【EC戦略】Yahoo!ショッピングが自社ECを応援する本当の理由とクロスショッピングの未来

Yahoo!ショッピングを運営するヤフーは、国内でも有数のオンラインショッピングモール事業者。ところが近年、そのヤフーが自ら“自社EC(独自のオンライン通販サイト)”の構築を勧める動きを見せている。普通であれば、モールの出店数を増やすことが優先されるはず。なぜ、わざわざモールの外でのECにも力を入れようとするのだろう。「矛盾しているのでは?」と思うだろうが、実はここにECの未来を考えるうえでの重要なポイントが隠されている。モールの運営というのではなく、今という時代を映し出す事象としてこの記事を取り上げてみよう。
モール運営企業が“自社EC”を推奨するという疑問
ヤフーは現在、EC事業において「クロスショッピング」というキーワードを掲げている。これは、“オンラインのモール”と“リアル店舗”を連動させて在庫や顧客情報をシームレスに管理。消費者に新たな買い物体験を提供する”という考え方である。
例えば、リアル店舗で商品を見て、在庫がなければオンラインで取り寄せる。そんな行動はすでに多くの人が当たり前に行っている。ここに自社ECサイトが加わることで、モールの枠にとどまらない柔軟な販売チャネルが整備されるわけである。
- • 在庫連動:オフラインとオンライン両方の在庫がスムーズにつながる
- • 顧客データの一元管理:どのチャネルで購入しても顧客のニーズを把握しやすい
- • 新たな集客チャンス:モールでも自社サイトでもリアル店舗でも、ブランドとの接点が増える
こうした利便性を高めることで、より多くのユーザーをオンライン・オフラインの垣根を越えて取り込む狙いがあるのだ。
「モール運営 × 自社EC支援」は矛盾しない?
ヤフー自身もかつて、独自EC構築サービスなどに興味を示していた経緯がある。当時の経営トップも、「モールだけでなく独自のオンライン通販サイトのデータは、ユーザーをより深く知るうえで重要」と述べていました。
これはつまり、消費者がモール内で見せる購買行動と、ブランド公式や独自サイトで見せる購買行動には違いがある。その両方を知ることで顧客を多面的に捉えることができるという狙いがあるのだ。
モールに出店するだけでは、価格やキャンペーン重視で比較されてしまうことも多いだろう。
しかし、独自ECならではの“ブランド体験”を提供することで、顧客のロイヤルティや別の購買意欲が引き出せる可能性がある。これらのデータを集約して初めて、消費者がどんな想いで商品を選ぶのか、どんなタイミングで購入するのか、といったインサイトが明確になるのである。
これからのECは「顧客体験」が中心に
では、こうした動きの先に何が待っているのだろう。大きな流れとしては、オンラインとオフラインの垣根がますますなくなると考えられる。
• ロケーション依存の時代の終焉
かつては「駅前一等地」など、立地条件の良さが商売の決め手だった。しかし、ECが普及した今、その価値基準が大きく変化している。消費者は場所や時間に縛られずに買い物ができる。そのため、単純な立地の優位性ではなく、ブランドとしての魅力や顧客体験の質が勝負のカギになります。
• データの収集と活用が未来を創る
モールでの購買データだけでなく、自社サイトやリアル店舗での購買情報を統合し分析する。そうすることで、顧客像を立体的に把握できます。
たとえば、オンラインでは値段重視で購入しがちなユーザーが、実はリアル店舗では店員とのコミュニケーションを楽しんでいるかもしれない。その両面の行動が分かると、新たな提案やサービスを考えるきっかけになりうる。
物づくり”と“ファンづくり”を再考するチャンス
ECの仕組みやテクノロジーが進化していく。その一方で、最終的には「何を売るか」「どうブランド価値を高めるか」が重要なのだ。消費者はモノそのものはもちろん、その背景にあるストーリーや体験にも価値を感じるからである。
日本は“物づくり”が強みとされてきた国。だが、これからはオンラインを通じて世界に発信できる可能性も高まっていく。ネットだからこそ、地域や国境を超えてファンを獲得するチャンスが増える一方、モノだけでなく体験やストーリーが求められる時代でもあるのだ。
変化をチャンスに変える
ヤフーがモール運営をしながらも自社ECを応援する姿勢は、一見矛盾のように映る。しかし、その背景にはデータと顧客体験を掛け合わせることで、新たなビジネスチャンスを生み出すという戦略があるのだ。
• 店舗側のメリット
- • モールだけでなく自社ECでも売上を拡大
- • データ活用で顧客理解を深め、独自のサービスや商品の開発に活かせる
- • リアル店舗とも連動しやすい仕組みづくりが可能
• 顧客側のメリット
- • 多様な購入チャネルが選べる(モール、自社サイト、リアル店舗など)
- • どこで買っても統一されたブランド体験が得られる
こうしたメリットが双方にある。だからこそ、ヤフーとしても自社ECの構築を後押しし、モールと組み合わせる「クロスショッピング」を推進していると考えられる。
オフラインとオンラインの融合が進むなかで、ECサイトのあり方も劇的に変化し続けている。モールか自社ECか。そんな二択ではなく、複数のチャネルを横断して顧客を深く理解し、より良い体験を提供することが重要になっていることを示している。
ヤフーがオンラインモールを運営しながら自社ECを応援する。その事実から学べるのは、その背後に顧客行動を総合的に捉えるデータの価値を見据えているからにほかならない。時代の変化を超えて読み継がれる店舗・ブランドを目指すのであれば、クロスショッピングのような新たな可能性に目を向け、“物づくり”や“ファンづくり”を改めて深堀りする姿勢が求められるだろう。
変化の波をチャンスに変え、未来を見据えた戦略を打ち立てる。それこそが、これからのECをリードしていく鍵になるのではないだろうか。
今日はこの辺で。