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MAでもCRMでもない。「配慮」を設計するという発想──シナブル小林社長の言葉から考える、ECと顧客体験の再構築

 マーケティング・オートメーション(以下、MA)。その言葉が日本のEC業界で定着して久しい。しかし「自動化すれば売れる」「ツールを導入すればマーケティングができる」といった安易な解釈は、店が本来果たすべき役割を曇らせてしまっているのではないか。

 MAツールを提供する側でありながら、「MAという言葉ではもはや本質が伝わらない」と語るのが、株式会社シナブル小林社長だ。EC Intelligenceを手がける彼の思想の根底には、「顧客満足度から逆算して店の役割を設計する」という一貫した哲学がある。

 ここでは敢えて、4つのキーワードを挙げて、お客様にとって必要な対応はシステムを通してどうやって行われるかの実態に迫る。そのキーワードは、CRM、MA、オムニチャネル、そしてユニファイドコマース。小林社長の発言を丁寧に読み解けば、それらの言葉に内包された本質が浮かび上がってくる。

第1章:「MA」はツールではなく、“気づき”を届けるための思考装置

マーケティングとは?ー価値ある体験を届ける

 MAという言葉は「マーケティング・オートメーション」。つまり「マーケティングを自動化するツール」として受け止められることが多い。しかし、この定義には大きな誤解が潜んでいると小林社長は語る。

 そもそもマーケティングの定義自体が曖昧。特に日本で見られる書籍を見ても“注釈だらけの複雑な定義”になってしまっていて、大混乱(笑)。

 それに対し、アメリカの定義は「提供物の創造・伝達・交換を通じて価値を届ける活動」とシンプルでわかりやすい。つまり、それによれば、マーケティングとは「価値ある体験を届けること」なのだ。

 その上で、常に顧客と作り出す体験こそ全て。では、そのオートメーションって何なのだろう。

配慮をシステム的に支える思考装置

 彼によれば、「MAとは、ただのマーケティングの自動化ではなく、顧客の行動に対する“配慮”をシステム的に支える思考装置である」。

 たとえば、EC業界でよく語られる「カゴ落ち対策」。

 カートに商品を入れたまま購入せず離脱したユーザーに対して、リマインドのメールを送るという施策だ。確かにこれもMAの一例ではあるが、それを“ただ送ればいい”と捉えるのは本質を見誤っている。

 大事なのはその事実ではなく、そこに気付いて配慮するという人間の行動である。

 「単に送る」ではなく「どう届けるか」「どんな言葉で伝えるか」。MAは、そうした人間の“気づき”や“配慮”を形にして、PDCAを回すための思考装置なのだ。

顧客はお店ごと異なるから配慮も異なる

 つまり、重要なのは、そのアプローチが店舗や顧客ごとに最適化されているかどうかである。

 仮に、ぶっきらぼうな言葉で「カゴに商品が残っています」とだけ送っても、むしろ購買意欲を削ぐ可能性すらある。

 だからこそ、運営者は顧客の行動履歴や関心に基づき、言葉のニュアンスや送信タイミングを考慮して設計しなければならない。MAとは、その“配慮のきっかけ”を見つけ、実行に移す装置なのだ。まずこの本質を見誤らない様にしたい。ここではそれを真意のMAと呼ぶことにしよう。

第2章:CRMとは「接客」ではない、すべての顧客体験に宿る視点

CRMとは?顧客との関係性を築く全ての行動

 そして、マーケティングとは「価値ある体験を届けること」であるとすれば、CRMもその一部と考えるに相応しいということになる。なぜなら、上記の通り、言葉のニュアンス、送信タイミングなどを考慮することはまさに、CRMに他ならないからだ。

 ところが、このCRMという言葉にもまた、誤ったイメージがつきまとっている。

 よくあるのは、「会員ランク性の運用」「定期通販でコールセンターが丁寧に接客すること」。それがCRMという狭義の理解だ。しかし小林社長は、CRMとは「顧客との関係性を築くすべての行動」に宿る概念であると語る。

なにも接客そのものだけではない

 だとすれば、たとえば店舗での返品対応、配送タイミングの調整、商品のおすすめ、さらにはその伝え方まで。すべてが顧客満足度を左右する要素であり、それらの積み重ねこそが「CRM」そのものだというのだ。

 要するに、顧客との接点が生まれる全てにCRMが存在すると考えた方が正しい。そして、本当の意味での「MA」は、そのCRMを支える道具となるわけだ。

 なぜなら、これだけデジタルを活用する時代、ECサイト上にお客様の行動履歴が蓄積されるからである。

 データの分析からお客様の接点を最大化させる。きっかけはどの行動に起因するんだろう。その共通軸を提示するのが、MAなのである。だから、彼らはそれをECに特化させる形で、MAを提供してきたわけだ。

 すなわち、配慮ある対応を考えるのは人間であり、MAはそれを効率的かつ広範に届けるための仕組みである。CRMとMAは二項対立ではなく、本来は“同じ地平にある”視座なのだ。

第3章:オムニチャネルの限界、ユニファイドコマースが必要な理由

連携がもたらす不一致とその限界

 これが「オムニチャネル」という概念にも関わってくる。それは、真意のMAは、顧客との接点が生まれる全てに配慮が生まれ、それはECに限らないからだ。

 これまでの理解で言えば「オムニチャネル」は、リアルとネットを横断する接点設計である。わかりやすく言えば、リアルとネットのお客様情報を会員IDとして統合。商品在庫もリアルとネットで在庫を統一して考える。

 これに関しては、リアルを主体としてきた企業が、コロナ禍を経て重要性が高まったという印象が強い。お客様を取りこぼさない様に。そして、在庫を増やさぬ様に。そう考えたからに他ならない。

 しかし小林社長はこのオムニチャネルに対し、「あくまで“連携”に過ぎない」と語る。

オムニチャネルとは?ECとWMS、POSを繋ぐ

 たとえば、図で見ればわかるように、ECシステム(Front End/Back End)、WMS(倉庫管理)、POS(店舗管理)がそれぞれ独立した形で存在しており、それらがAPIなどを通じて連携されている状態が「オムニチャネル」である。

 これを共通して、会員データで統一するわけだ。これでも十分な進化で、顧客満足度は向上する。

 ただし、本質を辿ればまだ、完全とは言えないのである。なぜかわかるだろうか。この構成では、在庫管理や価格設定、決済処理などが各システムに分散されているため、顧客への一貫した対応には限界があるからだ。

 たとえば、どんなことが起こりうるのだろう。

 実際、よくある事例として「ECで3足1,000円(1足400円)の商品をセール+クーポンで購入し、1足だけ店舗で返品したい」といった場面がある。ところが、バラバラなシステム設計ゆえに「いくら返金すべきか」という判断がスムーズにできず、顧客も現場も混乱する。

 正解は、1足400円なので、200円返金である。だが、それを即座に算出するのは難しい。

 でも、それをできる様にしていくことが、必要なのである。そこで出てくる概念がユニファイドコマースとなる。これでこそ、真意の「MA」が実践できるとしている。

統合という理想──ユニファイドコマースの登場

 だから最近、Shopifyは「Shopify POSを使うように」と明確に打ち出し始めていて、それと絡んでいる。

 これはPOSまで含めた“統合”を自らのプラットフォーム内に取り込むことで、ユニファイドコマースへの道を切り開こうとしているからにほかならない。

 改めて、ユニファイドコマースとは何か。それは、EC・WMS・POSといった各種業務システムが、最初からひとつの共通ロジックの下で動作している構造を意味する。

 会員管理、価格決定、在庫、決済、出荷。それら全ての情報が同じシステム内にあり、一貫したルールのもとで処理される。つまり“連携”ではなく“統合”されている状態である。

 これにより、店舗でもネットでも同じ判断基準で、同じようにサービスを提供できるのだ。

 オムニチャネルが「つなぐ」ことで利便性を実現しようとするのに対し、ユニファイドコマースは「最初からひとつである」ことで精度とスピード、そして何より“顧客への配慮”を最大化する。

 小林社長が重視しているのは、まさにこの思想だ。それで初めて、先ほどの様な混乱は起こらない。

第4章:小林社長が考える“理想”のコマース像

サービスレベルの最大化のための一体化

 小林社長の理想は明確だ。

「サービスレベルを最大化するためには、すべての業務が一体化されていなければならない」。

 それは現実的にはできていないことではある。だけど、考えとしては、それを目指していかなければならない。そこを見越して、メール配信ひとつとっても考えは貫かれている。

 その理論からすれば、「カゴ落ち通知」は、ただのトリガーで送るのではない。そう考えているのである。極論、その人が“今注文すればいつ届くか”まで加味して伝えるべきであるという。

 そこには、WMSや在庫、配送ロジックと連動したデータ基盤が不可欠となる。

効率化ではなく顧客満足の世界

 おわかりいただけるだろうか。単なる効率化の話ではない。

 たとえば、商品の在庫が倉庫に到着し、その情報が即座にECに反映され、最短配送可能日が自動計算されて、サイトに表示される。そんな仕組みが整えば、顧客は“いつ届くのか”を正確に知ったうえで購買判断ができるようになる。

 また、返品対応や価格調整といった複雑な業務も、統合されたシステム設計によってこそ柔軟に対応可能となる。つまり、ユニファイドコマースの思想があってこそ、MAもCRMもその真価を発揮することができるのだ。

 それは顧客が満足する環境を作り出すからなのだ。

最後に:言葉に振り回されず、顧客から逆算して行動せよ

 MAやCRMという言葉は、今やマーケティング界隈で当たり前のように使われている。しかし小林社長の話を聞けば、それらの言葉が本質を伝えていないことに気づかされる。

 重要なのは、「ツールを導入するかどうか」ではなく、「そのツールで何を実現したいのか」という目的意識である。顧客に対してどのような配慮をすべきか。そこから逆算して設計されるべきなのだ。

 リアルとネット、倉庫と現場、全ての接点を貫く顧客満足のための仕組みこそが、真の意味でのCRMであり、それをアクションとしていくためのMAがある。そして、その土台を支えるのがユニファイドコマースの考え方である。

 極論、そこに近づく考え方を整理していくこと。それが店にとってお客様をファン化させて、一番、売上を上げる近道なのだと思う。なぜならそれができていれば、もはや顧客の間で熱狂が生まれているからだ。この本質に対して、店はどう動けるか。

 全ては、顧客の「この店、好きだな」という体験を生み出すために──。

今日はこの辺で。

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