物を売らずに小さな幸せという価値観を訴求するうちECが会社の軸になった「Little Rooms」の話

ECサイトを立ち上げる時に、大抵、商品から入る。あるいは、お店を構えていて、それをネットに広げる。このどちらかに集約されるはず。だが、今の時代にあってはそうではない。その意味で「Little Rooms」というショップを運営する、and 代表取締役 平 貴衣さんの言葉を僕は興味深く、受け止めた。ライフスタイルweekでの講演での話である。
時代の波に乗り上手にECサイトを使いこなした好例
彼女の話において関心を抱いたのは、2点ある。
一つは、語弊を恐れず言えば、「商品を売るつもりのなかった会社」が、ECサイトを立ち上げるに至ったという点。その経緯を含め、従来のECサイトの価値観とは全く相容れない。だからこそ、逆に学びがあると思った。
もう一つは、最近のトレンドを牽引しているのが韓国であり、それを上手に取り入れることで、国内の他の店舗にはない個性で、先んじて、飛躍したという点にある。
さて、最初に、ネット通販を意図していなかった企業が、なぜ店を出すに至ったのか。そこを紐解くことで、今のECサイトの多様性を実感していただこうと思う。先ほどから言っている通り、彼女たちのスタートは、SNSを起点としたメディアである。ただ、それが順風満帆だったかといえば、そうではない。
彼女たちが意図したのは、SNSなどを通して、お部屋の提案をしていくというもの。そして、思い描くターゲットはファミリー層。すなわち、戸建て住宅に住む人における、理想的な部屋のあり方。それをSNSで表現していくことで、共感を集めようと考えた。
掘り起こされていない視点があった
というのも、平さん自身が、元々、学生時代、働いていたときに、ネット系のキュレーションメディアにいた。今の時代におけるメディアの新しい可能性を感じるとともに、その後、サイバーエージェントで就職することで、メディアと収益の関係性を身につけていた。だから、そういう着想に至るわけである。
しかし、それまでのメディアの多くが「モテ系」。すなわち、他人ウケを念頭に置いた内容で構成されるものだったわけである。だが、寧ろ彼女が考えたのは、その逆。自分自身が納得できる生活を送れるようにしていく。つまり、他人受けではなく、自分自身が納得する、自分起点のメディアの発想である。
「お部屋の提案」はその中で生まれたもので、充実した部屋を提案していく、、そこまでは良かった。ところが、彼女自身、当時、まだ20代前半。ファミリー層のインサイトを知り尽くしているとは言えない。そんな中で、共感をもたらす発信が難しかった。
そのとき、転機となったのがとある切り口の投稿だった。それは、幸せな一人暮らしのワンルームでの暮らし方を提案するもの。部屋の提案という意味では同じだが、そのターゲットを変えることで反響を集めるわけである。これまで伸び悩んでいた彼女たちのアカウントは、一気に1000人ほどのフォロワーを集めた。
そこに着想を得た彼女はそれを一人暮らしの紹介アカウントとして定義し直した。
提案の仕方を変えて、コンセプトを立て直す
それは時代背景を捉えた必要な視点であった。というのも、女性の社会進出が今までよりも加速化。女性がバリバリ働くからこそ、都市での生活機会が増えているからだ。さらには、それらは核家族が増えて、部屋での生活単位が今までよりもコンパクトになっている。つまり、それは、求められているニーズなのである。
とは言え、そのシーンをどういう形で具現化していけばいいのか。その中で、ヒントとなったのが、実は韓国である。彼女たちがここまでの経緯で、実感した世界観というものに、近いところで「소확행(ソファッケン)」という考え方がある。
日本語に置き換えると「小確幸、小さな幸せ」。
そして、生まれたコンセプトが「小さな幸せ、愛おしい暮らし」。ただ、大事なのはそれを自分たちの利点に活かしていくこと。彼女たちはだからと言って、それをそのまま受け入れたわけではない。自ら咀嚼して、自分たちに不破しいコンセプトに置き換え、再定義したことが大切。
まず、すでに韓国で提案されている商品やシーンを参考に、自らが日本向けにそのコンセプトに従って、シーンを作り出して提案をしていった。できた理由は、第一に、彼女たちの場合は、部屋に重きが置かれていたから。それに沿った形で、「小さな幸せ、愛おしい暮らし」を、紹介し続ける。
それを求めていた!そういって女性が一気に動き出す
結果、一年目で13万人、2年目で35万人、3年目で50万人のフォロワーを数えるほどになった。これだけのフォロワーが集まると、こんな声がいつしか、ユーザーから寄せられることとなる。
「ここに掲載されている商品はどこに行けば、買えますか?」
ところが、「小さな幸せ、愛おしい暮らし」という姿勢は、彼女たちによるものだけど、韓国を参考にして、日本人の幸せを提案したもの。その提案に用いられている商品は、韓国のものが大半。つまり、国内で手に入る商品では無い。だからこそ、かえって、ユーザーに手間をかけさせてしまってはいけない。そう思うに至り、自らECサイトで販売することを着想するのである。
これってすごいことだなと思う。なんせ、物を売ろうという気持ちではないところから、ECサイトが始まっているのだから。それゆえ、冒頭話した通り、物を売ろうと、ECを始める人とは全く違う視点でも、商品は受け入れられるということを明らかにしているわけだ。
「D2C」ですら、物を売ろうという気持ちを、商品が生まれる背景から、深掘りすることで評価されている。だから、全く従来のECの生まれ方とは異なる。ゆえに、物を売ろうと思って、ECサイトを始めるた人にとっては脅威になる。このことが、ECサイト自体の多様性を言い表しているわけである。これからもっと、従来とは、違った価値観でアプローチする企業は増えて、驚かされることは増えるだろう。
商品に対して与える印象がまるで異なる
例えば、食器は、朝ご飯と食べる時の素敵なシーンを演出するアイテムと捉える。スペックではなく、その選ぶ指標が満足感である。それは既に、日頃からSNSを通してずっと継続的に訴求されている。そこから引き出した世界観の一端が、その商品である。
具体的な商品を挙げてみよう。以前、平さんにお会いしたことがあり、その時、代表的な商品として挙げていたのがこちら。
「しっとりチューリップ」という名の造花だった。

おそらく、これを造花というカテゴリーで一律並べて、売り込んでも意味はない。「小さな幸せ、愛おしい暮らし」という価値観の中でそれを提案するから、その魅力がひきたつ。
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艶があって、明るい色合いのものを選んでいるのは、若い層のライフスタイルに合わせてのこと。どんな造花であるかということにおいて、その価値観が、必要としている層に訴求できている。だから、周りの状況に左右されることなく、自らのオリジナリティを貫いて、その商品が売れていくというわけなのだ。
売ろうとしても売れない。
おわかりいただけただろうか。売ろうとして商品を売る。その必要性も否定はしない。
でも、価値を訴求するために、ECがある。商品があって、お客様と同じ価値観のもと、繋がり合ったら、買ってみたいよね。そのために、存在している。そしてもう一つ。価値観こそが大事だと言われることだが、それをどう取り入れるか。SNSを得意とする彼女たちだからこそ、トレンドを先んじていた韓国を上手に取り入れた。
日本がゼロから生み出すよりも、グローバルで受け入れられる、オリジナルな価値観を取り入れた方が良い。その意味で、SNSから視点を学びを得ようとするのは得策だ。特に韓国は女性的な感性でも先を行き、共感を生み、小さな単位でもビジネスにできている。
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「Little Rooms」で言えば、価値観の醸成をそこで盤石にした。そして、自らの個性である部屋に特化させる部分で、最大化させて、オリジナルのユーザーを確立したわけだ。そう思うと、逆に、日本は新しい価値観を見出すヒントを、SNSなどを参考に学べばいいわけである。
価値観からファンを作り出すことが、ECの新たな潮流だとすれば、彼女たちのようにトレンドを自分のものにしていく工夫に学びはあると思う。時代は刻一刻と変化しているのだ。
今日はこの辺で。