果たすは“受け取る側の平準化” 2024年問題の解決は「スマロビ」で Nice Eze代表 松浦学さん
まさに発想の転換。「2024年問題」に関してNice Eze社は、今までフォローしきれなかった箇所に風穴をあけて、課題を解決する。多くの人は、その配送に絡む問題への対処として、荷主や配送側のほうで解決しようとした。だが、彼らの視点はそことは逆。要するに、商品を注文して、受けとるお客様の側の改革だ。受け取る環境を変化させ、そこでデータを蓄積し、AIを活用し、実体に即したインフラを作って、問題の改善を図る。
2024年問題とNice Ezeなりの解決策
そもそも「2024年問題」とは何か。2024年4月から、法改正を行うことで起こる諸問題である。トラックドライバーの時間外労働に関して、960時間の上限設定をする。自ずと働く人は減少するから、輸送力の低下が進む。荷物を運べないであるとか、利用者側の配達料金が上昇するから、各社で構造的な転換が迫られている。
これまでもこの対策として、実にいろいろな会社が対策を講じてきた。BtoBで言えば、「同業種の共同配送」BtoCなら「置き配の標準化」など。ただその多くは、荷主ならびに、配送業者の側で語られることが多かった。
また、受け取る側の視点では、宅配ボックスなどの議論はあっても、設置することで全てが解決するという単純な話ではない。お手並み拝見とばかり、この日、会見で僕は、同社代表取締役 松浦学さんの話を聞いていた。満を持して、この日、ローンチされたのは「スマロビ」というサービスである。
思うに、彼の着眼点の素晴らしさは、宅配ボックスの利用自体に答えを導き出すのではなく、それを受け取る側の環境を把握するための手段としたところにある。それは、松浦さんらしい俯瞰的目線に立ったもの。
受け取る側の環境の平準化を促す。ここの部分が肝となる。受け取る側の平準化?そう思う人もいるだろう。
全ての答えはラック式の宅配ボックスにある
彼は「スマロビ」の核たる要素として、変形型のAI宅配ボックスの存在を強調した。それこそが「2024年問題」を解決へと導く、受け取り側の変革である。それを語る上では、宅配ボックスを変形型にした理由から、紐解くべきだろう。
実機については同社ゼネラルマネージャー古賀健二さんが案内してくれた。
違うのは、ラックタイプであること。要するに、荷物を陳列棚に並べるような感覚で、宅配業者は置くわけだ。実は、その棚の下部には一定間隔でセンサーがついている。一方で、手前にぶら下がっている番号札の前にはライトがある。つまり、このセンサーと番号が連動しているわけである。
だから、宅配業者はスマホでQRコードをこの宅配ボックスにかざす。そして、各々荷物を入れると、その入れた場所を番号で宅配ボックスが認識する。
住民も荷物を受け取る場合、スマホでQRコードを宅配ボックスについた画面にかざす。すると、その荷物に該当する「番号の下にあるランプ」が点灯する。画面にもその番号は示される。写真で言えば354,355,356に跨って荷物は置かれている。
これで商品の受け取りは完了だ。ただ、彼らの目的は、宅配ボックスの設置で完結しないところにあり、その真骨頂は、ここからである。実は、このラック式の宅配ボックスは、棚の上下の高さも調整ができるようになっている。ネジを外して、一段取り除けば、高さのある荷物が入れられるようになるわけだ。
届くほどにその集合住宅の個性が露見する
わかるだろうか。まず前提として、棚である以上、横に仕切りがなく、自由に使える。そして、上下も高さを変えられる。・・ということは、横も縦も、その集合住宅の届く荷物の傾向に合わせて、カスタマイズできるのである。
大きい荷物が多い集合住宅であれば、高さの高い棚が多めになる。その逆も然り。そうやって、その住民が求める必要なサイズを特定。それに合わせた形状に、宅配ボックスを変形させる。この仕様にこそ、彼らの存在意義がある。
彼らはサービスを提供しながら、その集合住宅の荷物の傾向をデータ化していく。各々の集合住宅ごと、荷物の傾向に対して、ベストな宅配ボックスの棚の形状を作る。それができれば、宅配業者が物を入れられないという事態を防ぐことができるのだ。
これは宅配ボックスが抱える根本的な問題への課題解決の側面を持っている。確かに、宅配ボックスは随分、増えたが、その箱のサイズに必然性がない。だから、サイズに見合わない荷物を、ボックスに入れてしまう。ゆえに、本来、必要なボックスが不足して、再配達をうむのである。
また、それが集合住宅にあるということ自体が、そのポテンシャルを活かすことにもなっている。例えば、駅で宅配ボックスがあるけど、すぐに受け取りをしないという話も聞く。だから、集合住宅を拠点に、適切なサイズの宅配ボックスを作ることに意味がある。
宅配ボックスの利用頻度と回転率の高さが再配達を劇的に減らす
そして、それは空間スペースの最大化であり、マンションの管理会社に、歓迎される要素である。ラック式であり、集合住宅であるという事実が、掛け合わせると、宅配ボックスの利用頻度と“回転率”がよくなる。
松浦さんがそれを物流テックであると言いつつ、不動産テックであるという所以である。
もう一つ、語弊を恐れずいうなら、家の規模と、家族世帯年収の額は比例するのではないかと思う。だから、自ずと財布の事情に合わせて、買うものが変わってくるに違いない。だとすれば、これらの宅配ボックスに入れられるものは、集合住宅単位でこそ、共通化できるということになる。
NiceEzeはそれを通してデータを収集することに重きを置く。AIを使えば、利用頻度と回転率が高まるのはどういう形状なのか。2LDKが多い、3LDKが多いなど、その集合住宅の集まる部屋の傾向で、その傾向を洗い出せるのだ。しかも、使ってもらうほど、その精度を高められ、利用者の利便性を上げる。
改めて、その着眼点の良さに痺れる。多くは発送する側で物事を考えようとする。しかし、発送する方は、売れる時期も決まっている。その上、出荷量を制限することもできない。荷主側がコントロールするにも限界があるのだ。
松浦さんはそう話す。それは、彼自身がローソンで小売の現場を経験し、ローソンユニオンの執行役員まで上り詰めたからこその着眼点だと思う。
視点を変えて、受け取る側の整理をするから効果覿面
また、受け取る側の視点に着目する利点は、サイズというアナログな要素で共通化されることにある。まさに配送での生産性を左右するのは、その荷物の物理的要因であるから、効果覿面なのである。
商流から必要な物流環境を洗い出し、今回でいえば、それをユーザー目線でアジャストしている。
その俯瞰的な視点は、彼がニトリホールディングスで上級役員を務め、サプライチェーンマネジメントを把握した経歴も生きているのだろう。だから、僕は同社が「スマロビ」の横に無人ストアの併設をすることも納得できた。
ものをお客様にどう届ければ、利便性の高い環境を作るか。そして、同時に、空いているスペースがあるなら、それをどう活かすか。集合住宅が人が集まることで成り立つ利点を活かして、そこに小売店の発想を持ち込む。そして、住む人にとっての価値向上を作り出す。その延長線にあるのが「スマロビAIストア」なのである。
飲料や食品、日用品を入れた、冷蔵庫のような無人ストアである。僕が、松浦さんの話を聞いて面白いと思ったのは、「すでに、ネットスーパーがこれだけ浸透しているとすれば、すでにそこに傾向がある」ということだ。
住居という拠点に注目するとまだ発掘できるチャンスはある
例えば、ネットスーパーのデータを見たら、いつもその集合住宅の住人からバラバラに発注が来るということもある。しかしそれらの食材を、その無人ストアに入れて、適宜、ほしい時に取り出してもらうようにすればいい。この場合、スーパーから商品を卸してもらうことで、ネットスーパーにかかる配達の人員を減少させ、発注者の自宅での待機時間をなくすという利点も生み出せる。
ちなみに、商品登録はクラウド上で操作すればよい。つまり、この場所にいなくてもそれができる。だから、あとは、現場にいる人間がそのものを補充するだけで良い。お客様は事前にアカウント登録をしておき、決済手段を決めていれば、QRコードをかざした後、商品を取り出すだけで、決済が完了する。これを可能にするのは、AIストアといわれる冷蔵庫のようなものに、カメラがついているから。
その商品がどれであるか。AIで機械学習させているので、そのカメラは、すぐにどれかを識別する。
ここまで、「スマロビ」と「スマロビAIストア」と説明してきた。
改めて、彼らの視点は、この集合住宅という単位であることに価値があることに気付かされる。結局、集合住宅は、先ほどの世帯年収の話ではないけど、共通化できる単位としてふさわしい。だから、そこを起点に、平準化を図ることで、将来性を見出すというのは、着眼点としては新しく、面白い。
全ての要素があらゆる課題に直結して相関関係を持っている
だから、彼らはスマロビを通して再配達ゼロを達成できると意気込むのである。
独自の仕様で、生産性で言えば今までの8倍。通常の宅配ボックスの3倍の収納能力を果たし、結果、価格は5分の1以下を目指せる。縦割りにない俯瞰的なアプローチで、補完し合う中で勝ち取った実証実験に基づく数値である。
「スマロビ」での配達コストの軽減により、生まれた利益分を彼らは手にすることで、ビジネスは拡大できる。それが、さらに配達コストを削減するのである。しかも受け取りやすい環境がユーザーの行動で平準化されつつ具現化されるから効率が良く、消費者にも利点がある。
また、人手不足が叫ばれる中で、配送に絡むところは勿論、店のサービスも限定的になりうる。だから、小さなストアでそれを補完する意味合いも持たせる。ゆえに冒頭に書いた通り。今までフォローしきれなかった箇所に風穴をあけて、課題を解決すると。
繰り返しになるけど、宅配ボックスの利用自体に答えを導き出すのではない。それを受け取る側の環境を把握するための手段とした視点にこそ学びがある。
わかりやすく説明するべく、2024年問題の解決策とは書いた。けれど、未来に起こりうる課題に応えるべく、このサービスが機能するというのが本望だろう。松浦さんらしい俯瞰的目線に立った考え方にこそ、2024年問題に限らず、今山積する多くの課題を解決するヒントがあるのではないか。
今日はこの辺で。