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この10年を経て今後の10年を占う シンクロ西井敏恭さんと語る 自社ECが今果たすべきこと

 「新規顧客を追い求める毎日に一区切りをつけて、既存顧客と向き合い続ける術を考えてみよう」。共通したメッセージはそこじゃないかと思う。終始、GMOメイクショップ代表取締役 向畑憲良さんが話した言葉もこれに近い。この日、僕はMakeshop Day TOKYO にやってきて、それを痛感した。「NEXT〜ECの未来をともに築く〜」の名の通り、今までとは違った発想でのアプローチは、そこに片鱗が見られる。僕自身、興味が惹かれる内容が多かった。特に、西井敏恭さんの話が本質的。未来にヒントをもたらす内容だったと思う。

未来に必要な価値は?

 西井敏恭さんは、株式会社シンクロの代表取締役であり、EC業界で20年以上のキャリアを持っている。

 そもそも彼のキャリアのスタートは、ドクターシーラボでのEC事業部門での成功からである。その後、オイシックスやNTTドコモなどのマーケティングを担当し、さまざまな企業の支援を続けてきた。

 西井さんの考え方の特徴は、マーケティングを「経営観点で実行」し、KPIを変えつつ、チームを構築してきたことである。チームという部分が大事で、マーケティングで企業の個性を可視化しつつも、それを属人的にさせない。そうなりがちな要素を複数の人で手分けして、いかに具現化させるか。そうやって、組織を通して、あるべき企業の姿を映し出すところが彼の真骨頂である。

自社ECの未来とスマホシフト

 なるほどなあ。そう思いながら、西井さんが話した、書籍「日経キーワード」の話を聞いていた。不思議な話だけど、各年のトレンドキーワードはバラバラ。そうでありながら、ここ10年には共通軸がある。それはスマホに関わるものであるということ。

 そのキーワードは時代の変遷を経て、スマホとの向き合い方の変化を表しているというわけだ。それを理論化すると、下記のようになる。下の写真を見てほしい。

 Place、Promotion、Product、Priceと書かれている。けれど、実は最初の二つは、既にスマホによって変容が生まれている。何が中でも大きかったのかというと、広告における変化がもたらされたことだ。

 従来のマスメディアを基軸にした広告という概念は形を変えた。そして、SNSなどの台頭により、ダイレクトに消費者へと伝わる。要するに、伝わり方が変わったのだ。結果、これからの10年で変わるのは残った二つ。Product、Priceなのだと指摘するのである。

構造的転換により、商品が変わる

 なぜ?そう思われる人もいるだろう。これこそが本質的。そもそもモノの製造工程は、メーカー、問屋、小売店、消費者という流れの中で最大化されるように構築されている。実は、百貨店然り不特定多数の人を対象に、多くの人をそこに集めることで、商品が売れるようにしてきたわけだ。

 ただ、今、書いた通り、Place、Promotionが変わったのだ。だから、その根本的構造にとらわれず、ダイレクトで消費者に辿り着けるのである。それによって商品が変わる。それは、(間に入る業者がないので)原価を定価に対して50%かけて、商品を作成することが可能になるわけだから。

 これがどういうことか、お分かりだろうか。

 今まで2500円の質で作られたものを、消費者が1万円、支払って手にしていた。しかし、変わった今においては、1万円払えば、5000円の質の商品を手にすることができるようになったわけだ。

 つまり、ネット通販という「場所」を取りにいくことで、顧客の商品に対する満足度は、今まで以上に高いものにできる。ここは大きい。特に、間を挟まない自社ECにとって、その価値が発揮される真骨頂である。

ニッチ市場での成功事例

 本当にそうなのだろうか。つべこべ言わずにやったらいい。そう言わんばかりに、西井さんは、自らそれを実践している。

 「NOOG」というゴルフブランドを立ち上げた。数あるゴルフブランドの中で明らかに新参者である。そこで敢えて「ワンレングスアイアン」を自社ECで販売したのである。「ワンレングス」とはその名の通り。全番手が同じ長さになっているアイアンのことだ。

 要するに、スイングなどを統一して、適切な距離の打ち分けをプレイヤーがしやすくしたものなのだ。これこそが、従来の常識を覆して、設計し直したモデルなのである。極めて限られたニッチなジャンルの中で、特化して商品を販売する。それが可能になった理由は、いわずもがな。上記に書いた通りである。

 また、それによって、本来、35万円相当する商品を、20万円で売ることができるようになった。ただ、ここで大事なのは「安さ」ではない。

 今までとは違った切り口で提案することで、ゴルフをする人の裾野を、彼らなりに広げている。そこに価値があるわけだ。「Place」「Promotion」が変わることでビジネス上可能になった価値観だ。

 だから、自社ECを活用していくことに意味がある。なぜなら、その武器を手にすることで、全く違う商品を発明できるからだ。そこに自社ECとしての伸び代があるとしているわけである。

ファンマーケティングとエンゲージメントの重要性

 そして、もう一つ共感することがあった。それは、売主と消費者との距離感の変化に伴い、大事になっているものがあるということ。西井さんがそれで強調するのが「購入後の体験」である。ECビジネスで成功するためには、ファンとの関係性を深めることが大切だというのだ。

 例えば、ECの黎明期に始まり、初期の段階では、新規顧客の獲得が中心であった。しかし、勢いのある店舗ほど、その関心は顧客獲得してからの「後の」行動に変化している。

 それを一言で言えば、「ファンマーケティング」や「サブスクリプション」となるのだろう。ただ、ここも誤解が生まれがちで、サブスクというと「定期購買」と捉える人がいる。

  例えば、新聞がそうだ。ただ、それとは全く違っている。

 繰り返しになるが、売主と消費者との距離感である。顧客データをフィードバックして、それを体験に反映させることで、体験価値を底上げしていくこと。それこそがサブスクリプションの意義である。

 必然的に、そうすれば売上は高く、エンゲージメントが上がる。下の図の通りである。

 だから、デジタル化と相まって、西井さんは、顧客との長期的な関係を築くことを説くわけだ。ビジネスの持続可能性を高める意味で、これほど大事なことはない。実は、ここにも価格の変容が生まれていることにお気づきだろうか。

テクノロジーの進化とマーケティングの未来

 具体的には、西井敏恭さんが経営に関わるサッカーチーム「鎌倉インターナショナルFC」だ。

 なんでも、彼は自分でやっちゃうのがすごい(笑)。同チームは、アマチュア。神奈川県一部リーグに所属している。つまり、このチームにはプロ選手がいない。それにもかかわらず、ファンやサポーターとの密接なコミュニケーションを通じて大きな成果を上げてきたのだ。

 サッカーチームがファンと繋がりを保ち、エンゲージメントを強化してきた。西井さんが特に強調しているのは、この点だ。チームは試合の模様をYouTubeライブやInstagramライブなどで配信。試合に来られない家族や友人、ファンがリアルタイムで試合を応援できるようにしているのだ。

 結果、このチームはクラウドファンディングを利用して、ユニフォームなどの返礼品を用意しながら、ファンからの支援を募りました。その結果、わずか2ヶ月で約1億円を集めるという大きな成功を収めたのである。

 特に注目すべきは、アマチュアリーグのチームでありながら、こうした資金を集めることができたことであろう。今まで、価格とも認識されていないものに金銭的な価値が生まれた瞬間と言っていいだろう。

課題と今後進むべき道

 つまり、今後、顧客との距離感をベースに、どういう体験を作り上げるか。そこには、企業ごとのブランディングが大事であり、そこをしっかり顧客と向き合い、体験価値を底上げしていく。そうすることで、継続的に売り上げを作ることが急務である。

 これは余談であるけど、このイベントの懇親会で店舗と話したときに、(店舗は)その個性は確立している事がわかった。ただ、それが仕組み化されていないところに脆弱性がありそうな気もした。何気なく、話をしていて、「そうか、だから、チームであることが企業の個性を守るのか」。西井さんの言うことに合点がいった。

 属人化しがちな要素を、“因数分解”して、それぞれができるレベル感に落とし込む。そうすることでブランドの世界観は維持できる。それをもとに、上記のようなマーケティングを心がけていく。すると、お客様と企業が一体となって成長していけるわけだ。

 この話は、同じく登壇した向畑さんが強調していたことにも通じる。今後のEC業界においては「新規顧客の獲得コストの増加」にともない、「顧客のエンゲージメント向上」が大事になるということ。

 人口減少に伴い、新規顧客の獲得がますます難しくなっている。その状況において、既存顧客との関係を深めることが、ビジネスの成功につながるのである。時代は刻々と変わっているから、その売り方、顧客体験を含めて、自分たち自身も変貌を遂げようではないか。

 今日はこの辺で。

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