東急グループと楽天が描く「リアル×デジタル」の新たな街づくり戦略

鉄道事業のみならず、不動産開発や商業施設運営など、多面的な事業展開を進めてきた東急グループ。近年ではソフト面でもその体制を強化。百貨店やストアの運営に加え、オンライン活用の重要度をますます高めている。そんな中、2020年9月1日より営業を開始した「楽天東急プランニング株式会社」に着目。これは楽天と東急の共同出資による新会社である。
リアルとデジタルを結びつけた新たな価値創出の場となることが期待されている。両社はどのような狙いをもってこの取り組みを進めているのだろう。今回はそのポイントを解説しようと思う。
1.両社が求めるもの:リアルとデジタルの融合
■ 楽天にとってのメリット
楽天が今回の提携で注目するのは、東急が持つ「リアルの拠点」だ。鉄道を軸に強固な経済圏を築いてきた東急グループ。そのインフラを活用することで、楽天経済圏に新たな付加価値をもたらし、さらに顧客を取り込みたいという狙いがある。
■ 東急にとってのメリット
一方、東急が求めるのは、楽天経済圏で培われたノウハウや、ポイント運用を含めたオンラインの相乗効果である。店舗や鉄道、街開発で日常的に蓄積されるリアルな顧客行動データ。そして、楽天経済圏のオンラインのデータを組み合わせる、そうすることで、顧客体験を一層向上させることが可能になる。
2.「楽天ペイ」と「楽天ポイント」でつながるリアルとネット
■ 決済とポイントをフックに
今回の提携でまず目立つのは、東急系の「東急ストア」や「東急百貨店」などで「楽天ペイ」が利用できるようになるという点である。
これに「楽天ポイント」の仕組みを加えることで、リアル店舗とオンラインが強固に結びつく。顧客の購買データを基にした分析・販促や品揃えの最適化が進めば、双方の経済圏がさらに拡大すると考えられる。
■ データ連携による新たなマーケティング
お互いが保有するデータを掛け合わせれば、最適な販促情報を提供できるだけでなく、品揃えや価格設定の見直しなどの店舗運営力向上にもつながる。
オフラインとオンライン双方のデータをもとに、顧客行動分析やレコメンド機能の強化が実現するのだ。

3.両チャネルを生かす先行事例:Wポイントキャンペーン
■ 9月1日スタートのWポイント
2020年9月1日から早速、動き出す。東急ストアとFood Market プレッセでは、「東急」と「楽天」のダブルポイントが貯まるキャンペーンを開始した。リアルとオンラインをシームレスにつなぐ仕組みとして、まず顧客に分かりやすい“ポイント還元”を訴求し、利用者の動きを活性化させていく。
4.デジタルサイネージで進化するリアル店舗の可能性
■ 店舗×サイネージの連動
東急沿線の代表的な商業エリアである二子玉川駅周辺では、数多くのデジタルサイネージが設置されている。このサイネージと店舗を連動させ、消費行動を可視化しながら広告効果を測定していくユニークな試みが進められている。

デジタルならではの分析をリアルの売場づくりに反映し、多角的な顧客体験の向上を図る狙いなのだ。
5.東急の街づくり戦略とデジタル活用
■ 東急はもう「鉄道会社」だけではない
東急は鉄道会社という枠を越え、社名を「東京急行電鉄」から「東急」に一新。不動産事業や街づくりにより深く注力してきた。渋谷エリアを中心とした大規模再開発など、複合的な商業施設の開発で街の価値を高める取り組みを進めている。
参考:SHIBUYA AXSH、そして文化とビジネスとの遭遇、渋谷が拡散され続ける理由
■ リアル以外の場でも「東急らしさ」を
新型コロナウイルス感染症の影響を受ける中、これまで培ってきた高品質なリアルのコンテンツをデジタルでも展開することは急務となっている。
普段から鉄道や商業施設を通じて生活密着型の接点を数多く持っている東急。だからこそ、その繋がりをオンラインにも拡大すれば、地域への愛着や沿線価値をさらに高める効果が期待できる。
6.スマートシティ実現への期待
■ デジタルで広がる街づくりの可能性
少し大きな話になるかもしれないが、 東急 は南町田グランベリーパークなど、まちづくりに一目置かれている部分もある。だから、考え方次第だが、楽天の経済圏同様、デジタルでの顧客視点を取り入れながら、街づくりで相乗効果を生み出せれば、と思う。
そうすれば、東急沿線をスマートシティ化させて、より沿線価値を高めることだってできるのではないか、と考えるのは言い過ぎか。それができれば、いわゆる 楽天 が創業以来、追い続けてきた、地域のエンパワーメントの理念にも合致することになるから、楽天にとっても価値はあるだろう。どうせやるなら、そこまで期待したい。
楽天と東急の共同出資会社「楽天東急プランニング株式会社」は、まさにリアルとデジタルの融合によって新たな価値創出を目指す挑戦の始まり。東急がもつ強固なインフラと街づくりのノウハウ、楽天がもつオンラインとポイント・決済の強みが結びつくことで、沿線価値の向上や地域の活性化につながる。
今後どのような取り組みが展開され、私たちの生活をどう変えていくのか、注目が集まる。
では今日はこの辺で。