THE SUIT COMPANY 新業態で在庫と接客の再定義
リアルの店も変革の時だ。在庫を考慮していくと、ネットとどう融合させていくか。それが大事である。それを「 THE SUIT COMPANY 」が提供する 新業態 のショップ「TSC SQUARE」の記者会見で僕は思った。新宿、新宿三丁目などの駅に近く、人通りの多いこのお店。彼らはスーツ業態の維持のため革新を謳う。
スーツを維持する為の在庫に対する変革
1.スーツの利用減に仕組みを見直す
このお店の誕生はコロナ禍がきっかけになっているのは間違いない。
多くの企業がテレワークを行い、冠婚葬祭などでのスーツ利用の機会が激減。スーツそのものの存在意義が変わってきている。コロナ前の2018年度と比べて、2020年度は約37%減。ここを埋めるものとしてDXの推進と成長分野の注力を掲げたわけだ。
まず初めに「DX推進」の中身は何か。
これまでのビジネスモデルの見直しである。これまでは来店して商品を選択し、そこで採寸をする。その後、受け取りにまた来店してもらう、というのが定番であった。ただ、コロナ禍ではそれは合致しない。そこへの打開策として注目したのがネット通販。
2.ネット通販の方をベースに考える
売上がコロナ禍でネット通販が好調に推移している。その事も後押しして、このお店では思い切って、最初からネット通販をベースにすることにした。
勿論、店内にスーツが並んではいる。ただ、それと合わせて、店内のサイネージがある。これが肝であり、ここで通販サイトの商品を店で選ぶことができる。店内では試着し採寸を行える。だからその後、倉庫から通販サイトで登録された情報に基づき、自宅に配達するという流れである。つまり、ショールーミング的な役割の色彩を強くしている。
デジタルサイネージは「デジラボ試着室」と呼び、着用したイメージを連想してもらうためのツールでもある。どんな商品が存在するかと在庫状況はそこで把握できるようにしている。
思うに、サイネージなども重要。だが、ネット通販とリアルのお客様データの紐付けを現場で徹底させることが急務である。その両方が行き交う配慮はしているのか。
会見上、そのような質問をさせていただいた。ポイントなどを使って相互に利用し合える機会を作ってそれを促していきたいというところにとどまったのは少し気になるところだ。
3.成長分野を伸ばす拠点に
次にこの店が意図しているのは「オーダー(すーつ)」や「レディス」など、成長分野への注力。昨今、スーツに対しての価値観が変化し「オーダースーツ」の需要が増加している。ずっと長く使い続ける姿勢は、SDGsの文脈にも通じている。
また、オーダースーツによりお客様との関係が近づくことで、その後のリピート需要が見込まれる。
同様に「成長分野」として挙げたレディスは多様化する女性の働き方を受けてのこと。このようにしてスーツでもあらゆるニーズを意識して、多様化に合わせる。カジュアルも取り入れながら、ミックスされた空間を作っていくのがお店の主たる役割になりそうだ。
だから、下記のロゴの通り、一つのお店のなかで4つのブランドを訴求。ありとあらゆる商品の購入シーンに応えようというわけである。
従来の「THE SUIT COMPANY」。女性向けのスーツを楽しむ「WHITE THE SUIT COMPANY」。素材や縫製にこだわり、オリジナルを楽しむ大人のためのブランド「UNIVERSAL LANGUAGE」。きめ細やかな接客を念頭に置いて個々にあったオーダースーツを展開する「UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S」の4つ。
在庫リスクを軽減するのに貢献するOMO
1.ネット通販を軸に在庫の考え方を一新
ただ僕が注目したのは、冒頭話した通り「在庫」の捉え方が変わっていることに言及したい。実は、かつてこの場所は1ブランドで使っていたフロア。それが、今は幾つかのブランドの集合体である。だから、ブランドごとの商品数は減少しているのである。しかし、今の時代においては、理にかなっているのである。
つまり、お店はフィッティングや肌触りなど、リアルに必要な要素に特化させている。
2.全てを陳列して全在庫を用意する時代でもない
要はもうお店はかつてのように商品を全て陳列する必要はないのである。それは「THE SUIT COMPANY」のように全国に複数店舗を持つところは尚更である。(今はまだこの1店舗だけではあるけれど、増やしていく意向も明らかにしている)。
それこそがDXの最大のメリットの一つだからだ。
裏側で全店舗の在庫を繋ぎ、倉庫を含めて在庫が連動していれば、それを見るだけでお客様に提供できるかは分かるのである。店内で稼働しないものがあれば、わざわざ陳列してそれを揃えているだけ無駄である。
また同時に「そのお店になくて、他の店舗では実は存在していた」などの機会損失をなくせる。店の利益率は勿論、お客様も欲しいものが手に入る確率を高くなる意味でプラスである。
ブランドが複合的に存在することの利点
1.複数ブランドを抱えることで多様性に合わせる
もう一つ、メリットがあると思っている。
それは年齢や環境と共に価値観が変わり、服も変わっていくから。このお店のように複数のブランドを抱えていれば、仮にどこかのブランドを離脱したとしても、それをカバーできるブランドがある。
最終的により個々のお客様へのカスタマイズ色の強い「UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S」にたどり着けるように戦略を組み立てればよい。スタッフはそうやってお客様単位で一対一で向き合えるような環境づくりをしていけば、より経営基盤すら盤石になっていく。
僕自身、これを機にスーツを「UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S」で新調してみたが、この店の奥には専用カウンターへ連れられ、店長の前田功太さん直々に案内してくれた。
今回の動きに関しては「4つのブランドがありながらも必要なものだけ適切に絞られている。だから、お客様と向き合えるカウンターも用意できて、その事はこのお店の価値向上に寄与していると思います」と話してくれて、OMOによる店舗のメリットを口にした。
2.人となりも実は武器となりそれこそリアルの利点
いざカウンターで向き合い話しているとこんな話が出た。
「僕は実家がブティックをやっているのです。それで洋服に興味を持ち、それを仕事にするようになって今に至ります」。
前田さんの人となりも見えてくる。これぞリアルのメリットでネットでは構築できない最大の強みである。
ネット通販に知見のあるTSC 営業部 副部長の関 昌稔さんによれば「スタッフもお店にとっての大事な価値。だから、ネットでの売り上げとリアルの売り上げを切り離さず、リアルでもネットに繋げたスタッフさんの成果は反映していきたい」と話す。
ネットリアルの垣根を超えて真にお客様とスタッフが繋がり、それが根付いて会社の成長へとつなげていく姿勢を感じた。
3.(体験)丁寧な接客はブランドへの信頼となる
そして、前田さんの丁寧な説明は続く。いろいろな話を織り交ぜながら、素材から一つ一つ、ボタン、裏地、ポケットの角度まで細かく指南してくれて、それは自分の価値観やスタイルを尊重するものだから、価値が底上げされているようで心地が良いものである。
約1ヶ月半後、僕のスーツは出来上がってくるそうで、今から楽しみである。
若干、まだ手探りの形ではあるのせよ、リアルにおける課題を解決しつつ、リアル自体のポテンシャルをネットの力を通じて引き上げようという「THE SUIT COMPANY」の動き。それは、今後、スーツのビジネスをしっかり守っていこうという気概を感じるものであった。
彼らにとってコロナ禍は確かにダメージの大きいものだったのかもしれない。だが、リアルが否定されたわけでもなくネットが優れているわけでもない。今問われているのは彼らが守り続けた価値を今にふさわしくどう進化させていけるか。スーツの威信をかけた新たなスタートが始まったのである。
今日はこの辺で。
参考記事:小売店 の デジタルシフト その前に “在庫”で生産性を高めよ