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楽天市場はAI時代に何を変えようとしているのか──戦略共有会から見えた「継続顧客」を軸にした進化

 昨日、楽天市場EXPOが開催され、そこで行われた戦略共有会では、副社長の松村 亮氏が、下期に向けたマーケティングや物流、AI、広告など、あらゆる施策を紹介した。僕が一番、印象的だと感じたのは、楽天市場がこれまで以上に「継続して利用する顧客」と「買い回り」の価値を重視し始めていることだ。

 そして、僕は、その背景にはAI時代があると感じた。AIは、一人ひとりの利用者を深く理解することで初めて価値を発揮する。その視点で今回の戦略共有会を整理すると、個々の施策が一本の流れとして見えてくる。

「継続して買い続ける顧客」が成長戦略の中心になる

 松村氏がマーケティング戦略の冒頭で語ったのは、楽天経済圏の活用だった。楽天カードや楽天モバイルなど、グループサービスを利用する顧客ほど楽天市場での購買額が大きく、その価値は年々高まっているという。

 その上で、楽天市場では、スーパーSALEと並ぶ大型イベントとして、お買い物マラソンの強化を進めていく。これまでもテレビCMなどを通じて認知拡大を図ってきたが、今後はジャンルごとの販促施策を組み合わせることで、イベントそのものの魅力をさらに高める考えだ。

 実際、韓国コスメや家電・インテリア、ファッション・スポーツなど、特定ジャンルに特化したキャンペーンをお買い物マラソンと同時開催した結果、それぞれ前年を上回る流通拡大につながったという。

 例えば、韓国コスメでは前年同期比23.7%増、家電・インテリアでは13.0%増、ファッション・スポーツでも13.4%増と成果を上げた。ジャンルごとに興味を持つ利用者を呼び込みながら、お買い物マラソンによる買い回りへつなげることで、流通全体を押し上げる狙いがある。

 つまり楽天市場は、「一度買って終わり」の顧客ではなく、繰り返し利用し、買い回りを楽しむ顧客を増やすことへ、これまで以上に力を入れようとしているのである。

「買い続けるほど得をする」仕組みでロイヤル顧客を育成

 だから、楽天市場は、継続して利用する顧客を増やす新たなポイント施策も検討している。現在イメージとして示されたのは、直近3か月間の購入金額や購入件数に応じて、既存キャンペーンのポイント還元へ追加特典を付与する仕組みだ。

 例えば、直近3か月で10万円・5件購入した利用者にはポイントを1倍上乗せし、20万円・10件では2倍、30万円・15件では3倍といったように、利用状況に応じて特典を段階的に拡充する構想が紹介された。

 さらに、楽天スーパーSALEやお買い物マラソンなど大型イベントでは、それぞれ追加でポイント倍率を引き上げる案も示されている。松村氏は、「ポイントを付けること」が目的ではなく、継続して利用する顧客を増やすことが重要だと説明した。

 買えば買うほど次の買い物がよりお得になる仕組みを設けることで、楽天市場を継続的に利用するロイヤルユーザーを育てていく考えだ。

楽天経済圏の価値は「データ」が積み重なることにある

 では、なぜ継続利用がここまで重要になるのか。その理由は、楽天経済圏そのものにあって、AI時代でそれを活かす考えなのである。楽天カードを使い、楽天モバイルを契約し、楽天市場で買い物を続ける。さらにRakuten Linkなどを通じて店舗との接点も増えていく。こうした利用が積み重なるほど、一人の利用者に関するデータはより豊かになっていく。

 つまり、AIは、多くの商品を一律に勧めるよりも、一人ひとりの趣味や購入履歴、行動を理解して提案する方が力を発揮しやすい。そのためには、一回の購入データよりも、「継続して利用する顧客」のデータの方が価値を持つ。

 今回、継続利用や買い回りを促す施策が数多く紹介された背景には、こうしたAI時代を見据えた土台づくりという側面もあるように感じられた。そう考えると、楽天市場は「商店街」というものの意味そのものを、AI時代に合わせて塗り替えようとしているようにも見える。

AIと広告の進化で、店舗の販促を効率化する

 継続して利用する顧客を増やすことが重要になる一方で、その入り口となる新しい顧客との接点づくりも進めていく。それゆえ、楽天市場は、広告機能そのものの強化だけでなく、店舗が広告を運用しやすい環境づくりにも力を入れる。

 まず、ターゲティングディスプレイ広告(TDA)では、広告の配信先を順次拡大する。これまでもMetaのSNSへ配信してきたが、今後はCriteoやSmartNewsなど外部メディアへの対応も進める。

 また、動画広告フォーマットも追加し、ブランドや商品の魅力をより伝えやすい広告表現を可能にするという。

 さらに、広告クリエイティブの制作にもAIを活用する。商品ページのURLを入力するだけで、AIが商品情報を読み取り、バナー画像やキャッチコピーを自動生成する機能を提供する予定だ。広告制作の負担を減らしながら、より多くの商品で広告を展開しやすい環境を整えていく。

 検索連動型広告(RPP)も進化する。これまで店舗側が手作業で行っていたキーワード運用について、AIが自動で最適化を行う機能を導入する予定で、高い広告効果を維持しながら運用効率を改善していく考えだ。広告を出稿したくても運用負荷が課題になっていた店舗にとっては、活用しやすい仕組みへ変わっていくことになる。

 広告は露出先を増やすだけではなく、「制作」「運用」「改善」という一連の流れをAIが支援する方向へ進化しようとしている。

アフィリエイトを強化し、楽天市場の外から新たな顧客を呼び込む

  また、外部メディアとの連携において、柱となるのがアフィリエイトマーケティングだ。戦略共有会では、アフィリエイト料率を高めた商品の流通額が前年より12.1%伸びたことが紹介された。

 こうした成果を受け、2026年第4四半期にはRMS(店舗運営システム)をリニューアルし、商品ごとに最大70%まで柔軟に料率を設定できるようにする。

 また、レポート画面も刷新し、ROOMやAmeba Pick、YouTube Shoppingなど、どの提携メディアから成果が生まれたのかを把握しやすくする予定だ。

 さらに、YouTubeとの連携も加速する。YouTube Shopping経由の売上はサービス開始後から右肩上がりに伸びており、クリエイター数や紹介商品数も順調に増加している。トップクリエイターによる商品紹介も始まり、動画をきっかけに商品と出会い、そのまま楽天市場で購入する流れを広げていく考えだ。

 会場では、「YouTubeは最も信頼できるプラットフォーム」と回答した視聴者が76%、「買い物をする際に役立つコンテンツがある」と回答した人が65%という調査結果も紹介された。こうした動画視聴から購買へつながる流れを取り込みながら、楽天市場外から新たな顧客との接点を増やしていく。

 一方で、楽天市場は集客チャネルだけでなく、買い物そのものの体験を広げることで、新しい利用者との接点づくりにも取り組んでいる。

新しい顧客との出会いも広げていく

 その代表例として紹介されたのが、ソーシャルギフトだ。ソーシャルギフトは、自分のための買い物ではなく、人とのつながりをきっかけに商品と出会う新しい購入体験でもある。導入後、ソーシャルギフト対応商品の出品数は約22倍まで拡大した。さらに、母の日におけるソーシャルギフト経由の流通額は、直前1週間平均と比べて約5倍に伸びるなど、利用が急速に広がっていることが紹介された。

 松村氏は、こうした成長を受けて、今後も機能を段階的に拡充していく考えを示した。

 2026年下期には、ソーシャルギフト専用の商品画像を設定できるようにし、通常の商品ページとは異なる「贈ること」を意識した見せ方を可能にする。また2027年上期には、注文者が画像を選択したり、自由なメッセージを入力したりできる機能も追加する予定だ。

 これにより、単に商品を送るだけでなく、贈る相手への気持ちまで含めた体験を提供し、ギフトとしての価値を高めていく考えだ。文字起こしでも松村氏は、ソーシャルギフトをECの中でも成長が期待される市場の一つと位置付け、対応商品の拡充を店舗へ呼びかけていた。

 こうしたニーズは、楽天モバイルの利用拡大によって接点が増えている若年層とも相性が良い。ソーシャルギフトを新たな入口として、将来的には楽天市場を継続して利用する顧客へ育てていく狙いもありそうだ。

定期購入を育て、セール以外でも売れる売り場へ

 継続して利用する顧客を増やすための取り組みは、楽天市場全体の施策だけではない。個々の店舗でも、継続的な購入につながる仕組みづくりが進められている。その代表例が定期購入だ。サービスリニューアル後、定期購入の流通額は約3.8倍、月間の新規申込数は約8.9倍まで拡大した。

 また、新規申込者の約65%は、大型セール中心ではなく通常時にも利用するライトユーザーだったことから、定期購入がセール期間以外の流通拡大にも貢献していることが紹介された。

 今後は2026年6月に通常購入と定期購入の両方へ利用できるクーポン機能を追加。さらに2027年以降は、複数の商品をまとめて申し込める「定期購入かご」の導入や、UI/UX改善、申込管理画面の刷新なども予定している。

 単に申し込みを増やすだけではなく、継続利用しやすいサービスへ育てていく考えなのである。

商品オプションも使いやすく、選びやすく進化

 継続して利用しやすい売り場づくりに向けて、商品オプション機能も大きく見直される。

 2027年上半期には、価格や出荷リードタイム、画像などをオプションとして設定できるようになり、利用者が選択した内容を、そのまま買い物かごへ反映できるようになる。

 例えば、名入れを選択すると追加料金や発送予定日がその場で表示されるなど、購入前に条件を分かりやすく確認できるようになる。商品ごとに異なる条件を比較しながら、自分に合った内容を選びやすくなる点も特徴だ。

 一方、店舗側でも運営負荷の軽減を図る。これまで商品ごとに設定していたオプションを一括管理できるようになり、名入れやラッピング、防水加工など共通のオプションを複数の商品ページへまとめて設定できるようになる。

利用者にとっては選びやすく、店舗にとっては運営しやすい売り場へ。こうした改善は、一人ひとりのニーズに応じた、より柔軟なショッピング体験を支える基盤になっていきそうだ。

配送品質も継続利用を支える重要な基盤へ

 利用者にとっては選びやすく、店舗にとっては運営しやすい売り場へ。こうした改善は、一人ひとりのニーズに応じた、より柔軟なショッピング体験を支える基盤になっていきそうだ。

 一方で、売り場だけでなく、商品を確実に届ける物流基盤の強化も進める。ラストワンマイルまで含めた顧客体験の向上に向け、楽天スーパーロジスティクス(RSL)の機能拡充も続けていく。楽天スーパーロジスティクス(RSL)の利用店舗数は、2026年6月時点で12,000店舗を突破。

 さらに、小型商品の配送に適したメール便5cmや宅配便40サイズを導入したことで、利用数は前年同期比13.8%増となった。また、冷凍商品の配送や大型商品の配送にも対応を広げ、「最強翌日配送」の対象を拡充していく方針だ。

 加えて、政府が2030年までに置き配利用率5割を目指す方針を踏まえ、楽天市場でも2027年頃を目途に置き配を標準設定へ切り替える計画を示した。置き配対応商品では店舗側の設定負担を減らし、利用者も受け取り方法を変更できる仕組みを整えていく。

 配送そのものだけでなく、受け取りまで含めた利便性を高めることで、継続して利用しやすい購買体験を支えていく考えなのだ。

越境ECを強化し、海外への販売機会を広げる

 国内での物流基盤を強化する一方で、販路そのものを海外へ広げる取り組みも進める。松村氏が成長戦略の一つとして挙げたのが、越境ECの強化だ。

 楽天市場では現在、中国のTmallやJD.comなど現地プラットフォーマーとの連携を進めているが、今後はその取り組みをさらに拡大する。優先エリアとして挙げられたのは、韓国や台湾、香港などの東アジアに加え、ASEAN諸国を含む東南アジア市場だ。

 現地で利用者基盤を持つECプラットフォームと連携することで、商品情報だけでなく、物流やフルフィルメント、決済システム、さらにはマーケティングやプロモーションまで連携し、日本の商品を各国の消費者へ届ける体制を整えていく。

 楽天市場に出店する店舗にとっては、自社で一から海外販路を開拓するのではなく、現地パートナーの基盤を活用しながら海外市場へ展開できる環境づくりが進められることになる。

 また、越境ECの強化では、地方自治体との連携も重要なテーマとして挙げられた。楽天市場は地方自治体と出店店舗をつなぎ、県産品など地域ならではの商品を海外市場へ届ける取り組みを強化する。

 果物や水産品、農産物など地域の魅力ある商品を、楽天と自治体、出店店舗が連携して各国の利用者へ届ける。単に販路を海外へ広げるだけではなく、地域ブランドの価値を海外市場で高めることも視野に入れた取り組みと言える。

「継続顧客」が、AI時代の楽天市場を支える土台になる

 今回の戦略共有会では、マーケティング、広告、物流、AI、ソーシャルギフトなど、本当に多くの施策が紹介された。一つひとつを見ると、それぞれ別々の機能追加や改善にも見える。

 しかし、「継続して利用する顧客を増やす」という視点で整理すると、それらは一本の流れとして理解できる。継続利用によって買い回りが増えれば、一人ひとりの購買データはより豊かになる。

 そのデータはAIによる提案や広告の精度向上につながり、店舗との新たな接点を生み出す。さらに、物流や定期購入がその体験を支え、ソーシャルギフトが新しい利用者との出会いを広げていく。AIそのものが目的なのではなく、それをインフラに顧客と店舗の双方を理解し、より良い購買体験を実現するのである。

 だからこそ、松村氏の話す「継続して利用する顧客」の価値を、これまで以上に高めようとしていたことは繋がっていく。継続して買い回りが行われるほど、一人ひとりの購買履歴や興味関心はより立体的なデータとなって蓄積される。AI時代に価値を持つのは、その積み重ねなのだ。

 AI時代になればなるほど、一人ひとりとの関係性が楽天グループ全体の価値を左右する。そして、その関係性を生み出すのは、画一的な売り場ではなく、それぞれの専門性や個性を持った店舗である。AIは、それらを均一化するためではなく、むしろ一店一店の魅力を、利用者一人ひとりへ届けるための基盤になろうとしている。そこに、楽天市場が掲げる「Shopping is Entertainment」の思想が重なって見えた。

 今日はこの辺で。

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