モバイルの未来とその行動の経緯 三木谷氏の想い Rakuten conference 2023
直接、思いを伝えることの大事さを思う。先ほど楽天新春カンファレンス2023に参加してきた。登壇したのは、代表取締役 会長 兼社長の三木谷浩史さん。恒例の講演でその大半の時間をかけてモバイルについて言及。店舗ときちんと向き合い、自らの熱意と思いを伝える、彼なりの前向きな姿勢をそこに見たのだ。
未来を描き、行動の経緯を説明する
1.出店店舗 の成長にモバイルが欠かせない理由
元々、このイベントは未来を描くという側面がある。その中身は時に未来を語り、時に未来を思い描いて行動した行動の経緯について語る。楽天は長らく挑戦し続けてきたから、彼の描く未来と事業はセット。だから、このイベントは重要であり、今回は、それでいうと後者、自らの行動について語ったのである。
楽天の描く未来。その一丁目一番地に据えたのは楽天モバイル。投資の額も際立って高い。
とはいえ、今回のイベントに集まっているのが楽天市場の出店店舗のみである。その場で、楽天モバイルについてそれだけの時間を割くのは、どんな意味か。いうまでもなく、それはまわりまわって店舗の利益に繋がると信じているから、である。
実は、三木谷さんが最初に、モバイルの重要性を語ったのは2006年まで遡る。流通総額がほぼないようない時代。それでも彼は、流通総額の70%を占めるまで成長すると断言してみせた。それから、15年以上経過して、それを現実のもとのして、今再び、そのモバイルの価値に言及する。
3.ECのツールではなく顧客体験の向上
ただ、その時とはその定義が違っているように思う。
ECにモバイルが使われる。当時は、そういう「手段」の話であった。けれど、自ら携帯事業に参入した今は違う。自ら築いたエコシステムの中に、新しいプラットフォームを作る為にモバイルを活用する。楽天のエコシステムはもはや楽天市場の原動力である。加えて、モバイルを真ん中に据えることで、その勢いは更に加速すると断言するのである。
繰り返すが、ECを祖業に持つ会社でありながら、なぜ、モバイルに盛んに投資を行うのか。
その結びつきの深さを通して、楽天の未来を語るのである。モバイルはいまや人々の生活のインフラである。例えば、そこに集まる情報をAIで分析し、自動化して処理することで顧客のニーズを特定する。一方で、楽天市場でのAIの精度を高めていけばどうだろう。
その顧客がどんな人なのかを浮かび上がらせることになるだろう。極論、Netflixでどんな作品を見ているのか、といった具合に。データというのは、その一人一人の中身を明らかにする。その中身が、楽天市場内の顧客体験を向上させるというわけだ。
この点からも分かる通り、モバイル環境をECのツールとして見ているわけではない。顧客を絞り込み、満足度に直結するための手段と捉えている。だから、彼らは「楽天モバイル」を中心に据えて、経済圏の中に新たなプラットフォームを築くのだ。
全ての人のインフラだから経済圏のど真ん中
1.携帯市場の民主化
一方で、そういう付加価値を求めて、彼らはモバイルというサービスを取り入れているから、モバイル単体ではいくら使っても2980円ということを維持していこうと考える。つまり、もしもそれが他者のように携帯電話事業から始まっていれば、携帯事業単体のマネタイズから入る。だから、このような発想にはならない。
けれど、楽天は経済圏の付加価値を高める要素として、モバイルを見ている。だから、モバイル単体では極力、わかりやすく低価格で提供するわけである。それらを強調することで、彼が考える未来はなんだろう。大容量化するモバイル通信をむしろ積極的に使ってもらいたいという考えである。ともすれば、100ギガから200ギガが当たり前に使われる時代である。
例えば、PS5のゲームを一本ダウンロードするだけでも実は、50ギガ使ってしまう。物事の流通がデジタル上で行われるほど、それらの利用が増えて、楽天モバイルは、それだけのデジタル化の需要に応えるインフラになるというわけである。
これを彼は「携帯市場の民主化」と呼んでいる。もっと自分たちの趣味嗜好に合わせて、モバイルを通して、自分たちの楽しみを見つけてほしいというわけである。
2.誰でも使えるための価格設定
逆に言えば、だから2980円にしたいのである。後発であるメリットを活かして、彼らは極力、その仕組みをAIで自動化し、クラウド上でソフトウェアを扱う形でコストを軽減。徹底してモバイルにかかる諸経費を抑える努力を、それが、自らゼロからモバイル環境を作り上げる中で具現化したわけだ。
これらを合わせた時に、魅力的なコンテンツを活かせる土壌ができる。
これを、ここまで楽天市場を軸に作り上げてきた経済圏に当てはめる。会員組織としての価値を、より強固にしていく土台にこの楽天モバイルを持ってくるわけだ。来るデジタル時代で当たり前に、必要なデータがやりとりされて、それが使われるほど、楽天にデータが蓄積されて、それが顧客体験を向上させる。
顧客体験の向上は言うまでもなく、流通総額を押し上げる。その動きの背中をさらに後押しするのが、ポイントの発想である。現時点でも、この楽天モバイルと楽天市場の親和性は極めて高いことを、三木谷さん自身強調する。
3.楽天市場との親和性の高さ
2022年1月から2022年12月の契約者に関して、モバイル契約前と契約後で楽天市場の年間流通総額は49%も伸びている。現時点、楽天経済圏でモバイルユーザーの占める割合が11.6%に過ぎない。そのことを考えれば、伸びるほどに、流通総額は伸びるということになる。
これまで楽天カードなどに目を向けると、カード自体は所持していても、楽天市場の利用をしていないこともなくはなかった。でも、モバイルの良さは固定で支払い続けることによるポイント需要。そして、インフラとしての親和性の高さがある。だから結果、クロスユース率の向上も見込めるというわけである。
実際に、モバイル契約後のクロスユースサービス数は+2.58サービスに及んでいるとか。そうやって、ポイントはさらに流通しやすくなれば、ポイントの存在感が上がるというわけだ。既に6,200億もの発行がなされているポイントはより大きな価値をもたらす。
4.未来を見据えて行動したその先には
改めて、思うのは、このイベントは未来と直結している。冒頭話した通りだが、時に未来を語る時もある。けれど、今回のように行動そのものを語る時もある。まさに、三木谷さんという人間の面白さは、その未来に対して自らの行動することで、切り開く強さにある。
だから、その行動は予測できず、理解されないこともなくはない。一見すると、楽天市場とモバイルを切り離して、なぜ、楽天市場をそっちのけでモバイルに投資をするのか。そんな店舗の声すら聞こえてきそうだ。
だけど、「それは違うんだよ」。そんな三木谷さんの叫びが聞こえてくるようである。
ただ、彼も実は、変貌している。かつての送料無料ラインの時然り、今一度、店舗とは向き合い、丁寧に説明する必要性を彼はもうわかっているから、この場で、モバイルに時間を割いたのだろう。楽天モバイルの経緯とともに、未来の展望を自らの事業に準えて説明したのである。
さあ、店舗はそれを受けとめ、どう動くか。変化著しく、また、リアルへのよりもどしもある中で、ネットはその価値を失うことなく、新しい道を歩み出せるかどうか。
今日はこの辺で。