ハヤカワ五味 が迫る “やずや”とは 【1】 元祖 CRM の本質
先日、インフルエンサーで経営者の ハヤカワ五味さんと話した際、やずやの大番頭、西野博道さん(株式会社未来館 取締役社長)の話に至り、「どうしても会わせて欲しい」そうお願いされた。今、彼女が向き合う新商品を仕掛ける上で、 やずや の軌跡に強い敬意を示し、自らもそこから学びを得たいと考えていたのだ。だから、対談を企画した。第一回目は、商品の着想、そして商品とコミュニケーションの深い結びつきに着目しつつ CRM の元祖 やずやの姿勢を追った。
ハヤカワ五味 が興味を抱いた やずや 商品作りとは
1.商品と コミュニケーション が連動し CRM が完成
やずやは、通販企業のパイオニア。当初仕入れ商品のみだったが1992年から「養生青汁」で自社商品を開始して、方向転換。最初は創業者 矢頭宣男さんら三人しかいなかった。1988年に6000万円だった年商は、2008年には450億円にまで成長。創業者が打ち立てた、お客様との関係構築の仕組みを誰よりも深く理解し、そのシステム化に尽力したのが、対談相手の西野博道さんである。
—–そんなわけで、ハヤカワさんは大番頭、西野博道さんに会うのは、彼女の「たっての願い」でもあって、緊張の面持ちでその瞬間を迎えたのだ。
ハヤカワ五味さん:西野さん、初めまして。ハヤカワです。
西野博道さん:(正直、西野さんも緊張気味だったが、優しく笑顔で)よろしくお願いします。ハヤカワさんはお若いのに色々やられているようで・・
ハヤカワ五味さん:はい。元々14〜5才からオークションサイトで、転売をやっていました。要は、自分で服を買いたいと思ってもお金がないので、自分の好きな服を買って、それを売って、お金を稼ぐというようなことを始めました。
ハヤカワ五味さん:ただ、自分が商品や、それらのメッセージをSNSで発信するうち、自分と同じ価値観の人と繋がり、その数が増え、伝わっていって、買ってもらえる数が増えていきました。自らまとまった数量、商品を作って売ったほうが利益が出るので、そこでブランドを始めようと思い、18歳の時に起業をしました。
2.これから必要なインサイト型の商品開発
—–そう語り、彼女は自ら脚光を浴びたブランド「feast」の話へと至る。
ハヤカワ五味さん:女の子の中には、バストサイズに悩んでいる子も少なくありません。ただ、悲観することなく、そんな彼女たちに似合う彼女たちに向けた下着のブランドを、と着想して、下着を販売するようになりまして、もう6年になります。
——-すると、西野さんはハヤカワさんの着想に感心しながら、自然と、やずやの商品開発の姿勢に関する話へとおよぶ。
西野博道さん:良いと思います。というのも、ここ一連の通販業界での商品開発の動きでは、「他が売れているからうちも出して売ろう」ということが多い。そうすると、中身は同じですから、他を否定して「うちの商品はこんなに良い」という機能重視の宣伝になってくる。そういうものは徐々にお客さんに振り向かれなくなっています。
ハヤカワ五味さん:そうなんです。そもそも顕在化しているものに関しては、広告も飽和してきていて、当然、ユーザーが見飽きているはずで、獲得コストだけが上がりすぎて、見合っていません
西野博道さん:これは、「インサイト」っていうんですけど、買ったことがない人に気づきを与えることが大事です。潜在的なニーズに気づかせて、、、
ハヤカワ五味さん:これが必要だったんだ!と気づかせる。
西野博道さん:そうそう。ハヤカワさんは「インサイト」の発見から、商品を生み出しているので、先ほどの通販の流れとは違うところが素晴らしいと思います。本来、人って「実在する何かあるもの」を欲しいと思うことはあっても、実は「あるもの」っていうのはその人にとっての一つの手段でしかない。その前提に、欲しいと思う目的があるんですよね。
3. 生活ニーズなど、レイヤーで分けて本能に応える
ハヤカワ五味さん:やずやで言えば「ニンニク卵黄」が欲しいというよりは、その先の健康が欲しいってことで、お客様が買っているということですよね。
西野博道さん:そう。“〜がしたい。その為にはニンニク卵黄が欲しい”という風に考えるべきなのです。それは、いくつかフェーズがあり、具体的には今のニンニク卵黄の商品の役目は「商品ニーズ」であって、その上位に「生活ニーズ」というのがある。商品を出す以上、そこを我々が把握しておかなきゃいけなくて、お客さんになってくれた人をきちんと誘導してあげる必要があるのです。
——西野さんの言うことを図解したのが下記である。「人生ニーズ」「生活ニーズ」「商品ニーズ」とフェーズに分けられている。一番下は商品の満足度。それを高めていかないといけないのは勿論、その上の目的の「生活ニーズ」があって、そういった欲求を答えて、初めて形を為すのだと説明したのだ。
3.CRMを学び、お客様との深い関係性を築きたい!
—–この西野さんの指摘は鋭く、彼女の商品も、こういう発想に近いので、ハヤカワさんも、やずやがそこを起点に、どうやって顧客満足度を高めているのかが気になっているようで、話は広がる。今、展開している商品について思い巡らし、次のように語り始めた。
ハヤカワ五味さん:現状、私のところで考えていることでいうと、次の商品を進めていて、若い女の子向けで「健康系の商材」をきっかけに関係性を築きたいなという事なんです。
西野博道さん:やずやに近いですね。またなぜ「健康」なんですか?
ハヤカワ五味さん:本来、女性は、年齢に関係なく健康を意識していた方が良く、病院に行った方がいいと思っています。例えば、子宮頸癌とかもそうですけど、20代でかかる病気も少なくない。健康は意識した方が良いのだけれど、20代ですから、基本的にはモテたいとか、それ以外の要素で精一杯です。
ハヤカワ五味さん:だから、自分の考えた商品で、その入り口を作って「健康」を考えるきっかけに、してもらいたい。それが、女性にとって、今よりもっと充実した生活を送れることに繋がる。それは、ずっと長く関係性を築きながらで、成立することだから、私自身、やずやさんのサブスクリプションやCRMに、非常に興味を持っていて、実は、西野さんの本も私、読んでます。
4.最初に買ってもらった後の大事な「小さな実感」
ハヤカワ五味さん:今気になっているのは「インサイト」を見つけて、お客様に潜在ニーズに気づかせ、買ってもらった、その後なんです。そこで買ってくれたお客様に、さらに「満足して使い続けてもらう」という点まで気づかせる為には、どういう風なフォローが必要なのかな、と思っています。
西野博道さん:そうですね、健康食品で言えば「小さな実感」を感じてもらうことを意識しています。
ハヤカワ五味さん:小さな実感とは何ですか?
西野博道さん:やずや商品は、原材料がニンニクや卵黄やお酢などで、皆、一様に、飲んだからといってすぐ実感できるものではありません。これらは継続しなきゃいけないものなのです。それなのに、本来の卵黄やお酢以上に実感を求められ、お客さんの中では、すでに期待値が上がっているから、それに応えなきゃいけない。
西野博道さん:そのためには「小さな実感」の積みあげをしていかなきゃいけないんです。そのために、“実感”満足はなかなか得られないんので、“期待”満足をどんどん提案していくんです。
ハヤカワ五味さん:“実感”の方ではなく“期待”の方を押していくということですか?
西野博道さん:先週よりはなんだか気分が良いね、朝が起きやすいよねとか、緩い実感が積み上がっていくと良いし、その感じ方で人は変わってきます。
ホーソン効果って言うのですが、治療を受ける人が信頼する医者などに期待されていると感じることで起こる現象で、そこで行動の変化を起こしたりすることで、結果的には、本当に良くなっていく実感へと繋がっていきます。
だから、最初はどんどん高い頻度で、お客さんと接点をとって、コミュニケーションを増していくということなんですよね。そうしていくと、もう少し続けてみようかという気持ちになってくる。
5.気づきづらいから、コミュニケーションがある
ハヤカワ五味さん:なるほど。まさに、「小さい実感」が最初手前であれば、その後も続いていくんでしょうけど、「小さい実感」って気づいてもらいづらいから、そこを気づいてもらうってことなんですかね。
西野博道さん:気付けるようなメッセージを送っていくということなんです。その商品と買った私との関係に意味合いがわかってくるんですよね。
ハヤカワ五味さん:それで、他の商品に派生していくし、他の友達も使っているしってことで、だったら買ってみようとなるんでしょうね。だから、実際使っている人の情報を入れているんですよね。
西野博道さん:そうそう。他の人もこういっているから元気になるはずだ、みたいな。
これは、厚労省の調査にもありますが、自分が元気だと思っている人は長生きするんだそうです。だから、体で痛いところあるんだけど、元気だと思わせるというのが大事なんです。それが、使い始めのやずやの役目なんです。
ハヤカワ五味さん:やずやさんでは、2〜3ヶ月ごとに買う商品が多いですよね。私の場合、そこで商品が残っていたり、飲み続けられないとかになると「買わない理由」になるんです。だから、その段階でしっかりコミュニケーションをとって、期待している通りになっているなと感じてもらう事が大事。西野さんはそうおっしゃっているんですよね。
やずや 流 マーケティング 〜商品を習慣化する コミュニケーション
—-続いて、ハヤカワさんは、一販売者の立場で、次に手掛ける商品について説明しながら、継続顧客につながる為の在るべき姿勢について尋ねた。業務部長として長く マーケティング に従事した西野さんらしいお客様の心を掴むアプローチに迫っている。
1.最初は、敢えて驚きを与えない 計算ずく
ハヤカワ五味さん:実は、最近、私が作り始めているのは生理用のサプリなんです。「生理」についての意識は、ただ単純に「つらいもの」ということで片付けられる傾向が強いけど、そうであってはならないと思って、商品を手掛けています。
関連記事:“生理”というタブーに 商品 で物申す ハヤカワ五味 の挑戦
ハヤカワ五味さん:ただ、先ほど、お話ししたように、若い子は、それ以外でもモテたいとか、精一杯なので、エントリーの部分をいかにハードルを下げていけるかだな、と思っています。
ハヤカワ五味さん:そこで、健康というのは皆、常に続いていくものなので、それを訴求しつつ、入り口は「可愛い」「精神的に安定する」などでエントリーしてもらい、長く継続してもらえたら、と思っています。ただ、通販である以上、初回のお客様って基本的には、下手したらその商品で一発勝負だったりすると思うんです。そこの部分で、やずやさんでは、特別お客様が驚くような事はされたりしないのかなと思っています。
西野博道さん:やずやと付き合い始めて1〜2ヶ月って時は驚きを与えないんですよね。純粋に「商品を買って良かったと思ってもらうにはどうしたら良いか」で、そこに尽きる。「小さな実感」の積み上げですよね。
ハヤカワ五味さん:驚きとかより、どちらかというと「小さな実感」の方を重視するというわけですか。結構、最初から大盤振る舞いして惹きつけようとするところもあるけど、それは違うと。
西野博道さん:そうですね。だから、入り口を作って、少しずつ上げてあげるというか、上げすぎるとダメなんです。満足が維持されすぎると、ダメなんですよね。飽きが来るんですよ。必要以上に満足度をあげすぎないほうがいいな、と思うんですよね。
西野博道さん:そう。この辺は、男と女の関係で、考えてみるとわかりやすいです。例えば、いつもデートに誘われていて、いつも行ってくれるのに、突然断られたら、ガッカリしますよね。逆に、最初から何回か一回、断っておくと、徐々にその確率が上がるだけで、大事にされるようになっている感じがします。
ここはお客さんが無意識な分だけ、ある意味、計算ずくでやらないといけない。
ハヤカワ五味さん:なるほど。通販においては、期待値の調整が大事という事なんですね。最初は広く軽くだんだん深い関係に、という。ただ、そこから継続するってことが意外に難しいと思っていて。
2.継続してもらうためには、フェーズがある
—–ここで、西野さんは、一連のお客様を惹きつけるマーケティングについて、少し整理するように、次のように話し始めた。
西野博道さん:実際、最初の一年間っていうのは、お客様にいろんな価値観の人がいるじゃないですか。どっちかというと、この段階では価値観の刷り込みというか、やずやの価値観を、気持ちよく思ってもらうようにやっていくことに専念する。商品を売るというよりは、この人が2〜3年後も残ってくれているのか、ということを重要視して、組み立てていきます。
ハヤカワ五味さん:要は、インプットの期間なんですよね。では、2〜3年後、長く関わっていくのためのコミュニケーションって、どういうものなんですかね。1〜2年後でどうしても飽きが出てくるじゃないですか。期待してそれが当たり前になっていくと、離脱する人もいる。
西野博道さん:だから(コミュニケーションの中身を)変えていきますね。最初は商品の信頼感も大事なので、それもあるんですけど、数ヶ月経つと、商品への意識から、会社との共感を求めるようになるんですよね。
ハヤカワ五味さん:つまり、フェーズがあるということなんですね。
西野博道さん:それで、一年半ぐらい経って回数でいえば10回くらいの購入があると、お客さんの方が期待感を抱いてくるんです。「もっと何かしてくれるんだろう」と。
ハヤカワ五味さん:自然と「もっともっと」という感じが出てくると。
西野博道さん:この段階においては、お客さんに明確な目標設定を与えます。やずやから「あなたって5年後、10年後も健康でいたいんでしょ?」「そのためにはこうすべきですよ」と。その頃は、健康のプロとして、です。専門的観点からアドバイスを行っていくようになる。
ハヤカワ五味さん:信頼関係も築けているので、それも可能だと。
3.ハヤカワ五味 さん、徐々に自覚も生まれてくる
西野博道さん:それで、購入回数が30〜40回になる人もいるんですけど、この人には今度は、優越感を抱いてもらうために、差別化していきます。
ハヤカワ五味さん:なるほど…(何かに気づいたように)そっか!30〜40回になるとロイヤルユーザー感が出てくる。自分としても自覚が出てくる。
西野博道さん:そう。「私があなたの所の商品を買っているから、儲かっているんだ」という。だから、こちら側も、「あなたは特別なんです」というのをわかるようにしてあげるということですね。
—–簡単ではあるが、お客様とのやりとりについて、まとめた図を下記に示した。よちよち顧客からコツコツ顧客、優良顧客と段階を経て、そのアプローチの仕方を変えている。それによってお客様の行動にも変化が生まれ、それを次なる購買や仕掛けにつなげているのだ。
ハヤカワ五味さん:うんうん、確かに。実は、私はCRM分野に興味を持つきっかけがあって、それが中高生時代なんです。原宿系ファッションに夢中になって、普通にそれを一式買うと、10万円くらい。無茶苦茶高いんですよね。
でも、その分、接客がすごい丁寧なんです。20〜30万円くらいから担当がつくようになるんですよ。その人のクローゼットの中身とかほぼ把握しているんです。「この商品、お客様がこういうのを買っていたから、似合いますよ」と提案してもらえたり、あるいは、誕生日を祝ってもらえたり、とか「特別なんですよ」感がとてもあります。
4.失うことへの不安感が生まれる
西野博道さん:そうなってくると、人って「この会社と付き合っているといいことがあるな」という事以上に「この会社と付き合わなくなると、今あるものを失ってしまう」という気持ちが芽生えてきて、失うことへの不安感が強くなる。失いたくないから、ずっと続けるということが起こり始めるんです。飛行機のマイルとか、みたいにですね。
ハヤカワ五味さん:確かに。私、実は、お腹が弱くて、ヤクルトを飲んでいるんです。一時、それで、ヤクルトをやめた瞬間にお腹壊して「こっわっ!」って思って、またずっと継続しているんです。正直に言えば、それがきっかけでお腹が良くなったのか、わからないんですけど(笑)。
ハヤカワ五味さん:確かに、マイルのステータスも失う怖さがあります。勿体ないですものね。つまり、そのタイミングごとに、相応しい貢献をしていけばいいってことですよね。
ハヤカワ五味さん:ここの“ジャーニー”つまり、どのような経路で継続して買い続けるかとコミュニケーションする側の関係性については、一緒に赤ちゃんが成長していくように、変化していく、西野さんはそういうことを言っているんですよね。
———- 今回は、やずやの商品づくりの姿勢から、商品と並んで重要な役目を果たすコミュニケーションの意味まで語っていただくなど、 CRM の礎に迫った。その上で、 マーケティング 的な視点でいうと、 やずや 商品が習慣化されるように、フェーズごと、コールセンターのコミュニケーションの中身を変えているという話である。さて、そのコミュニケーションをどう属人化させずにシステム化させるかを、深掘りして伺うことにする。(第2回に続く)