鏡が売り場に変わる!AI×IoTで革新するリアル店舗の購買体験

テクノロジーが当たり前になった今、リアル店舗とオンラインの境界は急速に薄れている。そんな時代だからこそ、新しい視点で「売り場」を再定義し、顧客体験を進化させるチャンスがあるのをご存じだろうか。本記事では、鏡を使ってその場で商品を提案し、購入までつなげる「MIRROR-AI(ミライ)」を開発した高木勝さんのストーリーを軸に、AI×IoTの可能性や、小売×デジタルの本質的な活用法を探る。
人間的な“弱み”を糸口にしたからこそ生まれた逆転の発想が、購買体験をどう豊かにするのか。新たなテクノロジー導入のヒントをぜひ見つけてほしい。
デジタル技術がもたらす“価値”とは何か?
現代では、ネット通販やSNS、AIなどのデジタル技術が当たり前のように存在し、あらゆる場面で活用されている。この流れは小売業界でも同様で、オンラインとオフラインの垣根を取り払う動きは加速度的に進んでききた。
しかし、これらのテクノロジーは“単に便利なツール”というだけではない。既存の価値観そのものを更新し、従来の「買う」という行為に新たな意味や体験をもたらす力があるのである。
• AIによる「個別提案」
AIを活用することで、顧客一人ひとりの趣味・嗜好・購入履歴などを瞬時に分析。“自分に合った”商品を提案することが可能になった。多くの情報を効率よく扱えるAIの存在。それが、これまでの大量生産・大量広告的なモデルから、「個」と向き合うモデルへの転換を後押ししているのである。
• IoTによる「売り場」の多様化
センサーやタッチパネルといったIoT技術が進化。従来の“レジカウンター”や“商品棚”だけが「売り場」ではなくなった。たとえば鏡やサイネージなど、思いもよらない場所が“購入の場”になるのではないか。これにより、消費者が欲しいと思った瞬間に、その場で買える体験が広がっている。
鏡が売り場になる──高木さんの「MIRROR-AI(ミライ)」
注目を集めているのが、フレイバ・プロジェクツ代表・高木勝さんが提案する「MIRROR-AI(ミライ)」というミラーサイネージである。ファッションブランドの店舗など、既に国内の約30店に導入されている。
1. 触れば“提案”が始まる鏡
• 普段はただの鏡
一見すると普通の鏡。それこそ何もしなければ、そこら辺の鏡と変わらない。しかしタッチセンサーが仕込まれており、触れるとディスプレイ画面が現れる。そこに映し出されるのはAIが分析したおすすめ商品や試着イメージ。

• リアルとネットの融合
気に入ったらそのまま購入できる。そのため、店舗内のレジに行く必要すらない場合も、配送先を指定してネット購入のように手続きしてもいい。それで、在庫があればすぐにその場で受け取ることもできる。リアルとオンラインの垣根はここでは消滅している。
2. なぜ“鏡”だったのか?
• “どこでも買える”からこそ意外性のある場所が面白い
今やスマートフォンからでも何でも買える時代。だからこそ高木さんは「あえて意外性のある場所、普段何気なく見る“鏡”を売り場にできないか」と着目した。
極論、鏡でなくても良かった。でも、デジタルで完結するだけでなく、リアルな体験や視覚的なインパクトを同時に与えられる媒体として“鏡”を選んだのである。
鏡を着想する経緯は、こうである。
ふらりと店に足を踏み入れたとして、その店が来店客のデータを持っていたとしたら、どうだろう。そうすれば、その店で商品を探さなくても良いわけだ。
それを可能にするのはなぜ?それは、その店からその場でレコメンド(おすすめ)ができるから。とはいえ、レコメンドするディスプレイがない、、、、。いや、あった。
アパレル店には、鏡があるではないか。この意外性がもたらす刺激的時間。
ただやるからには、加賀電子など一流メーカーと組んで本格的。提案の基盤となるのはAIなので、そのネーミングにしっかり「MIRROR-AI(ミライ)」と入れている。
• 高木さんの原体験──「不器用だからリスクヘッジしたい」
この着想の仕方が実に面白い。だから、そこに学ぶべきポイントがあり、彼自身についての取材を続けた。
高木さんは自分を「出来が悪い、不器用」と語る。だからこそ、「ムダな工数を極力減らし、一発で最適解に辿り着きたい」という発想が強くあったと言うのだ。
- • お客さんが欲しいものをすぐ手に取れる
- • 提案もAIが最適化してくれる
- • 決済方法も自由に選べる
この効率性と体験向上を両立するためには「鏡」というアナログな存在を、デジタルで拡張するのがベストだと考えたのである。
どう購買体験を豊かにするのか?
1. 顧客情報の活用で「次の欲しい」がわかる
繰り返しになるが、「この顧客は何を好むのか?」というデータをAIが分析。本人が意識していなかった選択肢やブランドを提案する。そうすることで、単なる“モノの購入”がワクワクする“体験”に変わる。
- • 店舗にふらりと入っても、「以前ネットで見ていたアイテム」を鏡が表示してくれる
- • 試着した姿と比較して検討できる
- • 欲しいと思ったタイミングでその場でポチッと購入
これらは、デジタルとリアルの融合が生む「新しい購買体験」の一例と言えよう。
2. 場所の制約がなくなり、“リアル店舗”の価値が再定義される
• “どこで買うか”ではなく、“どういう体験を提供できるか”
ブランドや小売店の優位性は、「顧客を徹底的に理解し、最適な提案を素早く行えるか」に移り変わっている。その結果、店舗自体の空間づくりや接客の仕方が「顧客の個別体験」に合わせて最適化されるようになっているわけだ。
• 足を止めさせるトリガーは“体験”
普通の鏡ではなく、突然ディスプレイが提案してくる“驚き”。それによって、来店者は思わず足を止める。そこから購入までの動線をスムーズに用意していることで、“体験の質”が大きく向上するわけである。
高木さんの人となりが示す「時代への向き合い方」
高木さんのエピソードから見えてくるのは、最新のテクノロジーを追いかけるのではない。「自分の不便・不器用・失敗体験」を起点に、本質的な課題解決策を導くという姿勢である。
• 不器用だからこそ、効率を追求する。
「どうすればムダを減らせるか?」「一番簡単にお客さんを喜ばせるには?」。そんな切実さから、デジタル技術の可能性を最大限に活かそうと考えた。
その結果、“鏡を売り場に変える”という斬新なアイデアが生まれた。
• あくまで“人間”が中心
AIやIoTはあくまで手段。高木さんの根底には「お客様を理解し、喜ばせたい」という思いがあり、そのためにAIが生み出す情報を活用しているにすぎない。自分の弱みを認め、そこから「顧客も同じかもしれない」という共感が芽生え、結果的に時代に合ったヒット商品につながる。
まとめ──時代に合わせた着想を得るために
•1. デジタルは既存価値を更新する“鍵”
買い物の手段が増え、情報収集が容易になった今、インターネットやAIは「顧客を知り、最適な体験を提供する」ための強力なツールになっている。
• 2. 購買体験を豊かにするのは“驚き”と“効率”の両立
いつでもどこでも買える時代。だからこそ、“意外な場所”でシームレスに購入までつなぐミラーサイネージのようなアイデアは、顧客に新鮮な驚きとラクさを同時に与える。
• 3. ヒントは自分の弱みや失敗経験にある
高木さんが繰り返す「不器用さ」。それは、裏を返せば「いかにして面倒ごとを省き、スムーズに解決するか」を徹底的に考える姿勢である。そこから生まれた鏡の発想は、高度なデジタル技術と“人間的な気づき”が融合した好例だろう。
• 4. “顧客ファースト”の視点から逆算する
カギとなるのは、「どこで買うか」より「どうすればお客様が喜ぶか」に視点を置くこと。
AIやIoTなど最新技術を導入しても、その目的が“体験の向上”ではなければ意味がない。高木さんは鏡を切り口に、それを実践している。
こうして見てくると、インターネット(デジタル)とは、「テクノロジー」でありながら人間らしい買い物体験をより豊かにするためのツールと言える。そこに高木さんの“不器用さ”ゆえの視点が加わることで、鏡という意外なメディアが“売り場”に姿を変え、新しい購買体験を創り出しているのだ。
要するに、この物語は、単なる最新ガジェットの紹介にとどまらない。
そして、「失敗や弱みを出発点として、そこにテクノロジーを掛け合わせることが時代を切り拓くヒントになる」ことを教えてくれるヒューマンストーリーですらある。物事を着想する気づきになれば、幸いだ。今後も小売業界のみならず、あらゆる領域でこうした“逆転の発想”が生まれ、購買体験はますます豊かになっていくだろう。
今日はこの辺で。