「ネタがないと、お寿司にならない」──銚子丸・石井社長に聞く、「鮨 Yasuke 潮彩」が変えようとしていること

「サステナブルな寿司」と聞いて、僕はまず、何を持続させるための店なのかが気になった。養殖魚を使い、環境に配慮する。その方向性はわかる。ただ、それが寿司屋としての商売とどうつながっているのか、もう少し具体的に知りたかった。銚子丸が2026年9月17日、自由が丘の「JIYUGAOKA MUSE SQUARE」に開業する新業態「鮨 Yasuke 潮彩」。同店は「からだに、地球に、心地よい」をテーマに、養殖魚と職人技を組み合わせた寿司を提案する。

発表を聞いた後、僕は代表取締役社長の石井憲氏に直接、その意味を尋ねてみた。すると話は、国産のマサバからノルウェー産へと仕入れを切り替えたという、実に具体的な現場の話へと進んでいった。
そこにあったのは、環境に優しい新店を作ろうという思いだけではない。これまで当たり前に提供してきた寿司を、この先も出し続けられるのかという、経営者としての危機感だった。
いつもの魚が、いつものようには仕入れられない
僕が石井氏に聞いたのは、持続可能にしたいのは漁業なのか、寿司業界なのか、それとも銚子丸という会社なのか、ということだった。石井氏は、その問いに寿司屋の立場から答えた。
「ネタがないと、お寿司にならない」
だからこそ、魚が安定的に獲れ、お客様に提供できる海であってほしい。その説明を聞いていると、海洋環境と寿司屋の商売は、そもそも切り離して考えられるものではないのだと感じた。
石井氏によれば、海水温が上がることで、いつもの時期に魚が獲れなかったり、遠くまで行かなければ獲れなくなったりする。漁師が遠くへ出れば燃料代がかかり、その負担は魚一匹の価格にも反映される。サンマなどにも、そうした問題があるという。
そして、銚子丸の仕入れにも変化は起きていた。石井氏が同社に入った約3年前には国産のマサバを使っていたが、獲れにくくなり、価格も上がったことから、現在はノルウェー産のサバを使っているというのだ。
海の変化は、遠い将来の話ではなかった。すでに、店で何を仕入れ、いくらで提供するかという判断に入り込んでいたのである。
石井氏はサバの養殖にも期待を寄せながら、お客様に「値頃感」を持って提供できる価格になってほしい、と話していた。ここが大事なのだと思う。魚を確保できても、お客様が選びづらい価格になってしまえば、これまでと同じようには商売を続けられない。
魚がいることと、おいしい寿司を無理のない価格で楽しめること。その間をつなぎ続けるのも、寿司屋の仕事なのだ。「サステナブル」という言葉の向こうに、ようやく具体的な課題が見えてきた。
養殖魚だけでなく、野菜の寿司にも意味があった
そこで石井氏が重視しているのが、計画的に生産できる養殖魚を取り入れ、天然資源の利用とのバランスを取ることだ。ただし、どんな魚でも養殖できるわけではない、とも話していた。「鮨 Yasuke 潮彩」では、黒糖を加えた飼料で育てる「黒糖真鯛」「黒糖ぶり」や、「タスマニアサーモン」などを採用する。同社は黒糖飼料について、魚の成長や旨み、甘み、生臭さを抑える点などに特徴があると説明している。

個別取材では、石井氏から沖縄の養殖魚「スギ」を寿司に使う取り組みの話も出た。スギは沖縄で養殖が行われており、県の資料でも成長の早い魚として紹介されている。 いつもの魚を、いつもの場所から仕入れることだけを前提にしない。別の魚も含め、おいしく提供できる可能性を探っていくということなのだろう。
そして、この話は養殖魚だけでは終わらなかった。
僕は、今回の店が野菜の寿司を強調していることも気になっていた。「いろどり野菜づくし」は5貫970円(税込)。魚の握りに添える脇役ではなく、野菜を主役にした一品として用意されている。その理由を尋ねると、石井氏は魚への危機感にも触れながら、魚以外の食材で寿司のバリエーションを増やすことを説明した。そうした選択肢が広がれば、魚の使用量を考えることにもつながるという。
野菜の寿司も、健康志向に応えるためだけの提案ではなかったのである。
もちろん、今回の説明だけで、環境負荷が具体的にどれほど減るかまで判断できるわけではない。ただ、取り組もうとしている方向は見えた。天然魚に頼る割合を見直しながら、お客様が寿司を楽しむ選択肢そのものを増やしていく。そのために、調達とメニューの両方を変えようとしているのだ。
魚が変わっても、職人の「ひと手間」は手放さない
では、新しい魚や食材を用意すれば、それでいいのか。石井氏が個別取材で繰り返し触れたのは、そこに重ねる「ひと味の工夫」や「ひと手間」だった。養殖魚を扱いながら天然資源とのバランスを考える一方で、自分たちがこだわってきた技は、ライブ感を持って見せていきたいという。
実際、新店では素材の旨みを引き出す「漬け」や、タスマニアの天然塩を合わせた「炙り」など、食材に応じた仕事を施して提供する。実際、新店では素材の旨みを引き出す「漬け」や、天然塩を合わせた「炙り」など、食材に応じた仕事を施して提供する。
僕もこの日、「本まぐろづくし」を試食した。大とろ、赤身など、本まぐろを5貫で食べ比べる一皿で、その中にはタスマニアの天然塩で仕立てた「中とろシーソルト炙り」もある。

同じまぐろでも、ただ切って握れば同じ味になるわけではない。塩を合わせる。炙る。部位によって仕事を変える。食材そのものだけではなく、そこに人が何を加えるかで、一貫の表情が変わる。
僕は、この部分に銚子丸が担おうとしている役割があると感じた。魚の育て方と、寿司としての仕立て方を組み合わせるのである。
銚子丸の役目とは
この部分に銚子丸が担おうとしている役割がある。生産者がおいしい魚を育てても、それだけでお客様の注文が増えるとは限らない。その魚をどう扱えば、一貫の寿司として食べたくなるのか。食材の可能性を、お客様の喜びへ変えるところに、職人の仕事がある。
石井氏は会見でも、すべてをロボットに置き換え、接客までなくすことは考えていないと話していた。効率化するところと、人がこだわって行うところを分けるという姿勢である。その考えは、店の作りにも表れている。入口から進んだ先には、魚を捌く様子が見えるガラス張りの「おろし場」があり、カウンターでは職人が目の前で一貫ずつ握る。店内のディスプレイにも、職人の手仕事を映す仕掛けを用意した。
テクノロジーを、人の仕事を省くためだけに使っていない。人が何をしているのかを、よりよく伝えるためにも使っているのだ。お客様にとっては、環境への配慮という説明だけでなく、目の前で仕立てられる寿司の魅力がある。その楽しさを失わずに、使う食材の幅を広げていく。石井氏の言う「ひと手間」は、その二つをつなぐものなのだと思う。
自由が丘でも残したい、「心地よいローカル感」
魚や仕入れ方を変えようとする一方で、石井氏が残したいと考えているものもあった。それが、銚子丸のルーツである千葉らしさだ。僕は取材で、今回の店には千葉や銚子への思いが強く表れているように感じた、と伝えた。
石井氏は、千葉出身の銚子丸だからこそ、どこへ出店しても千葉へのこだわりを残したい、と話した。その中で印象に残ったのが、「心地よいローカル感」という言葉だった。新しい街へ出るからといって、その街に合わせるだけではない。自分たちがどこから来たのかも、店の中に残しておくのである。
「潮彩」では千葉県産の魚介を取り入れるほか、シャリに多古町の「多古米」を使用する。銚子産いわしのつみれ汁があり、デザートには千葉県産「紅はるか」を使った焼きいもブリュレも用意する。魚だけでなく、一食を通じて千葉の食材に触れられる構成だ。
これは、魚の資源利用を見直す取り組みとは別に、この店が何者なのかを伝えるものでもある。新しい魚を扱い、新しい寿司を試す。それでも、職人の技や千葉への思いは手放さない。変化の中で残すものを、具体的に決めているように感じた。
そして銚子丸は、この店を「挑戦と検証の拠点」と位置づける。お客様の反応や店舗での運用を確かめ、得られた知見を将来的に「すし銚子丸」など既存業態へ還元する方針だ。自由が丘の一店舗だけで完結する挑戦ではない。
最初、僕には、この店にとってのサステナブルが少し曖昧に見えていた。しかし石井氏と話してみると、その出発点には、国産のマサバを使い続けることさえ難しくなっている、という現実があった。だから、魚の選び方を変える必要がある。ただし、食べる楽しさまで小さくしてはいけない。
いつもの店で、おいしい寿司を楽しめる。その日常を続けるために、店の側は、いつも通りではいられない。
「鮨 Yasuke 潮彩」は、その変わり方を探す店なのだと思う。
今日はこの辺で。







