顧客接点に見出す 自社ECの意義 それは企業が100年後も残る大事な視点 チャネルトークJayさん フューチャーショップ 安原さん
「コロナ禍を経て、モールは大きく伸びたが、自社ECはそこまでではない」。以前、元大和総研の本谷知彦さんが話した言葉は、これからの日本企業にプラスに働くとは思えない。そう僕は危機感を抱いた。自社ECはそれとは全く別軸。その企業が持つ価値は何か。その問いに対して答えるために、必要不可欠なのだ。だから、チャネルトーク Jayさんとフューチャーショップ安原さんの対談を設定した。ともに、自社ECを軸に、その顧客接点に企業としての価値を見出し、ビジネスに活かす両者だからである。
企業は企業でファンを作るべきだから
1.5年先を行く韓国のEC
別にモールが必要ないと言っているのではない。それとは別に企業が「己の価値を知らしめるため」に別で自社ECの設定をしていく。そのことに価値があると思っている。
余談だが、少し韓国の話をしたい。昨年、韓国のBTSの楽曲がビルボードで1位となり、坂本九さん以来57年ぶりにアジア圏の歌手が獲得した快挙は記憶に新しい。韓国は今や日本よりも一歩前に、世界をリードする存在となった。思えば、それはECでも当てはまるのかもしれない。そう思わせるJayさんの最初の一言だった。
個人的な印象と前置きしながらも「韓国のECは5年先を行っている」。
チャネルトークは韓国発祥。利便性というよりは人間性を重んじ、スタッフがもたらす会話を最大化させるためにチャットのようなトークツールを提供している。ECサイト上、そこでスタッフが、話を聞きながら商品を作ることすらあって、マーケティングであり、良質な接客な機会。人間味を帯びたデジタルの新しい視点に気づかせてくれる仕様である。
参考:“チャット”に見えて“チャット”でない? チャネルトーク の交流が通販の成長に繋がるワケ
2.別軸で自社ECの裾野が広がる
これが全ての指標ではないけど、例えば、韓国では、女性アパレルだけでも自社ECは4万店、存在する。彼はそう続けて、その理由はなぜかを紐解く。
元々韓国でもモールが台頭し、それは必然的に多くの販売者を集めることになり、売りやすい商品を軸に、商品と人で溢れた。ただ、韓国の場合、モールの数が10個に及んで、その割に顧客に差はないから、パイの取り合いになる。Jayさんは当時、eBayにいて流通総額が2兆円で1位だったが、今は違って、順位の変動は激しい。結果、人が集まる中で、各々店は広告でビジネスを構築することに、疲弊し始めたのだ。
だから、それとは「別軸で」違う形で企業と顧客の関係を築こうと、求めたのが自社ECである。結果的には、その企業ごとの価値を可視化することで、モールとは違う軸で、販売することになって、それはそれで「違うマーケットで」ここまでの拡大を見たわけである。
3.ブランディングを顧客接点から紐解く
どうやって「別軸で」マーケットを作れるというのだろう。一言で言うなら「ブランディング」とフューチャーショップ安原さん。「いや、しかし、その言葉の定義が曖昧で、難しいんです!」と僕。
そこで、それを噛み砕くべく、安原さんが話してくれたのが、顧客接点のあり方だ。
そもそも、フューチャーショップは、自社ECでも簡易的に使いこなせる「ASPカート」に分類されながら、カスタマイズ性を重んじている。その分、事業者にはスキルが求められるけど、彼らはそこをサポート力でカバーして、実力を高めて、中小企業の個性を発揮する土台として、ECを提供している。
参考記事:決済が決め手?ECで売り方を工夫 したら躍進をした意外な商材「卒塔婆」の話
だから、その顧客接点の在り方で、店に独自色をもたらし、中小企業に夢をもたらした。
さて、話を戻せば、「ここ最近で、自社ECに関して一番変わった」のは流入経路。それまでは検索と広告だったが、近年はSNSも増えて、環境がガラリと変貌した。つまり顧客接点が自社ECが自社ECたる所以であり、企業の存在意義となった。
4.統一した世界観の真意
そこで一番大事なのは、統一した世界観だと説く。YouTubeもあり、Instagramもあり、TikTokもあり、Xもあるという時に、どの接点から入っても、統一した世界観が構築できているかどうか。最初に入った入り口で、突き詰めて、掘り下げた時に、違ったイメージが存在するだけで、確実に離脱が起こると。
実はこれは今に始まったことではなく、今から10年前からと。その当時はSNSはそれほど浸透していなかったが、カート画面にその傾向が見られた。自社ECの雰囲気に魅せられ、入っても購入導線で、味気ない決済画面を見た瞬間、興醒めして、購入をやめる。当時から、彼らはそこの部分までデザインを極力、世界観を崩さぬよう、落とし込むことで、信頼を得て、飛躍を遂げた。それはある意味、昔と今とで変わらぬ話だ。
そう!そうなんですよとJayさんはそこに呼応する。
彼らはカスタマーサービスの現場でそれを実感する。特に、それはOMOの文脈で語ることができるとしており、企業側と消費者側との捉え方にズレがあると指摘した。むしろ消費者の方が先にいってしまっているとJayさん。
OMOで企業側と消費者の都合にズレが発覚
1.企業側の都合で分けられている
企業は、リアルとネットのデータを統合して満足している。でも、それは消費者にとっては何も変化が感じられていないはず。なぜなら、お客様の実感としてポイントの統合くらいでしか受け止めておらず、それが企業への愛着には繋がらないからだ。
例えば、リアルの店舗で商品を購入した際に、何か問い合わせが生まれたとする。その時に、大抵が、その店舗のECサイトを探して、そこに問い合わせをするから、企業は戸惑う。「お客様にとっては、そんなことは関係ない。その会社に連絡しているのだから」とJayさん。
深くうなづくのが、フューチャーショップの安原さんだ。
それでいうと、革の鞄のブランド「PELLE MORBIDA(ペッレ モルビダ)」は変わったと安原さん。元々は卸が中心で、直販はやっていなかったが自社ECを始めた。卸なので、商品に関する問い合わせが来た時に、それを購入した店舗にお持ちくださいと説明していた。
ところが、Jayさんが言う通り。そもそも対応しきれてないということは、企業側の都合でしょ?それをお客様の方から指摘されちゃうわけである。お客様にとっては、そこに不満を感じるわけだ。
そこで、PELLE MORBIDAが素晴らしかったのは、その点に課題があると判断。どこで購入した物でもオンラインで対応できるようにした。すると、驚く勿れ、PELLE MORBIDAのECサイトは劇的な飛躍を遂げることになったというわけである。
2.イメージを伝えて共感を促す場
また、Jayさんがうなづき、「そうなったら伸びるしかないんです」と実感を込めて述べる。
それはクチコミが発生するから。
これが、ブランドの統一感への言及や、広告ではないビジネスの模索という部分に直結するから興味深い。つまり、今までで言えばTVCMなどの物が売れていたけど、消費者は気づいたと言うわけだ。お金をもらって発信しているものより、お金を払って発信してくれている声の方が確かであることを。
分かる気がしますと、安原さん。そこが、自社ECの本質ではないかと。ネット通販は当初、自動販売機的な捉え方で、考えられていた。
「それはそれで必要ですが、それこそ2010年代。当時、アーバンリサーチさんとサイトを作ることがあって、彼らがそれじゃ着用のイメージがわかないからダメだと言っていたのを思い出した」と続けた。自動販売機的なものでは、横一列で販売されるから、そこには広告が価値を伴う。勿論、それは露出を増やすという意味で効果があって、それを自社ECに求めるのは適切ではない。でも一方で語られる、中も外も、統一した世界観。
Jayさんはうなづき、こう繋いだ。
要するに韓国の場合、それらが一巡して、自社ECの割合が高くなった。それをJayさんは先駆けていると表現したまでだ。だとすれば、流行り廃りではなく必然性を帯びて、自社ECの広がりは起こる。大事なのは、その視点で着手できるかどうか。売り先の一つではない。
3.案外、切り離されて考えている
思うに、お客様の心理面を考慮したボーダレスが必要なのだと思う。
安原さんの言うサイト内の統一は、心理的に購入まで安心感を持ってそのブランドだと認識させる“心理的なボーダレス”。それは、問い合わせの話にも直結して、同じブランドだと認識させる努力を企業が見せるからこそ、信頼が伴う。だから、顧客接点と自らの存在意義を示すECサイトの必要性が高まってくる。それはモールとは別の視点で、事業者自身が向き合わなければならないことなのだ。それができれば、応用も効く。
安原さんはJayさんの話を一通り、聞いて「それはライブコマースでの施策にも当てはまりますね」と語りだす。売るために、というわけではなく、ブランドとしての話で。
Jayさん曰く、韓国で注目しているインフルエンサーがいて、フォロワーは2万人程度。正直、世間で言われるインフルエンサーというには数が少ない。だが、驚きなのは、リピーターの売上が85%を超える点にある。何をしているのか。商品を掲載して、売ろうとするのではなく「話し続ける」のだという。
だから、対話がブランディングのキモ。迷ったらお客様と向き合えば良いと説く。それが、価値観を共にする総数2万人の中で1万5000人は毎月、買っていくという現象を生み出す。いまや2万人のファンがいれば、やり方次第で、年商2億円の売上は作ることができる。すごい時代である。
4.スタッフ力がブランド体験を高める
安原さんは、ある時、「CLOCHE(クロシェ)のスタッフの対応に驚かされた。そのスタッフは普段からSNSでお客様と繋がっている。だから、ハンドルネームを見るだけで、「先月、◯△店に来てくれた□さんである」ことがわかって、あなたの持っている服だとこれが似合うとまで提案する。
案外、店頭のスタッフにはやりたがらない人も少なくないけど、実際、やると売れてしまう。笑。それもそのはず。商品知識を持っている人が、寄せられる視聴者の声に生で応えるから、信用されることが大事なのである。
そりゃ、持っているあのアイテムをわかっていて似合うと話しが弾めば、お客様も信用する。その後押しをされるのは、学生時代、友達と一緒に行って和気藹々と買う感覚に近い。それは、顧客体験としての価値があることでもある。
すると、見ている視聴者も欲しくなって、そのスタッフとの交流が始まるわけである。その話を横で聞いていたJayさんもそれがCLOCHEの誰なのかわかった模様。うなづいている。
実は同スタッフは、チャネルトークでも話題なのだとか。指名して問い合わせをする人がいるくらいと。
「本音を言えば、これほどROI(投資利益率)がいいものはない」。そうjayさんは語り、ライブコマースの体験は、カスタマーサービスにも通じることを強調するわけだ。やはり心理的なボーダレスだ。物理的なボーダレスを図れてもそちらまで徹底できているだろうか。
ブランディングって何?
1.はからずもAppleに学ぶブランディングの礎
一つ一つが本質的である。最初に出てきたブランディングという言葉の定義の曖昧さを紐解くヒントが見えた気がする。手段は様々あるし、ツールの売り込みもあるけど、答えはお客様にある。それはSNSであり、ECであり、一個一個のお客様との向き合い方で、一つ一つ、確認していくことが大事だということだ。
でもその大元となる店のブランディングはどうビジネスと絡めて、築き上げていくべきだろう。それについては、ECとは関係ないけど、Jayさんが「Appleに学ぶところが大きいと思うんです」。そう口にしたのが印象的だった。
売れない会社がやっているのは、「何をするか」「どうするか」。その後に「なぜするのか」を考えがちだという。「Appleは順番が反対なんですよね。「なぜするのか」から始める」と。
そこで、彼は、DELLを例に対比して説明したのがわかりやすい。DELLはまず「PCを作りましょう」。その上で「テレビも見ることができて、容量もあって」「なぜなら、性能のいいPCを作りたいから」という順序だ。ゆえにPCの会社の印象でしかなくなりつつある。
一方でAppleのスティーブ・ジョブズは、クリエイティブな現場に関わる人に、今までなかったものを作りましょうと。おしゃれなデザインと統一されたUIを追求した先に、iPhoneを作った。全ての工程が逆であるから、それをブランドとして認知して、充実感を得ているのではないかと。
2.ともに100年後語り継がれる企業を
確かに!その話をしているJayさん、聞いている安原さんと僕の全員が誰から言われることもなく、Apple製品を手にして納得している(笑)。これに勝る説得力はないと痛感した。
ブランドを意識し、そして、それを顧客接点の中で、スタッフと共にどうやって築き上げるか。そして、ブランドなり店舗の魅力、強みをちゃんと整理していく。整理ができれば、次は、ちゃんとわかりやすく伝える。そして、最後に、伝わったか確認する。
そういう世界を追求してこそ、自社ECというのが価値を持つのであり、それが最初に、僕は「単なる売り先として自社ECをみるのでは本質的な解決には至らない」と話したわけだ。
モールはモールとして躍進を続けつつ、そのタッチポイントを大事にする。
でも、自社ECも味方につけて、自ら企業が自分の立ち位置を作ることで、安定した経営基盤と、未来に続く展望を想像してみよう。それが、コロナ禍を経て、ネットが浸透した今、僕らが一番やるべきこと。時代は変わって、その転換期はまさに今、この時点なのである。企業の価値を底上げするために、個々の努力が求められる時代へと突入する。どうか、100年後も残る企業を作ろうではないか。
今日はこの辺で。