買わない顧客を「レンタル」で発掘 レンティオがメーカーにもたらした「売らない」革命
「これって利益出ているんですか?」大変失礼ながら、単刀直入に聞いてしまった。その相手は、家電などのレンタルを事業としているレンティオという会社。答えてくれたのは、代表取締役の三輪謙二朗さんである。今までで家電を使うとすれば、誰しもが「購入する」事でそれを満たしていた。彼らが画期的なのは、買わない顧客に焦点を当てた事。「レンタル」でその買わない顧客の背中を後押しして、新しいマーケットを作り出した。
レンティオ レンタルがもたらす新しい価値の創造
1.レンティオとは
例えば、最短で3泊、少し長くなって1ヶ月などの期間でレンタルするわけである。レンタルした商品をお客様が気に入れば、そのままレンタルし続けていくことも可能。それでそのまま購入しても良い。その期間が長くなるほど、彼らにとって利することになる。だから3年経過したものに関しては、そのまま、購入扱いで差し上げている。
最初こそ、彼らはカメラなどの需要があって、3泊などで利用するわけだ。つまり、旅行などをする際にだけ、レンタルして返すというニーズがあったのだ。そこから徐々に家電へと広がる。
ただ昨今、コロナ禍に陥り、旅行そのものがなくなったのはカメラが多かった為、それなりにダメージがあり、一旦売上が減少。しかし、ピンチはチャンスである。逆に、巣ごもり需要の高まりで家電商品のレンタルが伸びた。それに合わせて、同社は積極的に家電メーカーとの直接取引を行った。これで、商品の幅を広げるとともに粗利も高めて、成長絵図を描いてきたのである。
2.コストがかかる構造をどう乗り切ったのか
ここまで聞けば、ゼロから初めてのシンデレラストーリー。しかし、この事業自体が利益が出るために、かなり手間のかかる要素が多分にある。どういう構造をしているのかが気になって、三輪さんに話を聞いたわけである。
まず一般企業では稟議に上げても通らない発想だろう。実際、それを乗り越えてこれたのは、知恵と仕組み化の賜物であると思う。
3.配送コストに応えるための知恵
そうですよね、普通の企業では稟議は通らないでしょうね。そう三輪さんは笑う。彼曰く、やはり一番コストがかかるのは送料。単純に通常のECより2.5倍程度はかかる。それもそうで、ECなら片道でしかないのに彼らは往復の料金を必要とする。
確かに行きは「まとめて出荷」できる。でも返ってくる時は「バラバラ」なのでスケールメリットを活かすことができない。ちなみに下記の写真は返却された商品で、概ね、彼らが送った箱で送り返す事で共通化している。
今でこそ、「ルンバ」も何万台と出荷しているけれど、そこに彼らなりの工夫がある。入荷した際には全て120サイズだが、出荷する時に自分達の100サイズの箱に入れ直して、サイズを変えているのだ。「実は、それだけでも送料が600円程度安くなる」と。
4.倉庫のコストも並ではない
それだけではない。同時に、倉庫側も考慮しなければならない。お客様によっては月額制の人もいれば、その都度都度、利用する人もいるからだ。結果的に、月に3〜4万件出荷して、一方で3〜4万件、返ってきてくる。それゆえ、業務フローも効率化しなければならない。
また、1日単位で言えば1000件程度は、少なからずメンテナンスをしていることになる。だから、そのメンテナンスの質を上げつつ、それに対してのコストをいかに抑えるかに視点を向けるわけである。
今や、扱う商品点数は3000種類にも及ぶ。ゆえに、そのメンテナンスには細心の注意を払う。一つ一つマニュアル作成をしてスタッフ間で自動化して、少しでも生産性を高めていった。
全くなかった空白の市場
1.ECの知見を活かしつつも挑戦の連続
三輪さん自身、レンタルの専門家ではない。元々EC系の仕事こそしていたものの、レンタルに何か知見があったわけではない。その苦労は並ではなかったことだろう。
でも、何が三輪さんを駆り立てたのか。月並みの表現で申し訳ないが、起業家精神のようなものではないか。このマーケット自体が空白地帯。単純明快にビジネスとしてトライすることが他にはない「面白い」取り組みだと思ったと語る。
そのレンタルの構造からして、貸し借りの回転率が上がれば十分、収益たりうる。そう彼の中では、そのイメージが漠然とできていた。だから「やれる」と信じて、やり抜いたのかもしれない。
2.通販サイトから購入した創業時
今でこそ、彼らはメーカーと直接取引している。しかし「最初は信用もなかったので、自ら通販サイトで購入して、それをレンタルしていました」と話す。なるほど。そういうことか。確かに、信用がなくとも、自ら買えば、このビジネスとしての可能性は模索できる。
実際に買った商品をレンタルして、その商品の仕入れ値(といっても、最初は定価であるがそれ)よりもお客様がレンタルし続けて支払った金額が上回れば、「商品に対しては」ペイしたことになる。
そこから先は配送、管理と、メンテナンスに関して質とコストのバランスを考え拡大。とりわけ、その質にこだわったことが、お客様からの信頼を得られることとなった。その利用数は増加の一途を辿る。
始めてから僅か数ヶ月で月商500万円程度に至るほどにまで成長。あとは、未知なる道を歩む、地道な努力の繰り返しである。
回転率こそこのビジネスの根幹
1.いかに倉庫に残る商品を減らせるか
事業が拡大してくると、この会社の肝となっているのはやっぱり物流。倉庫における回転率が大事になる。倉庫代は置いておけば置くほど、お金がかかる。EC同様にいかに回転させるか。倉庫の中身が常に変わっている事は重要な要素である。
感心したのは、今やこの回転率をベースに仕掛けを考えていることだ。彼らはどの商品が常に動いているかに目を向け、長くその倉庫に滞在している商材は敢えて、キャンペーンをする。それにより、少しでも早く出せるような環境づくりを意識していくわけだ。
極論であるけど、出荷せずにそのまま留めておくくらいなら、五百円くらいでも出荷しておいた方がいい。倉庫に置いておくことは、それだけ、物流コストとしては大きい。
結果的に、倉庫での回転率は直接取引をしているメーカーの信用に繋がる。新しい入荷を好条件で得る結果になるわけである。
2.買わない顧客にアプローチした先見性
改めて、このフェーズまで来て何がこの企業にとって最大の付加価値になったのか。それは「使う前需要」なのではないかと思う。結局、多くの人は買う料金には限りがある。「使ってみたいけど、買うには躊躇する」という消費者が一定数、存在するのだ。だから「レンタルで」試しに使ってみたいというニーズがあって「レンティオ」はそこに応えるサービスになったわけだ。結果、それはメーカーのマーケティング要素へと変わって、新たなビジネスを構築したことが素晴らしいと思う。
こうなると、もはや「レンタル」というテーマも、そういうニーズの前においては、「手段」でしか無い。
3.メンテナンスこそ、彼らの付加価値
そんな風に拡大を果たしてきた彼らの成長を見て、競合も生まれてきた。個人的な思いとしては、地道に何もないところから広げてきただけに、三輪さんはどう思っているのだろう。
ここで差別化要因となるのは、培ってきたメンテナンスの質だと。アパレルなどであれば洗濯するだけで新品に近い状態にできるけど、「カメラ」や「家電」ではそうはいかない。
それでも新品に近い状態にできるという知見は、極論、メーカーすら知らないこと。日々、彼らがそのメンテナンスを専門に繰り返していくことで、得てきたから、それ自体が彼らの最大の付加価値となる。
4.ラストワンマイルを最大化させた功績
倉庫も見せてもらったが、入庫と最初の出荷に関しては複雑ゆえに別の倉庫を使うなどしていて、業務フローの構築には抜かりない。下記の写真は新品のように見えて、修理をしてメーカーから戻ってきたものである。故障しても、お客さまには安い金額でそれも負担が大きくならないよう配慮している。
三輪さんはとてもオープンで、返品を受け入れて、棚に収め、それをスタッフが一つ一つ、メンテナンスをしているその姿も見せてくれた。ここが彼らにとっての最大の拠点といえよう。メンテナンスを終えた商品は、新たな出荷に備えて、また別の棚に並べられていたが、新品のようであった。
デジタルの攻略は顧客満足度にあり、それはラストワンマイルの物流の活用の仕方と、効率化である。
デジタルで場所代などの固定費がかからない分だけ、メンテナンスの質へ反映させたのが、まずは勝因。そして、自動化させる中で生産性高く、運用する仕組みを構築することとなって、結果的に、買わない顧客を相手に、独自のマーケットを形成した。
それも、一筋縄ではいかないビジネスモデルだからこそ、伸び代がある。苦労を乗り越え、彼らの血と涙と汗の結晶で育ったこの事業は今、ようやく報われるに至っている。ゼロの市場を起業により切り開き、事業を成長させるに至るまでの泥臭いその取り組みも素敵だし、意志を貫き、成し得たその実績には感銘を受けた次第である。
今日はこの辺で。