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ECの枠組みなんてもう古い 「サービスレベル」の向上に徹するべき シナブル小林さん

 「サービスレベル」の向上のもと、全てはつながっている。シナブルで話を聞いて、痛感した。これから、小売店がやるべきは、なんだろう。思うに「ものを買う」その一点に対してどう利便性を高められるか考えていくこと。代表取締役 小林 裕紀さんは、サービスレベルという言葉で、それを説明する。そして、ECという括りで小売の攻略が色々語られることにも違和感を感じはじめている。話を聞くうち、それを口にする理由もよくわかった。

俯瞰して「サービスレベル」の向上に本腰を入れるべき

 「EC Intelligenceというサービス名も、近々、変えようと思っている」と小林さん。

 え?驚いた。それはシナブルがやっているMA(マーケティング・オートメーション)のサービス名だ。ECサイト内での行動履歴ごと、シナリオを分けて、お客様との間で購入へのストーリーを作る。接点は主に、メールで、そのデータはメール中の多種多様なレコメンドによるアプローチで活かされ、購入へと繋げる。

 よくできたシステムだが、それも極論、ECが、データの収集をするという観点で、親和性の高い仕組みだったから、機能したに過ぎない。「ものを買う」利便性を「データの側面から」考えて、作り上げたものだ。特に、商品点数が多いものに関しては、彼らのサービスがプラスに作用し、特に、アパレル企業などには歓迎された。そして、今後見据える中で、放った彼の言葉が心に残った。

 今の時代においては、ECを切り分けるわけでもない。広く「サービスレベルを上げていく」ということに終始した方が良い。

 例えば、「コンバージョンレート」を上げていく。それは、マーケティング界隈ではよく耳にする話であるけど、ブランドとしてみればそれは一側面に過ぎない。長い目で見て、それだけではいけないと強調する。敢えて、小林さんはそことは、別次元の話を持ち出したのだ。

 「どういうことですか?」と僕は問い、その返答にシンプルながら、時代の潮流を感じたのだ。

店舗受け取りもサービスレベルの向上がなせる技

 「サービスレベルを上げていく」とは?

 「例えば、店舗受け取りを可能にしていく。それもサービスレベルの向上にあたります」。

 以前、「店舗受け取り」をしたショップがあって、それで売上が4倍になったという。しかし、それは、オンラインでの売上に変化があったわけではなくい。店舗受け取りがオンラインの3倍になったのである。

 でも、その伸びがショップとしての純増となった。

 ECがなければ発生しなかった売上。だけど、それはECなのかといえばそうではない。

 これは、極めて本質的な話。店舗受け取りを一つやるにしても、組織の設計図を見直さないといけない。仕入れを見直し、物流環境の整備をしていく。そんな具合に、やらなければいけないことがたくさん出てきて、それを乗り越えたところでデジタルが機能した格好だ。

 つまり、「サービスレベルを上げていく」ことは、様々な部署を横断して、初めて形になる。今は、それを横断して考えるだけのソリューションが出てきた。だからこそ、それを考えやすくなったという。つまり、店は新たなフェーズを迎えたわけだ。その答えは、各々の店にあり「店舗受け取り」はその一例に過ぎない。

サービスレベルの向上要素は多岐に及ぶ

・PELLE MORBIDA

 はからずも、先日、フューチャーショップの安原さんが「PELLE MORBIDA(ペッレ モルビダ)」の例を挙げていたことを思い出した。同ブランドは卸が中心。

 自社ECを立ち上げると、驚く勿れ、商品に関しての問い合わせが、自社ECに寄せられるようになった。最初こそ、問い合わせがきても、その購入したお店に聞いてくださいとお客様に伝えていた。ただ、そういう問い合わせが増える中で、方向転換。

 卸先で販売した商品までも、そのECサイトで問い合わせに答えるようにした。すると売上が飛躍的に伸びたというのだ。まさにサービスレベルの向上がもたらした功績。全体感でものを考えないと、出せない結論だ。

参考:顧客接点に見出す 自社ECの意義

 お客様にとって不便な要素を、ECの仕組みを梃子に、組織から見直し、作り変えたわけである。

・商物融合

 先日、リンクス小橋さんが「商物融合」という話をしていたけど、それも同じ。「生産からお客様に届くまで」を一体で受け止め、事業を組み立てる。すると、分業にすることで生まれていたコストが軽減され、その分、自分たちのできる顧客体験の向上が見込めるというわけだ。

 物流の専門家の小橋さんの主張なのに、一言で言えば、これもEC云々ではなく、広く「サービスレベルの向上」に努めた結果で、なぜか両者には繋がりを感じる。今、求められているのはこの視点であり、それらは全部、繋がっている。

参考:物流を融合して考えどう付加価値に変えるか?デジタルと人間の折り合いを模索する 2024年

 ゆえに、それを統括してみられる人材こそが大事なのだと痛感する。

その向上要因は裏側の整備にあり

 そうなんです!と小林さんはいう。それなしには、これからの店の成長はない。

 例えば、かつてなら、商品を購入して「10日後に届く」と表示されることもあった。それだけで離脱をするお客様もいる。だが、そういう店舗に限って実は2、3日で届く。

 裏側の部分が企業側できちんと、整理できていない証拠。みすみす自分で、機会損失を招いているのだ。でも、そういう部分をフォローできるソリューションができつつあるのが今の時代。

 それができているところと、そうではないところの格差すら生まれている。

 つまり、最適化されてきた物流環境。そしてEC、リアル関係なく、会員組織として、顧客行動の履歴を集められる環境。

 小林さんはそれを前に「MAで謳ってきた『顧客との関係性』はもっと最大化する」と意気込む。

 データが企業に集まり、環境が整備されるほど、その真価が発揮されていく。例えば、欠品していても、補充されたときに、その告知をするなりして、よりきめ細やかなサービスが可能となっていくとしよう。それは、バックヤードが生きてこそのデータ運用であり、企業が生きながらえていく上で大事なCRMにも直結する。

 まさに、彼らが築いてきたMAはこのCRM的視点で、極めて重要な役目を果たしていた。だから、環境が整う今の潮流を見て、企業の根幹部分として、自らそのサービスが「プラットフォーム」として浸透していけるだろう。そう彼が自信を見せるのもよくわかる。

もはやECですらないのかもしれない、必要なのは。

 聞きながら思った。「サービスレベルの向上」という言葉。それは、数々の専門家の言葉が芋づる式に全てがつながる。つまり、店は横断的な視点で仕組みを構築していくことこそが、これから大事なのだと気づく。

 改めて、小林さんは、何をしようというのだろう。思うに、担当者が、今よりもっとデータを運用する機会を増やしていく素地を作ろうとしているのだろうと思った。

 きちんとデータが集まって、それを正しく運用できるような当たり前の仕組み。それが、まさに水道や電気のように、店を運営する人たちに広がるように誰もが使いこなしていくことができれば、顧客満足と相まって「サービスレベル」が上がるはずだと。

 それができるためには何が必要かを彼は自らに問う。すると、確かにその視点は、MAのいちサービスではない。データ収集が多様に可能となり、その運用が身近なものになっていくために、プラットフォームにならねばならぬ。だから、ECを謳わなくていいのではないかと説く。

 コロナ禍を通して、モールが躍進したことは小売にとってはプラスである。

 その上で、僕は、自社ECの価値を高めて、企業ブランディングをしていく主張を続けてきた。でも、小林さんの話を聞いていると、もはや自社ECという概念すらも必要ないのかもしれない。それは、恐らく、ただ一点に集約される。大事なのはサービスレベルを上げていくため、企業が一丸となることなのだ。

 今日はこの辺で。

  

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