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ネット通販を運営する 中小企業 での DX の進め方 逸見光次郎さんと考える

 DXや物流などへの投資を本格的にやろうとすれば、莫大な費用を要するという内容を聞いて、中小企業ではどう投資をすべきかを思った。ネットショップなどはコロナ禍で急成長したからこそ、投資の必要に迫られるわけで、だからこそ、莫大な費用は難しくとも、過不足なく必要な投資をすることが大事である。それで、僕はCaTラボの逸見光次郎さんに話を聞くことにしたのだ。

1.然るべきDXの進め方

 CaTラボ逸見さんは、元々イオンやキタムラでの経験を活かし、リアル店舗の知見を持ちながら、デジタルとの融合を果たす手段を知る名物コンサルタントだ。特に、最近は、ネットショップの経営者などと直接、経営に踏み込みながら、極めて本質的な理論で、業務の改善と成長を導いているから、中小企業にとっての投資に心構えとして、何が必要なのかを聞くのに相応しい相手だと考えたのだ。

 敢えて、ネットショップなどにおいては追い風が吹いていて、工場や自社ビルを建てる動きがよく見受けられ、それ自体は企業努力の末だからこそ素晴らしい事だとは思う。けれど、その一方でそういう動きが各々適切な投資なのかも合わせて皆が考えるべきではないか。僕のそんな思いを逸見さんにぶつけたのである。

2.投資が正確かを何と照らし合わせれば良いのか

 逸見さんは大いにうなづいてこう話し始めたのである。

「例えば、コロナ禍で売上が大幅に伸びたとしても、ここから先の見通しは、今までの伸びよりは、横ばいの可能性もなくはない。だとしたら、今、工場を建てることが必ずしもベストアンサーとは言えないかもしれないですね」と。

 それはなぜだろう。そして、何に照らし合わせて、ベストアンサーかどうかの判断をすればいいのだろう。それについて、彼はこう続けた。

 ネット通販に限って言えば、特徴として「変動費の高さ」があって、そこに気をつけないといけないとする。「変動費」というのは、生産数や販売量に応じて変動する費用であり、ネット通販で言えば、1件注文が入って出荷した時に発生する費用と考えれば早い。

3.変動費に左右されるのがネット通販

 今「ネット通販に限って言えば」と書いた理由は、リアル店舗と比較すると分かりやすくて、リアルは人件費や広告宣伝費など、固定費の割合が高い。その名の通り、これらは売上に関係なく同じようにかかっていくものである。

 一方で、ネット通販の場合、油断できないのはモールの手数料や物流など、売上に応じて変動していく「変動費」の割合が高いということなのである。だから、売上金額に対しての変動費の割合を見ておかないと足元を掬われることになる。

 売上金額に対しての変動費の割合、それを変動費率とでも言おうか。その「変動費率」で「どれだけ利益が上げられるか」が肝である。

ネット通販で利益の有無を理解する為の方程式

1.売上の多くが固定費と変動費に持っていかれる

 少し細かいが、これらを踏まえて、それぞれの利益を洗い出してみることで、新しい投資が会社に与える影響がいかほどかを、リアリティを持って説明してみたい。

 例えば、固定費が売上の3%で、変動費が売上の9%。合計12%の費用が発生するとしたら、単純計算で、売価が1万円の場合、それを売るためには、1200円のコストがかかっているということになる。

 ということは、1万円から1200円を引いて8800円が手元に残っているというわけである。

 ここで視点を変えて、商品の仕入れに目を向ける。もしも、その商品を8掛け(売価の80%)で仕入れていたとすれば、仕入れ元に対して8000円支払っている。だから、今上記で示した手元に残った8800円からその仕入れ値を支払えば、8800(手元の額)-8000円(仕入れ値)で800円という金額がその商品を通じての粗利益ということになる。

 ここまで考えた時に、先ほどの冒頭の話に戻ってくる。例えば、工場などを建設するならば、それを「減価償却」という形で「耐用年数に応じて、その期に相当する金額を計上する」わけだけど、その金額が建設後、毎年、のしかかってくる。

 さて、そこで果たして、それでいくら利益が出るだろうかと。

2.新たな投資はここにのしかかる

 最初の前提では「横ばい」として敢えてそれが顕著に現れるように示したけれど、正直、いえば、横ばいかどうかすら、わからない。減少するかもしれないし、仮に、売上が伸びたとしても、ネット通販は「変動費」の割合が多く、(変動費は売上と一緒に変動するから)比例してかかる費用が向上する。必ずしも利益が増えるわけではないことがわかるだろうか。

 銀行などが融資をしてくれるというのは、あくまでも「キャッシュフロー」上での話だ。「キャッシュフロー」は「一定の会計期間にどれだけの現金が流入し、どれだけの現金が流出したか」という資金の流れであり、直近の事だけを見て、大きな工場を建ててしまうことには、危機感を抱く必要があるかもしれないということが現実味を帯びてくる。

3.物流センター購入の話を蹴った

 だから、逸見さんが以前、カメラのキタムラにいた時の話として、当時ネット通販だけで数億円の経常利益を出していても、借りている「物流センター」の土地を購入して自社物件化し、強化する話は却下したことを明らかにしてくれた。

 理由は簡単である。上記でもリアリティが伝わってくるだろうが、翌年、「ネット通販の売上がどう転んでいるかもわからないから」である。その時のままであれば、物流センターは借りているから縮小する事もできるし、逆に足りなくなれば、「買う」までもなく大きなところを「借りれば」いいという理由からだ。

 僕が彼の話で鋭いところを突くなあと思ったのは「大抵の企業は、12ヶ月満遍なく、キャパシティオーバーしているわけではないですよね?」という言葉である。

4.こうして必要に応じて投資をし、その額は最小限に

 例えば、年末に売れるのであれば、その時期だけストックヤードを借りればいい。逸見さんらしいのはそのコストすら、メーカーとその倉庫を借りた金額を折半したというのだ。メーカーだって自分の倉庫に入れておくよりも、仕入れる側に必要な数量だけ、コンスタントに収めておけば商品が動きやすく、仕入れる側も売りやすくなる。

 そうすると、確かにその倉庫の代金は「固定費」だけど、一時的な固定費だから、コントロールできるので、減価償却で毎年すり減るよりは、ずっと経営が安定するわけである。

 その話を聞くと、必要な時に必要な投資をするべきことには理屈と方法論がありそうに思う。

問題点を探すには業務フローの大切さ

1.企業にありがちな課題

 さて、上記までの話で過不足なく必要な投資をしようとしていても、それができていないことが多く、また、それをやってしまった時のそのリスクの大きさがわかってもらえたと思う。

 ではそもそも、企業が過不足なく必要な投資をしていく為に、各々の企業がどこに課題があり、どうやって解決すればいいのか、という話になってくる。僕が思うに、それは業務フローをちゃんと設計して、ボトルネックがどこにあるかを確認することであり、だから、その理由について、逸見さんに教えてもらうことにしたのである。

 業務フローを考察する上で、まず例えば「出荷が滞っている」という話からその必要性に迫ってみよう。それ自体は一見すると、一つの事象にすぎないように見えるが、そこには色々な要因がそれを引き起こしている可能性がある。ざっと挙げるなら、

  • ・「作業場所に人が少ない」
  • ・「商品をピックしていく為の工程が面倒」
  • ・「紙の帳票が煩わしい」
  • ・「検品の工程に問題があって、余分に時間がかかる」

といった具合である。

2.余計に混乱を招く現場の話

 聞けば聞くほど、結局、人の手で作業が行われているのを実感させられるのであって、一人ひとりの業務に目がいかないと、実は机上の空論になりがちで、結果、自分たちで自分達の首を絞めかねない。だから、逸見さんにおいては、最初の頃は、その企業の現場まで舞い降りて、一個一個、軽くヒヤリングして、業務フローのたたきを作るのだという。

 例えば、よく見られるのは、朝の入庫と出荷の導線が切り分けられていなくて、混在しているというものだ。本来、商品が入庫されたら誰かが検品をして、ロケーションに登録した時点で初めて在庫になっていく。この流れがありながら、出荷に関する商品も持ち出して、その準備をする流れを一緒にやってしまったら、それは当然、現場に混乱が生まれやすく、余計に時間がかかる作業となってしまうのである。

 冷静に考えて、そこは通常の業務フローに置き直してみれば、わかる。バイヤーがまず発注をして、その発注したものは本来、デジタルデータで前日に入ってくるのだから、入庫する前に、データ入力をしていなければならない。

 「明日、どこから何個、届きますよね」というのが分かれば、事前にパレットを用意しておけて、翌朝、商品の受け入れをするのだけど、そのための人員調整はできているかの確認もできるから、現場の混乱はなくなる。

3.解決するのは人数ではなく仕組み

 つまり、その問題を解決するのは全体の人数を増やすのではなく、その持ち場ごとの容量に合わせて、出退勤のコントロールができているかということの方にあるというわけだ。それがスタッフにとってもプラスに働く理由は、それができていれば、もはや人の時給換算ではなく、固定費で払ってもいいという話になって、よりコントロールしやすくなるからだ。

 倉庫に限っていえば、スタッフの人にはママさんも多いから、きっちり時間に帰ってもらえるようにしたほうが喜ばれて士気も向上するし、扶養控除などの税金の対策もできるので、働きやすく、風通しがよくなるわけである。

 だから、発注をした時点から、本来であればもう先の予定が立てられていなければならないわけで、そういう仕組みづくりができていないなら、まずはそこの構築が先だ。それは極論、お金がなければ、エクセルで十分できることであり、その本質を理解することが先決だ。

4.スタッフの一生懸命が無駄にならない工夫

 現場でスタッフは全員、一生懸命やっているのである。でも、それがバラバラで一生懸命、やっているから「繋ぎ」の部分で問題が発生するわけで、昨今、言われるデジタル云々より前に、業務プロセスを変えるだけで、それらの滞留はなくなっていく。

 要は、何かを改善するとしても、必ずその作業には前工程、後工程のインプットが存在するから、その作業だけ直してもダメなのだということ。

 例えば、途中の作業が今より1.5倍、できるようになったとしよう。でも、そうであっても、その後の出荷工程も人員を増やさずに1.5倍できるようになっていて初めてOKだと言えるわけで、それは業務フローをかかないと見えてこないわけである。

5.ボトルネックの大事さ

 そうやって、全体を俯瞰してみることの真骨頂は、企業のボトルネックを探し出す時であって、本来、ボトルネックは一企業に対して1個しか存在し得ない。もしも色々なところで問題が起きているとしたら、それは優先順位ができていないだけなのである。そんな時は、まず作業工程の中で、時間がかかっていることがあったとして、それをいくつか並べていく。

 その並べてみた時に、一番改善した方がいいものがボトルネックであり、だから、フローの中の課題を一通りみてからではないと優先順位もつけられないということなのだ。地震でいうところの震源地のようなものだと思った。

 では、最後に、そうやって業務フローの重要さがわかった上で、逸見さんは最初、何を意識して各部署に聞いたのか。大事にしているのは関係する部署と業務の時間軸の流れであり、質問ポイントはシンプルに以下三点である。

  • ・何をやっていますか
  • ・どのシステムを使っていますか(システムに何を入力していますか、その時に課題に感じていることはありますか?)
  • ・この部署の評価(KPI)はなんですか

繋いでみるから見えること

1.KPIがズレて他の部署の足を引っ張ることも

 え?それだけ?と思った。それ自体はオーソドックスなものだけど、「繋ぎ」を意識して聞いてみると、案外「あれ?」ということが生まれるものなのだ。

 例えば、評価数値。商品部(仕入れ)は「粗利の最大化」になっていたりするから、彼らは仕入れ値を極力、下げて粗利を上げようとするわけで、原価が下がるほど、会社から、その担当者は褒められるわけだ。

 ところが、それを受ける物流や店舗側は限られたスペースで仕入れた商品を陳列しなければいけない。もしも置くことができない場合は、余分な倉庫を借りてしまったりする。その時に会社から怒られるのはバイヤーではないのが悲しくもあり、評価数値、KPIがずれている事で生まれる、他の部署から見た違和感など、そういう部分を聞き漏らさないことが大切である。

2.各部署のKPIがBS PLに直結していければならない

 結局は、業務フローを眺めて、流れの中で共通のKPIが設定されているべきであり、小売業で言うなら、それは「営業利益」と「在庫回転率」に他ならず、経費と在庫の両方をコントロールできるからだ。

 ここの指標が設定できていれば、決算書で言うところの「貸借対照表(BS:集めたお金の運用状況を表した書類)」と「損益計算書(PL: 収益から費用を差し引いてどれだけ利益が残ったか)」の両方の側面からコントロールできているので、もはやキャッシュフローをみる必要すら無くなってくるわけである。

 実はどこの会社も目標こそ設定するものの、結果、その数値が自分の部署しか追えないようなものを作っていることが少なくない。ゆえに、個々の部署では懸命に会社に尽くしているのに、会社にとってはプラスになっていないという悲しき顛末を呼び起こすことになる。

3.見えていないと気付かぬこと

 ポロッと逸見さんが漏らしたところでは以前、入社当初のカメラのキタムラではEC倉庫の在庫品から月内に出荷されるものは平均3割前後で、後は眠ってしまっている在庫だったという。売上の多くが取り寄せ品で在庫分のキャッシュが眠っているだけではなく、取り寄せ作業の効率化も急務だった。ただし順番はまず在庫回転率を上げて倉庫在庫を適正化し、物理的に倉庫在庫が減る事で、庫内作業の効率化をすること。EDI(Electronic Data Interchange:ECの情報を)導入などの取り寄せ改善はそれからだったと。

 「なんで?」と思ったと振り返り、彼はまず滞留在庫をリストアップして、90日、売れていない商品は全て処分して、それ以降はまとめて入れるなと。中には、仕入原価を下げるため数ヶ月分を発注していることもあったので、それを取りやめた。それこそ、先ほどの部署単位でしか見れていない典型なのだという。

 逸見さんは笑ってこう話す。「このパレット1台分、いくらか知ってる?って担当者に話すんですよね。例えばパレット1枚で半坪占有していてその家賃が月1,500円だとすると10ヶ月で1万5000円払うんですよ。下がった分の仕入金額やリベートと比べてどうですか?」。すると、余分に発注することがいかに会社にとってのマイナス要因であるかがわかってもらえたという話だ。商品単体の粗利だけではない大事な指標があると。

4.各々違う問題も業務フローを作れば見えてくる

 改めて、業務フローを見て、そして全体で把握することの大事さであり、それはそれぞれの業務がほどきにくい糸のようになっているからで、そこを綺麗にしていくことが、全体の流れを良くしていくと同時に、それぞれの部署における然るべき目標値も設定できることにつながっていくのだということだ。

 企業におけるボトルネックはそれぞれの企業によってもちろん、違うのだけど、共通して業務フローに置き換えると、その課題が可視化される。それゆえに、優先順位もついて、投資も過剰にならず、ふさわしい規模感で、やれるようになるのである。まずはそこの設計が急務ではないか。

 今日はこの辺で。

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