながら、「まとめて必要とする人」がいる。
ここにも、momo-fukuが入り込める隙間があったのである。
2.結婚式の外にもいた、「小さな贈り物」を必要とする人たち
① 素人だった二人を支えた、メーカーとの出会い
とはいえ、二人は小売のプロとしてスタートしたわけではない。展示会へ行けば商品を仕入れられるのではないか。そんな感覚で足を運び、気になるメーカーへ「これからネットショップを始めたいのですが、商品を売らせてもらえませんか」と声をかけていった。
取引条件で使われる言葉の意味すら、その場で尋ねるほどのスタートだったという。
それでも応じてくれたメーカーがいた。自宅で事業を始めたため在庫を置く場所がないと相談すると、メーカーから顧客へ直接発送する形にも協力してくれた。その中には、15年以上付き合いが続いている会社もある。
② 売ってみて初めて見えた、結婚式の外の需要
最初は自社サイトから始まり、その約1年後、楽天市場にも出店した。ここで興味深いことが起きる。結婚式用だと思っていた商品を、別の目的で買う人たちが現れ始めたのである。
例えば、手のひらサイズのハート形クッキー。それがバレンタインデーの「配るギフト」として大きく売れた。
「ああ、この商品は結婚式だけのものではないんだ」。
そこから季節やイベントに合わせて商品の見せ方を変えていった。現在では、結婚式向けとして扱われる商材は典子さんの感覚では3割ほどで、その商品すらバレンタインや子ども会など別の用途でも購入されるという。さらに販促用ノベルティ、お中元、お歳暮などへと品ぞろえは広がっていった。
③楽天市場で自分たちの立ち位置を知る
楽天市場との出会いの意味も、ここにあるのだと思う。単なる売り場が増えた、という話ではない。
購買意欲を持つ多くの人が集まる場所へ商品を置くことで、「こんな使われ方もするのか」という反応が返ってくる。典子さんは、それを「無料マーケティング」と表現していた。注文や問い合わせそのものが、次の商品を考える材料になるからである。
自分たちの経験から見つけた小さな需要が、多くの顧客との接点によって、その輪郭を広げていった。結婚式のための店から、「誰かへちょっとしたものを渡したい人」のための店へ。
ここでmomo-fukuの現在につながる土台ができたのである。
3.「何これ?」から始まる会話まで、ギフトにしてしまう
① 渡した瞬間から始まる、「何これ?」という会話
そして15年間、顧客の反応を見続けたからこそ、二人はもう一つのことに気づいていく。ギフトは、渡した瞬間に役目を終えるものではない。
典子さんが話していたのが、「何これ?」という言葉だった。ただ「ありがとう」と受け取ってもらうだけではなく、少しユニークだったり、見たことのないものだったりすることで、「何これ?」と会話が始まる。
例えば、ちょっと笑ってしまう名前のお饅頭。あるいは、パッケージに描かれたモチーフに意味があり、「実はこれ、こういう意味があるから選んだんだよ」と話せる商品。momo-fukuでは、そうした会話につながるユニークな商品を意識的に扱うようになり、商品に込められた意味をコラムなどでも紹介してきた。
面白いのは、最初からそれが分かっていたわけではないことである。
当初、典子さん自身は結婚式らしい、エレガントでおしゃれな商品を中心に選んでいた。ところが、意外にも最初によく売れたのは、少しギャグっぽい「猫ちゃんチョコ」のような商品だったという。
② 「ギフトとはこういうものだ」と決めつけない
そこで「自分たちで決めすぎない方がいい」と思うようになった。
敬老の日もそうだ。「おばあちゃんには和菓子だろう」と思っていたら、「お煎餅は硬くて食べられない」という問い合わせが来る。それを受けてゼリーやブランケットへ選択肢を広げた。クリスマスならお菓子だと思っていたら、町内会や自治会ではトイレットペーパーや箱ティッシュといった実用品が喜ばれることも分かった。
典子さんは、問い合わせをしてくれる人が一人いれば、その後ろには、同じことを感じながら問い合わせずに離れていった100人がいる、と考えているという。
だから、店側が「ギフトとはこういうものだ」と決めつけない。
贈る相手がいて、その人を思う人がいて、その関係ごとに「とっておき」は違う。そう考えると、プチギフトの「プチ」は単に価格や大きさを意味する言葉ではなくなる。
大げさではないから渡せる。気を遣わせないから、思いを乗せられる。そして小さいからこそ、日常の中に会話を一つ増やせるのである。
4.「会社を救ってくれたギフト」が、誰かを励ますギフトになった
① 家族とメーカーで作った、窮地のアマビエ
そのmomo-fukuらしさが、最も鮮明に表れた出来事がある。充さんが「会社を救ってくれたギフト」と振り返った、アマビエの商品である。コロナ禍で結婚式が次々と止まり、ブライダル需要は大きく落ち込んだ。
「これはやばい」。
そんな状況のなか、充さんが朝のニュース番組で目にしたのが、疫病退散の象徴として話題になっていたアマビエだった。
かわいい。そう思った充さんは、自らイラストを描いた。娘が色を塗り、長年付き合ってきたメーカーへ相談して商品化した。通常であればロットや印刷費の話になるところを、そのメーカーも「一緒にやりましょう」と協力してくれたという。
結果、商品は大きく売れた。
当時の商品画像を見ると、「疫病退散」「いっしょにがんばろう!」といったメッセージとともに、アマビエを描いた小さなギフトが並んでいる。だが、ここで大切なのは「ヒット商品を作って会社を救った」という話だけではないと思う。
② 会社を救ったギフトが、誰かを思う手段になった
その商品を必要としていたのは、momo-fukuだけではなかったからだ。
近所の人へ配る人がいた。小さなチョコレートだから「気を遣わせずに配りやすい」と選ぶ人がいた。会えない家族へ贈る人がいた。店舗などの現場で働き続ける人への差し入れにも使われた。
会社が苦しかったから生まれた商品が、同じように苦しい状況にいた人たちの「何かしてあげたい」という気持ちを助けていたのである。これは、プチギフトという商品の本質を象徴しているように思う。人は、必需品だけで生きているわけではない。
困っている人を見たとき、「頑張って」と言いたい。でも大げさなものを渡すほどではない。相手に気を遣わせたくもない。そんなとき、数百円の小さなギフトだからできることがある。アマビエはmomo-fukuを救った。
しかし同時にmomo-fukuもまた、その小さなギフトを通じて、人が人を思うための手段を世の中へ差し出していたのである。
5.ネットショップだからこそ、「人と人」を手放さない
① 見えないからこそ、顧客の声を聞きにいく
だからこそ、momo-fukuがネットショップでありながら、人との接点を大切にしていることにも納得がいく。充さんは、贈る人にも受け取る人にも喜んでもらうことを常に考えているという。
ただしネット通販では、実際に商品がどう使われ、相手がどう感じたのかは見えづらい。だから電話やレビューなど、わずかでも顧客とコミュニケーションできる場所から、その使われ方を知ろうとしてきた。
典子さんが「常に感動しています」と話したのも印象的だった。
レビューを書いたうえで、わざわざ個別にメールまで送ってくれる人がいる。商品だけではなく、それまでの対応を含めて感謝を伝えてくれる人もいる。
その中でmomo-fukuが今も大切にしているのが電話である。ネットショップの問い合わせ窓口がメールやチャットへ移るなか、電話番号を掲載し、人が応対する。「何かあったら話せる」というだけで、初めて購入する人の安心につながっているという。
② ギフトの向こうにいる人まで預かる仕事
考えてみれば、これはギフトを扱う店だからこそ重要なのかもしれない。自分のための商品であれば、多少の不安は自分の中だけで完結する。
だが、ギフトの向こうには別の誰かがいる。結婚式に間に合うのか。相手に失礼ではないか。ちゃんと気持ちが伝わるのか。購入者は、商品だけではなく、その先にある時間まで預けているのである。
だからmomo-fukuにとって「人と人」は、接客上の美辞麗句ではない。15年間、メーカーと関係を築き、顧客の声を聞き、その声から商品を増やしてきた。
人から始まり、人によって店が変わり、また次の人へギフトが渡っていく。その循環そのものが、この店を作ってきたのである。
6.問い合わせ時間70%削減──AIが減らしたのは「人の仕事」ではなかった
① 67時間から20時間へ─AIが支えた問い合わせ対応
そんなmomo-fukuに、近年もう一つの変化が起きている。AIの活用である。
ただ、この話を単なる「業務効率化の成功事例」として見てはいけない。momo-fukuが15年間積み上げてきたものを見誤る気がするからだ。実際、効果は数字にも表れている。楽天側の説明によれば、問い合わせ対応にかかる時間は、1カ月あたり67時間から20時間へと減少した。約70%の削減である。
典子さんにも、この数字に実感があるという。以前、少人数で運営するmomo-fukuには、問い合わせ対応について細かなマニュアルが整備されていたわけではなかった。充さんや典子さんは長年の経験や感覚によって対応できる。しかし、新しく加わったスタッフにとってはそうはいかない。
特に悩んでいたのが、意外にも「言葉」だった。
「この敬語で失礼ではないだろうか」「この書き方で大丈夫だろうか」
顧客への返信を書くたびに何度も文章を読み返す。それだけ丁寧に向き合っていたとも言えるが、スタッフにとっては大きなプレッシャーであり、一件の問い合わせに多くの時間を費やすことにもつながっていた。
そこへ、問い合わせ対応を支援するRakuten AIが入った。典子さんによれば、導入当初は十分ではないと感じる部分もあったものの、現在では回答文の精度がかなり高くなったという。顧客から届いた問い合わせをもとに、伝えたい内容を入力すれば、それを適切な文面へ整えてくれる。
② 返信が早くなると、「次の問い合わせ」まで減っていく
すると、一件の返信が早くなる。だが、本当に興味深いのは、その先である。
返信が遅れれば、「先ほど問い合わせた件はどうなっていますか」という次の問い合わせが来る。問い合わせ対応に追われて発送案内や発注が遅れれば、今度は別の顧客から「商品はいつ届きますか」という問い合わせが来る。
一つの遅れが、次の仕事を生み出していたのである。
反対に、最初の問い合わせへ素早く、的確に回答できれば、「まだですか」という二つ目の問い合わせは発生しない。ほかの業務も滞りにくくなり、そこから生まれていた問い合わせまで減っていく。
つまり、67時間から20時間への削減は、単純にAIが47時間分の文章を書いてくれた、という話ではない。仕事の滞留そのものが減ったのである。
③ AIが取り除いたのは、人が抱えていた負担だった
しかも、それはスタッフの精神的な負担にもつながっている。
入力ミスが減れば、それを原因としたトラブルやクレームも減る。「間違えてはいけない」と緊張しながら作業する時間も少なくなる。典子さんは、それを「精神衛生上的にも嬉しい」と話していた。
ここにも、二人らしい役割分担が見える。充さんがAIを使って業務の仕組みを整えていく一方で、典子さんは、そこから生まれた余裕をスタッフが働きやすい環境へとつなげていく。効率化と、その先にいる人への目配り。その両方が噛み合ったことで、momo-fukuのAI活用は前へ進んでいる。
まさに、二人三脚がAIによって、さらに生かされるようになったのである。
ここに、AIによる効率化を考えるうえで大事な視点があるように思う。AIが人の仕事を奪うのではない。人が本来やらなくてもよかった負担を、少しずつ取り除いていくのである。
7.AIで生まれた時間を、もう一度「人」へ戻す
① 効率化して、余った時間で何をするのか
では、そうして生まれた時間を、何に使うのか。ここで話は、この記事の最初へと戻ってくる。
充さんはAI活用について、「誰がやってもいいところは自動化を進め、人間がやらなければいけないところは人間がやる」と話していた。伝票の入力、FAXで届く発注書の読み取り、単純なデータ処理。そうした作業はできるだけ自動化する。
その一方で、人の手が空いた分は「よりお客様のために使う」。むしろ、お客様との接点では人が前面に出ていきたいという。実際、それまで後回しになりがちだったレビューへの一件一件の対応などにも、スタッフが時間を使えるようになってきた。
充さんが大切にしているのは、効率化そのものではない。
「効率化して、余った時間で何をするか」。
そこまで考えなければ、本当の意味でAIを活用したことにはならないのではないか、と話す。そしてAIではできない「人と人との接点」にこそ、重きを置きたいという。それを聞いて、僕は取材中、「心を動かす生産性が上がっているということですかね」と尋ねた。
充さんは「そういうふうに感じています」と答えた。
② 15年間、ずっと「人と人」の間を見てきた
この言葉が、momo-fukuのAI活用を一番よく表しているように思う。なぜなら、15年前から彼らがやってきたことは、ずっと人と人との間にあるものを扱う仕事だったからである。
結婚式を控えた自分たちが、「もう少しこだわったものを渡したい」と思った。その経験から店を作った。やがて顧客の声を聞き、「結婚式だけではない」と気づいた。
「何これ?」と笑ってもらえるものを増やした。敬老の日に何を贈れば喜ばれるのか、クリスマスに何が求められているのかも、店側の思い込みではなく、目の前の人たちから教えてもらった。
そしてコロナ禍には、自分たち自身が苦しいなかでアマビエを描いた。それを受け取った誰かが、また別の誰かへ「一緒に頑張ろう」という気持ちを渡していった。
③ AIが教えてくれた、「プチ」の可能性
そう考えれば、AIによって生まれた時間の行き先も、実は同じなのである。
人へ戻っていく。典子さんは、AIが進化しても、市場調査をAIだけに任せて商品を探すことはおそらくしない、と話していた。商品との出会いは、自分たちの直感や、人と会ったときの感覚を大切にしたいからだ。AIだけで作ったものを並べれば、店らしさも薄れてしまう。
それでいいのだと思う。AIが進化したから、人間が後ろへ下がるのではない。むしろ、機械に任せられるものが増えたからこそ、「自分たちは何を大切にしてきたのか」が鮮明になる。
彼らの肝は、プチギフトの「プチ」であることにある。大げさではないからこそ、その人の日常へすっと入り込み、ほんの少し素敵な時間を作ることができる。
AIによって生まれた時間が、「プチ」の可能性は、実はビッグであることを示してくれる。15年前、自分たちの結婚式で渡す小さなギフトを探したところから始まったmomo-fukuは、AIの時代になった今も、同じ場所を見ている。
ギフトの向こう側にいる、人である。
今日はこの辺で。







