NOではなくYESを。FEMMUEに学ぶ、韓国のオーガニックコスメが日本で浸透した納得の理由
NOではなくYESを。なるほど。用意周到な戦略のもと、着実に進めていく。波に乗る、韓国のコスメの姿勢を、その言葉がよく言い表している。オーガニックコスメと聞いて、何を浮かべるだろう。大抵「NO—」を謳うことが多かったのではないか。しかし、COSME Week【東京】2024で語られていた「FEMMUE(ファミュ)」というブランドの中身を聞くと、必ずしも、そうではない。日本でディストリビューターを務める、アリエルトレーディング 執行役員 中村 達也さんが述べたのは、まさに、同ブランドの“YES”の価値である。
大元ととなるブランドの姿勢
YES?そう思われる人もいるだろう。つまり「NOーー」を全面に出すよりも前に、どんなプラスの価値をもたらすかのシーンを、消費者に思い描いてもらう。それを念頭に、この“オーガニック”コスメ「FEMMUE(ファミュ)」は存在している。
一貫して強調されているのは、「お花の力を活かす」こと。ブランドが立ち上がったのは2015年。新しいブランドながら、オーガニックコスメの拠点「コスメキッチン」などにもしっかり陳列されている。
店に限らない。「実際に、自前で購入して良いものしか紹介しない」。そんな指原莉乃さんのYouTubeでも取り上げられ、女性の間では信頼されるブランドして、浸透している。
そんな「FEMMUE」の発祥は韓国。ファウンダー兼クリエイティブディレクターのケリー・ジョンさんの手腕により、世界的な広がりを見せている。
話は逸れるが、元々、フラワーアレンジメントをやっていた際に着想したもの。お花に触れる時間をもっと価値あるものにできないだろうか。そこから、化粧品開発に繋げたもので、重んじられているのは、お花の「香り」と「成分」。
最初から描かれたグローバル目線
お花への想いが本気であるがゆえ、本当に納得のできるものしか手掛けない。そのポリシーは今も貫かれて、その後の商品でもファンの期待を裏切らない。
驚くのは、最初からグローバルな視点で作られていること。例えば、イギリスが親しみを感じる「優しくほのかな」香りの視点や、アメリカに好まれる「直感的な」効果という視点。それらを包括して開発がなされている。逆に言えば、国ごとに打ち出せる強みを兼ね備えている。
日本ではどうだろう。ローズ、ジャスミンなど、精油を用いた本格志向の「香り」にこだわりつつ、その上で肌馴染みの良さを強く訴求。また、それを提げて、メイクアップアーティストで植物療法士、早坂香須子さんらに持ちかけた。
大事なのは、売り込むのではなく、意見を聞くために。日本の消費者の声を代弁している彼女の意見をもとに、商品の本質を追求していく。日本の感覚で言えば、「売り込むために」そういう人にアプローチしがち。それが意味をなさないことを、誰よりもわかっている
寧ろ、その専門家が受け入れる日本の美容の感覚を吸収する。この商品の何が受け入れられるのかを理解するのである。彼女自身が気に入れば、発信することもあるだろう。だが、それ以上に、ブランド自体も日本の消費者のツボを押さえて発信して、消費者の側から自然と拡散される土台を作っている。
商品ラインナップの工夫で裾野を広げる
一方で、オーガニックの価値観を尊重する店舗を選ぶ。最初に展開したのが「Make up Kitchen」1号店だし、「コスメキッチン」への導入にはこだわった。そこで、買うことが本格志向のお客様にとってのステータスでもあるからだ。
商品面では特徴として、価格帯に幅を持たせていることが挙げられる。クレンジング、化粧水、美容液、乳液の価格帯は5000円から8000円。クリームは8000円以上と高額。ただ、肝となるのは商品を最初に手にする入口部分であるという。
例えば「リップスリーピングマスク」という商品を用意して、敢えて3000円以内で抑えている。意図しているのは、ライトなギフトアイテムとして需要を創出するため。送り手が手を出しやすい価格帯であること。そうやって浸透すれば、今度は、贈った相手の人にとってのファーストコンタクトになる。
実際の品質はいわずもがな。それ以上に、それらは贈る人の想いと相まって、ブランドにとって、より良き第一印象となるだろう。「リップスリーピングマスク」が新規顧客獲得の販売促進的な位置付けで、ブランドの成長を後押ししてくれている。そう中村さんは指摘する。
価値をどの国でも等しく
徹底した花を素材にする商品開発。そこに込められた国ごとにフィットする戦略。そして、入り口から徐々にその裾野を広げていくための価格戦略。これらが三位一体となって、価値をもたらすが、最も大事なのは、価値の共通化だ。
共通化?つまり、為替の変動がありながらも、「どこの国でも同じ価格で売られている」という現実が極めて重要だと語る。この話、越境ECでも最初から世界を一つに見ていく上で、その価格戦略が肝となっているという話に通じているのが奥が深い。
参考:be ambitious !日本企業 ブランディング意識のもとに越境ECへトライ 「JACCA」年末総会に想う
まず根底に、国ごと、浸透し方を考慮したグローバルな意識。それが下支えとなっていることがあるだろう。
そこに加えて、流通における仕組み作りがある。特に、韓国が問屋を挟まずに、小売店に卸す形態が主流。決められたお店にしか提供せず、必要数に留めて、過剰な在庫を生まずに、ディスカウントをしないという方針を徹底させるわけだ。これで、もしセールをしようものなら、全てが崩れる。海外で安く購入された商品は、必ずや海を渡って「Q10」などで販売されてしまう。
そのデザイン性にSNSで反響が始まる
そうしていくうち「ドリームグロウマスク」がSNSで一躍脚光を浴びることになる。そのホログラムで輝くパッケージゆえのことで、ケリー・ジョンのアイデアであった。しかし、それが見た目だけの一過性ではなく、長く浸透する土台を得るに至った。それはいわずもがな、同じくSNSで早坂香須子さんのような専門家の評価を受けているからこそ。
回り回って、それまでやってきたブランド価値の訴求が、受け入れられたからだ。かくして、ファンは醸成され、定着をして、信頼度の高いお店に並び、存在感を高めるに至る。
NOをYESに
「NOをYESに」。
その意味がわかっただろう。繰り返すが、これまでオーガニックコスメは何事も、純度の高さが強みであることが多いことから「NOーー」と謳われることが多かった。でも、改めて、これから必要なこととは何か。それを「FEMMUE」などのヒットに照らして考えると、寧ろ「YESの訴求ではないか」と。
NO–というキャッチに安易に乗り、それをアピールするブランドは、結局淘汰される。なぜなら、オーガニックコスメそのものも、以前より目新しいキーワードではなくなっているから。それはネガティブな意味ではなく、それだけ、当たり前になったのだ。
だから、逆説的になるけど、オーガニックでありながらオーガニックに依存しない。そんな手法だから、「FEMMUE」が脚光を浴びた。練られた戦略を取って、そういうプラスの価値を提供してきたから。この辺が韓国系コスメの強さに繋がる気もする。
国や店などの場所、価格、導入までのストーリー。それらは商品開発へのこだわりでリンクしている。
今の盛り上がりは、その本質的価値がどこにあるか。そのへの配慮があるから、未来を見通せる。ヒットの理由は、オーガニックだからではない。「FEMMUE」のYESな動きは、ジャンルを問わず、全ての現場に気づきをもたらすのではないか。
今日はこの辺で。